転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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いつもよりちょっと長いです


後日談 望の欠片③

現在観測されている数多の次元世界の中でもトップクラスに栄え、今なお発展を続ける第1管理世界ミッドチルダ……その繁栄を象徴するような高層ビル群にあってなおも一際存在感を放つのが、『ジェイル・コーポレーション』と言う大企業である!

 

現在一般にも流通する高性能小型通信端末ジェイル・フォンを始めとし、時空管理局の誇る戦闘シミュレータや老若男女問わず人気のジェイル・ギアと言った仮想空間の技術を生み出した他、現在の社員数十名の全てが仲睦まじい一つの家族と言う特異な経営形態でも有名なこの企業のオフィスビルから、その少女は今……この世界への一歩を踏み出した……ッ!」

「……さっきから何独り言言ってんのよ、アンタ。」

 

まるでドキュメンタリー番組で流れるナレーションの様な熱弁をふるっていたセインは、ジュシー(ジュエルシード)からの冷めた視線とツッコミを受け、一転して親し気な口調で話し始める。

 

「いやぁ、ジュシーが街へ繰り出す記念すべき第一歩を盛り上げようと……ほら、ここはまだウチの敷地内だし寂しいかなって。」

「変な気遣いは要らないわ。」

 

セインが説明したように、ビルを抜けても直ぐに市外へ出るという訳ではない。

ビルの外には彼女達家族が公私ともに使用する個人車両や、大型の輸送車両が並ぶ駐車場の他に、彼女達の父であり社長であるジェイル・スカリエッティの趣味によって建てられた噴水と、その中心で眩く輝く彼の像といったような様々な物で占められたそこそこ広い敷地が広がっている。

 

勿論これらには防犯の意図もあり、決して無駄なものではない。

その証明として噴水の中央で虚空を指差すスカリエッティの像は、無数のセンサーで以て周囲を見張り、有事の際には噴水は水の代わりにバインドの術式を放つ。

 

とは言え、決して万人受けしないその像の隣を「悪趣味ね。」「だよね。」等と話しながら通り過ぎ、セインとジュシーは今度こそミッドチルダの街へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

「――で、ここがあたしも良く来るゲーセンだよ!」

「げーせん……?」

「あー、言葉だけじゃ伝わらないか。主にゲームを楽しむ為の施設なんだけど……ゲームも聞いた事ない?」

「ずっと昔に言葉は聞いた事があるけど、見た事はないわ。」

「成程ねー……ジュシーの時代のゲームと一緒かは分からないけど、この世界でゲームって言ったら今は主に『アレ』。仮想空間を使った物が主流になりつつあるね。仮想空間って言うのは――」

 

そう言ってセインが示したのは、いつぞやスバルとティアナも遊んだ筐体が置かれた一角だ。

あの後その人気ぶりから少しだけスペースを拡張されたそこは、今日も行列が出来ており、皆上部に表示された対戦の光景を楽しみながら自分の番を待っていた。

 

「……どうしてわざわざその仮想空間で戦う必要があるのよ。ちょっと広いスペースを確保して、直接戦えば良いだけじゃない。」

「ちっちっち……現実じゃないからこそ、出来る事もあるんだよ。先ずリンカーコアを持っていない人も、練習次第で一線級の魔導士のように戦える! そして、リンカーコアを持っている人も、自分の魔法の適性や魔力量と関係無く好みの適性で存分に戦えるんだよ! 憧れのエースのようにだって、伝説の三提督のようにだって成れる……それがこのゲームの魅力の一つなんだ!」

「は、はぁ……」

 

やや早口で捲し立てるセインの勢いに、若干押され気味なジュシー。

その熱弁が耳に入ったのだろう。行列の最後尾に並んでいた男性が振り返り、セインの姿を見つけると驚いたように叫んだ。

 

「――セイン!? セインが来てるぞ!!」

「ん?」

「えっ」

「ホントだ! セインだ!」

 

彼の声に周囲がざわっと振り返る。

そしてセインを見るなり――歓声が上がった。

 

「丁度良い所に来てくれたな、セイン!」

「『初代王者』と『現・王者』の戦いが見れるのか!?」

「あー……っと、これは一体……?」

「おっと、済まねぇ! ちょっと状況を説明させて貰うとだな――」

 

