プロトの次元魔法により上空に退避していた私の眼下にて、かつてHE教会が存在していた大穴からもくもくと黒煙が立ち昇っている。
先程までビリビリと肌を刺していた空間の振動が収まると、しばらくして目の前に通信用のモニターが現れ――
『おい、なのは! 何をしたら今の様な次元震が起こるんだ!? 下手をすればミッドチルダ全体が消し飛ぶところだったぞ!?』
「クロノ君! ジュエルシードの反応は!?」
『なっ……今ので倒せていないのか!? 分かった、エイミィにはこちらから伝える。君はそのまま奴への警戒を怠るな!』
「うん、お願い!」
実のところ、砲撃によって地下のロストロギアが反応した瞬間に張っていた障壁が破壊される寸前にまでダメージを負ってしまった為、ジュエルシードにどの程度のダメージが入ったのかを確認する余裕は無かったのだ。
プロトが即座に避難させてくれていなければ、今頃は私もきっと――
『なのはちゃん、クロノ君から聞いたよ! 探知の結果だけど、まだ大穴の底で反応がある! ジュエルシードは機能停止していないみたい!』
「……!」
エイミィさんからの報告を受けて、緊張が走る。
心の何処かではそんな気もしていた為に動揺は少ないが、出来れば今の一撃で決着をつけたかった。
「分かりました、では――」
『だけどね、反応はかなり弱まってる! 今なら封印処理まで持って行けるかも!』
「! ありがとう、エイミィさん!」
『もう少しだと思うから……頑張って!』
その朗報とエールを最後に、エイミィさんからの通信は切れた。
彼女から貰った情報によれば、ジュエルシードはかなり弱っている。
今ジュエルシードが姿を見せないのはそれ程に弱っているのか、或いは――
「倒されたフリをして、体力回復を図ってるのかな……」
≪いずれにせよ、やるべき事は一つだな。≫
≪そうだね、レイジングハート……時間を与えずに一気に方を付ける! ――プロト!≫
≪はい、直ぐに次元魔法で転移します!≫
プロトがそう言うと、私を中心に空間が歪み始め――次の瞬間には、所々がガラス化した岩盤で覆われた薄暗い空間に居た。
先程まであれ程あったロストロギアは一つ残らず砕け散っており、その残骸を私達が掘り進んだ穴から差し込む光が照らしていた。
見ようによっては神秘的でさえある光景……しかし、それと同時に感じたのは――
――凄い熱気……それに、空気中の魔力濃度が異常に高い……!
こんな空間に長時間留まれば、身体にどんな悪影響があるか分かったものではない。一刻も早くジュエルシードの封印を済ませてこの場を去りたいものだが、ただでさえ視界の効かない環境に加えて……
――濃すぎる魔力の所為で、ジュエルシードの魔力を探知できない……!
どうしたものかと周囲に目を走らせたその時――
<なのは!>
<――っ、うん!>
未来視の光景を頼りに、背後から迫っていた砲撃を間一髪のところで回避する。
「――っ!?」
「! そこっ!」
私が砲撃を回避した事に思わず息を飲んだのだろう。僅かに漏れ出した気配と、砲撃の発射地点の計算を元にロストロギアの残骸の積もった一角へと砲撃を放つ。
すると、砲撃が残骸を撃ち抜くよりも一瞬早く、その陰から小さな影が飛び出してきた。
「――高町なのはァッ!!」
「くっ――!?」
青い誘導弾の牽制と同時に、手の先から生み出した魔力の刃による斬撃。
飛翔魔法で後退しつつ誘導弾の対処はプロトに任せ、フラッシュインパクトの一撃で魔力刃を弾くと、差し込んだ光をスポットライト代わりにする様にして、私達は向かい合う形になった。
――! 姿が、また変わっている……!
光の中で目の当たりにしたジュエルシードは、今の私と同じ年頃迄成長していた。
髪の色こそ青く変わっているが……アニメで登場したアリシアちゃんが今の私と同じ年齢だったなら、きっとこんな姿だっただろうと思えた。
「ほんっと……やってくれるじゃない……! さっきのは、流石に……ちょっと危なかったわ……!」
「!」
強気な口調と表情を浮かべているが、彼女の様子からは隠し切れない疲弊と――大きなダメージを受けている事が確信できた。
先程の砲撃もそうだ。直前まで私が攻撃に気付けなかったのは、この周囲の魔力濃度も原因の一つではあったがそれ以上に――!
――魔法の威力が落ちている!
身体の成長とは裏腹に、彼女から感じる力は間違いなく少なくなっている。
エイミィさんも言っていたように、決めるなら今しかない!
「レイジングハート! プロト!」
≪All right, Flash Move!≫
≪はい! Restrict Lock!≫
「ちっ……――このっ!」
ジュエルシードがその身に纏わりつく黒い鎖を振り払う隙を縫って、私は彼女の死角に回り込む。
どうやら私が感じた以上に彼女の受けたダメージは深刻だったらしく、その動きからは最初の頃には存在していたキレが失われていた。
「――フラッシュインパクト!」
「な――ッ!?」
この空間の広さでは、私の得意な砲撃による戦闘は難しい。だから――一瞬で決着を!
