転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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守護者達が去った地で

「――さて……アンタには色々と聞きたい事もあるけど、一先ずは身柄を拘束させて貰うで。」

「はい、もう抵抗するつもりはありません。」

 

すっかり大人しくなった聖女に、はやてちゃんがリングバインドにも似た拘束具を取り付ける。

これは木之元さんお手製の拘束具であり、聖女のユニゾンと魔法の行使を封じるものだ。

鍵に相当するものはなく、限定解除の様に権限を付与された者――即ち私達、機動六課の隊長陣の誰かの魔力と承認でもってのみ解除が可能となっている。

それが聖女に対して効果を発揮した事を確認し、はやてちゃんはホッと一息ついた。

 

「それにしても……本当にボロボロになっちゃったね、この街も。」

 

周囲を見回せば辺り一面瓦礫の山……早朝にはここにあった街の名残は、もはや何一つとして残っていないと言ってもいい光景だ。

 

「一部はヴィータとなのはが壊してたけどね。」

「あ、あの時はそれしか方法が無かったから――!」

 

フェイトちゃんのツッコミを受け、周囲にはどこか和やかな雰囲気が作られる。

そんな時、遠くから「おーい!」と言う呼びかけとともに、銀盾の皆が駆け寄って来た。

 

「漸く終わったんだな。今回は流石にヤバかったぜ……」

「何が一番ヤバかったって、最後のなのはのSLBだよなぁ……神谷が張ってくれた障壁が無ければ、皆余波の魔力ダメージで気絶してたんじゃねぇか?」

「ともあれ、無事に解決してよかったよ。これでもう、予言の"滅び"も回避できたんだろ?」

「でも、こうして解決した以上はこの臨時の部隊も解散か……ちょっと寂しくなるな。」

 

と、完全に事件解決の雰囲気を纏う彼等に、はやてちゃんが真剣な面持ちで先程聖女から伝えられた未来の話を伝えるべく口を開いた。

 

「ああ皆、その事なんやけどな……――」

 

 

 

「――はっ!? 聖女は元凶ではなかった!?」

「嘘だろ……それって"滅び"はまだ回避できてないって事か!?」

「しかも聖女の未来視によれば、俺達もなのは達も死ぬって……マジかよ……」

 

そんな未来の話を伝えられ、普段は割とのんきしている彼等も流石に堪えたらしい。

聖女の未来視の能力を疑う声もあったが、語られた内容にカリムの予言との類似性があった事を伝えると、その未来をどう覆すかと言う話に自然と切り替わって行った。

 

「……でも、聖女もそれを回避する為に動いてたんだろ? なら協力してくれるって事で良いんだよな?」

「ええ……ですが、直接的な戦力として今の私はなのはに劣ります。そのなのはが負けた相手である以上、私が参戦したところで未来を変える切っ掛けにはなり得ないでしょう。」

「ならせめてその敵がいつ、何処に現れるかだけでも視れないか? 未来視まで使えなくなった訳じゃないだろ。」

「いえ……多くの転生者が関わる未来である関係上、私が視る事が出来たのは結末だけです。辛うじて結末が視れたのは……貴方達転生者が命を落としたから。」

「お……おう……そうか。」

 

話し合いの中で自分達の死を改めて伝えられ、再び少なからずショックを受ける銀盾達。

そんな中、神無月君がはやてちゃんに確認するように問いかけた。

 

「じゃあ結局はカリムの予言頼りか……確か、滅びのタイミングを示す一文もあったよな?」

「! そうなのですか!?」

 

その問いかけに誰よりも反応したのは聖女だった。

彼女は確かに私達が敗北し、死ぬ瞬間の光景を見た。

しかし、私達が敗北するまでどれ程の時間が経過したのか……何時間も戦い続けた結果だったのか、ともすればあっと言う間に敗北してしまったのか……聖女にはそれが分からなかったのだろう。

 

「ですが、スパイを通して知った内容にはそのような一文は……」

 

だからスパイを通してカリムの予言の内容を聞き出したりもしたらしいのだが、その相手であるレジアス・ゲイズ中将が知っていたのは最高評議会によって肝心の部分が隠された状態だった為、聖女はカリムの予言にもタイミングを示す一文が無いと思い込んでいたのだそうだ。