周囲の盛り上がりについていけなかったセインに、先程行列の最後尾に並んでいた男性が歩み寄り、状況を説明しだした。

 

「――成程、そんなに強い娘がいるんだ。」

「そうなんだよ! ここに現れてから常勝無敗! そのくせ大会には出場もしないって言う変わり者でさぁ……!」

 

彼が言うには少し前にこのゲーセンに姿を現した天才ゲーマーがいて、彼女が今丁度戦っているのだそうだ。

その実力はまさに圧倒的。挑戦者の中には惜しい所まで行った者もいるのだが、それでも敗北した事は一度もなく、彼女を倒す為にわざわざ遠くからこのゲーセンに通うプレイヤーも居るのだという。

 

「セイン、『初代王者』と言うのは……?」

「あー……あはは……あたし、一回大会に出た事があってさ。そこで優勝しちゃったんだよね。」

「そうなんだよ嬢ちゃん! この娘はVRゲームの最初の大会の王者なのさ! 何故かそれから大会には出なくなっちまったんだけど、それでもあの圧倒的な実力に憧れたプレイヤーは数知れず……!」

 

セインが大会に出なくなったのは「開発に関わった者が大会荒らしをするな」とスカリエッティから大会出禁を言い渡されたからなのだが、そんな事情を知らない彼等からすれば彼女は今でも伝説の王者だ。

そんな伝説と現代の最強のぶつかり合いを見たいと言う事で、筐体に出来た行列はセインに道を譲る様に分かれて行き……気付いた時にはセインがその現王者と戦う空気が出来ていた。

 

「ふっ……これは仕方がないね。ちょっと行って来るよ、ジュシー……!」

 

割とまんざらでもないと言った様子でセインがその道を進み、筐体の前に立つと……話題の『現・王者』の姿がそこにあった。

 

「――ん? ……なっ、何故貴様がここに……!?」

「いや、一応ここあたしの行きつけの店なんで……」

 

セインが目撃したその王者の姿は既に彼女も知っている人物であり、『面倒な所を見られた』と眼を逸らしている。

 

――何やってんだろうこの人……

 

内心ちょっと呆れながらも、周囲の期待の視線を受けているセインはそれをおくびにも出さず、対戦相手として自らも筐体に腰かけると『対戦希望』と申請した。

周囲に湧き上がる歓声に、何となく流れを理解した『現・王者』もまたその申請を受ける。

そして、対戦カードが上部のモニターに表示され――

 

 

 

『セイン vs クリーム』

 

本当に何やってんだろうねこの最高評議会。

 

 

 

……

 

 

 

「「「「「うおおおおーーーーーーっ!!」」」」」

 

激戦を終えた二人が現実世界に帰還し、互いの健闘を讃えあうと今日一番の歓声が上がる。

 

「流石『初代王者』! やっぱ最強だぜアンタ!!」

「『現・王者』も惜しかったぞー! セインにあそこまで迫ったの初めて見た!」

「なんで大会に出ねえんだお前らーー!!」

 

そんな声に手を振って応えるセイン。大会に出られないのは彼女達が開発関係者と最高評議会だからなのだが……そんな説明のしようがない事情を笑顔でひた隠しつつ、二人は筐体を囲むギャラリーを割ってジュシーの元へと帰って来た。

 

「やあ、勝ったよジュシー。」

「それは見てたけど……」

「そっか! どう、ゲームの楽しさは伝わった?」

「さぁ……私には何とも。」

「そっかぁ……」

 

娯楽の魅力について理解させるのはまだ早かったかな……等とセインが考えていると、一緒について来ていたクリームがジュシーを示して尋ねた。

 

「なぁ、セインよ。もしや、その娘が……?」

「あ、はい。この娘がジュシーですよ。」

「ジュシー……成程な。」

「……?」

 

まじまじと観察する視線を受けて、訝し気にクリームを見返すジュシーの様子に一人納得しつつ、クリームはセインへと警告するかのように釘を刺す。

 

「――まぁ、良い。それはそれとして、だ。念の為に言っておくが、私の正体については口外してくれるなよ?」

「いや、流石に言いふらせませんって……管理局の名誉にも関わりますし……」

「何か誤解しているようだから説明するが、私の『これ』も一応管理局の為なのだ。」

 

