前話に会話を一部追加しました。
具体的には聖女がユニゾン前になのはに本名を明かしました。
それに伴い聖女の呼び方を聖女の本名『プロト』に統一しました。
-2024/03/09 追記
内容を一部修正しました。
なのはがジュエルシードとの戦闘を開始した丁度その頃、時空管理局古代遺物管理部では一つの戦闘が決着を迎える所だった。
「2、4、6……よし、ちゃんと15個揃ってるな。」
「はぁ……はぁ……――くっ! 待て、
先程まで戦っていた彼等の容姿は非常に似ていた。
共に同じ銀髪、同じく左右で異なる色の瞳。そしてその出身もまた……だからこそ、彼には――古代遺物管理部の保管庫の警備に当たっていた転生者には理解できない。どうしてそんな物を求めるのか……それも、襲撃などと言う犯罪行為に手を染めてまで。
「俺の妹の頼みだからな、『
「――!?」
その瞬間、彼は朧気ながら理解する。目の前のこの男の思考には、何らかの手が加えられているのだと。彼の背後にはその思考を縛り、差し向けた黒幕が居るのだと。
しかし、彼がそれに気付こうと気付くまいと事態は動く。
古代遺物管理部に襲撃をかけた実行犯であるその男は何も無い空間に徐に手を
「虚数空間……!? おい、待て!!」
彼の制止の言葉に振り返る事もせず、男は虚数空間に身を投げた。
それを自殺と彼は思わない。自身と同じ転生者……それも、特典で虚数空間を開く能力を貰っているのだ。恐らく奴は、通常であれば不可能である『虚数空間内を自由に移動する方法』も持っているのだろうと当たりを付ける。
対して自分にはその能力がない。この時点で男の追跡は不可能となってしまった。
「くそっ……! こちら、時空管理局古代遺物管理部! 応答願う!」
『こちら時空管理局……!? その惨状は!? 一体何が……!』
即座に彼は本局へと通信を繋げ、この場で起きた事――研究用に保管されていたロストロギア『ジュエルシード』の15個全てが強奪された事を報告するのだった。
「貴女が無駄話をしてくれたおかげで、もう直ぐ私の悲願は叶うのよ。そして貴女は私に敗北し――絶望を抱えたまま死ぬ事になる!」
「……!」
ハッタリじゃない。ジュエルシードの様子からは、絶対的な自信と余裕が感じられる。
どうやら彼女が私の話に付き合ったのは、時間稼ぎをされていたようだ。しかし――
<やはり、
<ううん……レイジングハートが無い状態で、あれだけの魔力を制御しきるとは思えない。撃つべきじゃなかったのは間違いないよ。>
私の内側から語り掛けるプロトにそう返答する。
彼女が言っているのは、先程弾き出したジュエルシードの魔力を集束させて組んだ術式の事だ。
あの魔法は既にキャンセルした為に収束させた魔力も散ってしまったが、そうしたのはあのままあの魔力を砲撃として放てば暴発する危険性が高かったからだ。
デバイスの機能はプロトも勿論備えているが、あの時点でプロトはその全能力を『オーバーライトパニッシャー』の制御に注いでおり、砲撃の制御にまで手は回らなかった。
それでもジュエルシードに逃げられさえしなければ、ゼロ距離で放つ事で確実に狙えたのだが、距離を取られた以上は撃つべきではない。……周囲では今も多くの仲間たちが戦っているのだから。
<そうですか……貴女がそう判断したのであれば、従いましょう。しかしどうするのですか? 貴女が会話で稼ごうとした時間は、相手にとっても好都合だった様子……しかも、その好機は私達よりも先に彼女の方に訪れる事になりそうですよ。>
そう、先程の会話は私達にとっても時間稼ぎだった。レイジングハートが目覚めるまでの……だが結局のところそれは裏目に出てしまった。
だったら――!
<どうするも何も無いよ。ジュエルシードが何か企んでいるのなら、それを全力で阻止するだけ!>
「フラッシュムーブ!」
A.C.Sが使えない為、これが今私の出せる最高速度だ。
無数の魔力弾による牽制を織り交ぜながら、ジュエルシードの迎撃を回避して距離を詰める。
<Short Buster!>
プロトも私の術式を使って援護射撃をしてくれているが、レイジングハートのソレと比べてやはり僅かに感覚がズレる。
未来視も併用しているらしく狙いは正確だが、文字通り見ている光景が異なる為だろう。完璧な連携には程遠い。
事実、さっきプロトが組んだ『オーバーライトパニッシャー』の術式に私の魔力操作が追い付いていれば、その効果範囲は先程の比ではなかったのだと言う。
そう言う意味でも、私達はこの戦いの中で成長しなければならない。
「しつっこいわね!」
攻撃が当たらない事に危機感を覚えたのか、それとも距離を詰められている事に苛立ったのか……ジュエルシードは再び距離を取ろうとする。どうやらあくまで時間稼ぎに徹する事にしたらしい。しかし――
<なのは、私が次元魔法でアシストします!>
その動きを既に見ていたプロトが発動した術式により、目の前に作り出された次元魔法のゲート。
そこを潜った直後には、私はジュエルシードの背後に回り込んでいた。
「なっ……!?」
「――フラッシュインパクト!」
魔力を込めた拳が振り向きざまのジュエルシードの脇腹に突き刺さり、そのまま魔力が炸裂。地表へ向けて殴り抜く!
