…そろそろちゃんと出してあげないと存在が忘れられてしまいそうだったので。
ジュエルシードによって魔導士と同じ能力を得た女の子…便宜上、魔導士とは違う存在であると言う意味も込めて『魔法使い』とでも呼ぶべきだろうか。
戦闘が始まって数分が経過した今、分かった事がある。彼女は魔法を使う際、『デバイスを用いず』、『呪文も必要とせず』、『魔力も消費しない』…まさに『魔法使い』と言って過言ではない能力を持っていた。
「今度は…『これ』ッ!」
「くっ…雷の次は炎…随分と多芸だね。」
奴の攻撃は俺達の様な魔導士が使う物とは違い、随分とバリエーションに富んでいる。標準的な魔力刃や魔力弾、『雷の魔法』に『炎の魔法』…魔力変換資質?何それ美味しいの?とでも言わんばかりだ。
「ディバイン…バスター!」
「ふふっ、じゃあ『こっちも』!」
俺の放ったディバインバスターだって、同等の威力を持った『魔力砲』が放たれ、互いに打ち消し合う…先ほどから何度も虚を突き、先手で攻撃を仕掛けても『同じ攻撃』で打ち消されてしまっている。
こちらが頭の中で魔法を構築し、デバイスを構え、魔力を消費して放つ攻撃は、『魔法使い』がこちらに向ける『人差し指』一つで掻き消されてしまう…まだ魔力に余裕はあるものの結構精神的には苦しい状況だ。
≪なぁ、どうするなのは? 切り札撃つか?≫
≪まだだ。相手の攻撃のタネが分からない以上、アレを使うのは危険すぎる。≫
そう。相手の魔法には何かカラクリがあると言うのが俺の予想だ。
根拠はいくつかあるが、特に大きな根拠となっているのが『こちらの攻撃を迎え撃つ時は、
恐らくは俺の魔法を模倣している。そうすると切り札を切るのはなおさら拙い。…奴の攻撃にはもう一つ厄介な特徴があるからだ。
「ディバインバスター!」
「くっ…!」
放たれた砲撃を寸前で躱す…ただし、躱しているのは俺の方だ。これがもう一つの厄介な特徴…奴は一度見て構築した魔法は、
今のところ奴に対しては、通常の魔力弾を除けば『ディバインバスター』しか使っていないので、俺の魔法で奴に覚えられたのはそれ一つだけだが…ディバインバスターは現状、自由に撃てる砲撃の中で主戦力になっている砲撃だ。打ち消そうとするにはそれなりの魔力を使うし、回避しようとすれば大きく体勢を崩す事になる。…そして、更にもう一つ。
「避けてばかりじゃ勝てないよ?」
「そうやってっ、私の魔法を! 全部真似するつもり!?」
「あはは! じゃあどうするの?
「あなたの物じゃないんだけどね…!」
≪なぁ、レイジングハート。…滅茶苦茶むかつくんだが!≫
≪気持ちは解るが冷静になれ。ああやって煽って、お前の手札を引き出そうとしてるんだ。≫
≪分かってるんだけどさぁ…プロテクション使う訳にも行かないのがキツイところだ。≫
俺が今一番気を付けるべきは、俺のプロテクションをコピーされない事だ。…何故かアホみたいに高い魔力を持っていた俺が張るプロテクションは、現状フェイトのブリッツアクションでしか破られた事が無い。
銀髪オッドアイ達との訓練で散々『的』にしたからこそ、あの守りの異常な硬さは良く分かる。…奴がプロテクションを纏い、その防御力がディバインバスターを防ぎきれてしまった場合、俺は一か八かで切り札を撃つしかなくなるのだ。
「あっはははは! ディバインバスター、ディバインバスター、ディバインバスター!!」
「くっ…!」
あの野郎、馬鹿の一つ覚えみたいに連発してきやがって…!
「危なっ…っ!?」
奴の撃ったディバインバスターが俺のバリアジャケットを掠める。だが、そのおかげで俺はまた一つ気付く事が出来た。
「…そう、そう言う事だったんだ…」
ようやく分かった。こいつが魔法の構築に一切の手間を必要としない理由が。
…そして、あの女の子が何を願ってしまったのかも全部!
