実家回の後、決戦に入り、そのまま一期最後まで進める予定です。…多分!
「アルフ、準備は終わった?」
「…あぁ。まぁ、元々あたしは何か必要な物がある訳じゃないからね…」
アルフに忘れ物が無いか尋ねるが、よく考えればアルフに荷物らしい荷物は無かったなと思いなおす。…どうやら俺も少なからず緊張しているのだろう。
「じゃあリニス、お留守番よろしくね。」
「はい。…今から家に帰る二人にこういうのも変な話ですが、行ってらっしゃい。フェイト、アルフ。」
「うん、行ってきます。リニス。」
リニスにしばらくの留守を任せて、俺は部屋から足を踏み出した。
行き先は時の庭園。途中経過の報告を兼ねた、久しぶりの里帰りだ。
「ちゃんと無事に帰って来るからね!リニス!」
「…貴女はどこへ向かう心算なんですか?アルフ…」
やって来たのは屋上だ。飛翔魔法を使う時はすごく気を遣ったが、おかげで誰にも見られずに済んだ。
…最近のテレビはちょっと光るだけで『魔法使いか!?』と騒ぐから面倒なのだ。
「フェイト、忘れものとか無いかい?」
「…そう言う事は部屋を出る前に聞く物じゃない?」
明らかにタイミングがおかしいだろう。…何がしたいのかの察しは付くが。
「いや、別に向こうに帰るのを少しでも遅らせようって気はさらさらないんだけどさ…」
「…大丈夫だよ。お土産もジュエルシードもバルディッシュもちゃんと持ってるから。」
「お土産かぁ…やっぱり二人で全部食べちゃわないかい?多分あのババァは食べないよ。」
「アルフはもう食べたでしょ。美味い美味いって…」
「いやぁ、あのシュークリームが噂以上に美味くってさぁ…」
お土産は翠屋のシュークリームだ。以前『プレシアからどうやって魔法を教われば良いか』と言う相談をリニスに持ち掛けた際、リニスがしばらく考えた後「お土産でプレシアの機嫌がよくなれば、お願いもしやすくなるかもしれませんよ?」と言い出した。するとそれを聞いたアルフがどこからかグルメ雑誌を取り出し、丁度ピックアップされていた翠屋にしようと駄々をこねたのだ。
…まぁ、アルフが食べたかったと言うのが本音だろうが。
「そんなに食べたいなら、また今度買ってあげるから。」
「…分かったよ。」
そんなに母さんがお土産を食べるのが嫌か。まぁ、物語での仕打ちを見ればおかしくはないのか…典型的な悪役だったしな。
でもなぁ…あの時のただ涙を流すだけになってしまった姿を目の当たりにすると、母さんを何とかして助けたいって思っちゃったんだよな…
「次元転移…次元座標『876C4419 3312D699 3583A1460 779F3125』…開け、誘いの扉。時の庭園、テスタロッサの主の元へ。」
さぁ俺もそろそろ覚悟を決めよう、転移が終われば時の庭園だ。
後でリニスに聞いたのだが、この日の夕刊の2面は『マンションから伸びる謎の光』だったらしい。…ごめんね、管理人さん。
絶え間なく轟く雷鳴と距離感を感じさせない波打つ暗い空、次元の狭間に漂う悪魔の城を彷彿とさせる無数の尖塔。これがフェイトの実家である時の庭園の今の日常風景だ。
「待っていたわ、フェイト。」
「はい、ただいま…母さん。」
「…」
目の前にはフェイトの…生みの親であるプレシア。向かって右後方に似非執事とメイドのアンジュ…皆懐かしい顔ぶれだ。
…いや、似非執事だけはあまり懐かしさは無いな。毎日顔を合わせていた様な錯覚さえ感じる。
「先ずは家に上がりなさい。向こうでの話を聞かせてもらうわ。」
「…はい。」
プレシアはそう言って家の中に入って行く。フェイトと一緒に後を付いていく途中に通路や部屋を見渡すと、俺達が地球に行った頃と比べて機械兵が増えた気がした。
≪フェイト、何かあったらあたしが守るからね…≫
≪大丈夫だよアルフ、心配しないで。≫
…フェイトは何故かプレシアを信用しきっている。原作でもそうだったが、フェイトはいくら何でもプレシアに対して気を許し過ぎだ。
今のところは暴行を受けていないが、それでも既に育児放棄同然の状態だったって言うのに…
「母さん、これ…向こうのお土産です。シュークリームっていうお菓子です。」
「ありがとう、フェイト。…アンジュ、冷やしておいてくれるかしら?」
「はい、かしこまりました。」
…うん? 俺の気の所為じゃなきゃ、プレシアの奴随分と丸くなってないか?
似非執事達の様子から見て、今日が特別機嫌が良いって感じでもなさそうだ…あれが本当にプレシアか?
