私がプロトの次元魔法で地上に戻ると、『それ』は直ぐに目に入った。
「――っ、アレは……!」
大穴の上空に浮かぶジュエルシードが掲げた手の平の先に、濃紺の巨大な魔力球が生成されていた。
更に言えばその魔力球には今も絶え間なく地上から魔力が供給されており、その体積を膨らませ続けている。
魔力の出所は……やはり、彼女が引き連れて来た転生者達の様だ。
「来たわね、高町なのは! ――これを見なさい!
得意気に説明するジュエルシード。その目的は、恐らく私の反応を期待しての物なのだろう。
よっぽど先程の挑発が効いたのか、一度こちらの鼻を明かさなければ気が済まないらしい。
だが……
――あの魔法……彼女が得意気になるだけの威力は、間違いなくあるだろう。
込められた魔力量から、そう判断せざるを得ない。
今も絶え間なく注がれる魔力により、その脅威は際限なく膨らんでいる。
「便利なこの身体もなくなっちゃうのは惜しいけど、次元世界の一つや二つ程度なら簡単に滅ぼせるんだから!」
――今まであの魔法を使わなかったのは、それが理由か。
これまで彼女は戦いで負った傷を修復しながら戦って来た。しかし彼女の言葉から察するに、今回ばかりはそうもいかないらしい。
それはつまり、世界を滅ぼせると豪語するあの魔法の威力は、無数のロストロギアの連鎖反応爆発以上と言う事だ。
≪プロト、あの収束魔力球を白の魔力で散らす事は出来る?≫
≪……恐らく、不可能です。ジュエルシードの魔力と同様、密度が高すぎる。黒の魔力での固着も、あの『護衛』達を盾に防がれるでしょう。≫
ジュエルシードの周囲には魔力を注いでいる転生者達とは別に、彼女の身を守るための護衛が数十人待機していた。
魔力を集束して放つ魔法の持つ、根源的な二つの弱点はあの魔法にも適用されるらしい。
その弱点の一つである『集束の為に必要な時間』は、彼等を盾に時間を稼ぐ事で満たしている。
――だったら、私が狙うべきはもう一つの弱点しかない!
スターライトブレイカーもそうだが、この手の魔法の威力は集束させた魔力量に左右される。
既に集束された分の魔力を散らす事は出来ない……ならば――
――魔力を注いでいる転生者達をどうにかすれば!
そう考え周囲を見回すが、既に彼等には仲間の皆が猛攻を加えていた。
彼等は攻撃への対処を放棄しているのか、一方的に攻撃を受けている。
しかし、表情に焦りを浮かばせているのは彼等ではなく、寧ろ私の仲間達の方だった。
「――くそっ、いい加減正気を取り戻せよ! このままだとお前らも死んじまうんだぞ!!」
「……」
魔力ダメージによる気絶も、グレイプニルによる魔法阻害も関係無く、彼等はただ虚ろに魔力を捧げ続けていた。
ジュエルシードからの命令で思考する事も気絶する事も無く、ただ魔力を捧げ続ける彼等の姿を確認したプロトが補足を入れる。
≪なのは。あのまま魔力を注がせ続ければ、彼等のリンカーコアに異常をきたします。魔法が使えなくなるだけならまだマシ。最悪の場合は、あの魔法の発動を待たずして……――命まで捧げる事になるでしょう。≫
「――ッ!」
人を人と思わない所業……ロストロギアからすれば、当然ながら価値観が異なるだけの問題なのだろう。
しかし、仮にも自身を妹と認識させ、言葉を交わしてきた相手に対してこの仕打ち……湧き上がる激情のまま、ジュエルシードを睨む。
対して、私の視線に気づいたジュエルシードは、顔に浮かべた得意気な笑みを更に深める。
「私を軽く見たアンタが悪いのよ! それとも……アンタこそ、尻尾を撒いて逃げる? そんな事したら、この世界の全てが消えてなくなっちゃうけどね!」
逃げるつもりはない。世界の危機もそうだが、ここで逃げれば私は二度と『なのは』を名乗れない。
だが、集束魔法の持つ弱点を二つともカバーされた以上、私に残された可能性は一つ……
――イチかバチか……!
「レイジングハート、スターライトブレイカーのチャージを!」
≪All right, Star Light Breaker!≫
正面からの迎撃。
自身のポテンシャル以上の魔力を扱う方法は、もうこのスターライトブレイカーしかない。
掲げたレイジングハートの前に、光が集い始める……しかし――
――チャージの速度で負けてる……! このままじゃ……!