そう前置きしてクリームは自身がこのゲーセンに通い詰める理由を語った。

 

「――成程、新設部隊の実用性を図る為に……」

「ああ。貴様等があの時に使用したシステムを用いれば、リンカーコアの有無に関わらず戦力を確保できる。人格的な採用基準は設ける必要があるだろうが、そこさえ問題無ければ後はシンプルにこのゲームでどの程度戦えるかだけ……万年人手不足の管理局としては、見逃す手はない。」

 

彼女の説明を聞いてセインは納得を示す。

確かに先のジュエルシード戦で彼女達ナンバーズが使用したアバターを用いれば、クリームの言う様に必要とされるのは戦闘センスだけだ。それはリンカーコアの有無に関わらない純粋な才能……センスは有ってもリンカーコアが無いという人材が世に埋もれているのは、数々の大会で示されて来た。

 

「当然、命を危険に晒す事がない代わりにシステムの維持費や材料費の関係で、彼らの給料は純粋な魔導士より低くなるだろうが……それでも自分の力を現実で試してみたいと思う者も多い筈。近い内に試験部隊の採用試験を行う予定もあって、こうして私が直接彼等の実力を見ていたのだが……」

「気付けば『現・王者』になっていたと。」

「うむ。だがそのおかげで『我こそは』というプレイヤーが自ら足を運んでくれたため、人材を探す手間も省けた。私の眼から見ても、中々いい線に行けるだろう者の目星も幾つか付けられた。……今から楽しみだ、新たな部隊の活躍がな。」

 

それだけ告げると、クリームは再び筐体の前に出来た行列に加わった。

口ではまるで仕事のように語っていたが、その軽快な足取りを見るにやはり楽しんでいる部分もあるのだろう。

 

「――っと、そうだ。まだジュシーに街を案内している途中だったね! 次の場所に行こうか!」

「はぁ……まぁ、今更抵抗もするつもりは無いけど……」

 

思い出したようにジュシーの手を引くセイン。

二人は次の目的地へ向かうべく、ゲーセンを後にしたのだった。

 

 

 

二人が暫く街を散策し、ある公園の前を通過しようとした時だった。

 

「――ん? これは……」

「ごめんなさい! それ僕達のボールです!」

 

公園の出入り口から車道の方へ向けて転がって来たボールを、何の気無しに拾ったジュシーの下に、一人の少年が駆けて来た。

 

「はい。」

「あ、ありがとう!」

 

ジュシーが少年にボールを手渡すと、少年は少し頬を赤らめつつ笑顔を浮かべる。

彼の後方からはまた数人の少年少女が駆け寄ってきており、彼等へ向けて手に持ったボールを掲げて示すと、少年はジュシーへ向けておずおずと切り出した。

 

「あの……一緒に遊ばない?」

「興味がない。」

「バッサリ!?」

「あ……そ、そうなんだ。……じゃあ、またね!」

 

少年の振り絞った勇気諸共その誘いを切り捨てたジュシーに、行く末を見守っていたセインも思わず声を上げる。

流石に少し落ち込んだ少年だったが、直ぐに気持ちを切り替えて彼の友達の元へボールを持って帰って行った。

 

「……良かったの?」

「何が?」

「いや……まぁ、確かに興味は無さそうか……()()()()。」

 

セインがスカリエッティから受けた頼み事は、ジュシーが人との交流に興味を持つように誘導する事。

最初はそれほど難しくないと思っていたそれが、当初の想定よりもずっと難しいかも知れないと思いなおしたセインは、次はどの方面から攻めてみようかと思案する。

 

そんな彼女達の前に、これまた見知った少女が現れた。

 

「――ん? 君はスカリエッティの……」

「あ、はい。セインです。」

 

その少女――バルトは、セインを見つけると二人の元に歩み寄る。

途中でジュシーにチラリと目を遣ると、少し考えながらセインに尋ねた。

 

「成程、彼女が……なあ、セインよ。この後の予定は決まっているか?」

「え? えっと、もうちょっと街を散策する予定ですけど……」

「ふむ……ではそのついでに、一つ頼まれてくれないか?」

「……」

「頼みですか?」

 

