転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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戦いを終えて

なのはのチャージが完了する前に放った私の奥の手――フォールングラジ。

本来であれば既になのはに着弾している筈のそれを遅らせたのは、機械仕掛けの人形共だった。

無駄な抵抗……最初そう断じて特に気にもしなかった奴らの足掻きは、私にとって最悪の結果を生んだ。

 

「オーバーライト……ブレイカアアァーーーーーーーーッ!」

 

最早圧し潰されて死ぬだけだった筈のなのはの魔法は完成し、フォールングラジの影から凄まじい光が溢れ出す。

その直後、フォールングラジ越しに感じる莫大な魔力の奔流。

魔法の衝突により発生した衝撃波が地面を圧縮し、巨大なクレーターを生み出した。

そして信じられない事に……フォールングラジの動きが忽ち減速し、やがて完全に制止させられる。

 

――バカな……不完全だったとは言え、フォールングラジが止められる……!?

 

最後まで搾り取れなかったとはいえ、手駒(お兄ちゃん)達の魔力は既に大半をこの魔法に捧げさせていた。

残っていた搾りかす程度を奪われたとしても、拮抗に持ち込まれるなんて事が……――!

 

――まさか、この周辺にある全ての魔力を……!?

 

そうとしか考えられない。

でなければ、例えチャージが完了したところでこんな事態にはならない。

私では不可能だった広範囲の魔力集束……それを、なのははこんな短時間で行ったのだ。

 

――そんな事、私には……――ッ! 認めない……認めるものか! 人間が……たかが数十年程度で死ぬ程度の存在が、私を上回るなど……!

「く……ッ、あああアア!」

 

魔力を込めて圧し潰してやろうと思っても、先程のロストロギアの爆発によって消耗させられた私に、それだけの魔力は残されていない。

一方でなのはにはまだ魔力が残っていた。このまま競り合っていては拙い……!

きっと直ぐにでもなのはは自分の魔力を砲撃に上乗せし、フォールングラジを押し戻そうとするだろう。

しかし今私がフォールングラジの制御を手放せば、私が安全圏へ離脱するよりも早く砲撃が……

なんとかこの状況を脱しなければ……そう考えた時、手駒の一人の顔が思い浮かんだ。

 

――そうだ……アイツが! アイツの能力があればこの危機も脱せられる!

「ッ! お兄ちゃん、直ぐに来なさい! 私を虚数空間で逃がすのよ!!」

 

もうプライドがどうとか言っている場合ではない! ここで負ければ今度こそ私はおしまいだ! 全ての私が封印されれば、雪辱を果たす事も永遠に出来ない!

地の底で私に意見しようとしたアイツ……! 今にして思えば、アイツの意見に乗っていればこんな事には……

 

――……?

「ど、どうしたのよ……? 早く来なさいよ! ねぇ!!」

 

私の命令は声が聞こえなくても届く筈だ。

アイツの能力なら魔力が無くても……!?

 

――まさか……あの能力、手で空間を掴めなければ使えないのか……?

 

空間を掴んで引き裂く動作が能力の発動条件だとすれば……駄目だ、アイツもなのはに魔力を奪われていた!

管理局とかいう奴等に身動きを封じられていなくても、魔力が残っていない以上は身じろぎも出来ない……!

 

「ちょ……ちょっと、待ちなさいよ……」

 

必死に記憶を探る。

今まで気にも留めていなかった手駒達の顔、顔、顔……!

アイツの能力は何だった……? アイツはどうだ? この状況で使える奴はいないのか……!?

 

そして、奴等と過ごした数年間が脳裏に描かれ始めた事で、私は嫌が応にも気付かされた。

 

――これは……走馬燈!? バカな、私が……!

 

……既に私は敗北しているのだと。

 

スローになった視界でフォールングラジが押し返され始める。先程の予想通り、なのはが砲撃に自らの魔力を上乗せしたのだろう。

魔法同士の競り合いがどんどん不利になり、やがて術式に致命的な亀裂が生まれる。

 

――違う……いやだ! こんなのは……!

