転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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すみません、プロットの設定にちょっと違和感があり修正していたら遅れました。今までで一番の難産。

プレシアさんの過去回です。
プレシアさんの過去は細かく描写すると2、3話じゃ足りないのでざっくりダイジェストです。

修正したてなのでプレシアさんの思考に違和感があるかもしれません。


ずっと昔の物語

…あの日、私は全てを失った。

 

新型のエネルギー駆動装置「ヒュードラ」の暴走。その黄金の光は、私の地位も、名声も…何よりも大切な娘の命まで全て奪い去った。

 

全ての責任を押し付けられ、私は研究者としても魔導士としても孤立した。

 

…そんな私が人造生命に関わる「プロジェクトF.A.T.E」に出会う事が出来たのは、まさに運命(Fate)だと思った。

この技術を応用すれば、アリシアが帰って来る。あの幸せな日々を取り戻す事が出来る。…そう信じた。

 

 

 

 

 

 

胡散臭い男が来た。『ジェイル・スカリエッティ』に派遣されたと言う。

…『ジェイル・スカリエッティ』。その名は知っていた。『プロジェクトF.A.T.E』の前身である『プロジェクトF』の理論を築いた研究者だ。『プロジェクトF.A.T.E』に関わる前に、独自に調べたが『プロジェクトF』を始めとしたいくつかの研究に関するデータは簡単に見つかったのに、その出自や経歴に関しては一切出てこない怪しい男。

本人からの紹介状とやらを持って来ていたが、出自の怪しい男の紹介が何の役に立つと言うのか。…だが、私はその男を迎え入れた。セバスチャンと名乗ったその男は、執事と言いながら掃除も満足にできない体たらくだったがあいつを通じて送られてくる『ジェイル・スカリエッティ』の資料やアドバイスは確かに大きなメリットだった。

 

 

 

 

 

 

何度も失敗した。何度も挫折した。でもその度にあの黄金の光が脳裏を過ぎった。だから何度でも繰り返した。何度だって立ち直れた。

 

…だからその果てに産まれた者が私の娘(アリシア)ではないと分かった時、私はもう立ち直る事が出来なかった。

『失敗作』は『フェイト』と名付けた。『プロジェクトF.A.T.E』…私が信じ、そして裏切られた『運命』。私の挫折の名前だ。

 

 

 

 

 

 

リニスにフェイトの教育を任せた。…あの魔力の光(黄金)は見たくない。

…もはや伝承ですら語られていない伝説の都『アルハザード』。そこにならばきっと私の求めるものがある。新たに命を生み出すのではなく、過去から命を引き上げる『死者蘇生』の秘法が…

 

 

 

 

 

 

研究室に引きこもってどれだけの時間が経過したのだろう。

…契約が終了したと言うのに何故か居座っているあの男に水晶球を渡された。…フェイトの訓練の様子だけでも見ろと言う。

自分の生み出した娘から目を逸らすな等と偉そうなことを抜かすくせに足の震えが止まらない姿は、いっそ滑稽だった。

 

 

 

 

 

 

どれだけ調べても『アルハザード』の存在は見えてこない。…やはり伝承は伝承でしか無かったのか。

…気まぐれにあの男が持ってきた水晶球でも見てみようと思った。研究に行き詰った時、一度他の事に目を遣ると意外な所から道が開けたりするものだ。

 

久しぶりに見たフェイトは随分と成長していた。年齢もそうだが、その魔法技術も既に一端の魔導士としては申し分ないだろう。…やはりあの子(アリシア)とは違う。あの子はこれほどの才能を有してはいなかった…だが、それで良かったのだ。あの笑顔さえあれば、私は…

 

…水晶球の中のフェイトは笑っていた。とても楽しそうに。

空を飛び回る事の何がそれほど楽しいのだろう? そんな疑問はどうでも良い。…その笑顔が記憶のあの子(アリシア)と重なった。

直ぐに水晶球を放り出して研究に戻った。…あのまま見ていたら、私の信念が揺らいでしまう気がした。

 

私はあの子の笑顔が…私の全てを変えてしまうようで恐ろしかった。

 

 

 

 

 

 

