「ふむ……君はジュエルシードの意思と言う事で間違いないね?」
「は? 誰よアンタ?」
「よし、発声機能、意思との紐づけも問題無いようだ。クアットロ、記録を頼むよ。……さて、私の事だったね。私はジェイル・スカリエッティ。先ずは君の現在の状況を説明しよう。」
ジュエルシードはスカリエッティから齎される情報に静かに耳を傾ける。……時折、警戒するようにちらちらとなのはの方へ視線を向けながら。
「――そう、事情は大体理解したわ。……それで? 私をこんな身体に閉じ込めて、一体どういうつもり?」
「なに、君とこうして言葉を交わしたくなってね。」
「言葉を? ……もしかして、私に叶えて欲しい願いがあるの? 良いわよ、貴方が私に願ってくれればなんでも叶えてあげるわ。」
スカリエッティの言葉にジュエルシードの眼が一瞬、妖しく光る。
彼の口にする願いによっては、この状況を抜け出す事も出来るかもしれない……いや、拡大解釈で願いを歪めれば大抵何とでもなるだろう……なのは達が彼に願いを口にする事を許せば。
「――!」
「まぁ、待ちたまえ。」
当然ジュエルシードの提案を耳にしたなのは達は即座に杖を構え警戒を露わにするが、しかしスカリエッティはそんな彼女達を手で制してジュエルシードへと語り掛けた。
「……ふむ、確かに私には"無限の欲望"と言う呼び名がある。事実としてその呼び名の通り、叶えたい目標には事欠かない。」
「! だったら――」
「だが私はこの溢れる欲望のただ一つとて、君に委ねるつもりは無いのだよ。」
「な……っ、なんでよ!? 私ならそれを直ぐにでも――!」
「私の
「……! 何よそれ……!」
ジュエルシードは拳を握り、悔しそうに俯く。
それは現状を抜け出す当てが無くなったからだけではない。今のスカリエッティの言葉は、彼女にとって存在理由を否定されたに等しいものだったからだ。
「――それに、今の君には
「は……?」
しかし、続く彼の言葉にはジュエルシードも呆気にとられ、視線をスカリエッティへ再び向けた。
そんな彼女へスカリエッティは人差し指を立てると、はやて達も予想していなかった言葉を口にした。
「まぁ、口で言っただけでは信じられないだろうね。ならば、試しに一つ願ってみようか?」
「……!」
「なっ……! 待て、勝手な事は許さんで!?」
忠告の言葉と共に、ハンドシグナルで仲間達と共に杖を向けるはやて。
その様子を見ても彼は「まぁまぁ」と宥めるばかり。
そして、彼の内に渦巻く無限の欲望の一つがその口から願いとして吐き出された。
「そうだな……では――『一目惚れと言う物を経験してみたい』。叶えてみたまえ。」
「「…………は?」」
その願いの内容に、一瞬の静寂が訪れる。
――『今こいつは何を言ったんだろうか』……そんな疑問が全員の頭の中に渦巻いた。
「……む、聞こえなかったかな? それとも、言葉の意味が伝わらなかったか? ならば教えてあげよう。『一目惚れ』と言うのは……」
「バカにしないでよ! 意味くらい知ってるわ! 私が聞きたいのは……!」
「ならば叶えてくれたまえ。これでも私は真剣に願っているつもりだよ。一目見た瞬間に感じるという落雷の様な衝撃、恋をするという感覚……共に私の知的好奇心を激しくくすぐるモノだ。何より、知ろうとして知れるモノでもないからね。」
一度は呆気にとられたジュエルシードも、彼の言葉にその願いが本物である事を理解する。
そして、直ぐに思いなおす。例えどんなに下らない願いだろうと、自身に都合の良い形で解釈して叶えてやれば良いだけだと。
「はっ……望むところよ。その程度の願いなんて、私にかかれば――」
ジュエルシードは小馬鹿にした笑みを浮かべつつも、ハッと状況を思い出したなのは達が動くよりも迅速に、その願いを元に力を行使しようとする。
――一目惚れ……要するに魅了に関する能力か。それならば望みの通り、私に惚れさせてやろう。アイツ等と同じように何でも言う事を聞く程に心酔させて、私を守らせれば……!