 

「ああ、その一文に関しては特によう覚えとるわ。――『守護者達が地を去るとき 天の眼が開き滅びは来る』。最高評議会はこの守護者はレジアス・ゲイズ中将か、機動六課を指すと考えとった。私としては、『銀盾』なんて呼ばれとる皆も守護者候補やと思うとったんやけど……」

「未来視で機動六課と銀盾が滅びに遭遇していたし、残されたのはレジアス・ゲイズ中将か……よし、じゃあ俺達が中将がミッドを離れる予定が無いか聞き出せば――」

「――いえ、違います……!」

 

そう神田君が解決策を提案したその時、震える声がそれを遮った。

振り返ると、真っ青な顔をした聖女がしきりに周囲の光景を見まわしていた。

 

「この光景……()()()()……そんな、まだ時間はある筈……――! 未来が変わった……!? だったら――ッ!」

 

ぶつぶつとうわ言の様に呟く聖女はやがて何かに気付いたのか、上空へと鋭い視線を向ける。

釣られて上空へ目を向けると、それははるか遠くに薄らと……しかし確かにそこに存在した。

 

――なんだろう、アレ……空に、線みたいなのが見える……

 

見えたのは一本の線だ。

まるで空の絵に鉛筆で真っ直ぐに引いたような細い線が――

 

「――なのはッ!」

「えっ!?」

 

正体を見極めようとしていた私に、全身を拘束具で雁字搦めにされている聖女がそう叫びながら体当たりして来た。

突然の事に反応が遅れた私は、突き飛ばされて地面に倒れ込む。その直後、私を狙っていたと思われる青い砲撃が地面につき立っていた。

 

「っ! 今のは、まさか……!」

「皆さん、備えて下さい! でないと、ここにいる全員――」

 

砲撃の出所を追えば、自然と空に奔る()が眼に入る。

私達の視線を集めた事を把握しているのだろう、視線の先から幼さを感じさせる声が耳に届いた。

 

「――あーあ、避けられちゃった。」

「何もんや! 姿を見せぇ!!」

 

はやてちゃんの怒声に応じたのか、線を中心に()()()()

まるで()のように裂けたその奥には、黒い霧が漏れ出す異次元――虚数空間が広がっている。

そして、先程の砲撃の主と思しき少女が虚数空間の中より現れた。数えきれない数の手下……銀髪オッドアイの転生者達を引き連れて。

 

「貴女は……」

 

彼女の顔立ちを目にした私は、思わず傍に立つフェイトちゃんと少女を見比べる。

現れた少女は、髪型こそ違えどフェイトによく似ていた。フェイトちゃんの――子供の頃によく似ていた。

そして、一瞬で敵の正体を見抜いたのだろう。唖然とした様子のフェイトちゃんの口から、その言葉が漏れ出した。

 

「――姉、さん……?」

 

だが、その呟きは他ならぬ本人に――彼女の中にいる、本物のアリシアちゃんにより否定されたのだろう。

途端に動揺は消え、代わりに強い怒りが噴き出した。

 

「うん、わかってる……本物の姉さんはずっと私と一緒にいた! アイツは偽物!!」

「酷いなぁ、フェイト。ほら、よく見てよ……本物のアリシアだよ。――この身体はね。」

 

ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる少女の額に、6つの青い菱形の模様が小さな花の様に浮かんでいる。

本来のアリシアちゃんには存在しない、謎の模様……

 

――いや、違う……あれは模様なんかじゃない!

