転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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揺れる天秤、震える世界

眼前に聳える巨大な球状の結晶体……そのあまりの巨大さ故に、中心部は結晶の色である黒に閉ざされており、ジュエルシードの様子をこちらから伺う事は出来ない。

 

≪なのはさん……多分ですけど、あの敵――ジュエルシードはまだ……≫

≪うん、わかってるよティアナ。今は閉じ込めて、動きを封じただけ……ジュエルシードはまだ、止まってない。≫

 

ティアナの推測に肯定を返しつつ、軽く周囲を見回す。そこには未だに管理局に敵意を向ける、ジュエルシードに操られた転生者達の姿があった。

転生者達と銀盾達の戦いが終わっていない……それは、未だに彼等に対するジュエルシードの影響が色濃く残っていると言う証明に他ならない。

ジュエルシードはまだ戦うつもりなのだ。

 

<プロト、あの結晶を内側から破壊する事って出来る?>

<……理論上は不可能ではありません。ですが、いくら際限ない魔力を扱えるジュエルシードと言えど、多少は梃子摺る筈です。>

<そう……>

 

結晶の内側から感じるジュエルシードの魔力が、どんどん膨れ上がっている。この分厚い結晶の檻も、もしかしたらそう長くは持たないのかも知れない。

出来る事なら、今の内に何か対策を……――っ!

 

その時、胸元に新しく熱が生まれた感覚……そして、再び刻み始めた魔力の鼓動。

それが意味するものを察知した私は、スバル達に告げた。

 

「――スバル、エリオ、キャロ、ヴィヴィオ……駆けつけてくれて、ありがとう。」

≪ティアナも、急の事だったのに作戦を考えてくれてありがとう。おかげで助かったよ。≫

「なのはさん……?」

≪なのはさん、まさか……!≫

「でも、ここからはもう大丈夫。ジュエルシードは私に任せて、貴女達は他の皆の事を助けてあげて。」

 

スバル達にそう伝えると同時に、ティアナにも念話で同様のメッセージを伝える。

最初はこの場に残ろうとしたスバルも、ティアナとヴィヴィオから諫められ、やがてこの場には私達だけが残された。

 

「――この感じ、もう直ぐ結晶が砕けるみたいだね。」

 

未来視に映る結晶には全体的に亀裂が入っており、それはもう数秒で現実の物となるだろう。

スバル達がこの場から離れた事で、その光景は先程までよりも鮮明に映し出されていた。

 

……だけど、今の私の胸にある感情は恐怖でも緊張でもない。それを上書きして有り余る歓喜だ。

スバル達のおかげで稼ぐ事が出来たその数秒が()()()()()()()()()のだ。

 

≪準備は良いよね? ――レイジングハート。≫

 

胸元に揺れるレイジングハートにそっと手を添えると、そこには先程まで無かった輝きが戻っていた。

先程感じた温かな熱と鼓動……それが私の相棒の目覚めを知らせてくれていたのだ。

 

≪……目が覚めたらなのはが随分と過激にイメチェンしてた件。≫

≪あはは……やっぱりちょっと違和感ある?≫

≪まぁ、()()()()()()はなったかもな。……聖女とユニゾンしてるのか。≫

≪うん、私が戦う為に力を貸して貰ったんだ。状況を説明する時間も無いから、先にセットアップをお願い。≫

≪おう!≫

 

「レイジングハート、セットアップ!」

≪Stand by ready, Set Up!≫

 

私の掛け声とともにレイジングハートはその姿を杖へと変える。

時間にして数十分と経っていないにも関わらず、随分と久しぶりに思える相棒の重さをその手に感じながら、私はセットアップしたレイジングハートを構えた。そして……

 

「――じゃあ、そっちはお願いね。クロノ君。」

『全く君は……無茶ばかりする癖は全く治っていないらしい。分かった、こっちは任せてくれ――武運を祈る。』

 

この後の事についてクロノ君に伝えた後、通信を切る。

――これで、『最大の懸念』についてはきっと大丈夫だろう。

 