だが――
「……ッ!? 何よ、これ……!」
「使えないだろう? 叶える力が。それが君にかけた枷という奴だ。……さて、見ての通り、ジュエルシードの力は完全に封じられているのは分かったと思う。――だから、警戒を解いてくれたまえ。」
ジュエルシードとスカリエッティの様子から危険性が無いと判断できたなのは達はホッと溜息を吐き、構えていた杖の穂先を下ろす。
そして、彼を雁字搦めにしていた無数のバインドの魔法もまた、解除された。
「まったく……そう言う事をするんやったら、事前に説明して欲しいんやけどな。もしも叶えられてまったらどうするつもりやったんや?」
「万に一つもあり得ない可能性だが……その時は、君達が止めただろう?」
「それはまぁ、そうやけど……」
スカリエッティが言う様に、万が一先程の願いが叶えられるような動きがあれば、それがどんな形で叶えられたとしても、結局は一瞬でスカリエッティとジュエルシードの意識は刈り取られていただろう。
最初からジュエルシードに逃げ道など無かったのだ。その為にスカリエッティはこれ程の戦力をこの場に集めさせたのだから。
しかし、その事実すら気にならない程、今のジュエルシードは狼狽えていた。
「そんな……まさか、こんな事で!? ――くっ!!」
「無駄だよ、自身を傷付ける行為も当然制限してある。」
ジュエルシードは立てた人差し指の先端を自身のこめかみへ――ジュエルシードが組み込まれた頭部へと向けるが……そこから魔法が発動する事も無く、改めて自分が『閉じ込められている』のだと理解させられるだけだった。
「こ……
彼女はその目に涙すら浮かべ、凄まじい剣幕でなのは達へ訴える。
今でこそ危険なロストロギアとして知られるジュエルシードではあるが、元々は願いを叶える事を目的に作り出された存在だ。
その存在意義の全てを否定された彼女の精神は今、耐えがたい屈辱のどん底にあった。
しかし、彼女の願いは聞き入れられない。何故ならば――
「君を壊せば君の中に溜め込まれた魔力が暴走し、次元災害を引き起こす恐れがある。
「なら封印すればいいだけでしょ!? 何でわざわざこんな身体に入れる必要があるのよ!? 嫌がらせ!?」
「ふむ、流石にそう思われるのは心外だ。良いだろう、説明しよう。」
それは、はやて達も先程まで抱いていた疑問だ。
既に彼女達にした説明の一部を、スカリエッティは改めてジュエルシードに語り始めた。
「かつて忘れ去られた君の存在が現代に蘇ったのは、スクライア一族によって発掘されてた事が切っ掛けだった。もしも今、君を封印し管理するだけで済ませてしまえば、遠い未来で同じ事が繰り返される可能性が高い。未来に残される娘達の事を想えば、そんな先送りの選択を私はしたくない。」
「そんなの、この身体だって同じでしょ!? 何が違うって言うのよ!?」
「こうして言葉が交わせる。確かに一部制限はあるが、それもこの時代を人と共に過ごすのには不自由しない程度だ。君は色んな人と話し、色んな物を食べ、色んなものを視れて、経験できる……君に与えられたのはそんなささやかな自由だ。」
「要らないわ、そんな物! 長い眠りに就いていたほうがマシよ!」
「私達にとって必要だから
「そんな下らない事、興味ないわ。」
スカリエッティの与えるささやかな自由に、ジュエルシードは興味を示さない。
それは当然だと、スカリエッティ自身も理解している。
しかしそれは、彼女がこれまでそう言った経験をしてこなかったからだと――それが『当然』だったからだと彼は考えていた。
だから彼は、ジュエルシードが興味を示す形で提案をする。
「そうだろうね……ならばこう言い換えよう。――君が多くの人と交流する事、それが今の私の
