消し忘れていた簡易メモを削除しました。
――決戦から数ヶ月後。
機動六課の隊舎内に存在する八神はやての執務室には、部屋の主である八神はやてと
経緯としては、最近になってようやく全ての事件の後処理を終えたはやての下に最高評議会から会談の場を設けて欲しいとアポがあり、その場として彼女自身の執務室が選ばれたという運びだ。
「――そうですか、ではプロトは……」
「うむ。奴の功績については我々も理解しているが、それでもあの力は人を惑わすには十分すぎるのでな。当然ながら、面会も禁止だ。」
「……」
リオンの話を聞いたはやては、その内容に思わず目を伏せる。
先の事件はジュエルシードと言う未曽有の危機に対して、人的被害はほぼ0と言う奇跡的な結末に終わった。
その大きな要因の一つがプロトの協力であった事は、彼女もなのはから聞いている。
しかし、罪を犯したとはいえ功労者である彼女に下されたのは、あまりにも重すぎる実刑判決だった。
「我々も当然、奴の功績は考慮した。しかし、ミッドチルダに大量のロストロギアを持ち込んだ罪を始めとし、奴の余罪はあまりにも多過ぎた。それ故の判決だ。」
「分かっております。」
聞けば、それほどの力を個人で振るえる彼女に対し、危険なロストロギアであるとして封印処理をするべきだという意見もあったという。
人としての裁きを受けられるだけ、マシと言えるような状況だったのだろう。
「……そう言えば、八神はやて部隊長。貴様は以前ジュエルシードの扱いについて、意見を述べた事があったな。」
「! あ、はい。そちらはどうなさるお心算でしょうか。」
決戦後、はやてはジュエルシードを最高評議会の三人に手渡した際、ジュエルシードの管理に関して念入りに確認を行っていた。
というのも、彼女は前世の記憶で知っていたからだ。
『管理局の下にあったジュエルシードが奪われる』と言う可能性を。
勿論彼女の知る一件の犯人はジェイル・スカリエッティであり、彼が転生者であるこの世界においては、彼によって同様の事件が起きる可能性は高いとは言えないだろう。
しかし、だからと言って彼以外に同じような事が出来ないとは言い切れない。
身内の裏切り、移送中の事故や襲撃……次元犯罪者達にとって、あの戦いで明らかになったジュエルシードの力はさぞかし魅力的に映っただろうから。
そう言った理由から、彼女はジュエルシードを一つずつ分散して管理するようにと伝えていたのだ。
「貴様の意見を尊重し、少々手間ではあるがジュエルシードは各所に分散させる事になった。その内の一つは我等のいる秘匿エリアにある為、万が一の事が起きたとしても即座に先の事件の様にはならない筈だ。」
「……! ありがとうございます。」
「うむ。それに際し、貴様等機動六課には我々から一つ指令を出す事になった。」
「指令、ですか? しかし、機動六課はもう……」
機動六課の目的である滅びの回避は、前回の戦いを乗り越えた事で達成された。
よって、元々試験的な部隊という名目の元構成された機動六課は解散され、後はその手続きを済ませるだけだとはやては考えていたのだ。
それを伝えると、バルトはそうもいかなくなった事情を明かした。
「確かに我々も当初はそのつもりだったのだが……どうも管理局の中で、それについて不安の声が広がっていてな……」
「不安、ですか?」
「うむ……簡単に言ってしまうと、どうやら貴様等――特に高町なのは教導官と、八神はやて部隊長の『リミッター』が外れる事を危惧している様でな……」
「えっ」
バルトの言うリミッターとは、行動の制限ではなく文字通りの
元々『夜天の王』と言う点で一部の者から警戒されていた八神はやてと、元々次元犯罪者から恐怖の象徴とされていた高町なのはは前回の戦いでその恐怖の範囲を一部管理局員迄広げていた。
曰く――『本気を出させたら、いつ次元断層が生まれるか分からない』と。
そして、最高評議会の存在を知る一部の上層部から、機動六課の後ろ盾でもある最高評議会へと嘆願書が届いたのだ。
「リミッターを付けさせたまま、一所で管理した方が安全だとな……」
「えぇ……それ本人の前で言います?」
「気を悪くしたのならば済まない。だが、連中の不安も中々無視できなくてな……」
「我等としても、機動六課の設備をこのまま継続して運用できるならばコストの面から見ても都合が良いという事情もあり、彼らの意見を呑む事にしたのだ。」
