「! この魔力…!」
ジュエルシードの捜索に専念するあまり時間を忘れていた俺は、ジュエルシードが発動した時と非常に似た魔力を感知し即座に飛翔した。もうじき夕暮れか…今何時だ? 待ち合わせに間に合うか!?
≪アルフ! 今どこ!?≫
≪フェイト? えっと、随分と下流まで来ちゃってて…何処と言えるような目印も無いところだねぇ…≫
飛翔魔法で探した方が早い! 下流の方って言うと…あっちか!
「おー! フェイト! こっちこっち!」
アルフの傍に降り立つ。本当に随分と下流だな…もう海が見える場所じゃないか。…いや、位置的には悪くないか。海鳴臨海公園も名前の通りに海沿いだし。
「で、どうしたんだい? フェイト。」
「ジュエルシードの反応。」
「本当かい!? いよいよこれで最後って訳だ!」
「あと、待ち合わせの時間。」
「…あー、そう言えばこの辺り時計無いからうっかりしてたよ。」
飛翔魔法で再び浮き上がると、さっきの場所…海鳴臨海公園に結界が張られているのが見えた。
「ありゃ、先越されちゃったみたいだねぇ。」
「…どちらにしても待ち合わせがある。行こう。」
「はいよ。」
結界の前まで来たが…どうしようか。一瞬協力しようかと考えたが、なのはの実力を考えるとジュエルシードの暴走体に後れを取るとは思えない。寧ろ連携がうまく取れなければ足を引っ張ってしまう事も有り得る。
そんな事を考えていると…
『フェイトちゃん…だったわよね?』
「…あなたは?」
『時空管理局のリンディ・ハラオウン…そう言えばこうして直接話すのは、初めましてだったわね。』
管理局の通信が入った。
リンディさんに呼ばれ、転送魔法で初めて来たアースラの様子は思っていたものと少し違った。
明らかに人が少ないのだ。普段は使用されているであろう椅子は、オペレーターが慌てて出て行ったのが一目でわかるほどに乱雑になっている。…目に付くオペレーターが全員銀髪オッドアイなのはこの際スルーしよう。
「要請に応じてくれてありがとう。フェイトちゃん、アルフさん。」
「状況を。」
「…うん? やけに人が少なくないかい? あのクロノって坊やも見当たらないけど…」
「それについても併せて説明するわ。実はね…」
「ジュエルシードが生み出した魔導士…」
「はー…ジュエルシードってやつは本当に何でもアリだねぇ。」
リンディさんから状況を聞いたが、なんとも厄介な事になってしまっているようだ。
なのはの戦闘が長引いている事も考えると『人が発動させたジュエルシード』の脅威度は俺の想定よりも高いらしい。
「現在は成長し続ける木の対応をクロノや搭乗員の魔導士が、ジュエルシードの魔導士をなのはちゃんがそれぞれ対応中なの。」
「理解した。私はどっちに向かう?」
つまりはどちらかが戦力不足と判断したのだろう。そう考えてリンディさんに尋ねるが…
「先ずはモニターを見てちょうだい。オペレーター、先ほど撮った映像を!」
「了解しました!」
「…映像?」
「なのはちゃんと、ジュエルシードの魔導士との戦闘の記録映像よ。」
『ディバインシューターに頼るって事は、案外あなたの魔力は限界に近いのかな?』
『…っ!』
『私はまだまだ、こんな魔法も撃てちゃうんだけどね!』
≪
『…それはっ!』
ディバインクラッシャー…なのはが初めて使う魔法だ。もしや俺との決闘の切り札だったのだろうか?