「……!」
彼の思惑通り、ジュエルシードは『願い』と言う言葉に反応を示した。
それに手応えを感じたスカリエッティは、『悪い事考えてそう』と娘達からあまり評判の良くない笑みを浮かべつつ、続ける。
「どうだろう? 力を使わずとも叶えられる願いだと思うのだが、叶えてくれないかね?」
「…………ふん、良いわよ。何が狙いか知らないけどね。」
ぶっきらぼうにそれだけ告げると、彼に背を向けて部屋の出口へと向かうジュエルシード。
その背に向けてスカリエッティは声を投げかけた。
「ああ、名を聞かれたら『ジュシー』と名乗ってくれたまえ。それと……セイン、彼女に街を案内してやってくれ。」
「はいはーい! それじゃ――行こっか、ジュシー!」
「な……っ! ちょっと、引っ張らないでよ!」
スカリエッティの呼びかけに地面から『にゅっ』と姿を現したセインは、明るい笑顔でジュエルシード――ジュシーの手を取って駆け出した。
恐らくは街へと繰り出すのだろう彼女達を見送ったはやて達は、スカリエッティへ疑問を投げかける。
「――本当に上手く行くと思うか?」
「何、勝算はあるさ。嘗て人の身とともに心まで捨ててしまった
「! ……ははっ! 確かに、
スカリエッティの言う『彼女達』の今の姿を思い浮かべたはやては、思わずそう笑みを浮かべる。
そして、今はその期待を胸に彼女達の同行を見守る事を決めた。
「心配しなくとも、ジュシー達の事はトーレを始めとした戦闘が得意な娘達に見張らせている。彼女自身が妙な行動をとろうとしても、万が一彼女がジュエルシードとばれて犯罪者に狙われても、大事になる前に対処は可能さ。」
「そう言う事なら、今は安心しとこかなぁ。さて、この話はここまでにして……もう一つの用事に移らせて貰おか。」
「ああ……仮想戦闘空間シミュレータの件かな。」
「せや。これから六課は大きな事件が無い時は、基本的に教導隊の様な仕事を任される事になる。その時に今のシミュレータの規模やと、ちょおっと手狭でな……」
「話は聞いているよ。場所を変えながら聞こうか。――プレシア女史に会わせたい者も、丁度今来ているのでね。」
「あら? 私の予想が正しければ、その人に用があるのは私じゃないのだけれど……」
「! そうですか……漸くもう一度会えるのですね――」
「なに、リニスの事ならば家族である貴女にも無関係ではあるまい。ついでに居合わせてやりたまえ。」
そんな会話をしながら、ぞろぞろと研究室を後にする一行。
この日を境に様々な物が変化を始めた。
機動六課の在り方から、最高評議会のある決定――そして、ジュエルシードの未来も。
あと一話でこの話は一段落って感じです。
ちなみにスカリエッティの会わせたい人物と言うのはセバスチャンの事です。(セバスチャンには、この後プレシアさん達に会わせられる事は伝えられてない)
本来は対ジュエルシード戦でリニスと少し話す予定だったのですが(実はアバターを操作するうちの一人がセバスチャン本人だった)、色々あって出来なかったので。
ついでに会話の内容に関しては、ざっくり説明するとセバスチャンが多数の使い魔契約をした結果、リニスに供給される魔力が微減していたんですよね。
それを日頃から感じていたリニスはセバスチャンの身に何かあったのかと考え、もしも自分に残された時間が少ないのであればそれを確認しておきたかった為、会いたがっていたのです。
結果として弟妹(使い魔的な意味で)が増えていただけと知り、ついでに顔合わせしたりと言った感じの内容でしたが、使い魔の設定メモを紛失した上、そもそも多分需要ないなってなったのでボツりました。