そして私が結晶へと向き直ると同時に、ピシリ、パキリと結晶全体に亀裂が奔る。

内側から漏れだした濃密な魔力の流れが青い光を伴って、その罅を更にこじ開けようとしている。

そして未来視には既に、私へ向けて無数の散弾が襲ってくる光景が映っていた。

 

「レイジングハート!」

≪Axel fin.≫

 

レイジングハートのアシストと未来視を併用し、飛来する結晶の弾幕を躱しながらジュエルシードへと迫る。

 

「≪Disaster Edge≫!」

「!」

 

ジュエルシードの声が聞こえたと思った刹那、弾幕の合間をすり抜けて私へと迫る無数の誘導弾が未来視に映り込む。

 

「プロト、誘導弾の対処をお願い! それと黒い魔力に変換をお願い!」

<任されました。対処の為、術式を少し借りますよ――≪Accel shooter≫!>

 

未来視によって散弾と誘導弾の軌道を読めるプロトに対処を任せると、私の周囲から無数の黒いアクセルシューターが放たれる。

それらは誘導弾の傍に取り付くと融合し、魔力爆発を引き起こすコマンドワードにより結晶化させられては地面へ向けて落ちていく。それを確認した私は、レイジングハートの形態を変形させる。

 

「レイジングハート!」

≪All right, ――"Exceed Mode".≫

 

槍のような形態へ変化したレイジングハートの切っ先をジュエルシードへと向け、ぴたりと照準を合わせると――

 

「行くよ……エクセリオンバスターA.C.S!」

≪Excellion Buster Accelerate Charge System!≫

 

レイジングハートの先端から黒い魔力刃『ストライクフレーム』が展開され、ヘッド部分付近から溢れ出した魔力が同じく黒い鳥の翼を形作ると、グリップエンド――槍で言うところの石突に当たる部分に存在する後部ダクトから勢いよく魔力が噴き出し、私は飛翔魔法と比べ物にならない速度でジュエルシードへと迫る。

 

差し向けられた誘導弾はプロトに迎撃され、途中に存在した結晶の散弾はストライクフレームから生成された攻性フィールドにより砕かれ、私には届かない。

 

――『っ!』

 

あっと言う間に距離を詰めた私に向け、障壁を張ろうと手を向けるジュエルシード――その未来を視た私は、先にその行動を潰す為の術式を構築して放つ。

 

「『バレルショット』!」

「な――ッ!?」

 

ジュエルシードへ向けて発射された、不可視の魔力と衝撃波によるバインド。その効果はジュエルシードに対しては微々たるものであり、力任せに解除できる程度の物だっただろう。

 

だが――その一瞬で私の刃はジュエルシードに届いた。

ジュエルシードはフィールドタイプの障壁で身を守ったようだが……

 

「く……これは、魔力が根を張って……!?」

 

彼女の身を包む魔力に固着したストライクフレームは、ジュエルシードを逃がさないようにその身体を結晶化させてレイジングハートの先端に固定する。

 

「はあああああああーーーーーッ!!」

 

そのまま私達は空を翔ける。プロトが指示した()()()()へと向けて。

ジュエルシードを包む結晶には忽ち罅が入り始めるが、時既に遅しと言う奴だ。

その時点で既に私達は元々それ程離れていなかった目標地点――リオンちゃん達の儀式魔法『アナイアレイター』により穿たれた、『HE教会跡の大穴』へと突入していた。

 

<プロト、場所はこのまま真っ直ぐ?>

<はい、このまま地面に突っ込んでください。レイジングハートの補強は私が行います。>

 

そんなやり取りを交わして直ぐに見えた大穴の底は、元々プロト達が地下大聖堂と呼んでいた広間だった場所だ。

以前そこに突入したはやてちゃん達によれば、そこには魔力を遮断する結界が張ってあったとの話だったが、私はその結界が張られていた理由についてプロトから既に話を聞いていた。……ジュエルシードに対抗する為の策の一つとして。

 

「――っは! 何のつもりか知らないけど、私を地面に叩きつけようとしてるなら無駄よ! この程度の衝撃、私の障壁をもってすれば何のダメージにもならないわ!」

 