…こんな形で戦う前に知る事になってしまった事は申し訳なく思う。
『それ、貰った!』
『まさか…!』
『私の魔力が、あんな程度で無くなる訳がないじゃない! あなたの切り札だったんでしょうけど、残念だったわね!』
ジュエルシードの魔導士が使用したのは…
…なるほど、予め映像を見せる訳だ。俺が不用意に手札を晒せば晒すほど敵も強くなると言う事か…
『人の魔法ばっかり…! あなたには自分の魔法は無いの!?』
『要らないわよ、そんな物! 私は『あなたの魔法』をあなたにぶつけ続ければそれで勝てるんだもの!』
『あなたなんかに、この魔法が使いこなせる訳がない!』
『使いこなす? それも必要ないわ! 使い方が分かれば、何度でも使うだけよ!』
モニター越しでは魔力の波動までは感じられないが、風が光に吸い寄せられているように動いている事から相当な威力が込められているのだろう。
…確かアースラのモニターには魔力の数値を図る機能があったはず。どれだろうか?
…まさかコレか?『2』…いや、これじゃないだろう。多分。
『あなたは…どれだけ魔法を侮辱するの!? どれだけ人の努力を踏みつければ気が済むの!?』
『私は利用できる物を利用しているだけよ! あなたのこの魔法も、この身体も! 全部、全部私が
映像の魔法は完成に近付くにつれてどんどんと凶悪になっている。なのはのツインテールは激しく揺れ、光球から発生していると思われる音も限界まで出力を上げたモーターの駆動音の様に高く激しい。
『あなたの思い通りにはさせない…ディバインクラッシャー、シュート!』
『あっはははは! ディバインクラッシャー、シュート!』
そして互いの魔法がぶつかり合い、暴風が一帯を蹂躙しているところで一度映像が途切れた。
「ちょっ…今いいとこだったじゃないか!?」
「アルフ、そっちじゃない。」
今の映像で分かる事は『敵はこちらの魔法を即座にコピーできる』と言う情報だ。…もう一つ挙げるとすれば、ジュエルシードの魔導士の魔法に対して抱く思いが…俺にとっては余りにも受け入れがたい事くらいだろうか?
「ゴメンね、アルフさん。でもまずは聞いて欲しいの。
…今回の相手の攻略に必要なのは『電撃戦』よ。時間をかければかける程こちらは不利になるわ。」
「敵の使う魔法が増えるから…」
「それも理由の一つなんだけれど、最大の理由は『敵の魔力が多すぎる』のよ。恐らくなのはちゃんとフェイトちゃんの魔力保有量を合計しても届かないわ。」
「…なるほど、厄介。」
「さらに、『電撃戦』と言っても安易な高火力魔法はさっきの映像で分かる通り『敵にコピーされてしまう』…まぁ、先ほどの魔法は見た目のみ派手にしただけの囮だったのだけれど。」
「…」
「…」
どうやら『2』が正しかったらしい。
「それを踏まえて、こちらの映像も見てちょうだい。オペレーター、映像の続きを!」
「了解です!」
続きが有ったのか。今回の敵に備える為にも見ておく必要があるだろうな…
『はぁっ…! はぁっ…!』
…なのはが随分と消耗しているように見えるが、さっきの魔法は本当に『2』なのだろうか?
『…そんな…嘘…』
『良い魔法ね…これ。あなたからの最期のプレゼントとしてありがたくいただくわ! お礼に、あなたの魔法で消し飛ばしてあげる! ディバインクラッシャー!』
ピンピンしている敵を見て絶望した様に目を見開くなのはと、勝ち誇ったようにディバインクラッシャーを再び使用するジュエルシードの魔導士。
…リンディさんの言葉が正しいなら、あの魔法は多分通常の魔力弾程度の威力しかない筈だが…
≪…
『…うん、最後まで戦おう。レイジングハート…』
≪
なのはの魔法はディバインバスター…なるほど、狙いが分かった。
となると、アレは全部演技か…声のトーンや体の動き、表情に至るまで随分真に迫っていたな。
『それがあなたの最期の魔法よ! あなたを始末して15個の私を取り返したら、次はあの金髪の魔導士をあなたの魔法で葬ってあげるわ!』
『…ごめんね…本当にゴメンね…』
『ディバインクラッシャー!』
『ディバインバスター…』
『『シュート!』』
そして二つの砲撃が衝突し…たかと思ったら次の瞬間に霧散するディバインクラッシャー。
唖然とした表情をしたジュエルシードの魔導士はディバインバスターに飲み込まれ…?