考えてみれば当然なのかもしれない。
スターライトブレイカーの集束は、空気中に散らばった魔力を引き寄せて行っている。
対してジュエルシードは、通常の収束に加えて銀髪オッドアイ達に自ら魔力を捧げさせている……元々収束させる為に送り込まれた魔力を束ねるだけで良いのだ。
これでは速度で追いつけないのも道理だろう。
≪レイジングハート、プロト! スターライトブレイカーの集束を速める事って出来る!?≫
≪……済まん、俺にはこの速度でやっとだ。朱莉から教わったあの術式なら、何とか出来るかもしれないが……≫
≪! ……――それは、もう使わない。もう二度と。≫
≪……≫
レイジングハートが言う術式とは、『Star Light Breaker A.A』の事だろう。
確かにあの魔法ならば、ジュエルシードと同等程度の速度でチャージが可能だろう。だが天使の力を使う代償として、レイジングハートには大きな負荷がかかる。
そして、レイジングハートは一度その魔法を使った反動で砕けてしまっているのだ。
天使が居ない今……――いや、例え居たとしても、私はもう二度とあの魔法は使わないと心に決めていた。
≪それに、私の中の天使の力ももう残ってないから、そもそも発動が出来ないと思う。≫
≪そうか……分かった、他の手を探そう。≫
朱莉ちゃんも言っていたが、天使の力を回復するには天使の身体が必要だ。
プロトとの戦いで温存できていれば違ったのかも知れないが、それが出来なかった以上、もうあの力に頼る事は出来ないのだ。
その時、レイジングハートに代わって、今度はプロトが案を出した。
≪なのは……一つだけ、手があります。≫
≪プロト?≫
≪今なら……レイジングハートが目覚めた今なら、
プロトの言う魔法……確かにあの魔法で、一度はジュエルシードの魔力を集束できた。
だけど、ジュエルシードが揃った後は……彼女の魔力の密度の所為で、集束はおろか弾き出す事さえ……
≪『オーバーライトパニッシャー』の効果範囲は、貴女の魔力操作が私の術式に追い付けば格段に広がります。狙うのはジュエルシードでも、彼女が集めた魔力球でもない……アレに魔力を注いでいる、転生者の潜在魔力全てです!≫
≪! でも、それって危ないんじゃ……≫
潜在魔力の全てを弾き出し、魔力供給を断つと同時に攻撃の準備を整える。確かに理想的な魔法ではあるが、命令で利用されているだけの彼等の身も危険なんじゃ……
≪いえ、寧ろ彼等を救うにはこれを成功させるしかありません。リンカーコアが壊れる前に供給を止めさせ、迅速に決着をつけるにはこれしか……!≫
≪……そうだね、分かった。それに賭けよう。レイジングハートも、それで良い?≫
≪なのはがそう決めたのなら信じるが……取りあえずプロト、その魔法について教えてくれるか?≫
≪ああ、そう言えばあの時はまだ貴方は目覚めていませんでしたね。では――≫
念話でプロトが魔法の概要を伝えている間、私は周囲を見回して銀髪オッドアイ達の配置をおさらいする。
ジュエルシードが従える銀髪オッドアイ達の総数は数えきれないが、2桁後半……もしかしたら3桁に及んでいるかもしれない。
その内の数十人を自らの傍に集めてチャージ中の護衛とし、残りはこの結界中に広く散らばっているようだ。
供給を完全に止めるには、この結界の全域を魔法の範囲に収める必要があるだろう。
≪……プロト、オーバーライトパニッシャーで魔力を弾き出す対象って選別できる?≫
≪それは……できませんね。敵味方を問わず、と言う事になるでしょう。≫
≪分かった。じゃあ、クロノ君達には一度、結界の外に出て貰った方が良いよね? 次元震を抑えて貰わないといけないし……≫
≪成程、確かにそうですね。では彼等への通信はお任せします。≫
≪うん。≫
「――そう言う訳だから、クロノ君達は一旦結界の外に避難しておいてくれる?」
『はぁ……まったく、君という奴は次から次に……次元震を気軽に起こしてくれるな……』
「ぅ……ごめん。」
