転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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原作開始のちょっと前

「おはよー!」

 

教室についた俺は今日も元気に挨拶をする。

前世でこんな元気に挨拶をしたのはいつが最後だっただろうか…

 

だが例え(前世)には似合わない挨拶だろうとなのは()はそういう挨拶が似合う子なのだ。

内心では今でも少し気恥ずかしいがRPと割り切っている。

 

「「「おはよう!なのは!」」」

 

その成果と言って良いのかは分からないがこの2年とちょっとの間、

俺が転生者であるとはまだ誰にも気づかれていない。

 

ちなみにこの教室に銀髪オッドアイは13人居ます。

 

「おはよー、なのは。今日も元気だねー」

「おはよー。朱莉(あかり)ちゃんは今日も眠そうだね…」

 

隣の席の女の子が挨拶してくれたので、いつも通り挨拶を返す。

 

この子は『天野 朱莉(あまの あかり)』。

多分転生者…だと、思う。

 

根拠は隣のクラスにも銀髪オッドアイが居るからだ。

 

何を言っているんだと思われるかもしれないが、転生時の神様の事を思い出せば分かる事だ。

 

あの神様は結構おっちょこちょいな所はあるが、一人一人の人間にしっかり向き合ってくれる神様だった。

転生者が『高町なのはと関わりたい』と願っているのなら、極力叶えようとしてくれるはずだ。

 

そして、当然だが『ただの同級生』より『クラスメイト』の方が関わりやすい。

なのに原作開始のタイミングでクラスメイトになれなかった転生者が居る事実。

 

何故かなんて考えるまでもない。

『クラスメイト』という約30人限定の席はもう満席だったと言うだけの話だ。

 

朱莉はいつも眠そうな表情と話し方が特徴的なことを除いてはごく普通の女の子だ。

転生者らしい言動や行動を見た事は無いし、なのは()に話しかける頻度が特別多いわけでもない。

 

ただ隣のクラスに銀髪オッドアイが8()()ばかりいると言う情報は、それだけ重いのだ。

 

 


 

やっほー、天野 朱莉だよー。

 

今私はなのはちゃん()の転生者の方とお話ししております。

なぜバレてるのかって?

実は私、天使なんですよねー。

 

皆さんを転生させた神様が、転生後のアフターケアの為に私のような天使を何人も送り込んでいるわけです。

当然管理局の中にも何人かいますけど、管理局の黒い部分だとかはノータッチ。

この世界の未来を原作より良くするのも悪くするのも転生者次第というのが神様の方針ですからねー。

 

私達が動くのは転生者の安全が他の転生者によって脅かされた時のみ。

基本的に平和なので私たちはちょっとした長期休暇として楽しんでおります。

 

にしても、まさか『隣のクラスに銀髪オッドアイが居るから』と言う理由で疑われるとは思いませんでした。

基本的に転生者に疑われるのはNGなのですが、これはノーカンでしょう。

流石にあの容姿になる人があんなに多いとは予想外でしたし。

 

あ、神様からセーフの判定いただきました。ありがとうございますー。

 

まぁそんな感じで私たちがフォローに回るので、

なのはさんにも気楽にこの世界を楽しんでほしいのですが…難しいでしょうねー。

 

実際正体がバレたら過激な行動に出そうな人が隣の教室にも何人かいますし…

そんな風だから隣のクラスに回されたんですけどねー。

 

やはりご本人の考えている通り、同じ境遇の転生者の方々(フェイトさんやはやてさん達)とフォローし合うのが一番みたいですねー。

 

おや、先生役の天使が来ましたね。

同じ休暇中でもあちらは少し忙しいご様子。普段の仕事程ではないにしてもお疲れ様ですー。

 

 


 

「なのは!お昼、行こ!」

「うん!」

 

午前の授業が終わって昼休み。

 

アリサに誘われていつもの屋上へ向かう途中、俺は先ほどの授業の事を思い出していた。

いつもの授業は過去に習った事のおさらいを聞き流しているだけの退屈なものだったが、

今日はそんな眠気も吹っ飛ぶような内容だったのだ。

 

『お店しらべ』

 

毎年この学年になると行うらしい行事の説明だけだったが、

原作を知っていると『いよいよ来たか』と言う気分になる。

 

アリサやすずかが途端にそわそわし始め、

銀髪オッドアイが隣の席で寝ている銀髪オッドアイを叩き起こしてひそひそし始める。

 

簡単に言えば、もうすぐ原作が始まると言う事だ。

 

 

昼休み、いつも通りアリサとすずかと一緒に屋上で弁当を食べながら話し合っている。

今回の話題はもちろんお店しらべについてだ。

 

明日は近所のスーパーや色々な店を回る社会科見学の様な事をするらしい。

そして自分たちが調べた事を纏めて発表し合うのだと言う。

 

原作の最初にお店しらべの発表後の事を先生が話しているようなシーンがあった。

それが今から何日後なのかは分からないけど、多分そう遠くない話だろう。

 

「お店しらべかぁー…いよいよね…」

「うん、そうだね…」

 

話の途中、思わず漏れたのだろうアリサのつぶやきにすずかが同意を返す。

原作の知識を持った転生者同士なら意味が通じて当然だが、

あくまで俺は高町なのは(原作キャラ)として振舞うと決めたのだ。

 

「?…アリサちゃん、何がいよいよなの?」

「!? 何でもないわよ!ただ、ホラ私達って将来親の会社とか継ぐじゃない!?