いや、まだ報告が終わった訳じゃない。ジュエルシードの回収率を聞いて豹変する可能性だって残ってるんだ。俺はアルフとしていざと言う時フェイトを守る義務があるんだから、油断しないようにしないとな…
リビングの机を挟んで座ったフェイトが、対面のプレシアに途中経過を報告している。…おかしいな。いや、親子の語らいとしてはごく自然な光景だが…原作ではなんか魔王の玉座の間みたいなところで拷問紛いの扱いを受けてた筈だが…
「…そう、集めたジュエルシードは5つなのね。」
「…はい、私以外にもジュエルシードを集めている勢力があり…その内の一人に後れを取りました。」
「大魔導士である私の娘であるあなたが、まさか負ける事があるなんてね。」
フェイトがなのはとの間に交わした約束の事を説明している間、精神リンクを通してフェイトの緊張が伝わってくる。…それと同時に恐怖と覚悟も。
フェイトもこの先の事を分かっていたのだろうか。それとも、俺の警戒がフェイトを怖がらせてしまったのか。どちらにしてもプレシアの言葉を待つしかない。…いざとなれば俺がフェイトを連れて逃げる。そのための算段を今の内に頭に組み立てておこう。
「なるほど…その相手の魔導士と戦い、勝てば全てのジュエルシードが手に入ると…?」
「はい…」
「フェイト、あなたはその魔導士に負けたのでしょう? 勝つ見込みがある約束なのよね?」
「…今の私では…その、難しいかも…しれません。」
「…そう。」
!…プレシアが席を立った。机をゆっくり回り込んで、フェイトの傍に…!
「どうやら、私の想定が甘かったのね。」
「…母さん?」
…何時でも飛び掛かれるように、それでいて敵意を漏らさない様に…!
退路は確保している、俺の右2~3m行ったところのドアの奥にずっと行けば転送までの時間は稼げる。移動しながら詠唱を済ませて地球に帰る!
「怖い思いをさせてしまったかしら? ごめんなさいね、フェイト…」
「母さん…!」
誰だアンタ。
いや、プレシア…のハズ、だ…うん…? そもそも時の庭園の座標は管理局だって知らないし、ここに住んでるのはあの似非執事とアンジュだけのハズだ。…プレシアが俺と同じように原作キャラに転生した転生者って可能性はあるか…? だが、仮に俺がプレシアに産まれたとしたらフェイトの事をリニスに任せず一日中愛でまわすだろう。…リニスには悪いがそうすると言う実感がある。やっぱり転生者ではないのか? だとしたらあの二人の内のどっちかがプレシアを変えた…?「アル……ん」いや、そんな説得で考え方を変える奴じゃないだろう。そんな奴だったら原作でクロノかリンディが説得できると思う。「…ルフ……」…いや、座標なら原作でフェイトが転送魔法を使った際に出ているから…先回りした転生者が何らかの方法でプレシアに成り代わって…? それならば会話の中でボロを出すまで粘らないといけないが…
「アルフさん!」
「うゎっ!?…っと、えs…えっと、何だい!?」
気が付けば似非執事が俺の肩を揺さぶっていた。
「今、似非執事って呼びそうになりました?」
「いや、そんな事はないよ」
とりあえず自信満々に否定しておく。例え図星を突かれても相手の眼を見て自信たっぷりに否定すれば誤魔化せる気がする。
「…改めて、俺の名前は『セバスチャン』です。」
「あぁ!そう言えb…もちろん知ってたよ! あたしはアルフ、よろしくね! で、何の用だい『セバスチャン』?」
「まぁ…良いでしょう。フェイトお嬢様たちはもう奥へ向かってしまいましたが、いかがいたしますか?」
「…へっ!?」
慌てて見回すとフェイトが居ない…プレシアもだ! …やられた! 俺の気を逸らした隙にフェイトを連れ去ったな!? …なんかそんな事する意味がない気もするけど、とにもかくにも追わなきゃ!
「奥ってどっちだい!?」
「あちらですが…」
「サンキュー!」
扉を蹴破らんばかりの勢いで部屋を飛び出す。時の庭園の構造は頭の中に入ってる! あのプレシアがフェイトだけを連れて向かう部屋なんてあの玉座の間もどきの部屋くらいだろう! それならこの先を…うん? …いや、あの部屋ならこっち側じゃないだろ? むしろこっちって何がある訳でもないだだっ広い広場しかないような…?
…あの似非執事が間違えたか? そう思い引き返そうとしたその瞬間、俺の常人より鋭い聴覚が雷鳴にも似た音を聞き取った。雷鳴なんて時の庭園じゃ引切り無しに聞こえるが、この音は違う! 『魔法で生み出される雷』の音だ!
「…フェイトッ!」
フェイトかプレシアがこの先で魔法を使っている! 魔法で身体能力を強化して駆け付けた俺の目の前には…
プレシアに魔法を教わっているフェイトの姿があった。
…
……
………
いや、だから何でそうなるんだ!? フェイトが嬉しそうだから良いけど! 良いけど!!
アルフ、ひたすらモヤモヤする回。
プレシアがやけに丸くなっている理由は次回に過去編も織り交ぜて書きます。(前書き無視)
大丈夫、何とか1話で終わらせたい!