「だ……誰か来なさいよ! 今直ぐ! 誰でも良いから!! せめて盾になりなさいよ!!」

 

無数に入った亀裂から、光が漏れ始める。

 

「何で……何で来ないのよ! どうして一人も来ないのよ!! アンタ達は私を守るんでしょ!?」

 

――いやだ……こんな……これじゃ、あの時と一緒……! また独りに……

 

記憶が溢れ出す。

それはどんどん過去へと――嘗てなのはに負けた時よりも、更に遥か過去の光景へと遡って行く……

 

――もう少しだったのに……私が全て揃って完成すれば……なのはさえ倒せば、今度こそ私はもう一度……!

「いやだ……いやだ……!」

 

そんな光景を白く染め上げるように、なのはの魔法は私の全身を吞み込んだ。

 

 

 

――もう、独りは……

 

 

 


 

 

 

≪――なのは!≫

「うん!」

≪Axel fin!≫

 

オーバーライトブレイカーがジュエルシードを呑み込んだ後、私は急いで空へと翔けあがった。

そして、眠ったように落ちて来るアリシアの身体を視界に捉えると、騙し討ちを警戒しつつ接近し――

 

≪Ring Bind!≫

 

簡易的な拘束魔法で地面への落下を阻止。

その額にジュエルシードが宿っている証である、菱形の紋様を確認してレイジングハートを構える。

 

≪封印の術式、覚えてるか?≫

≪大丈夫……私の特典、知ってるでしょ?≫

 

唱えるのは随分久しぶりだが、私の中でその記憶は色褪せない。

魂に刻まれた『原作知識』からその術式を取り出すように、懐かしいその音を再び唱える。

 

「リリカルマジカル、ジュエルシード封印!」

≪Sealing!≫

 

レイジングハートから放たれた光は拘束されたアリシアの身体に突き刺さり、その身体の内に宿る21のジュエルシードを浮かび上がらせた。

そして――

 

≪Receipt:『No.Ⅰ to ⅩⅩⅠ』!≫

 

その全ては今、レイジングハートの中に封印された。

アリシアの身体を固定していたバインドも解除し、その身体を両腕で抱える。

……先程まで動いていた彼女は、眠ったように動かない。当然だ、魂はここに無いのだから。

この身体の対応についても話し合わなければならないだろう。母親であるプレシアさんとは特に。

 

――まだまだ問題は残ってるけど……一先ず、滅びは回避できた。今度こそ、本当に戦いは終わったんだ。

 

胸に湧き上がる安堵と興奮……そして僅かな寂寥を一度収めるために大きく一つ息を吐き、共に戦ってくれた二人へ語り掛ける。

 

「――ふぅ、これで終わったんだね……今度こそ。」

≪ああ。お疲れ様、なのは。≫

≪……≫

「……プロト?」

≪! ……あ、いえ、すみません……――本当に終わったんだなと……≫

 

プロトの反応が鈍い事に一瞬心配したが、どうやら少しの間放心していただけだったようだ。

しかし、彼女が私達が生まれるよりもずっと前から滅びを見て、戦ってきた事を想えば無理もない事なのだろう。

だが、彼女はその為に幾つもの罪を犯してしまった。そんな彼女の戦いを労ってくれる者は、きっと……

 

「――貴女もお疲れ様、プロト。」

≪……いえ、私にその言葉を受け取る権利はありません。今になって気付いてしまったんです。……私が本当に救いたかったのは、()()()()()()()()()と。≫

「プロト……?」

 

その発言の真意を測りかねた私の言葉を聞いてか否か、プロトはまるで懺悔でもするかのように語り出した。

 

≪――全てを無くしたあの日、私は未来視で貴女達の姿を探しました……当時は未来視の限界を確かめる事が目的だと()()()()()()()()()()()()が、今なら当時の()()()()が解る。私は……前世で憧れた貴女達の姿を、貴女達と出会う未来を『生きる目的』にしようとしていたんです。≫

「……」

≪しかしそこで私が視たのは、よりにもよって貴女達の死の瞬間だった。そして、その瞬間に私の中に『生きる目的』が生まれた……私は、『貴女達を救う』という使命を自分に課す事で、『私自身の心』を慰めていた。私が本当に救いたかったのは……結局、私自身だったんです。≫