 その事でちょっと思うことがあるのよ!!」

「そうなの!私達ってホラ、親の会社とか継ぐから!!」

 

凄い早口だ。

 

この二人は隠し事が苦手なのか、良くこういったミスをする。

そしてその度に俺は何も知らない振りをする。いつもの事だ。

 

…もしかして二人はそれぞれが転生者だと知っているのだろうか?

息の合ったフォローで乗り切ってる(?)のは今回だけじゃないし…

 

なんだろう…自分で決めた事とは言え、少しだけ寂しいな。

 

いや、弱気になるな俺!

原作が始まる前からこんな調子でどうするんだ!

いつかきっと本音で話せる機会は来る!それまでの我慢だ!

 

「…なのは?」

「なのはちゃん?」

 

 

「ううん、何でもない!

 ただ、もうそんな将来のこと考えてて凄いなぁって…」

「!そういうあんただって将来は翠屋を継ぐんでしょ?

 今のうちに色々将来の事とか考えておきなさいよ~?」

「うん、そうだね。色々ね…」

「シャキッとしなさいよ!

 あんた自分が何の取り柄もないとか考えてるんでしょうけど、

 理数系なんてあたしよりもテストの点とか良いんだから!」

 

何とか誤魔化せたみたいだけど、アリサ…そのセリフはもう少し後だよ…

 

 

 

学校が終わり、家で晩御飯を食べている時の事。

 

「あ!そう言えば今日学校の授業でね…」

 

俺はまるで今思い出したかのように今日の授業の事を家族に話す。

丁度良い機会だし、家族が何人転生者なのか出来るだけ確認しようと思ったのだ。

 

結果、高町恭也と高町美由希は多分転生者だ。

お店しらべの話題に分かりやすく反応していたし、間違いないと思う。

 

桃子さんと士郎さんは自然体だった。

と言うよりも学校側から既に「翠屋に伺います」と連絡があったようだ。

 

そりゃ調べられる側には予め連絡が行くよなぁ…

 

結果、士郎さんはまだ不明だが他の3人は転生者だと確定した。

もう自室と風呂でしか気を抜けないなぁ…

 

…ユーノが転生者だったら自室も、多分風呂場もアウトか。

…転生者だろうなぁ、ほぼ間違いなく。

 

 

 

 

数日後、お店しらべの日。

 

近所のスーパー等の店を回って経営の工夫等を調べる授業。

普通の小学生なら通常授業が無いと言う事で多少テンションは上がるのだろうが、

あいにくと俺達はみんな転生者。

これからの行動について考えてるのかテンションはやや低めだった。

 

中には前世で経験があったのか逆にアドバイスしている者も居て、

お店の人は凄くやり辛そうだった。

きっと去年までは明るく元気な小学生が来ていたのだろう。

 

そんなお店しらべの中盤頃…

 

「翠屋だぁぁぁっ!!」

 

今までテンションの低かったみんなも翠屋では異常なテンションを見せた。

彼らにしてみれば翠屋に行くなんてちょっとした聖地巡礼の様な物なのだろう。

同級生の中には普段からご贔屓にしてくれているお得意様もいる。

 

「ここが翠屋か!どこにあるのかと思ってた!!」

「親に聞いたら教えてくれたぞ?普通に有名店だし」

「マジか!?俺、親無しスタート&ユニゾンデバイスが親代わりパターンなんだよなぁ…」

「いや、教えてくれないデバイス冷たすぎない?」

 

テンションが上がりすぎて口が軽くなったのか、

店内を飛び交う『今のなのは()が知っててはいけない情報』を全力でスルーしつつ士郎さんに経営のコツを聞く。

 

「経営のコツかい?そりゃ、もちろん桃子の作るシュークリームが絶品だからさ!

 こんな美味しいシュークリーム作れるお母さんなんて、そうは居ないんだからな?」

「もう、士郎さんが淹れるコーヒーのおかげよ!」

「そうかい?なら、僕達二人の愛の共同作業のおかげって事だな。

 いつも感謝してるよ、桃子。」

「やだ、士郎さん…皆が見てるわ…」

 

見てないよ。みんな翠屋探検とか言ってバラバラに動いてるよ。

前世含めて何歳なのかは知らないけど、興奮のあまり童心に戻ってるみたいだ。

 

「あんたのご両親、いつも通りね…」

 

翠屋のお得意様筆頭アリサ・バニングスが妙に慣れた感じで二人のイチャつきを見ている。

もしかして、家の中だけじゃなくて翠屋でもこんな事してるのだろうか?

 

「ちょっとしたきっかけでいつもあんな感じになっちゃうもんね…」

 

翠屋のNo.1リピーターの月村すずかも慣れているところを見るといつもこうらしい。

 

「おっと、失礼。お店しらべだったね。」

「あら、私ったらつい…」

 

まぁ、あまり気にする事もないだろう。

『二人の愛の共同作業』とメモ帳に書き込んでおいた。

 

「あっはは、照れるなぁ!」

「なのは、今日の晩御飯は何が食べたい?」

 

両親もご機嫌だしまぁいいか。

 

 

 

そんなこんながあって、その日の深夜。

 

俺は、物語の始まりを告げる『あの夢』を見たのだった。




転生者の家族は家族に関する願いが無ければ基本ランダムです。
ただ、家族無し&ユニゾンデバイスが親代わりパターンは『幼少期の強制赤ちゃんプレイ』を避けたかった転生者が指定した結果です。
この場合デバイスの人格は天使が担当しており、
『転生者の存在を知っている』『神様が作ったデバイス』と言う事になっています。

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