フェイトが使い魔を作ったらしい。狼の子供なのだと…似非執事が楽しそうに話す。

…こいつとは随分長い付き合いだが、いくら何でも気安く話し過ぎじゃないかと思う。『プロジェクトF.A.T.E』の時もそうだったが、何故私とそんなに友達感覚で話せるのか。私はお前の雇い主なのだが。

 

最近こいつは飯を持って来たついでにと言わんばかりにフェイトの事を良く話す。どんな魔法を覚えていたか、どんな事を話していたか等随分と事細かに…『お前は私の夕食を持って来たのでは無かったのか』その言葉を何故こんなにも躊躇するのか、私自身わからなかった。

 

 

 

 

 

 

最近、あの使い魔(アルフ)がフェイトを見る目が怪しくなってきた。

普段から人間の姿で過ごしているから大体の精神年齢が分かるが、丁度思春期を過ぎた辺りだろうか…既に外見年齢はフェイトを追い越している。

 

…使っていない空き部屋がある事を確認し、使い魔(アルフ)の部屋として割り当てた。

それを告げると使い魔(アルフ)は不満を漏らしていたが、理由を説明してやると渋々納得したらしい。

確かに使い魔は主を守る存在だと言う主張も分かるし、フェイトと一緒にいる事が契約だと言うのも…分からなくもない。きっとそんな内容で契約したのは、私の態度に原因があったのだろうと考えると申し訳ない気持ちにもなる。

だがあの眼は駄目だ。発情期とまでは行かないが、危険な物を感じる。少なくとも教育上よろしくない。

…狼にもそう言う性癖があるものなのだろうか? いや、別にどうでも良いか。

 

 

 

 

 

 

外で何やら音がした。聞こえたのは小さな音だったが、防音が行き届いている筈のこの部屋にまで響く音だ。

次元犯罪者でも流れ着いたのかと…たまたま近くにあった水晶球に目を走らせる。

 

…目に映ったのは赤と()()。黄金の魔力を纏ったフェイトが…血塗れになりながら墜ちていく光景が映っていた。

 

急ぎ研究室から出てリニスに事情を尋ねる。疑問が尽きない。何故フェイトが墜とされたのか、何故リニスは襲撃者に気付かなかったのか、何故使い魔(アルフ)はフェイトを守ろうとしなかったのか…何故、私はこんなにも焦っているのか。

 

…原因は魔法の失敗だと言う。…何故だ。何故いつも魔法の失敗は、あの黄金は私から何もかも取り上げて行くのだ。

 

フェイトの治療は私と似非執事が行った。リニスも手伝おうとはしてくれたが、『プロジェクトF.A.T.E』に関わっていなかった為に必要となる知識を持っていなかった。

 

治療は困難を極めた。全身に及ぶ火傷と裂傷も酷いが…何よりも血液が大量に抜けてしまった為に何時命を落としてもおかしくなかった。

あの似非執事が居て良かったと初めて思った。『ジェイル・スカリエッティ』が助手として遣わしただけあって、人体の構造や『プロジェクトF』に関する知識は大したものだ。…内に秘めたバカみたいに多い魔力が扱えれば、もっと使い道もあっただろうに。

 

 

 

傷の跡が残らないだろうか、せめて火傷の跡は残らない様に…そう考えていたと気づいたのは、治療を終えてフェイトが一命をとりとめた後だった。

 

私は自分でも気づかない間に随分と変わってしまった。…変えられてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

研究室で『アルハザード』を調べながら、机に固定してある水晶球を眺める日々。

何時しかその比重さえフェイトに傾いていた。…もう一人、娘が出来た気分だった。だが、今更母親面等出来るはずも無かった。

『失敗作』だと、フェイトに告げた時のショックを受けた顔が脳裏を過ぎる。逃げ続けていた運命(フェイト)が脳裏を過ぎる度に、私は未だ何も分かっていない『アルハザード』に逃げるのだ。

 

フェイトはアリシアではないのだと、自分に言い訳して。

 

 

 

 

 

 

何と言う事だ。どうやら私はもう永くないらしい。咳き込んだ際に手に付着した血を見て察した。

体の不調から薄々感づいてはいた。だがまさかここまで悪化しているとは思わなかった。

…あの『ヒュードラ』の暴走と、その後の研究にのみ比重を置いた過酷なスケジュール…私の中で病魔は育ち、今度は私の命を持って行くつもりらしい。

 

