咳はまだ出てるけど、取りあえず熱はおさまったっぽいので執筆再開。時間余り取れてないので変な所もあるかもですが、私は比較的元気です。
パリン、パリンと嫌に小気味の良い音と共に、眼前に展開した多層式の障壁が割れていく。
なのはの放ったスターライトブレイカーが収束させたエネルギーは、私が全力で張った障壁のほんの僅かな拮抗すら許さず突き進む。
――止まれ、止まれ、止まれ……!
必死に力を注いでも、何枚もの障壁を間に差し込んでも、どれ程の祈りを込めても、次の瞬間にはその全てが小さな音と共に消えてしまう。
未来を視るまでもなく、眼前の光景が一つの事実を訴える。
――……ッまだ……! まだ、何か手は……!
転送魔法を起動する。……転送先の座標がなにかしらの介入によって書き換えられ、起動する意味も無くなった為に術式を破棄。
では、白の魔力による霧散は。……試すまでもない。明らかに私の全力で消せる魔力量の遥か埒外だ。
ならば、黒の魔力による固着を。……黒の魔力も原理は白の魔力と同じだ。一部を固めたところで直ぐに後続の魔力によって押し流される。
氷結や電気の属性変換は……なのは本体を狙ったバインドは……転送を妨害している術者を倒せば……
……
――何故こうなった?
思考の末、私の脳に過ったのはそんな言葉だった。
私はこんな結末の為に行動を開始した訳ではなかったはずだ。
突然唯一の家族を奪われ、孤独になる寂しさを知った。
拠り所を探し、遥か未来の出会いに希望を求めた。
望んだ光景は何一つ拝めず、更にはその果てに到底受け入れがたい"死"を視た。
――何処で間違えた?
例えば目の前に分かれ道があるとして、普通ならば二者択一となるところ、私はそれぞれの道を歩いた結果を先に知る事が出来る。
何を見るか、何を聞くか、何を知り、誰と話し、そしてどこに行きつくか……私の能力は自身の選択の先さえ見通せる。
そうして自分が変える未来さえ見通せば、私は選択を誤る事は無い筈だった。
――誰の所為でこうなった?
そんな事は、決まり切った事。『天使』の所為だ……!
天使がなのはに力を貸したから、今私はこうして追い詰められている……!
負ける筈の無い戦いだったのがいつの間にかイーブンに持ち込まれ、一時は単純な力でさえ上をいかれた。
リンカーコアの回収と魔力の融合で再びなのはを上回ろうとすれば、スカリエッティの差し向けた刺客によって大ダメージを負い、身体の回復をし続けなければならなくなり、なのはに勝つチャンスを何度も棒に振った……!
パリンと障壁の割れる音が近付く。
この戦いが始まった時は……いや、今だって純粋な力では私の方が上の筈だと言うのに……未来を覆す為、勝つべきは私の筈なのに……!
――何故天使はいつも私の邪魔をする……!
――どうして今、なのはに力を貸す……!?
――今なのはを手助けするのなら……
ヴォルケンリッター達と出会い、天使の存在を知った時から……私は天使を信じていない。
存在を……その役割を知る度、その存在が薄っぺらに感じられた。
だってそうだろう、瓦礫に沈んだ未来の光景に……転生者であるヴォルケンリッター達が倒れ伏したあの光景に……上空に何人もの転生者が敵対していたあの光景に、転生者同士の殺し合いを調停する筈の天使はいなかったんだから。
そうだ、元はと言えば天使があの戦いを止めていれば、私は態々力をつける必要はなかった。天使の身体を奪う必要だって無かった。
――私が天使の身体を奪ったから、天使が介入したとか言っていたな……? 違うだろう、天野朱莉!
お前達が逃げたから……ッ! 卑怯者の天使達があの未来に介入していれば、そもそも私は……ッ!!