『いや、分かっている。あの魔力球が完成し、着弾すれば、それこそ次元震では済まない事はな。……仕方ない、作戦のフォローはこちらに任せて、思いっ切りやると良い。この危機を任せられるのは君だけだ。他の皆にはこちらから伝えておく。』
「分かった、こっちは任せて。」
『ふ……今から始末書の文面を考えておくとしよう。』
そう言ってお腹を押さえたクロノ君の姿を最後に、通信が切れた。
一方で、プロトがレイジングハートに対して行っていた情報の共有も終わったようだ。
計画を実行に移す前に、最後の確認を行う。
≪私の方の準備は出来たよ。……二人は?≫
≪こちらはいつでも大丈夫です。≫
≪俺も、術式については理解した。ただ、なのは……これって今のお前からしても、相当高度な魔力制御が要求されるぞ。本当に大丈夫か?≫
≪大丈夫、きっと成功させるよ。……それじゃあ、始めよう!≫
スターライトブレイカーのチャージの上から、更に術式を並列起動させる。
足元に二つ目の魔法陣が重なるように生み出され、その直径をぐんぐんと広げていく。
……後は、私がプロトの術式に追い付けば良いだけだ。
「――行くよ!」
≪≪Over Light Breaker!≫≫
身体から放出された白光が、結界を埋め尽くすように広がっていく。
「! ――この光は……高町なのは……!」
魔力球に注がれていた魔力が散らされ、ジュエルシードの魔法の膨張が止まる。
ジュエルシードの護衛から、魔力を注いでいた転生者達から、白光に押し出されるように彼等の潜在魔力の全てが押し出され、一瞬の後に空気に溶ける。
魔力を失った彼等は一瞬意識を失い、直ぐにジュエルシードの呪縛によって目を覚ます。
しかし、もう彼等は魔力を放出できない。
飛翔魔法の維持も出来ず、護衛としてジュエルシードの傍にいた彼等が落下を始めるが……
――アースラの転送術式……! ありがとう、エイミィさん!
その身体が地面に激突するよりも早く、彼ら全員の姿はアースラの術式に包まれて消えた。
勿論依然として彼等の意思がジュエルシードに支配されている事実は変わらないが、彼等は既に全ての魔力を失った状態だ。容易に捕縛が可能だろうし、心配の必要は無い。
心配するべきは、寧ろ私の方だ。
――ぐっ……! 早く、魔力を集束させないと……!
オーバーライトブレイカーはオーバーライトパニッシャーで弾き出した魔力を束ねて放つ、強力な集束砲撃だ。
魔力を弾き出した後のプロセスはスターライトブレイカーと似ているが、今回は集束を加速させる為に術式に手を加える必要があった。
その所為でスターライトブレイカーを放つ以上の負荷が集束の時点で発生しており、更にその状態で繊細な魔力コントロールを要求される。
しかも、それをジュエルシードが収束魔力球を放つよりも早く行わなければならないのだが……
「チッ……! これ以上魔力を集められないなら仕方ないわね……まだまだ未完成だけど、アンタ一人殺すには十分よ! 高町なのは!」
そう、魔力を集められないのなら彼女には私の魔法の完成を待つ理由は無いのだ。
「喰らいなさい――≪Fallen Grudge≫!」
彼女が掲げた両腕を振り下ろすと、巨大な魔力球が私へ向けて降って来る。
莫大なエネルギーが生み出す波動が、空気を、地面を……空間を震わせながら迫って来る。
オーバーライトブレイカーのチャージ速度はスターライトブレイカーのそれよりも遥かに速いが、それでも着弾までには間に合わない……更に数秒はかかる計算だ。
限界ギリギリまで引き付けて放っても、その時点の集束段階ではフォールングラジを突破できないだろう。
プロトもレイジングハートも術式の維持と私の補助の為にリソースを割いており、アシストに回れるだけの余裕は無い。
――何か……何か手はないか……!?
「あと少し……あと少しだけ時間を稼ぐ事が出来れば……!」
「――分かった。微力ではあるが、稼いで見せよう。」
「えっ……!?」
耳を疑う。
だって、結界の中にいた仲間達は全員が避難した筈だからだ。
仮に残っていた者が居たとしても、オーバーライトブレイカーの術式に潜在魔力の全てを弾き出されて意識を失っている筈だ。
じゃあ、一体誰が……!