オウム返しに尋ねるセインへと、バルトは肩にかけていたカバンから小さなチップを取り出して見せた。

 

「ああ、このデータチップをリオンの奴に届けてほしい。私が届ければいい話と思うだろうが、私はこの後、例の裁判の関係で聖王教会に顔を出す事になっていてな……奴の居場所の当たりはついているのだが、正直時間がギリギリなのだ。」

「はあ……でも、あたしもこの娘の案内が……」

「私は構わないわよ。」

「え? でも――」

 

突然口を挟んだジュシーにセインが驚いている隙に、バルトは手に持っていたデータチップをジュシーに握らせて告げる。

 

「そうか、では君に預けるとしよう。リオンの奴はきっと、この先にあるファミレスに居る筈だ。」

「何でそんなところに!?」

「む……済まないが時間が迫っている、頼んだぞ!」

「あっ、ちょっと!?」

 

一方的にそれだけ伝えると、バルトは二人に背を向けて駆け出した。どうやら時間が迫っているのは嘘ではなかったらしい。

 

「……むぅ。忙しいのは分かるけど、何もこんな時に……――!」

 

その場に残されたセインはジュシーに目を遣り……データチップを大事そうに握るその姿にハッとして、ある可能性を思い浮かべる。

 

――もしかして、バルトさん……

 

「……はぁ、引き受けちゃったものは仕方ないか。行こ、ジュシー。案内するよ。」

「あ……うん。」

 

セインが差し出した手を、ジュシーが自分から握る。

これまでセインから手を引くばかりだった関係からの小さな変化に、セインの中で可能性は確信に変わって行った。

 

 

 

「――おお、バルトからか。ありがとう、助かったよ。」

 

バルトの言った通りファミレスの席で端末を操作していたリオンは、ジュシーから手渡されたチップを確認すると柔らかに笑みを浮かべた。

 

「……ふん、散策のついでよ。」

「ふふ……あ、ところで、そのデータチップはなんなんです?」

 

リオンからの感謝にぶっきらぼうに返すジュシーの背にぶんぶんと揺れる尻尾を幻視しながらセインが尋ねると、リオンは少しの間考えこみ……やがて重々しい口調で語り始める。

 

「うむ……これはとある次元世界のデータを無限書庫で検索し、纏めて貰った物だ。その世界は既に滅んでしまっているが、求める情報が残っているかもとな。」

「滅びた次元世界ですか……?」

 

端末にデータチップを差し込みリオンが操作すると、膨大な情報が無数のウィンドウとして表示される。

しかし展開された資料の殆どが文章であり、画像らしきものは見当たらない。それが却って、その世界の情報の少なさを示していた。

その状態を予想していたのだろう。リオンは小さく「やはりな……」と呟き、手早く端末を操作して展開された資料を閉じると、難しい表情でセインたちに向き直り――

 

「まだどう言う結果が出たかも不明である為、これ以上は明かせん。だが……このチップに入っている情報次第では……」

「――8番席のお客様、こちらご注文いただきました期間限定の『DXプレミアムグランデパフェ』でございます。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

「ごゆっくりどうぞ~!」

 

途中で運ばれて来た巨大なパフェを受け取ると、目の前に置いた。

女性スタッフが一礼の後に持ち場へと去って行った後、しばしの静寂が訪れる。

 

「……」

「……」

「……なんだ、何が言いたい?」

「いや、なんでも……」

 

何処か居心地悪そうにセイン達を見るリオンは、やがてスプーンを手に巨大パフェの攻略に乗り出しながら、良い訳でもする様に語り始める。

 

「こう言った頭脳労働を続けていると……自然と甘味が欲しくなるものだろう? 別に私が……こう言った物を、好んでいる訳では……」

「あ、はい。分かりましたので……」

 

普通なら食べにくいだろうサイズのパフェを慣れた様子で食べ進むリオンの姿から、コレは相当通い詰めているなと考えるセイン。

ちなみに当然リオンが摂取している糖分は彼女の本体である脳には届いていないのだが、セインは敢えてそこにツッコまない事にした。英断である。

 

「……」

「あれ、ジュシー? もしかして、あのパフェに興味ある?」

 

