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「――本気で言っているのですか……?」
私の提案に対する聖女の返答は、そんな問いかけだった。
確かに天使の身体を乗っ取っていた相手に対する提案として、あまりにリスクが高すぎる事は私も分かっている。だけど……
「こんな時に冗談は言わないよ。」
「私はさっきまで貴女の敵だったのですよ!?」
「でも今はそうじゃない。貴女もジュエルシードが齎す結末を変えたがっていた筈……違う?」
「――ッ、ですが……!」
聖女の言葉によれば、ジュエルシードは聖女にとっても倒したくてしょうがない敵だ。
私は少なくともその点に関してだけは、彼女が嘘を言っていなかったと確信を持っている。だったら今は協力できる筈だ。
「出来ない訳じゃないでしょ? 天使とさえ融合した貴女の事……多分貴女は適合率や適性に関係無く、最高の状態で誰とでもユニゾンできる筈。」
私がそう言うと、聖女にも私の意志が固い事が伝わったのだろう。しばし考えこんだ後、諦めたように頷いた。
「……分かりました。ですが、最後に一つ確認を。」
「何?」
「私のユニゾンは制限により
私が転生者である事がバレている事に関して、今更驚きはしない。彼女の未来視の能力があれば、確認する機会はいくらでもあっただろうから。
だから私は、ただその問いかけに対する解答のみを返す。
「……連携の精度かな?」
「そうです。私が完全に制御する場合と違い、通常のユニゾンデバイスの様に息を合わせる必要があるのです。先程まで敵対していた私達が……です。これは適性を無視できる私の特性でも、どうにか出来る物ではありません。」
「なるほど、貴女の能力を使い熟すには少し慣れが必要って事だね。」
ぶっつけ本番でやるには、リスクの高い賭けになる事は承知の上だ。
何故なら私は、これまでレイジングハート以外のデバイスを使った事が一度だってない。しかも聖女はデバイスの中でも特殊なユニゾンデバイス。
だけど、これしかないのだ。私が今戦う方法は。
「『少し』で済めば良いのですが……では最後の確認も終えましたし、貴女の覚悟が出来ていればこの拘束を解除してください。」
言外に『怖気付いたのならばそのままにしろ』と告げる聖女の眼に見つめられながら、私は聖女の拘束を解除するコマンドワードを唱え、魔力を流す。
「……随分、思い切りが良いですね。もう少し躊躇すると思ったのですが。」
「時間もないからね――さぁ……一緒に戦おう、聖女。」
「もう私は聖女ではありません。その資格も……ですから、私の事は『プロト』と呼んでください。それが今生の親より与えられた、ただ一つの名です。」
「プロト……分かった。」
そう言って私が差し出した手に、僅かな躊躇の末聖女が――プロトがその小さな手を乗せる。そして――
「「――"ユニゾン・イン"!」」
私達の身体を光が包んだ。
「ふふ……どのビルに隠れたとしても逃げられないよ、高町なのは! ≪Disaster Edge≫!」
ビルを破壊してなのはを炙り出す為、再び6つの誘導弾を放つ。
私の攻撃を妨害しようとする管理局員の姿が視界の隅にチラつくが、そう言った手合いは私の命令通りに動く
――そこで精々眺めていると良い……高町なのはの最期を!
私の意のままに動く誘導弾がビルを次々に破壊していく。なのはの悪運が強いのか、それとも意地を張って隠れ続けた結果、既に圧死したか……
――いずれにせよ全てのビルを壊せば貴女の命運も尽きる……!
事情は知らないが、今のなのはが戦えない事は間違いない。
しかしだからと言って躊躇も容赦もしない。私は彼女と正々堂々戦いたい戦士ではないのだから。
目的さえ果たせばそれで良い。どう言った巡り合わせか、幸いにしてこの世界に残りの
今度こそ
――今の光は……!
視界の隅で、一つのビルの窓から不自然な光が漏れる。そして光が収まると同時にその窓から人影が一つ、飛翔魔法の輝きを纏って飛び出した。
「そこッ! ≪Disaster Edge≫!」
絶対に逃がさない。確実に捉えて……――貫く!
強い意志を込めて差し向けた6つの誘導弾は、なのはの逃げ道を完全に塞ぐように取り囲み――一斉に襲い掛かる。
――さぁ、お得意の障壁で防ぎなさい! 動きが止まった所を今度こそ……!
「≪Apocalypse Breaker≫……!」
――私のエネルギーを集約させたこの砲撃で、障壁諸共――!?
次の瞬間、私は自身の眼で見た光景を疑った。
彼女は回避も障壁による防御も使用せず、代わりに白いオーロラを身に纏ったのだ。
そして私の誘導弾は、ただ一つとしてその薄っぺらい膜を越えられず……空気に散って消えた。
「――っちぃ!」
急いで砲撃の術式をキャンセルし、エネルギーを散らす。
なのはが何をしたのかを理解するまで、宿主であるこの身体にとって負担の大きい砲撃は避けるべきだろうと判断したからだ。
私は誘導弾を消滅させたオーロラの正体を探ろうとして……その銀色に靡く髪に目を止めた。
――なのはではない……!?