「IS起動――『ライドインパルス』!」
背後から私を飛び越え、フォールングラジへと一直線に向かう後姿。
トーレは両手両足から伸ばした光刃を振るい、魔力球を押し留めようとするが、その刃はフォールングラジに触れるとあっさりと砕かれてしまう。
だが、トーレも内心ではその結果を解っていたのだろう。砕けた刃の確認もそこそこに、今度は四肢を広げてフォールングラジの前に立ちはだかると……
「総員、私に続け! ――やれ、チンク!」
「ああ……分かったよ、トーレ。――『ランブルデトネイター』!」
チンクのIS『ランブルデトネイター』により、その全身を爆ぜさせた。
「――ッ!!」
その姿が、ノーヴェとチンクの二人に重なる。
私を逃がす為にその身を散らした、あの二人に……
≪なのは! 術式の制御に集中を!≫
≪でも……っ! ――ううん、分かった……!≫
分かっている。彼女達が身を挺したのは、この世界の為だ。
その覚悟は私も同じ……だからこそ、
「そうだ、それで良いんだ。自分の役割に集中しな。」
「貴女は……!」
「チンクだ。私達は滅びを食い止める手助けをする為、父から頼まれてここに来た。」
いつの間にか傍に立っていた女性は自らをそう名乗り、フォールングラジへ向かう姉妹たちを見送る。
「『スローターアームズ』!」
ロストロギアが組み込まれたブーメランブレードをフォールングラジへ投げ込み、爆発を確認した後にセッテはトーレに倣う様にその身を広げ――
「『ランブルデトネイター』!」
やはりチンクのISによってその身を爆ぜさせる。
……ナンバーズ達の特攻は止まらない。
「あーあ……折角白騎士になれたのに、もうおしまいかぁ……――じゃ、後は頼んだよ、なのは!」
一瞬こちらを振り向き手をひらひらとさせると、白い全身鎧に身を包んだ騎士姿のセインはロストロギアの埋め込まれた大剣を構えて突撃する。
「無垢なる輝き、受けてみよ! 必殺――サンシャインブレイバー!」
「『ランブルデトネイター』!」
そして大剣がフォールングラジへとめり込んだ瞬間に、ロストロギアと共に爆発した。
「――じゃ、ボクも行くよ。タイミングは任せるね、チンク。」
「ああ、行ってこい。」
戦闘に特化した能力を持たないオットーはそう告げると、ただ一直線にフォールングラジへ飛び込み、爆発した。
その後もどこかで見た姿をした者達が次から次へとその身を犠牲にし続けた。
……全ては私の魔法を間に合わせるために。
「……じゃあ、いよいよ私の番だな。」
そして、最後にそう言ってチンクが前に進み出る。
その背に私は思わず問いかけていた。
「貴女は……辛くないの? 自分の姉妹達だったんでしょ……?」
「うん……?」
彼女達の爆発は、偏にチンクの能力による物だ。
世界の為とは言え、その命を自らの意思で爆ぜさせた彼女が辛くない筈がない。
だから、せめてその十字架をほんの少しでも軽くできれば……きっと、そんな事を考えていたから、つい口から飛び出してしまったのだ。
そんな私の問いかけにチンクは一瞬キョトンとし――
「……なんか誤解があるようだが……集中を乱しても悪いか……」
「誤解……?」
「――いや、こちらの話だ。それと、今の問いに対する答えとしては、そうだな……『気にするな』。今は役割を果たせ。」
「あ……!」
最後にそう答えると、チンクは姉妹達の後を追う様にその身を爆ぜさせた。
生じた煙を裂いて、フォールングラジはなおも私の元へと迫って来る。
あれだけの爆発を受け、それでもその体積にはまるで変化が見られなかった。
そして、彼女達の身を挺した抵抗は――
……今、実を結んだ。
≪――全魔力の集束完了。よくやってくれましたね、なのは。≫
≪後はこいつを放つだけだな……やるぞ、なのは!≫
「うん……絶対に、ここで決める!」
今、私の目の前には光がある。
この場所で戦った皆の思いが、戦わされた無念の願いが……そして、数秒の為に全てを賭けてくれた、彼女達の希望が……その結晶が!
――その全てを受け止め、背負い……そして、放つ!
「オーバーライト……ブレイカアアァーーーーーーーーッ!」
全てを光が染め上げた。
途中ごちゃっとしてしまったのは、書いてる時に(これジュエルシード側はなのはのチャージに合わせる理由がないな)って気付いてしまった為に内容を変更せざるを得なかったからです。
プロットの作り込みが甘いとこんな事になるんだなぁ……と反省(紅蓮の一件からn回目)
ちなみに、まだなのはさんはナンバーズ達が遠隔操作のアバターと知りません。