『――そうか、ジュエルシードは全て封印出来たんだな?』
「うん、ちゃんと確認したからもう大丈夫。」
クロノ君から繋げられた確認の通信に、レイジングハートから封印状態のジュエルシードを浮かび上がらせながら頷く。
それを確認したクロノ君は緊張気味だった表情を、漸く安心したように緩めた。
『分かった。一応こちらからエイミィに伝えて広域サーチはしてもらうが、一先ずこの一件は解決と見て問題無いだろう。……ご苦労だったな、なのは。』
「皆が手伝ってくれたおかげだよ。一人だったら多分勝てなかったと思う……プロトもね。」
『そのプロト……所謂聖女についてなんだが、安全なんだな?』
「うん。……って言っても、今こうして会話してるのが私って証明が難しいよね。」
『……いや、以前フェイトが使っていた端末があっただろう。あれならば、君の中にいるプロトを直接確認できる筈だ。』
「あ、そっか。じゃあ合流したらそれで分かるね。」
『そうだな、今なら丁度負傷者の治療の為に皆集まっている。話はこちらからフェイトに伝えておくから、君もそこに合流してくれ。場所は――』
通信を終えた後、私は伝えられた合流ポイントを目指して移動を開始する。
クロノ君が指摘したように、私は今もプロトとのユニゾンを継続している。
これはユニゾンする為とは言え彼女の拘束具を外してしまった為、代わりに私の身体で身柄を拘束している形だからだ。
どうやら戦いに赴く前にレイジングハートに組み込んだ『ユニゾン防止機能』が、上手い事彼女を私の身体の外に逃がさない牢の様な働きをしているらしい。
もっとも、そんな物がなくとも彼女には逃げるような素振りは無いのだが。
そんな事を思い返しながら暫く飛翔すると、やがてクロノ君から伝えられた合流場所が見えて来た。
そこは私達がここに来るために使用した車両を停めた一角であり、その少し手前には先程まで張られていた結界の境界線を示すように、吹き飛ばされた瓦礫や、めくれ上がったアスファルトが数m程の高さまで山脈のように積み重なっている。
その光景に乗り越えた戦いの激しさを再認識しつつ壁を飛翔魔法で飛び超えると、そこには皆の姿があった。
「あ、なのはちゃん!」
「はやてちゃん! 皆も、無事でよかった!」
「お疲れ様、なのは。クロノから聞いたよ。はい、コレ。」
「ありがとう!」
最初に私に気付いたはやてちゃんを皮切りに、皆が駆け寄って来て笑顔で迎えてくれる。
その内の一人であるフェイトちゃんが手渡してくれた端末を受け取ると、代わりに私が抱えていたアリシアちゃんの身体をフェイトちゃんが預かってくれた。
「それじゃあ姉さんの身体は私が……一度、母さんの所に持って行くね。」
「うん、お願い。ありがとう、フェイトちゃん!」
そう言って10台ほどの車両が止められている方向へ歩いて行くフェイトちゃんを見送っていると、車両の一つの中の光景がチラリと眼に入る。
車両の中では主にジュエルシードの攻撃で負傷したのだろう、血の滲んだ包帯を巻いた銀髪オッドアイがシャマルの治療を受けていた。
後で聞いたところによると、あの戦いは死者こそ出さなかったものの負傷者は多く出てしまったらしい。
戦いの疲れも癒えないまま、殺傷設定で攻撃してくる敵との連戦だったのだ。無理もない事だが、もっと上手くやれたのではないかと言う思いがどうしても湧き上がってきてしまう。
<……それは傲慢と言うものですよ、なのは。>
<プロト……>
<貴女は十分すぎる程、彼等を……未来を救いました。私の見た光景では、ここにいる誰一人として生きていなかったのですから。>
<……うん、そうだね。>
プロトからの慰めに少し心が軽くなる。
そんな時、銀盾の皆が私の視界を遮るように集まって声をかけて来た。
「よお! あんなやべー奴も倒しちまうなんて、流石はなのはだな!」
「信じてたぜ、お前なら勝ってくれるってな!」
きっと私の様子を見て、気を紛らわそうとしてくれているのだろう。
意図して明るく振る舞う彼等の優しさに、胸が温かくなるのを感じる。
そうだ。流石に皆無傷とは行かなかったけれど、折角誰一人欠ける事無く滅びを停める事が出来たのだ。
――暗い顔なんかこの場に相応しくない。
不器用な彼等にそう言われている気がして……そう考えると、自然と笑みがこぼれた。
「皆――うん、ありがとう!」
「ぉ……ぉぅ……」
「……」
……何だろうね、この静寂は。
いや、分かっている。正直な所、分かってはいるのだ。
原因が私である事も、今の皆が考えている事も何となく!
――でも恥っずい!!
何が恥ずいって、さっきの私のアレだよ!