気まずそうに頬を書くクリームの言葉を聞き、はやてはつい言葉を漏らす。
「何と言うか……以前に比べて随分と丸くなりましたね、御三方とも。」
以前の彼等であれば、嘆願書など気にも留めずに効率のみを考えて方針を決定していただろう。
気を悪くした程度で謝るのも同様、彼等らしくないという印象をはやては抱いていた。
「む、むぅ……最近はこの身体で直接各部署の査察をする事も多くてな、今まで見えていなかった……と言うか、我等に配慮していたのか、報告に上がってなかった側面が見えてきてな……」
「これも一種の反動と言えるのだろうな。過去に下した自身の判断の結果をまざまざと見せられた結果、柄にもなく反省の真っ最中と言う訳だ。」
「は、はぁ……」
変われば変わるものだ等と考えながら、はやては思い出したように話題を戻す。
「そう言えば、部隊が継続して指令を受けるって話は理解しましたが――」
「ああ、そうだ。その話についてだが……」
場所は変わり、機動六課の仮想戦闘空間シミュレータ内では二人の女性が自主練に精を出していた。
「はぁ……はぁ……――っ! もう一度!」
「大丈夫、フェイト? 少し休んだ方が……」
「ううん、早く調子を取り戻さないと。なのは達を待たせても悪いし……」
アリシアと別々の身体になった事で、フェイトは戦闘スタイルの変更を余儀なくされていた。
二人に分かれた後も彼女達の相性は依然として抜群であり、魔力の共鳴による魔法の変化も使えるのだが……如何せん、二人の速度には圧倒的な差がある。
彼女達はこれまで二心同体である自身の性質を活かし、その速度の差を無いものと出来ていたのだが、別々に分かれてしまった事でこの問題が浮上してしまったのだ。
「それに、アリシアも新しいデバイスに早く慣れた方が良いでしょ? バルディッシュと似た感覚で使えると言っても、重心とか微妙に違うと思うし。」
「そうだね、私もあまりフェイトの事言えないや。それに、私の場合身体の感覚も少し違和感があるし……自分の身体なのにね、変な感じ。」
「アリシア……」
「後悔はしてないよ。やっぱりあのままだといつかフェイトの邪魔になっちゃったと思うし、フェイトがそう思ってなかったとしても私が気になっちゃうもん。」
「……分かった、なら私ももう気にしないよ。じゃあ、最後にもう一セットして一度現実世界に戻ろうか。――バルディッシュ!」
≪Yes, sir.≫
「うん! ――バルニ『――フェイトちゃん、今ええか?』……っと、通信? 外から?」
息を整え、訓練を再開しようとしたその時、外部のはやてから通信が繋げられた。
「どうしたの、はやて? フォワードの皆の卒業試験なら、なのはが今別の仮想空間でやってるけど……」
『実は機動六課の今後の事でちょぉっと変更があってな、なのはちゃんも交えて話しておきたいんや。』
「? 分かった、じゃあ一旦戻るね。――行こう、アリシア。」
「うん。」
どうやら想定外の事があったようだと会話のトーンから察したフェイトは訓練を切り上げ、アリシアを伴い現実世界へと戻った。
「……それで、何があったの?」
「まぁ、詳しい事は後で話すわ。案の定この部屋にプレシアさんとアルフも居ったし……」
「フェイトとアリシアが居るのだもの、私も居るのは当然よ。」
「使い魔だからね!」
「……まぁ、後はなのはちゃんやな。」
「あれ、ヴォルケンリッターの皆は?」
「ここに来る途中に思念通話で伝えておいたし、なのはちゃんの所に皆集まる筈や。なのはちゃんの使ってる場所って隣の部屋でええんよな?」
「うん。ただ……もしかしたら、まだ卒業試験の途中かも。」
「最初の模擬戦は数分で終わった事を思うと、皆の成長を感じるなぁ。」
「だね。本調子じゃない今の私達は、もしかしたら後れを取るかも。」
「そんなにか!?」
「はやてはあまり訓練見れてなかったもんね。けど、実際皆本当に強くなったんだよ。」
「むむ……最近デスクワークばかりで鈍って来たし、私も一度本格的に鍛え直した方が良さそうやな……」
「あ、じゃあ今度私達と一緒にやる?」
「それもええかもなぁ……」
そんな会話をしながら先程までフェイト達が使っていた部屋の隣のドアを潜ると、いくつもの機材の並ぶ部屋に辿り着く。
嘗てティアナとスバルの昇格試験にも使われたこの部屋には既にヴォルケンリッター達の姿もあり、彼等が見上げる先に取り付けられた大型モニターには、フォワード陣の卒業試験の様子が映し出されていた。