「ぐ……ッ!」
「ショートバスター!」
追撃の手は緩めない。ジュエルシードに何もさせないつもりで、次々に砲撃を放ちその抵抗を封じていく。
そして狙い通り、ジュエルシードの両足が地面についた。
こちらも次元魔法のゲートで地表に降り立ち、向かい合う。
「調子に――!」
<縛震殴!>
「フラッシュインパクト!」
震脚で地面に流した魔力によってジュエルシードの足にバインドを絡ませ、そのバインドに繋がったパスに引かれるように身体が加速する。
そして高速で突き出される拳には――私の魔法による魔力の輝きが宿っている!
「――が、ぁ……っ!」
両足が地面に縫い留められている事で腹を打ち据えた衝撃は逃げ場を無くし、体内を暴れ回る。……私の込めた魔力と共に。
その一撃でジュエルシードの動きが、一瞬だが完全に止まった。
「! 今の内に封印を――ッ!?」
「させるかよ!」
突然目の前の空間が裂け、虚数空間が開く。
そしてそこから現れた転生者が、私の方へ右手を伸ばしてきた。
<なのは!>
<仕方ないか……!>
もしも腕を掴まれて虚数空間に引きずり込まれたら一巻の終わりだ。仕方なく封印を断念し、距離を取る。
その一瞬、目の前に現れた転生者が左手に握っている物がチラリと見えた。
――アレは、まさか……!
転生者は私が後退するや否や、代わりとばかりにジュエルシードの方へ手を伸ばし――二人の姿は虚数空間に消えた。
「拙い……!」
<なのは、今の転生者が持っていたのはまさか――>
<ジュエルシードだ……! それも、残りの15個全部!>
ジュエルシードが待っていたのは、間違いなく今の転生者だ。彼が15個のジュエルシードを持って来るのを待っていた……!
『――高町教導官、緊急事態だ! 先ほど本局で……!』
「ジュエルシードが奪われた……そうだよね、リオンちゃん。」
『だからその呼び方は――!? 待て、高町教導官! まさか、既にジュエルシードが奴の手に……!?』
緊急を告げるリオンちゃんからの通信に首肯で返す。
ジュエルシード事件に関するデータは当然彼女達も目を通している筈だ。ならば、それが何を意味するのかも当然理解している事だろう。
『ジュエルシードが発掘された世界が何故滅びたのかは、スクライア一族の調査でも不明のままだった……だがジュエルシードと言う願望器があってなお滅びたのであれば、恐らく原因はその願望器そのものだろうと言う推測は上がっている。つまり――』
「これからが、本番……」
その瞬間、上空に再びジュエルシードの魔力を感じて視線を向ける。ただし、感知した魔力の量は先程とは比べ物にならず――
「ふ、ふふふふふ……っ! アハハハハハッ!」
「――……ッ!!」
歓喜に笑うその感情の高ぶりに感化されたのか、ジュエルシードの魔力が膨れ上がる。
ただそれだけでビリビリと震える大気が、地上に立つ私にまで伝わって来た。
『……高町教導官、勝算はどのくらいある?』
リオンちゃんが不安気に訪ねて来る。
……正直な所、分からない。
さっきまでの戦いだって、攻撃の手を緩めなかったから押し切れていただけだ。
扱える魔力の総量も出力も、向こうの方が遥かに上……そしてそれは、そのまま耐久力にも言える事だ。
文字通り次元の違う敵……だけど――
「――絶対に勝ちます。」
『!』
予言で名指しされたからではない。根拠だって無い。
だけど、ここで『勝つ』と答えられない者に勝利は……未来は訪れない。
ほんの僅かにでも気後れすれば――ほんの一歩でも後退れば、それが命取りになるのだ。
「勝って見せます……何としても!」
『……そうか、そうだったな。――健闘を祈る。』
「――はい!」
今、私達は予言に記された"滅び"と"栄光"の分水嶺に立ったのだ。