パリンと、すぐ目の前で音がした。
絶望的な危機に際して打開策を探ろうとしたのか、無意識に起動させた未来視が私に再びその光景を目の当たりにさせた。
それは、いつか見たのと同じ光景。同じ未来。
ノイズと瓦礫の街になのは達が倒れる姿。いずれ訪れる"死"の姿。
……そこに天使の姿は無い。
……そこには私の姿も無い。
その瞬間、今更ながらに気が付いた。
――ああ、そうか……最初から答えは出ていたのか。
未来のそこにはそもそも私がいない……私は介入を許されない場所か、立場にいる。或いは既に破壊、もしくは封印なりされた後と言う事。
今の私にはこの光景の時点での私がどのような結末を辿ったのか知る由も無いが、一つだけ言える確実な過程が存在する。
彼女達は……なのは達は
――ああ、なんだ……私がここまでしてきた事は……私の未来への抵抗は全て……
「もう少しだよ、なのはちゃん! 押し切って!」
「え……う、うん……ッ!」
アシュタロスのその声に、私は一瞬躊躇した。
今以上の力をレイジングハートへ流す事に、言いようのない不安を感じていたからだ。
と言うのも、スターライトブレイカーA.Aを放っている現状でもレイジングハートからは絶えず軋むような異音が聞こえており、その全身に渡って数えきれないほどの罅が奔ったその姿が痛々しい為だ。
特に本体である宝玉に奔った大きな罅は、直ぐに治療しなければいつ致命傷に繋がってもおかしくない。本来ならば無理をさせる場面では無いのだ。
だが、相手はあの聖女。
これ程の力を持った魔法に対しても抵抗を続けるだけの実力者……この好機を逃せば、間違いなく勝ち目は無くなる。
そのタイミングで私に力を貸してくれた天使がくれた助言だ。『絶対に何とかする』と言ってくれた彼女の期待に応える為にも、この一瞬……迷ってはいられない!
「あ……あああぁぁッッッ!!」
私は彼女の求めるとおり、スターライトブレイカーA.Aに更なる燃料をくべるように魔力を流した――その瞬間。
"パリン"
――え、なんの……お、と……?
魔力を送る為に、踏ん張る為にと瞑っていた目を開けば、私が構えたレイジングハートの先端から
――嘘。
私の魔法の始まり……私が最初に秘密を打ち明けた、たった二人の相棒が。
――嘘、うそ……!
いつも私と共にあった、時に軽口を叩き合い、時に勇気をくれたその輝きが。
――嘘だ、そんな、私が……私が……ッ!!
「レイジングハートオォォーーーーーーーーーッ!!!」
その宝玉が嵌まっていた筈の場所には、ぽっかりと虚しい穴が空いているだけだった。
いや、よく見ればその淵には小さく輝く赤い欠片が引っ掛かっていた。
しかしそれもスターライトブレイカーA.Aの反動が生み出す暴風に煽られ、私の遥か後方へ飛ばされる。
「あ――……ッ!」
思わず視線でそれを追いそうになる私を制止したのは他でもない、レイジングハートが完全に破壊される原因を作った少女の声だった。
「――なのはちゃん、今は落ち着いて術式の制御を!」
「ッ! 朱莉ちゃん、なんで今――ッ!? それ、は……」
私は思わず朱莉ちゃん――アシュタロスを睨むように視線を走らせ……彼女が手に持ったそれを目にした。
それは私が良く見慣れた赤い色をしている。
それは無数の小さな破片の集合体であり、全体的には球状のフォルムをしている。
そして、そこに今、私の遥か後方から風の流れに逆らって飛んできた小さな欠片が合流し、完全な球状に纏まった。
「――レイジングハート……!?」
「言ったでしょ、私が絶対に何とかするって。」
息を飲む私の、独り言の様な呟きに朱莉ちゃんはそうウインクを返す。
「っ! 治せるの!?」
「天使にも色々制約はあってね、死者蘇生はしちゃダメなんだ。だけど、
「それって……まさか!?」
「
私の期待の籠った問いに、朱莉ちゃんは悪戯を思いついた少女のように笑う。
しかしすぐに表情を引き締めると、「ただし――」と続けた。
「私が使いたい能力『デバイスの完全修復』を使うには、神様にオーダーする必要がある。でもその時に聖女が天使の体の中に居ると、非常に拙いんだ。『デバイスである聖女』が『デバイスの完全修復』の権能を受け取れちゃうからね。だから――」
「! 一時でも早く、天使の身体から聖女を追い出す!」
「そう言う事。だからもうひと踏ん張り、お願いね。レイジングハートのフレームと、術式の維持は私がやっておくからさ。」
思い返してみれば、レイジングハートが砕けてからのスターライトブレイカーA.Aの術式を維持していたのは朱莉ちゃんだったのだろう。私が今握っているレイジングハートのフレームの維持もまた……
彼女はただでさえ大変だろうそれに加え、散らばってしまったレイジングハートの回収までしてくれていたと言うのに、私は一瞬彼女を疑ってしまった……彼女は元々レイジングハートを犠牲にするつもりだったのではないかと。
「ゴメンね、朱莉ちゃん。」
「ううん、こうなるリスクを最初から考えていたって意味じゃ、なのはちゃんの怒りは何も間違ってないよ。だから、寧ろありがとう。最後は私を信じてくれて。」
そう言ってくれる朱莉ちゃんと目配せし合い、どちらからともなく互いを許す。
そして、つけるべき決着の為に、レイジングハートの復活の為に、私達の未来の為に……私はスターライトブレイカーA.Aへと全力の魔力を注ぎ込んだ。