≪レイジングハート、カラクリが一つ分かった。≫
≪なんだ?≫
≪あいつの魔法は本当にディバインバスターをコピーした物だったんだ。
さっき俺を掠めたディバインバスターだが、
≪…あぁ、そう言う事か。文字通りのコピペって訳だ。≫
奴の最初の砲撃が殺傷設定だった事から考えても、奴が自分の攻撃に非殺傷設定をわざわざ適用する理由はない。恐らくあいつは目の前で構築した魔法をそのまま自分の魔法に適用しているのだろう。
≪あの女の子は、きっと『テレビで見た魔法使いの様になりたい』と願ってしまったんだ。だから奴の魔法は猿真似ばかりなんだ。≫
≪じゃあ最初の砲撃と、木の成長はどうなる? それに、あいつは他にも色々な魔法を使ってきたぞ。≫
≪…たぶん、あれらもストックの一つだろう。『巨大に成長した木』と『最初の砲撃』は、あの事件の『巨木』と『映像で見たディバインバスター』だと思う。
最初に願った時に映像で見た魔法もストックされていたと考えれば、そこまで変な話でもない。…映像だからか、完全に見た目だけのコピーだが。≫
≪雷はフェイトの魔法か。炎の魔法は…あぁ、
≪そう言う訳だ。そして、あいつはコピーした魔法の術式を理解していない。
理解していないし、書き換えられないから
≪奴自身は魔法を『見た目でしか区別できていない』と言う事か。…で、どうするつもりなんだ?≫
≪一番良いのは『奴が猿真似できない高火力の魔法』だが、多分どんな術式でも直ぐにコピーされるから現実的じゃない。そこでレイジングハートに今から魔法を一つ構築して欲しいんだ。≫
≪言っておくけど、複雑な魔法は直ぐには作れないぞ? せいぜい既存魔法のバリエーションを増やす程度だ。≫
≪それで良いんだよ。ベースは『ディバインバスター』で、変更点は…≫
≪…なるほどな。それなら多分、数分で出来るぞ。…その分それまで魔法の補助は出来なくなるが。≫
≪オーケー! それまで持ちこたえるさ。そっちもちゃんと注文通りに頼むぞ、『ポンコツデバイス』!≫
≪よっしゃあ任せろおぉ!!≫
さて、これでこの変態デバイスは最高の仕事をするだろう…ここからしばらくは俺の演技次第だな。
「レイジングハート!」
そう言葉にしてディバインスフィアを2つ生成する。…デバイスの補助を受けていない、俺一人で構築した『ディバインシューター』だ。
「じゃあ、『こっちも』!」
すかさず奴もディバインシューターを使用。スフィアの数は俺と同じ2つだ。
「本当に人の物真似が好きなんだね…」
「うん、大好きだよ? だって、
奴から仕掛けてくる様子が無いのは、ディバインシューターがどう言う魔法なのか理解していないからだろう。なら教えてやるとしよう。
「…行って! ディバインシューター!」
スフィアを一つ撃ち出す。
「…ふぅん?」
『魔法使い』はつまらなそうな表情で、俺のスフィアを自分のスフィアで相殺した。
「どんな魔法かと思えば、ちょっと大きめの魔力弾じゃないの。…つまらない」
「…ディバインシューター」
もう一つ撃ち出すと、『魔法使い』は再びスフィアを撃ちだして相殺した。
「…はぁ、もうネタ切れ? もっと他に攻撃は無いの?」
「ディバインシューター」
再び2つのディバインスフィアを生成するが…
「私もね、
「くっ!」
ディバインバスターを躱しながら、慌てたようにスフィアを撃ち出す。俺の放ったスフィアは『魔法使い』の横を通過して遠くへ飛んで行く…
「あんな物に頼るって事は、案外あなたの魔力は限界に近いの? 私はまだまだ、こんなに撃てるのに!? ディバインバスター!」
連続で撃ち出されるディバインバスターを回避しながらディバインスフィアの操作に集中する。着弾まで3…2…1…0!
「あぐッ!?」
戻ってきたスフィアは『魔法使い』の背中に寸分狂わず着弾し、爆発した。…やはりバリアジャケットの魔法も見た目だけなのか、鎧の役割は果たしていないらしい。デバイスの補助が無いディバインシューターでもダメージはしっかり入ったようだ。
「チャンス! ディバインシューター!」
新たに3つスフィアを生成し、左右と上方向に一つずつ放つ。
「…やってくれたわね。…ディバインシューター!」
向こうも同じように3つのスフィアを生成し、それぞれの方向に撃ったスフィアを迎撃した。
「ディバインシューターに頼るって事は、案外あなたの魔力は限界に近いのかな?」
「…っ!」
「私はまだまだ、こんな魔法も撃てちゃうんだけどね!」
≪
「…それはっ!」
足元に広がる大規模な魔法陣と、前方に構えたレイジングハートの穂先から俺自身までを一つの砲塔の様に包み込むように展開する多数の環状魔法陣。素人が見ても、一目で大魔法と分かるだろう。そして、それは…
「それ『貰った』!」
目の前の『魔法使い』も同じだったようだ。
「まさか…!」
「私の魔力が、あんな程度で無くなる訳がないじゃない! あなたの切り札だったんでしょうけど、残念だったわね!」
俺に向けられた人差し指から腕を伝うように展開された環状魔法陣、足元の大規模魔法陣…
「人の魔法ばっかり…! あなたには自分の魔法は無いの!?」