自然にやっちゃってた! 本当に何の考えもなくヒロインみたいな事しちゃってた!!
――確かにここ最近は色々と自然体で過ごしてきてたけど! でもそれでもこんなヒロインムーブなんか今までしてなかったのに!!
「えっと……?」
「「「「っ!」」」」
耳まで赤くなってるだろう自覚はあるが、ちょっとこの空気に耐えられなくなって来たので声をかけると、それまで固まっていた彼等も慌てたように話題を変え始めた。
「そっ、そう言えば……! 俺ら小学生の頃、あんなの相手にしてたんだな!」
「あ、ああ……それな。もしあの時になのはかフェイトのどっちかが全部集めちまってたら……」
「封印してたから大丈夫だろ……だよな? なのは。」
「う、うん。ジュエルシードは完全に停止してるよ。」
クロノ君にも見せたように、彼等にもレイジングハートからジュエルシードを浮かび上がらせて見せる。
「なら良いけど……それはそうと、やっぱその見た目は違和感あるな……」
「銀髪オッドアイか……聖女とユニゾンすればそうなるのは分かるけど、中々複雑な気分だよな。」
「……あれ? そう言えば、聖女とユニゾンって危険じゃなかったっけか?」
「! ――なぁ、なのは。一応確認なんだが、お前は本当になのはなんだよな?」
どうやら彼等にまではクロノ君の連絡は届いていなかったようで、急に表情が硬くなった彼等を安心させるべく、フェイトちゃんから借りた端末をみせて説明する。
「うん……今、コレで皆にもプロトと話せるようにするね。」
そして、幾つかの設定を終えて起動した端末から、彼らと同じ銀髪オッドアイの特徴を持ったユニゾンデバイスの姿が浮かび上がる。
『成程……つまりこれで今の私の声も届いている訳ですね。』
「大丈夫、ちゃんと聞こえてるよ。」
プロトに端末の機能について軽く説明すると、状況を理解した彼女は彼等の疑問と不安を払拭する為に私とプロトのユニゾンについて説明を始めた。
勿論、予め頼んでいたように、私が転生者である事は伏せながら。
その途中、彼等を挟んだ先から何やら騒がしい声が聞こえて来た。
プロトに質問していた銀盾達も、その声に釣られるようにして振り返る。
私達の視線の先では人だかりが出来ており、隙間からはチラリとフェイトの金髪が見えた気がした。
――一体何が……
周囲の銀盾と目配せしてその場所へ向かうと、気を使ってくれたのだろう。人垣が割れ、中心の光景が飛び込んで来る。
そこにいたのは、簡易的なタンカーの上に横たえられたアリシアと、その胸元に耳を押し当てるプレシア。そして、その傍で立ち尽くすフェイトの姿だった。
「えっと、フェイトちゃん……何があったの?」
「あ、なのは……! あの、まだ私も整理出来てないんだけど……!」
混乱しているのか、言葉も覚束ない様子のフェイトちゃん。
そんな様子を見ていたのか、それとも無意識なのだろうか。私の疑問に答えたのは、まるでうわ言の様に漏れたプレシアの呟きだった。
「心臓が……動いてる。アリシアの、心臓が……!」
「――え?」
アリシアの心臓が動いている……その原因は直ぐに思い至った。
ジュエルシードが自分の身体とする為に、アリシアの身体を生き返らせたのだ。
既にジュエルシードは全て封印されたが……身体はそれに引きずられて死ぬ事はなく、今もこうして生きている。だけど……
――これは、幸運と言っても良いのだろうか……
かつて、彼女の死は一人の女性を狂わせた。
それこそ命さえ
アリシアの身体が生き返った事実……果たしてそれは福音なのか、ともすれば再び彼女を狂気の道へ引きずり込む悪魔の囁きとなるのか……
そんな不安を抱えながら見守っていると、やがて彼女――プレシアさんは「ふっ」と自嘲するような笑みを浮かべ始めた。
「ふ、ふふ……本当に、どうしようもないわね。私は――」
「プレシアさん……?」
「……この子の心臓が動いているって気付いた途端、考えてしまったのよ……フェイトの中のアリシアを、何とかこの身体に戻せればもしかしたら……って。」
「ママ……」
「分かってるわ、アリシア。もう無茶な研究はしない。……私だって、貴女達と過ごす時間の方が大切だもの。」
そう言って不安気に近寄ったフェイト……いや、アリシアを抱き寄せるプレシアさん。