だが、今の私には未練があった。…フェイトだ。

幸か不幸か魔導士としての才能はあるフェイトだが、あの子は私が創り出した人造生命体だ。『時の庭園』以外、どの世界にも生まれた痕跡も過去も無い。

使い魔が居るとは言え、そんな娘が一人で生活していく方法なんてそれほど多くはないだろう。

 

一応、当てが無い訳ではない。…だが、頼る訳には行かない当てだ。

時空管理局ならば…あの万年人手不足の大金喰らいの組織ならばフェイトを喜んで迎え入れるだろう。

だが頼る事は出来ない。あの組織の上層部はどうにも胡散臭い。

 

私が管理局にフェイトの保護を願えば、その情報は先ず胡散臭い上層部に行くだろう。そうなれば代わりに何を要求されるか解ったものじゃない。最悪の場合は人手不足解消の為と言って『フェイト』を大量に()()()()可能性まである。

そんな事は許せない。私の知識が管理局に渡ってはならない。

あの子を生み出した技術の結晶である『時の庭園』があってはならない。

 

…あの似非執事が夕食を持って来た時に相談した。この『時の庭園』でフェイトが人造生命体である事を含めて相談できる相手は奴しかいなかった。

奴はしばらく考えた後「管理局の中にも信用できる者は居る」と言い、『リンディ・ハラオウン』の名を挙げた。『ハラオウン』…どこかで聞いた名前だと記憶を探れば、少し前に頭角を現した神童とやらの名前が『クロノ・ハラオウン』と言ったはずだと思い出した。…確かに子供であれば上層部に毒されている可能性は低いし、歳の近い子を持つ親である『リンディ提督』であればフェイトを悪いようにはしなさそうではある。

 

似非執事が言うには管理局の上層部にフェイトの情報が行くより前に、フェイトがハラオウンに保護されていれば私の考える最悪は起こらないと断言できるらしい。…お前向こう(管理局)側じゃないだろうな?

なぜそこまで断言できるのか知らないが、こいつがフェイトを大切に思っている事だけは信頼できる。…方針は決まった。

 

…私はとある世界を水晶球で見張った。かつて『アルハザード』を目指していた時に見つけた世界だ。

ここには高純度の魔力を秘めた『ロストロギア』…『ジュエルシード』がある。その魔力を用いれば『アルハザード』への道を開く事が出来るかも知れないと目を付けていた。

行動に移す前に『スクライア一族』による採掘が始まってしまった為にその時は手を引いたのだが、今ならば寧ろ利用できる。

…この計画を実行すれば、私はきっと地獄に落ちるだろう。だが構わない。私が一度失い、もう一度得る事が出来た娘の為なら、この先の短い命などいくらでも使ってやる。

 

 

 

 

 

 

『ジュエルシード』の採掘が完了したようだ。…なるほど、実物をこうして見るのは初めてだが『21個で一つのロストロギア』のようだ。それぞれの『ジュエルシード』同士の間にパスが繋がっているのが分かる。

 

…次元の狭間を進んでいる『ジュエルシード』を積み込んだ次元間航行船を魔法で攻撃し、『ジュエルシード』を『第97管理外世界』へばら撒かせた。

次の行動は、翌日で良いだろう。…フェイトを呼び出し、『第97管理外世界』へ『ジュエルシード』の回収に向かわせる。

 

この計画の成功条件は『管理局にフェイトを保護させ』、なお且つ管理局の上層部にフェイトの詳細な情報が行く頃には『時の庭園が虚数空間に消えている事』だ。

 

成功しても失敗しても、娘を裏切る最低の計画。

 

これが私の最期の計画とは…本当に笑えない。




ここ変じゃね?って思うところがあれば感想欄やメッセージで指摘していただけると嬉しいです。

因みに修正した点は『プレシアの動機』です。(最終回までの流れに変更は無し)

プロットだと原作と変わらずアリシアの蘇生目当てにアルハザードに行こうとしてましたが、フェイトを娘として意識したら少なくともその目的で虚数空間に飛び込まんやろって思って『残り少ない命を使ってフェイトを安全な誰かに引き取らせる』へと大規模改修しました。

ただダイジェスト形式だと、アリシアに対する執着が少なくなり過ぎではないかとも思えるんですよね…
場合によっては内容丸ごと書きなおします。

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