「要らないわよ、そんな物! 私は『あなたの魔法』をあなたにぶつけ続ければそれで勝てるんだもの!」
「あなたなんかに、この魔法が使いこなせる訳がない!」
「使いこなす? それも必要ないわ! 使い方が分かれば、何度でも使うだけよ!」
お互いの環状魔法陣の先端…レイジングハートの穂先と『魔法使い』の指先に光が灯ると、周りの空気が振動し始め、やがて風が吹いているかのように先端の光に集まって行く。
「あなたは…どれだけ魔法を侮辱するの!? どれだけ人の努力を踏みつければ気が済むの!?」
「私は利用できる物を利用しているだけよ! あなたのこの魔法も、この身体も! 全部、全部私が
魔法が完成に近づくにつれて風は強くなり、先端の光はもう俺の身長以上にまで膨らんでいる。『魔法使い』も同様だろう。
「あなたの思い通りにはさせない…ディバインクラッシャー、シュート!」
「あっはははは! ディバインクラッシャー、シュート!」
互いの環状魔法陣の先端から放たれた砲撃は、丁度双方の中間で衝突し…凄まじい光と爆風となって荒れ狂った。
「はぁっ…! はぁっ…!」
ふらつきながらも正面を見据える。
暴風と光が収まり煙が晴れると、そこには依然変わらず余裕そうな笑みを浮かべる『魔法使い』の姿。
「…そんな…嘘…」
「良い魔法ね…これ。あなたからの最期のプレゼントとしてありがたくいただくわ!お礼に、あなたの魔法で消し飛ばしてあげる!ディバインクラッシャー!」
再び指先に光が灯り、環状魔法陣が構築されていく…
≪…
「…うん、最後まで戦おう。レイジングハート…」
≪
構えたレイジングハートの先端に光が灯る。だが、目の前の光に比べて何と小さい光だろう。
「それがあなたの最期の魔法よ! あなたを始末して15個の私を取り返したら、次はあの金髪の魔導士をあなたの魔法で葬ってあげるわ!」
「…ごめんね…本当にゴメンね…」
思わず身体が震える。今となっては正直、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「ディバインクラッシャー!」
「ディバインバスター…」
「「シュート!」」
放たれた砲撃は再び双方の中間で衝突し…
何の抵抗も受けることなく…
ディバインバスターがディバインクラッシャーを突き破った。
「…は?」
唖然とした表情でディバインバスターに飲み込まれる『魔法使い』を見て、本当に思う。
―数分前、『魔法使い』のディバインバスターが俺のバリアジャケットを掠めた後の事だ。
≪言っておくけど、複雑な魔法は直ぐには作れないぞ? せいぜい既存魔法のバリエーションを増やす程度だ。≫
≪それで良いんだよ。ベースは『ディバインバスター』で、変更点は『威力を通常の魔力弾程度』に、『砲撃は無駄にでかく』。後は過剰に派手な演出があるとなお良し…かな?≫
≪あいつがとんでもない大魔法だと錯覚すれば良いのか? まぁ、やって見るけど…魔法陣スッカスカになるからそこでバレないか?≫
≪空白にはとにかくビッシリと適当な文章詰め込んでおいてくれ。≫
≪…なるほどな。それなら多分、数分で出来るぞ。…その分それまで魔法の補助は出来なくなるが。≫
≪オーケー! それまで持ちこたえるさ。そっちもちゃんと注文通りに頼むぞ、『ポンコツデバイス』!≫
≪よっしゃあ任せろおぉ!!≫
―少し前、ディバインクラッシャーを使用する直前。
「ディバインシューターに頼るって事は、案外あなたの魔力は限界に近いのかな?」
「…っ!」
『魔法使い』が苛立ちを隠そうともせずに俺を睨みつけたその時…
≪魔法が出来たぞ!
≪ナイスタイミングだ、レイジングハート!≫
≪あ、うん…≫
テンションの落差何とかしろよ…
≪そう言えば、空白に何詰め込んだんだ?≫
≪最初は適当な怪文書でも詰め込もうかなと思ったんだけどさ、あの時お前が俺に『ポンコツデバイス』って
≪…おう。≫
≪そのテンションで書いたから…なんか、ポエムみたいな感じになった。≫
≪…≫
≪…≫
まあ良い、コレで意趣返しも箔が付く!
「私はまだまだ、こんな魔法も撃てちゃうんだけどね!」
≪
―そして、今。
≪すまんな、『魔法使い』
≪最後の方、肩震わせて笑い堪えてたけどな。≫
仕方ないだろ。敵がノリノリでポエム構築してたんだから。
突然のオリジナル魔法解説。
魔法名:ディバインクラッシャー()
とにかく派手な事以外は普通の魔力弾程度の威力しかない。
空気の振動や気流の動き、風までも魔法の効果でしか無く、威力はあくまで魔力弾。
魔法がぶつかると光と爆風を発生させ、非常に威力が高い魔法のように見えるぞ!
でも威力は魔力弾。
大量の環状魔法陣にはレイジングハートのパトスが溢れ出したポエムがびっしりと綴られており、内容は酷く回りくどい表現が使われている物の要約すると『SM物』である(ミッド語)。一応なのはに向けたものだが、あくまで明言はされていない。
威力と演出が派手な割に実害が0な為、小さな子供には需要がありそうだが環状魔法陣の内容の所為でギリギリR18(一応)。
この世に使い手は居ないであろうこの魔法ですが、『魔法使い』さんが「持ち主以上に使ってあげる」らしいです。