気付けばじっとパフェを眺めていたジュシーにセインがそう尋ねると、ジュシーは目を逸らしながら呟くように答えた。

 

「……今まで、食べるって事をしてこなかったし……それに、目の前であんなに美味しそうに食べてるのを見ると……」

「――んぐっ……!? そ、そんな風に見えていたのか!?」

「そっか、そっか! じゃああたし達も同じの注文しよう! お隣良いですか!?」

「く……っ、まぁ断る理由も無いが……」

 

そして二人共にパフェを楽しんだ後も暫く街を散策し、ジュシーが興味を示すものを探したセイン。

そんな日々は忽ち過ぎ去っていき……

 

 

 

数日後、スカリエッティにジュシーは話があると切り出した。

 

 

 

「――ねえ、私は何の為に作られたんだと思う?」

「唐突だね。何の為に……か、それは君の機能が答えだと思うが……」

 

ジュエルシードの機能は、主に他者の願いを元に事象を変革する能力だ。

直接的な肉体の変化はお手の物で、その影響は精神や自然環境にまで及ぶ。ただし、その結果は必ずしも願った形で叶うとは言い難いものだった。

 

「私ね……ずっと昔は願いをそのまま叶えていたの。」

「ほう? それは興味深いね。」

 

ジュシーの話に知的好奇心がそそられたスカリエッティは、彼女に席に座る事を進めると自らも対面の椅子に腰かけた。

 

やがて彼女は少しずつ、自分の過去を語り始めた。

 

自分が生み出されたのは魔法技術の急速な発展の末、自然のバランスが崩壊し絶えず天災に見舞われる世界だった事。

ジュエルシードは本来その世界に点在する21の主要都市それぞれの首脳に継承され、願いを叶える力で天災を封じていた事。

 

やがて天災の脅威を忘れた人々は、ジュエルシードに自分勝手な願いを叶えさせていった事。

彼女の人格は、そんな欲望を叶える過程で生じた事。

 

いつしか別の都市同士で願い同士が衝突する機会が増えて行き……ジュエルシードを独占するべく、世界規模の戦争が起こった事。

 

その戦争にもジュエルシードの力が使われ始めた事で、泥沼化した事。

戦争を早く終わらせる為に、願いを歪めて叶える事を覚えた事。

 

戦争が終結して21のジュエルシードが一所に集まった時には既に天災も復活し、手遅れだった事。

その原因の全てを押し付けられ、ジュエルシードは封印された事。

 

「そうして世界が滅んでいく過程で私は気付いたの。人の願いをそのままの形で叶えれば、人は簡単に欲望の制御が出来なくなる生き物なんだって……」

「ふむ……確かに、リオンから共有された資料とも矛盾はしない。」

「やっぱり……あの時、あの子が見ていたのは……」

「ああ、君の想像の通りだと思うよ。」

 

ファミレスでリオンが見ていた資料の内容はチラリとしか見えていなかったが、それだけでジュシーには見当がついていた。

それは彼女がいまだに生まれた故郷を……当時の記憶を大切にしているからだろう。

そして、それはスカリエッティの目的にとって光明だった。

 

暫くのやり取りの後、やがてジュシーはこの数日を思い返し、感じた事を吐露し始めた。

 

「私……この数日で、色んな人の願いを叶えたわ。」

「報告は受けているよ。」

 

願いを叶えたと言っても、ジュエルシードの機能を使った訳ではない。

街を歩く中で見つけたちょっとした困りごとを解決したり、手伝ったり……

 

「――どれも私がこの身体で叶えられるような、しょぼいモノばかり。」

「……」

「私ね、気付いたわ。貴方が私を人と交流させた理由。遥か昔、私が叶える願いが肥大化していったのは、私の存在が原因だった……もう私の力は必要とされていない。それを解らせる為だったのね……」

 

悔しそうにそう吐き出した彼女は、やがて顔を伏せて最後に一言呟いた。

 

「――意地悪。」

 

その一言に、スカリエッティはまるで『お手上げだ』と言わんばかりに肩を竦める。

 

「驚いた……――大間違いにも程があるな。赤点決定だ。」

「なっ、なんっ……!?」

 