フラッシュインパクトの一撃を、ジュエルシードは障壁で受けた。
私はそのまま魔力に任せてレイジングハートを振り抜き、ガラス化した壁面にジュエルシードを叩きつける。
そして、僅かに怯んだその隙に……!
「レイジングハート、封印を……!?」
「――させねぇぞ!」
まただ、またこの声……!
ジュエルシードの正面に虚数空間が開き、そこから彼女の手下である転生者が姿を現した。
「アリシア、俺の手を取れ! ここは一旦退いて、次の機会を狙おう!」
――な……ッ!
拙い! それだけは拙い! 結界で転送魔法を封じているから失念していた!
ここでジュエルシードを逃がすような事があれば、今度は何を用意して襲ってくるか想像もつかない!
いや、そればかりじゃない。彼女は私との決着さえ放り投げて、直接次元世界毎滅ぼしに来る可能性だってある!
「さあ、俺の手を……!」
「……そうね、ここは一度――」
転生者の提案に彼女は乗ろうとしている! だけど、私には留める術がない……!
虚数空間に逃げられたら私にはどうする事も……!
――くそ、ジュエルシードの命令を聞くだけなら良かったのに……!
きっと彼等はジュエルシードを『何よりも守らなければならない妹』として認識するように、意識を操作されているんだろう。
だから洗脳されていてもこう言う提案が出来る。ジュエルシードに命令されない内は、彼等の思考能力は正常なのだ……!?
――……っ!
……そうだ、思い返せ。子供の頃、私がジュエルシードを――『魔法使い』を1vs1で打ち負かした方法を……!
――やるしかない、イチかバチか!
虚数空間の裂け目が間にある以上、どんな魔法もジュエルシードには届かない。だけど、ジュエルシードにも今の私の
「……ふぅん? じゃあ、また私の勝ちだね。ジュエルシード?」
≪なのは!? 一体何を――≫
≪いや、そう言う事か……確かに、それが一番効果的かもな!≫
腕を組み、嫌味たっぷりに挑発する。
鼻で笑い、嘲るような眼で見下す。
……どれも、なのはのイメージからは程遠い。
銀盾達の前ではこんな事は絶対に出来ないが、幸いここは地の底だ。誰に見られる心配もない。
――意図的に演じるような事はここ暫くやってなかったけど……騙して見せようじゃないか、
「ま、仕方ないよね? 元々貴女って、誰かに寄生しないと移動も出来ない『石ころ』なんだもんね?」
思いつく限りの言葉で、態度でジュエルシードのプライドを刺激する。
すると、ジュエルシードの鋭い視線が私の方へと向けられた。
「――……何ですって……?」
「! 乗るな、アリシ――」
「
「……」
――食いついた!
≪よし、ついでに余計な助言をする奴も黙らせてくれた! 行けるぞ、なのは! ……あと今度そのロールプレイを俺に対してやって下さい、お願いします!≫
≪あ、貴女達というものは……! ――いえ、ですが……それが正解だったのでしょうね……≫
プロトが言う様に、コレがきっと唯一の正解だ。
元々私に向けられていた敵意……嘗ての敗北で感じた屈辱。それがなければ、そもそもジュエルシードは私との戦いにここまで拘りはしなかっただろう。
きっと全てのジュエルシードが集まった時点で、この世界毎私達を消し去っていたはずだ。
それ程の敵意を、プライドを持っているのだ。この『魔法使い』は。
「逃げるんなら逃げれば良いんじゃない? ほら、愛しい愛しいお兄ちゃんにお願いしてみたら? 『お願い! 弱い私を、あの最強の魔導士から助けてぇ!』って……――この私の目の前で、ね。」
「――ッ!!!」
そう、ジュエルシードは転生者の行動を封じてしまった。
逃げる為には今私が言ったような内容を、この場で転生者に対して言わなければならない。
蔑むような視線を向ける、私の前で。
「――良いわ……そんなに死にたいのなら、今殺してやるわよ! 地上に出て来なさい! アンタのその顔、絶望に歪めてやるわ! お兄ちゃん、さっさと移動するわよ! この大穴の上空に!」
「はい……」
転生者にそう命令し、閉じていく虚数空間の裂け目から最後に私をキッ!と睨むと、ジュエルシードはこの地底から姿を消した。
「……はぁ~……何とかなったのかな……?」
≪気を抜くのはまだ早いですよ、なのは。逃亡こそ阻止出来ましたが、今度こそジュエルシードは確実に貴女を殺そうとするでしょう。≫
≪だな……ところで、この戦いが終わったらさっきのロールプレイを俺に――≫
「それは無理、何処に人の目があるかも分からないんだから。」
≪く……っ! おのれ、ジュエルシード……!≫
理解しがたい嫉妬をしているレイジングハートは置いておいて……
「いよいよ、最終局面だね……」
≪はい。漸く……地上まで、送りますよ。≫
「うん、お願い。プロト。」
次元魔法の光が私を包む。
向かう先は地上……この戦いの決着の舞台だ。