「18:16…ちょっと、速く来すぎちゃったかな…?」
待ち合わせの場所に到着し、時刻を確認すると待ち合わせの10分以上前だった。
昨日フェイトと別れた後アースラから『最後のジュエルシードの魔力が観測できない。街中の魔導士の魔力に紛れている可能性がある』との連絡を受け、今日は街中を重点的に捜索したがジュエルシードは見つけられなかった。
とりあえずこの情報はフェイトにも共有しておいた方が良いと考え、知らず知らずのうちに気が急いてしまったのだろう。いつものようにベンチに座って待つ事にしたのだが…
「ねぇ、魔法の石…ちょうだい?」
「わっ!?」
急に後ろから声をかけられ、思わずビックリしてしまう。振り向いた先に居たのは私立聖祥大学付属小学校とは違う制服に身を包んだ女の子だった。
肩甲骨の辺りまではありそうな黒髪をポニーテールに纏めている鮮やかなピンク色のリボンが、子供らしい可愛らしさを演出している一方で…その表情は嫌に静かで、クールな大人らしさすら感じさせる程に落ち着き払っていた。
魔法の石…ジュエルシードを探しているのだろうが…
「えっと…魔法の石って、ニュースに映ってたアレだよね? 何で私に?」
「持ってるでしょ?
…何で知ってるんだ? 確かに俺のバリアジャケットは制服を少し改造しただけのようなデザインだが…それにしたって近所に住んでいる訳でもなさそうなこの子が、何でそれで俺を突き止められる? しかもこの口ぶり、俺がジュエルシードを複数持っている事を確信しているように聞こえる。
「…あなた、何者?」
「私? あなたと同じ
「そう、
…この世界に転生した転生者なら、普通は
『魔法の石』『魔法使い』…この時点で分かるのは、多分この子は正真正銘の
子供らしい口調は外見に似合っている筈なのに、嫌な予感しかしないぞ…
「あなたはもう
「魔法の石を集めなきゃいけないの。」
「…どうして?」
「どうしてもなの。」
…
「レイジングハート…」
≪
セットアップして構える。もう俺にはこの子がどういう存在なのか見当が付いていた。
…結局、
「くれないんだ…じゃあ力尽くで貰うね?
恐らく彼女のイメージでは魔法使いは『変身』するものなのだろう。それを反映したらしい掛け声とともに、彼女の
「クロノくん! 見てよ、コレ!」
「もう見ているよ! …拙い事になった!」
突如としてなのはの付近に発生した魔力の波動はジュエルシードの物に間違いない。
問題は襲撃のタイミングと場所だ!
「まさかよりにもよって待ち合わせの場所とタイミングを狙ってくるとは…!」
予め決められた『約束』に従って、今あの付近に魔導士は少ない。今まで潜伏していた事を考えると…観察されていたのか…!? なのはの周りに
だが待ち合わせならば、なのはかフェイト…『どちらかが一人になる可能性』が出てくる。
今回の相手は狡猾なやつだ。それは間違いない。…だが、これらの事情は奴が知っている訳がない情報のはずだが…
「どうする、クロノくん!?」
「勿論僕が出る! 転送ポートの準備を、早く!」
考えるよりも動くのが先だ! あの場所には今
それは即ち、なのはが全力を
「待ちなさい、クロノ!」
「!? かぁ…艦長、何故止めるんですか!?」
結界も張られていない以上、誰かが向かわなければ!
「止めるつもりは無いわ! ただ、状況をよく見て優先順位をしっかり付けてから行きなさい!」
「優先順位…!? これは!」
ジュエルシードの魔導士の光が当たった木が、どんどん大きく…まさか!
「あの子が何を願ってしまったのか分からないけれど…あの映像の再現ね、これは…」
嘘だろう!? 海鳴臨海公園は海沿いにあるとはいえ、住宅街とそう離れていない…このままでは街が!
「クロノ、貴方は数十人の部下を連れて街に被害が及ぶのを食い止めなさい。…結界は、ユーノ君と神谷君に連絡します。」
「…はい!」
なのは、済まないがしばらく援護には向かえそうにない! 頑張ってくれ…!