葛藤はあっただろう。未練もあっただろう。――それでも彼女は今在る家族を選んでくれた。
彼女の中にあった狂気は既にきれいさっぱり消えていたのだ。
その事実に安心していたその時――
『……なのは。私の力を使えば、アリシアを本来の身体に定着させる事が出来ますが――あっ。』
「えっ!?」
「な……!」
……なんてタイミングで口を滑らせてくれるのだろう、この元・聖女は。
『……そう言えば、この声は今なのは以外にも届くんでしたね。迂闊でした……』
「詳しく聞かせてくれるかしら……」
『で、ですがこれは――』
「早く。」
『はい……』
アリシアちゃんを抱きしめたまま、こちらへずんずんと近づいて来たプレシアさんの有無を言わさぬ迫力を前に、プロトは話し始めた。
自身に備わったリンカーコア操作機能の事、それによりアリシアちゃんのリンカーコアを本来の身体に定着させられる事。
その為にはヴォルケンリッターが用いる術式により、リンカーコアを摘出して貰う必要がある事。そして――
『ですが……私に出来るのはそこまで。リンカーコアを身体に定着させた後、意識が目覚めるのかは分かりません。アリシアと言う意識が戻った事で目を覚ますか、それとも身体に引きずられる形で今のアリシアの意識も眠り続けてしまうか……』
「そう……貴女が話すのを躊躇ったのも、確実性が無いからかしら。」
『はい。悪戯に希望をチラつかせるべきではないと思ったので……』
プロトの説明を受けて、周囲が静まり返る。
可能性はある。しかしそれは今在る幸せすらも失いかねない賭けだ。
得るものも失うものも大き過ぎるその賭けに乗るのか……そんな視線を一身に受けるプレシアさんだったが――答えを出したのは彼女ではなかった。
「――良いよ、やって!」
声を上げたのは、プレシアさんにずっと抱きしめられていたアリシアちゃんだった。
予想もしていなかった彼女の決断に、ぎょっとした様子のプレシアさんが詰め寄る。
「アリシア!? 話を聞いていなかったの!? 下手すれば定着させた後、貴女の意識は――!」
「分かってる。……実はずっと考えてたんだ。私がこのままずっとフェイトの中にいても良いのか、って。フェイトは今も『居て良い』って言ってくれてるけど、この先どんな事があるかなんてわからないでしょ? もしも将来フェイトが結婚するって話になった時、私の存在はどうしたって邪魔になる。」
「フェイトは結婚しないわ!」
「ママ……あくまで可能性の一つだから、落ち着いて。」
まるで一人娘に彼氏が出来た父親の様な反応を示すプレシアさんを宥めながら、アリシアちゃんは話を続ける。
「――とにかく、私はフェイトの未来を邪魔する存在にはなりたくない。そして自分の意思でそれを選べるのは、きっと今しかないんだよ。――そうでしょ? 聖女さん。」
『……そう、ですね。この後、私は身柄を拘束されるでしょう。裁判の結果次第では、私は危険なデバイスとして破壊されるかも知れない。そうでなくとも、きっと貴女達の前に出て来られる機会はもう無いでしょう。』
「プロト……」
『ですから、急かすようで悪いのですが決断は今ここで……後悔の無いようお願いします。』
プロトがそう言うと、アリシアちゃんは自身を抱きしめるプレシアさんの腕を優しく外し正面から向き合うと、その本心を打ち明けた。
「ゴメンね。ママ、フェイト。でも私も、さっき言った理由だけでこの身体を出たい訳じゃない。――私だってフェイトと直接触れ合いたい。ママとフェイトと一緒に、ご飯も食べたい。……だから、お願い。私のわがままを許してくれる?」
「…………分かったわ、アリシア。私だって、貴女の死を受け入れられず、散々わがままを通そうとしたのだもの。貴女を止める権利なんて無いわ。」
「――ありがとう。ママ、フェイト。」
「その代わり、リンカーコアの摘出は私にやらせてくれるかしら。散々間違って来た私だけど、貴女の親なのだもの。……責任は自分で持ちたいのよ。」
「うん! 私からお願いしようと思ってた!」
「ありがとう、アリシア。」
そして、彼女達の同意と協力の元……アリシアのリンカーコアは、彼女本来の身体へと定着された。
術後しばらくの間、彼女は眠っていたが――見守り続ける事数分が経過した頃に目を開き、リンカーコアの移植による蘇生は成功した。
その瞬間――!