 

その妖しい輝きが、昔の記憶を呼び覚ました。

 

「――! お前、まさか……!」

 

フェイトちゃんも気付いたのだろう。普段は穏やかな彼女の声色に、怒気が混じる。

彼女はアリシアちゃんの事を非常に好いている。それこそ、自分の身体を自由に使わせる事を苦にも思わない程度には。

その最愛の姉が、身体だけとは言え利用されているのだ。頭に来ない訳が無い。

……だが、そんなフェイトちゃんの怒りも、()()のそれに比べればまだ微々たるものだったのだろう。

 

()()()()……()()()ォォォォ……ッ!!!!!」

 

その瞬間、少女を見ていた全ての視線が、彼女へと向けられた。

私達から遠く離れた場所に立つその女性は、手に持ったロストロギアの魔力を解き放つ。

地獄の窯でも開いたのかと思わせる程の憎悪が、途端に膨れ上がった()()の魔力に乗って周囲に満ちる。

SLB.A.Aによって雲一つ無かった空に忽ち黒雲が垂れ込め、その内側では紫色の光が激しく明滅し始める。

 

「もう、そんなに怒ってどうしたの? ちょっと遅れちゃったけど、()()()()()()()()()()()()? ()()?」

「――壊すわ。」

 

その言葉が引き金になったように、上空の黒雲から夥しい数の落雷が少女へ向けて降り注ぐ。

それはまさに、この場で最も少女の――アリシアの身体に巣食うジュエルシードの存在に神経を逆なでされた大魔導士、プレシア・テスタロッサの憤怒の投影だった。

 

――これ、下手したらあの人だけで勝っちゃうのでは……?

 

一瞬そう思わされる程の光景だ。上空を覆う嵐が、たった一人の少女に向けられている。

だが少女は動く事なく、代わりにその攻撃を防いでいたのは……

 

「――ありがとう、お兄ちゃん♪ じゃあさっさと起きて。」

「あ"あ……お兄ちゃんに任せろ……」

 

彼女を取り巻く銀髪オッドアイの一人だ。

だが彼一人で先程の攻撃を防ぐには力不足だったのだろう。障壁は一瞬で砕かれ、彼の身体は無数の落雷を受けていた。

しかし過剰ともいえる魔力ダメージを受けて意識を失った筈の彼は、ジュエルシードの言葉一つで意識を取り戻し、彼女を守るように飛翔魔法で傍に立ち続けている。

 

「ふふ……っ! どう、凄いでしょ? 私の命令があれば、魔力ダメージの気絶からでもすぐに目覚めるの。『戦え』って言えば、それこそ死ぬまで戦ってくれるのよ。――貴女達は()()()()()()で何処まで戦えるのかしらね?」

「……くっ!」

 

ジュエルシードの言葉に、苦い表情で杖を構えるはやてちゃん。

私達は時空管理局だ。非殺傷設定を外すにも理由と許可が居る。

今の状況をこの辺りの何処かにいるリオンちゃんにでも伝えれば、許可は下りるだろうが……問題はそっちじゃない。

 

「死ぬまで……」

「気絶もしないって事は、本当に……?」

 

そう、つまりジュエルシードはこう言っているのだ。

――『死にたくなければ殺せ』と。

前世も今生も平和な日本に生まれた私達に、()()()()()()等簡単に決められはしない。

例え許可があったとしても、非殺傷設定を切る事その物に強い抵抗感があるのだ。

 

奴はそれを知っている……いや、支配下に置いた転生者から聞き出したのかも知れない。

だからこそ、ジュエルシードは堂々とこの場に現れたのだ。

『人質に戦わせる』という、最も卑劣で残酷な作戦を用意して。

 

「――でもね、一人だけお兄ちゃん達には任せられない相手がいるの。」

 

少女はそう言うと表情から笑みを消し、一転して憎々し気に私を睨みつけた。

 

「貴女に味わわされた敗北……虚数空間を彷徨っている間ずっと、ずっと考えてたのよ。どうすればこの屈辱に決着をつけられるのか……!」

「ッ!?」

 

ジュエルシードの敵意が私一人へと向けられているのがハッキリとわかる。

それと同時に、私には彼女の正体が何となくわかった。シリアルナンバーは覚えていないけど、彼女との戦いで私が使った呼称は――

 

「『魔法使い』……!?」

「貴女だけは私自身の手で殺してあげるわ、高町なのは!」

 

嘗ての因縁が、時を越えて襲って来た。

 

 

……レイジングハートは、まだ目覚めない。




拙者、最初の敵が最後のボスになる展開大好き侍
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