青い光を浴びた木々が成長して、根が凄い勢いで街の方へ伸びていく…ニュースで流れたあの事件の時の様に…!
「レイジングハート!」
≪
何とか追いつかないと…!
「…っ! 後ろからっ!」
咄嗟に躱す事が出来た砲撃は、俺の直ぐ傍を掠める様に飛んでいき…屋久杉の様な巨木へと成長していた木に直径1m程の大穴を穿った。…振り返った先には、髪も眼もジュエルシードによく似た青色に染まった女の子…俺の姿をイメージしたのか、その服装は俺のバリアジャケットにとても似ていた。
「躱された…
「…今の攻撃、非殺傷設定じゃないよね…」
幸いと言って良いのか、砲撃は空の方へ飛んで行ったため街に被害は無いだろう。だが…
「こんな幼い子に、
「うん、分かった。次はもっとよく狙うね…」
「許さない…!」
先ずはユーノか神谷に念話して…
≪なのはちゃん!≫
「…っ! リンディさん!」
アースラからの通信!
≪今そちらにクロノ達を向かわせたわ! クロノ達には街への被害を食い止めるように言ってあるから、あなたは目の前の相手に集中して!≫
「リンディさん、ありがとう! でも、結界が無いと…」
≪それについても現在オペレーターが神谷君とユーノ君に連絡しているところよ! 直ぐに駆け付けてくれるわ!
だからそれまでの間、出来るだけ海を背に戦ってちょうだい! 相手の攻撃を海へ向けるの!≫
「…分かった、やって見る!」
…とは言っても、生憎今の立ち位置はその真逆。ここは一気に駆け抜けるしか無いか…
「レイジングハート」
≪
一気に翔け出し回り込もうとするが…
「分かった。後ろだね…」
女の子も自ら後退して今の位置関係を維持したまま砲撃を放ってくる…指示しているのは…
「ジュエルシード…っ!!」
≪
放たれる砲撃をプロテクションで受ける。…流石にこの守りは簡単に崩せない様だ。砲撃を受けたプロテクションは何事も無かったかのように維持されている。
「分かった。もっと撃つね」
女の子はレーザーの様に細く圧縮した砲撃を何度も連続で放ってくるが、砲撃をいくら防いでもプロテクションには壊れる気配も無い。いっそこのまま結界が張られるのを待って…
「分かった。
そう言うと女の子は砲撃を連続で撃ちながら、空中へ浮かんでくる。…いや、俺より高い位置から撃つ心算だ。そうすれば俺が街を背にする形になるから…!
「させない!」
≪
女の子にバインドをかける。これで攻撃を封じて…いや、このまま封印して終わらせる…!
『リリカル、マジカル!』
女の子に向けた杖の先に、桃色の光が収束していく…
「ジュエルシード、封印!」
≪
光が女の子に放たれるその瞬間…
「…させるか!」
…一瞬、誰の声か分からなかった。だが声と同時に女の子から青い光が溢れ出し、バインドが侵食するように破壊されたことで封印の光が躱されて…ようやく気付いた。
「簡単に封印できるなんて、思わないでよね? 魔法使いさん。」
「…随分、流暢に喋れるようになったんだね。…ジュエルシード」
「ふふっ…バレた? でももう
機械のように無表情だった顔に、こちらを見下す様な笑みが浮かぶ。もう既に俺の攻略法を見つけたような表情だが…
「それはこっちのセリフだよ、ジュエルシード。」
『封時結界!!』
『サークルプロテクション』
景色から色が褪せていく。空間を切り取り、時間をずらす結界だ。
奴の20m程後方で神谷が『封時結界』の維持を、そしてユーノが『サークルプロテクション』で神谷と自身を守っている。
「これでお互い、周りを気にすることなく戦えるね…」
「チッ…まぁ、いいか。あなたを倒して先ずは15個。そうすれば次はもう一人の方を…」
余裕そうな態度を隠そうともしないジュエルシードを見るに、それ程の自信に繋がるような奥の手があるのだろう。
…その自信の根幹があるとすれば、きっと
最後のジュエルシードを巡る戦いが幕を開けた。
このジュエルシード邪悪過ぎない…?
因みに女の子の願いは滅茶苦茶この敵の能力に影響を与えてしまっています。