結晶を砕き自由になった顔を嘲笑の形に歪めたジュエルシードは、自身の後方に障壁を張る事で身を守る。だが――その方がむしろ好都合だ。

 

「そうだね……()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね。」

「何……?」

 

直後、ジュエルシードの障壁が大穴の底へと衝突し、地面に巨大な蜘蛛の巣の様な亀裂を生むと――そのまま私達は岩盤を砕きながら地の底へ向けて潜っていく。

 

――元々地下大聖堂に張られていた結界は、ある物の存在を時空管理局に察知させない為の物だったのだとプロトは言った。

 

「ち……諦めが悪いわね、貴女も。私と一緒に生き埋めにでもなって、心中するつもり?」

「直ぐに……ッ! ――分かるよ!」

 

――それは地下大聖堂の更に地下深く……プロトが『将』と呼んだ四人の中でも、最も信頼した一人にしか知らされていなかった秘密。

 

「悪いけど、付き合ってあげる義理は……!? 何、この反応――まさかッ!?」

 

その存在を感知したのだろう、ジュエルシードが身体にまで固着したストライクフレームを外そうと足掻き始めたがもう遅い。

――既に、()()した。

 

ふっとレイジングハートが軽くなる。

それは分厚い岩盤を突き抜け、空洞に到達した証だ。そこには――

 

「バカな……こんな数、私が気付かない訳が――!」

<よくもこれだけ集めたね、プロト……>

<未来を――貴女達の言う『滅び』を覆す為には、なりふり構ってられませんでしたからね。勿論この罪も償いますよ、この戦いを乗り越えられたのならいくらでも。>

 

そこには地下大聖堂と同じ規模の広間一面に散らばる、()()()()()()()()()が妖しい輝きを放っていた。

 

<この広間にも念の為に結界を張ってありますし、ついでに極端に危険なロストロギアは選別して除外してあります。ですから、思い切りどうぞ。>

<……私も罪に問われないと良いけどね。>

 

躊躇は一瞬。ストライクフレームを解除すると同時に、私は大径カートリッジを消費する事で一瞬で生成した砲撃を放った。

 

「――エクセリオンバスター!!」

 

 

 


 

 

 

――なのはが大穴に突入して数秒……恐らく、そろそろ『来る』頃か。

 

「プレシア博士、リンディ提督、そしてユーノ、衝撃に備えてくれ。」

『分かったわ。』

『ええ、何時でも大丈夫よ。』

『僕も準備は出来てるよ。』

 

なのはが通信で大きめの次元震が発生するだろうと伝えて来た時は驚いたものだが、ここに居並んだ四人が力を合わせれば何とでもなるだろう。

それ程のエキスパート達が揃っているのだ。それにしても――

 

「済まないな、ユーノ。こんな事件に巻き込んでしまって。」

『いや、元々は僕達スクライアの発掘調査が原因だ。きっとこれも因果って奴だろうね。』

 

まさか地球から応援に呼んだ母さんが中継点である時空管理局本局で偶然ユーノと合流し、そのままついでに連れて来るとは予想もつかなかった。

もっとも、この状況にあってはそれも嬉しい誤算と言う奴だったが……――!

 

「来るぞ!」

『『『っ!』』』

 

一瞬前兆として感じた魔力の波動。その直後、悍ましいとまで感じる程の魔力が穴の底から溢れ出し、巨大火山の噴火を思わせる爆発と火柱が飛び出した。

 

『く……この魔力は……』

『流石に拙いかも……』

『何やったのさ、なのは!?』

「――ぐ……ぅ! こ、れは……ッ!!」

 

空間が……世界が震える。

何が『大きめの次元震』だ! 対策していなければ、ミッドチルダが一瞬で飲み込まれる程の次元断層が発生するレベルだぞ!?

 

暫くの間次元震を抑えた後、いつの間にか大穴の上空に姿を現していたなのはの姿を見つけ、内心で溜息を吐く。

 

――これは、この一件が片付いた後、説教の一つや二つは覚悟して貰わなければな……

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