一瞬そう思ったが、顔立ちを見れば間違いなくそれは高町なのはの物だ。これはいったい……
「ディバインバスター!」
「っ!」
よく見れば杖も握っておらず、こちらへ向けられた手の平から放たれたのは
妙な気配を感じ、余裕を持たせて躱す。
――デバイスが無い、魔力光が違う……でも、アレはなのはだ! 以前、私に忘れ難い屈辱を味わわせた、高町なのはのあの魔法だ……!
あれから私は魔法について研究した。
『お兄ちゃん』達の妙な知識、命令し願わせる事で手に入れたこの魔法の力。そしてずっと記憶に残っているあの感覚と、今の砲撃から感じた術式は全く同じだった。
「フラッシュインパクト!」
「っ!」
――砲撃の中から……ッ!?
自身の放った砲撃の中から、黒い結晶の様な障壁を纏い現れたなのはが拳を握る。その術式を即座に解析し――
「≪Flash Impact≫!」
同じ魔法で迎え撃つ。嘗ての私と同じように、しかし以前とは決定的に違う。
なのはの使った術式を理解し、同じ術式を自身で構築。そして、そこに込めるのは――なのは以上の圧倒的な魔力!
なのはの拳に白い輝きが、そして私の拳には彼女のそれよりも遥かに眩い青い輝きが宿る。
次の瞬間、真正面からぶつかり合う互いの拳と魔法。魔法の常識で考えれば勝つのは私だ……だが――
「相殺……ッ!? バカな――」
「まだ、まだぁ!」
「!? ――ちぃっ!」
一瞬の動揺。その隙になのははフラッシュインパクトを放った拳を開き、私の手首をその右手で掴んだ。
――私を逃がさない気か!? 望むところ!
つい焦ってしまったが、本来彼女の得意とする距離はクロスレンジではない。だったらこの状況を逆に利用する!
「≪Catastrophe≫!」
発動した術式は、私を中心として超広範囲を蹂躙する空間攻撃だ。
宿主の身体をも巻き込みかねない為に非殺傷設定を外せないのが難点だが、この距離であれば確実に直撃する! ブラックアウトダメージで意識を奪ったところで改めて止めを……
「――≪Over Light Punisher≫!」
「なっ――!?」
瞬間、なのはの身体から白い波動が溢れ出す。
意図したものではないだろうが、その魔法は私のカタストロフィによく似ていた。違うのは――
「――ぐ……ぅ!? 魔力が……私が、吹き飛ばされ……!?」
彼女の魔法はこの身体ではなく、『私』を直接攻撃している……!
カタストロフィは彼女を中心に散らされ、加えて彼女は魔力によって『私』をこの身体から押し出そうとしているのだ。
「はああぁぁぁっ!!」
「させ……るかァッ!!」
私自身の魔力を放出し、彼女の放つ魔力に対抗する。
どうやら彼女のこの魔法は魔力を攻撃できると言う性質だったらしく、魔力による抵抗も有効だった。となれば、無限に等しい魔力を持つ私であれば何も脅威ではない。
「ふ、ふふ……残念だったわね、高町なのは! 貴女の目論見もこれで無駄よ! 大人しく殺され……――ッ!!!」
――違う! なのはの目的は私を押し出す事じゃない!
なのはの左手に魔力が収束していた――青い光が。今さっき、私から弾き出した魔力が眩い輝きを放ち、彼女の支配下に置かれていた。
――対象の魔力を弾き出し、その魔力で放つ収束砲撃……!?
そんなのあり得ない。そんなの出鱈目すぎる。
「く――ッ!」
咄嗟に腕を振り払い無理やり距離を取ると、彼女は術式をキャンセルし、収束させた魔力を散らした。
「やるじゃない……それでこそ、復讐のし甲斐があるってものよ。」
「復讐……貴女がこの世界を滅ぼすのは、そんな理由なの……?」
「滅ぼす……? 何を勘違いしてるのか知らないけど、私の目的はそんな下らない事じゃないわ。世界が滅びるんだとすれば、きっとその過程で勝手に滅ぶのよ。」
「そんな事はさせない! だったら、私は何が何でも貴女を封印する!」
彼女の話に乗る形で時間を稼ぐ。流石の私でも、あの魔法を喰らえば流石に拙い。
しかし、既に手は打っている。その為に少しでも時間が欲しい……!
――繋がっているパスの位置からして、そう遠くない内に……!
≪今大丈夫か!?≫
≪お兄ちゃん、待ってたわ! 私に念話を繋げたんだから、当然朗報よね?≫
≪ああ、ちゃんと
≪よくやったわ! 早く私の元に届けなさい!≫
最後に命令して念話を切る。
「ふ、ふふ……!」
「何が可笑しいの!」
「……貴女にも経験はあるんじゃないかしら? ずっと、ずっと待ち侘びていた瞬間が近付いてきた時、ついつい笑みが漏れてしまった事が……」
「いったい何を……」
ああ……もう直ぐだ。もう直ぐ私の悲願は叶う。
そしてその時が貴女の最後になるのよ、高町なのは……!