「――はぁ……はぁ……! やっぱり、まだまだ敵いませんでしたね……なのはさんには……」
「ううん、結構危ないって感じる所もあったよ。その証拠に、殆ど縛りを付けてないのに一撃貰っちゃったもん。結構珍しいんだよ、私がダメージ受けるのって。」
「あはは……恐縮です。」
市街地を再現した空間に奔る崩れかけたハイウェイにて、彼女達は戦闘の疲れを癒しつつ評価を聞いていた。
ティアナの戦闘全体を俯瞰する力に加えて、幻影の精度と判断力が特に良かった事。
スバルの突破力に対する評価と、咄嗟に仲間を庇う機転や機動力の高さが作戦の中心をしっかり支えていた事。
エリオの技の多彩さや、思い切りの良さ。そしていまだに見えない伸びしろに秘められた可能性を。
キャロの強化魔法の出力やかけ直すタイミングが正確だった事。そして、竜咆召喚を用いた援護も的確だった事。
ヴィヴィオの素の能力値の高さは元より、仲間を信頼し自分の力を預けられる絆を築いた事。そしてどうしても生まれてしまう仲間の隙をしっかりカバー出来ていた事。
「――今までよく頑張ったね。皆ならこの先、どんな困難があっても乗り越えて行ける筈。例え道が分かれても、この場所で過ごした時間は必ず皆を繋ぎ続けてくれるよ。」
なのははフォワード陣との模擬戦を経て、既にそれぞれが一人前の戦士となっている事を告げて皆を労った。
その言葉に感極まったのか、それとも地獄の様な訓練からの開放感からか、それぞれの目に涙が浮かぶ。
「それじゃあ皆、お疲れ様でした!」
「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」
こうしてこの瞬間、彼女達の関係は変化した。
教える者と教わる者から、共に戦う仲間へと。
――本当は、あの戦いで免許皆伝しても良かったんだけどね。
なのはは少し前の戦闘を振り返り、そう評価する。
今回の模擬戦、結果は最初から出ていた。ただ最後にこうして全力全開でぶつかってみたかっただけだったのだ。思い出の締め括りとして。
そんな事を考えているところに、外部から通信が繋げられた。
『終わったみたいやな、なのはちゃん。』
「あれ、はやてちゃん? どうしたの?」
『六課の今後の事でな、ちょっと変更があったんや。それで話をと思ってな。』
「分かった、じゃあ直ぐにそっちに行くね。」
『急かしてゴメンな。それで、聞くまでもないと思うけどフォワード陣の評価はどうやった?』
「あ、そう言えばまだ言ってなかったね。勿論――全員文句無しの合格だよ!」
スバル達と思い思いの言葉を交わし、彼女達が部屋を去った後――はやては最高評議会から聞いた話を打ち明けた。
「そっか、機動六課はこのまま継続するんだね。」
「まぁ、相変わらず内に任される事件は少ないかも知れんけどな……一応こっちに 仕事がない内は、この隊舎を活かして志願者の教導がメインになるみたいや。フォワード陣の成長が評価された結果やな。」
「成程……そう言えばこの仮想戦闘空間シミュレータって、そもそも置いてあるところが少ないんだもんね。」
「こいつを腐らせるなんて勿体ないしな。」
「それにしても、私の扱い酷くない? いくら何でも一人で次元断層なんて作れないよ?」
「あの戦いの記録を見た連中はそう思わなかったんやろなぁ……ほら、元々なのはちゃんって次元犯罪者から恐れられとったし。」
「歩く時の衝撃波で街路樹吹っ飛ばしたなんてミームもあったねぇ……」
「化け物じゃん……」
「ふ……ッ! くく……!」
「ちょっとぉ!?」
周囲から受ける評価と、目の前で話す親友とのギャップに吹き出したはやてに釣られ、部屋に笑い声が溢れた。
暫くしてその声も収まったころ、はやては姿勢を正して咳ばらいを一つすると切り出した。
「――とまぁ、そんな訳や。予定とは違うけど、これからも皆よろしくな!」
彼女に応えるように、明るい声が部屋を満たす。
未来は変わり続ける。今日、誰かが戦う限り。
そして戦いの後には必ず日常が帰って来る。遥か昔から、誰もがそうやって未来を切り開いて来たのだ。
そうして時間は流れ、積み重ねた今日の戦いは過去となり、やがて物語として未来に残るのだ。
――XXX年後。
「――やぁ、久しぶりだね。」
薄暗い独房に、一人の若い女性が現れる。