「あ……ママ、おはよ――ちょっ、ママ!? 人が見てるから……!」
「ア"リ"シ"ア"ァ"ァ"ァ"~~~~~! 良"か"っ"た"! 目"が"覚"め"て"本"当"に"良"か"っ"た"ぁ"ぁ"~~~!!」
「も……もう、仕方ないなぁママは……――おはよう、ママ!」
「お"は"よ"お"ぉ"ぉ"~~~~~!!」
アリシアが目覚めた途端に、人目も憚らずアリシアを抱き寄せて泣き始めたプレシアさんと……
「フ"ェ"イ"ト"ォ"ォ"ォ"~~~~~! 良"か"っ"た"! 良"か"っ"た"ね"ぇ"ぇ"~~~!!」
「うん、ありがとう、アルフ。……ぐすっ……」
「アリシア……本当に、良かった……!」
プレシアさんと同じように、フェイトを抱きしめて泣き始めるアルフ。
……あれで案外相性は良いのかも知れないな。なんて事を考えている私も、その視界は滲んでしまっている。
彼女達は涙ながらに何度も口にする。「良かった」と。
未来の滅びは回避され、今誰一人として欠ける事無く……そして、遠い過去の悲劇で失われた者すらもこうして取り戻す事が出来た。
まさに、皆が笑顔でいられるハッピーエンド……私がそんな事を考えていると、いつの間に近くに来たのか、彼女の声が聞こえた。
「――まさか、本当にこのような結果を生んでしまうとはな……」
「! リオンちゃん……?」
「呼称の問題は後にするとして……これで我々は一層の事、プロトの扱いを考えなければならなくなった訳だ。」
「えっ……」
声に振り返った先には、リオンちゃんとバルトちゃん、そしてクリームちゃんの三人と、はやてちゃんの姿があった。
彼女達は一様に眉間にしわを寄せ、難しい顔をしている。
そして私が先程の言葉の意味を問うより先に、彼女達は話し始めた。
「高町教導官、今この場で起きた事は確かに奇跡だ。その結果もまた喜ばしい事であるのは間違いない。」
「しかし……その奇跡が起きたという事が、少々厄介でな……」
「え……」
「プロトはたった今、証明してしまった。正真正銘の『死者蘇生』、そして『不老不死』……人が道を踏み外すのに十分すぎる、禁忌をな。」
「あ……!」
そうだ、現にプレシアさんも、エリオの両親も、その
それでも悲願が叶わなかったからこそ、彼女達の過去はただの過ちとして、教訓と出来る。
だが――もしも、成功してしまったならば?
死んだ人を……それも、何十年も前に死んだ者が生き返ったという実例を前にしてしまえば、一部の人は容易に後に続こうとするだろう。
「……彼女はたった今、禁忌へ至る鍵となった。この事実は歴史から抹消しなければならない。」
「まっとうに裁判にかければ、彼女の行いの全ては記録に残る事になる。そして、未来永劫、人を誘惑し続けるだろう。――伝説の都、アルハザードのようにな。」
「! まさか、プロトを……!?」
このまま破壊するつもりなのか……!?
杖を握る手に力が籠る。
だって、プロトが居なければそもそも『未来永劫』なんて言葉は無かった。ジュエルシードの手によって、世界は滅んでいた筈だ。
誰よりもそれを知っている私にとって、流石にそれを看過する訳にはいかない。
「なのはちゃん、一旦落ち着きぃ。リオンちゃん達は何も、この場でプロトを破壊しようとしとる訳やないよ。」
「――え?」
「言っとったやろ? 『
「うむ、こう言った事件では本来あり得ん事だが、扱う情報の関係から例外的に裁判は非公開とする。そして、この場にいる者全員に――最高評議会権限による箝口令を敷かせてもらう。」
リオンちゃんはそう言って、この戦いに参加した全員を集めると、以下の事を約束させた。
・プロトの能力は『未来視』と『強制的なユニゾン機能』のみとして扱う。
・アリシアはあくまでもフェイトに似た少女をプレシアが保護したものとする。
・アリシアが蘇生した一連の出来事は、一切の口外も記録も禁ずる。
そして――
「プロトに関する裁判の記録は、一部の内容をこちらで『調整』する事になるだろう。記録に目を通した際に違和感を感じるかもしれないが……」
「――まぁ、要するに『話を合わせろ』って事やな。」
「……そう言う事だ。プロトを破壊せずにおくには、この程度の事はしなければならない。」
「……わかりました。」
「なのは……良いの?」
「うん。折角みんな生き残ってアリシアちゃんも生き返ったのに、ここでプロトを見捨てたら素直に喜べないもん。でしょ?」
「そうだね。……私も、そう思う。」
私達はその後、箝口令に伴う誓約書に署名し――プロトの身柄は引き渡された。
ユニゾンを解除し、改めて正面から向き合ったプロトは言った。
「なのは。私はもう、これまでしてきた事に後悔はありません。貴女がそれを無くしてくれたから……私が今まで生きて来た事に価値があったのだと気付かせてくれた事、感謝しています。」
「プロト……」
「どうかお元気で、なのは。」
それから数ヶ月後……プロトの裁判は終了し、以下の判決が記録には残された。
『HE教団 聖女
次回までに書いておきたい事を強引に詰め込もうとしたら、長い上に後半の方ちょっと説明臭くなってしまった……
これでもクロノの説教や、ユーノとの再会とか削ってるんです……この辺は次回ちょろっと書くかもしれないけど……
ついでにまだ描けていない所もあって、次回も長めになる予感……