小馬鹿にしたような口調に、ジュシーが怒りから赤らめた顔をバッと上げる。

するとスカリエッティは「では答え合わせだ」と一言前置きし、自分達の計画とそのゴールを打ち明け始めた。

 

「確かに私の狙いは君の()()()()だ。君自身がその力を――その欲望を制御する事が出来れば、封印なんてするよりもよっぽど未来の為になる。」

「やっぱりそうなんじゃ――」

「だが、私は君の存在を否定したい訳ではない。ただ分かって欲しかったのだ。」

「な、何をよ……?」

「君自身も、君の力に振り回されていたと言う事だ。」

「っ!? そんな、訳……」

 

スカリエッティの言葉を咄嗟に否定しようとして、ジュシーは口を噤む。

自分の力に、欲望に振り回されるのは人間だけ……その言葉が彼女の口から吐き出されるより先に、彼女の中でストンと腑に落ちてしまったのだ。

 

「先程私は君の行動について報告を受けていると言ったね?」

「ええ……」

「その報告によれば、人の手伝いをしている君はとても楽しそうだったそうだ。」

「楽しそう……私が……?」

「ああ。私の最も信頼する情報筋だ、間違いない。」

「……」

 

スカリエッティが最も信頼するのは当然、自分の愛娘達だ。

彼女達はジュシーを街へ連れ出す中で、彼女の動向を見守る中で見極めたのだ。ジュシーの本質を。

 

「君は言ったね、今の君でも叶えられるような小さな願いばかりだったと。だが、そんな小さな願いを叶えている時、君はどう感じていた? 思い出してみたまえ。」

「……満たされていた。いいえ……そうね、嬉しかったって言い換えても良いわ。」

 

彼女の本質は『人の役に立つ事』だ。

天災から人々の生活を守る為に生み出された彼女は、本能的に人の望みを叶えたがる。

どれだけ人を愚かと評しようと、心の奥底で人から求められる事を常に望んでいた。

 

しかし、彼女は人の欲望からその人格を形成してしまった。

戦争により人が死んでいくのを停める為に人の願いを歪めていたはずが、いつの間にか自分の目的の為に願いを利用するようになってしまった。

願いを歪める中で、自分自身の在り方すら歪めていたのだと、彼女は今更になって気付いたのだ。

 

「なんだ、こんな簡単な事だったのね……バカみたい……」

「君は確かに大きな願いを叶える為に生み出された……しかし、君自身の願いはそんな大きなものではなかったのだよ。君はただ、誰かの役に立ちたいだけの――」

「それ以上は良いわ。……少し、恥ずかしいもの。」

「む……」

 

言葉は遮られてしまったが、スカリエッティは既に確かな手応えを感じていた。

自分の本質に……本当の願いに気付いたジュエルシードならば、もしもいつか時空管理局が無くなっても、例え犯罪者の手に渡る事になってしまっても、自分自身の意思で正しく力を使ってくれるだろうと。

 

その証明に、彼女の眼には強い意志が宿っていた。

復讐や執着ではない、自分の信じる道を見出した者特有の輝きが。

 

「……私、償いたい。昔、私の所為で滅んだ世界の人達に……逆恨みで攻撃した、なのは達に。」

「ふむ、前者についてはどうにもならないが……後者であれば私も力になろう。実はリオンから次期の最高評議会にと打診を受けていてね、君を近い内に新設される予定の部隊に加える程度の権限はある。」

「! ……私が、時空管理局に……」

 

提示された思いもよらない未来に、ジュシーの瞳が見開かれる。

 

「まだまだ試験的な部隊の、それも設立予定という段階だがね。……しかし、私は感じている。これから時空管理局は大きく変わるだろうとね。その中で、君の在り方はきっと大切なカギになると思う。……――頼まれてくれるかな?」

「……ええ、貴方がそう"願う"なら。」

 

差し出した手を握るジュシーに、スカリエッティは確信する。

彼女であれば変われるだろう。

世界を滅びに傾けた"絶望"ではなく、世界の均衡を保つ"希望"の欠片になれるだろうと。




今回の話に収めるためにちょっと(この小説内での)ジュエルシードの設定を弄ったので、もしかしたら違和感を感じる人もいるかも……?
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