私は彼女の顔に見覚えは無いが、それが誰かは直ぐに分かったのでいつもの様に声をかける。
「おや……貴女が来たと言う事は、あれからまた50年経ったのですね。」
このやり取りもかれこれ10回目か。
定期的に交わされたこのやり取りだが……そうか、これが10回目と言う事は――
「ああ、君の刑期は終わった。今日を以て君も晴れて自由の身となる。尤も、君の事を知る者は、私と私の娘達を除いて皆逝ってしまったがね……」
「そうですか……別れには慣れていますが、実感するとやはり寂しいものですね。」
「変わらないね、君は。本当に……あの時のままだ。」
「こんな場所ですからね、変わる方が難しい。……貴女は、随分と変わりましたね、
「いや、私も相変わらず自分の主義に生きているとも。この身体を見れば、一目瞭然だろう?」
女性の正体はジェイル・スカリエッティ……現在の時空管理局最高評議会であり、人格の宿っていないオートマタに魂とリンカーコアを移植する事で寿命を克服した数少ない私の理解者だ。
まさか私の能力からリンカーコアの操作技術を独力で再現し、自身に用いるとは私にも想像できなかった。これでは私が今までここにいた意味も半減である。
「さぁ、一先ずここを出ようか。君に頼みたい事があるんだ。」
彼……いや、今は彼女か。
私は飛翔すると、彼女の肩に着地し座り込む。
ジェイルは慣れたように歩き出し、私は久しぶりに外の空気に触れた。
「500年のお勤め、ご苦労様と言ったところかな。今の時代について、私から説明しようか?」
「その必要はありませんよ。私の未来視は1秒でも未来の事であれば、好きな場所の光景を見る事が出来ますから、ある程度の事情は把握しているつもりです。おかげで、この500年もそれほど退屈ではありませんでした。」
「改めて聞くとやはり凄まじいね……では私の頼み事も把握しているのかな?」
「いえ、流石にそこまでは。知りたい事を知る事が出来る能力ではないので。」
私がそう言うと、ジェイルは「そうか」と微笑み、まるでサプライズでもするように用件を話し始めた。
「――私が管理局に?」
「ああ、実は『彼女達』が活躍していた時代に比べて、今は犯罪が増えて来ていてね。ただ存在しているだけで犯罪者を震え上がらせ、平和に貢献していた辺り、彼女の力は流石と言う他ないが……」
次元犯罪の発生件数が増えている事は何となく把握していた。
最終的にはセットアップするだけで次元震が起きるとまで噂された彼女だ、それがどれ程の脅威として映っていたかは想像に難くない。だが――
「そこで私の力を使おうと? それ自体は構いませんが、私に彼女のような活躍が出来るかは分かりませんよ。」
今の私はこの世界に於いて全くの影響力を持たない。
それも当然だ、私の名がこの世界から忘れられる為の500年だったのだから。
私がそう言うと、ジェイルはピンと人差し指を立てて「なんて事は無い」と話し始めた。
「彼女がやっていた事は偉業に見えて、その実単純だ。ただただ『皆の理想であり続けた』……私達もそれに倣おうじゃないか、彼女の紡いだ物語のように。」
そう言って彼女は笑う。
「その様子だと、私の役割は決まっているようですね。」
「ああ、君の売り出し方は既に決まっているよ。全ての次元犯罪者が畏怖する存在――ずばり、『高町なのはの再来』だ。大変な役割になるが、大丈夫かな?」
彼女からの見定めるような視線を受け、私は笑みを浮かべる。
確かに彼の頼みは私にとってなんて事ない物だ。寧ろ、この時代にかの『理想』を再現できるとすれば、私くらいだろう。
「問題ありません。キャラを作るのも、騙すのも慣れていますから。彼女の役割、私が引き継ぎましょう……今度こそ、本当により良い未来の為に。」
今度こそ、本当の聖女を目指すのも悪くないかもしれませんね。
長い間お付き合いいただきありがとうございました!
これにて本編は完結ですが、何話かおまけの短編を書こうと思ってます。
取りあえず構想が出来ているのがSTS?編の前後の話が一つ(もしかしたら2、3話構成になるかも?)あるので、先ずはそれを。
その後は話が思いついたらちょっとしたのを書くかもしれませんが、基本的には不定期更新(更新されないかも?)になります。
なので一先ずここの後書きにて感謝の言葉を。
これまで応援していただいた方々、本当にありがとうございました!