「プロト、そんな事は――」

≪なのは……先程、私が呆然としていたのは、達成感が原因ではないんですよ。……私は、目的を果たしたにも関わらず『何も感じなかった』んです。嬉しい筈なのに、喜ぶべき筈なのに、何も……その時にやっと気づいたんです。心底醜く、脆い私の正体に……≫

 

それは彼女にとって、とてもショッキングな事だったのだろう。

何百年――或いは何千年と信じていた自分の正義が、全くの虚構だった……その目的の為に生きていた時間の価値が、彼女の中でまるっきり反転してしまったのだ。

きっと今彼女を苛んでいるのは、強烈な自己嫌悪だろう。それも、自分の存在そのものさえ否定しかねない程の……

 

だから私は、先程彼女に中断されてしまった言葉の続きを改めて告げる事にした。

 

「……プロト、もう一度言うね。そんな事は――私には関係無い。」

≪なのは……?≫

「切っ掛けが何だろうと、真意がどうだろうと、今の私に関係してるのは『貴女が今までしてきた事』だけだよ。……貴女は全力だった。本気で私達を助けようと動いていた。だから、私達はジュエルシードを倒す事が出来た。それだけが真実。」

≪しかし、私のしてきた事は結局、盛大な空回りで……そもそも私が余計な事をしなければ、貴女達が命を危険に晒される事は――≫

「それは違うよ、プロト。例え天使が居たとしても、多分彼女達は操られてた転生者を助けるだけで、ジュエルシードを倒す手伝いはしてくれなかったと思う。だって、ジュエルシード自体は転生者じゃないんだから。」

≪……≫

 

ジュエルシードを虚数空間から解放したのは、多分あの虚数空間内を自由に動ける転生者だったのだろう。だけど、その行為自体は天使が咎める範囲の外だ。

だから。と私はプロトが未来視の光景を見なかった場合の、最悪の可能性を一つ挙げる。

 

「もしかしたら――貴女とユニゾンする事も出来ずに、私達は本当に殺されてたかもしれない。」

≪そんなのは、所詮可能性の話で……≫

「そうだね、ただの可能性。……貴女の言う『空回り』も、そうじゃない?」

≪……≫

 

私が指摘すると、何か考え事をしているのか黙りこくってしまったプロト。

もしかしたら彼女は今、自分の内側に溢れ出した色んな事を必死に整理している最中なのかもしれない。

そう考えた私は、お節介かも知れないと思いつつも最後に伝える事にした。

 

「……今はまだ混乱してて、素直に受け取れないかもしれないけど――今の私は貴女に感謝してるよ、プロト。だから……ちゃんと気持ちが落ち着いて、冷静に物事を考えられるようになるまでは――生きる事を諦めないでね。」

≪あ……≫

「? ……どうしたの、プロト?」

≪……いえ、ずっと昔の事をふと思い出したんです。たった一人の家族が死を選ぼうとしていた時、私は同じようにそれを止めようと必死だった……≫

「そっか……じゃあ、尚更生きないと。その言葉を嘘にしない為にもね。」

≪……はい、そうですね。≫

 

それから再び彼女は考えに耽ってしまったが、先程まで感じていた危うさの様なものは大分薄れており、もう大丈夫だろうと判断した私は再び安堵のため息を吐いた。

 

「――あ、結界が……」

 

ジュエルシードの封印が成功したと、エイミィさん辺りから連絡が行ったのだろう。

リインフォースによって張られていた結界が解除されたのだ。

 

――なんか、久しぶりに見る気がするな……こんなに澄んだ青空は。

 

何の気なしに見上げた空は、未来から『滅び』と言う暗雲が払われた事を示すかのように晴れ渡っていた。

 

そこにはもう、『天の眼』は無かった。




裏ボス戦終了です。
この後残った問題を解決させて、本編完結までは長くても後2、3話かなと思います。(早ければ次回最終回かも?)

最終回後はいくつか短編を書く予定です。
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