…今、一瞬電気が奔っていた様な…
「…と、こんな感じよ。」
「いや、戦闘終わっちゃってるんじゃないのさ!?」
アルフがツッコミを入れているが、最後に一瞬見えたスパークは…
「…最後にジュエルシードの魔導士が使ったのは、もしかして?」
「そうよ、フェイトさん。あなたの魔法…正確には飛翔魔法ね。」
やはりそうか。敵は俺と同じ速度で動く事が出来る…と考えて良いだろう。
だがそうなると一つ疑問がある…
「どう言う事? 私は彼女に会った事は無いはず。」
「厄介な事に彼女、どう言う訳かニュースの映像に映っていた魔法は最初から使えるみたいなのよ。」
想像以上に無茶苦茶な奴だな…映像越しにラーニングなんて対処のしようが無いじゃないか。
「…」
「それで、これが今の戦況よ。」
映像が切り替わり映し出されたのは、互いに『プロテクション』を纏って向かい合う二人…
「…あの子のプロテクション…」
「えぇ、二人とも相手の防御を崩せずにいるわ。なのはちゃんのプロテクションが硬すぎてね。」
この状況に割り込んで俺が出来る事…
「なるほど…ブリッツアクションで「ダメだよ」」
…割り込むようにアルフの声。
「リンディさんって言ったかい? 何処で知ったのか知らないけどね、あの魔法はフェイトにとっても負担が激しいんだ。
いくらジュエルシード回収の為だと言っても…例えフェイトがやるって言ってもあたしがさせない。」
「アルフ…」
何というか、少しむず痒いな。心配してくれているのが嬉しい半分、久しぶりに使いたかったって言う本音が半分…
「大丈夫、心配しないで。そんな危険な事をさせるつもりは無いの。…作戦を話すわ。」
「あなたも来たのね…金髪の魔法使いさん。」
「…魔導士、フェイト・テスタロッサ…」
ジュエルシードの魔導士…いや、ジュエルシードでいいか。映像のやり取りを見る限り、こいつはジュエルシードの意志で動いているようだからな。
…何よりジュエルシードの魔導士って毎回呼ぶのも面倒だ。
「2対1…この状況は流石に不利ね。私としては一度撤退したいなー…なんて。」
「逃がさない。ジュエルシードは回収する。」
形勢不利を悟ったジュエルシードは冗談めかして言っているが、恐らくは本心だろう。ここで逃がせば不利になるのは俺達なのは目に見えている以上、当然逃がす気はさらさらない。
「フェイトちゃん、相手の魔法は…」
「大丈夫、分かってる。…目の前で使用した魔法をそのままコピーして使用してくる。リンディって人に聞いた。」
なのはと情報を共有していると…
「速度は追いつけず、守りは貫けず、こちらの能力もバレた…片手落ちなんてものじゃないわね。
どう考えても撤退がベストなんだけど…この結界が邪魔ね。」
ジュエルシードがそう言って指先を俺達の左後方に向け…その指先に光が灯る。
「ディバインバスター」
「させない!」
「っ!? なのは!?」
なのはが砲撃の前に自ら躍り出て…どうやらしっかりプロテクションで防いだようだ。
そして、なのはが向かった方角を見て気付いた。
さっきのディバインバスターが狙っていたのは、ユーノと神谷だ。
どうやら二人を倒す事で結界を解除しようとしたようだが、放たれたディバインバスターはなのはに防がれた。…そしてなのはが無傷のプロテクションと共に現れる。
…あれ、おかしいな。時の庭園でしっかり鍛え直して来たのに、勝てるか分からなくなってきた。
「…やっぱり厄介な防御力だわ。でも、それは私の防御も同じ…仕方ないわね。あなた達を倒さないと撤退も出来ないのなら、いっそここで
どうやら逃げる事は諦めたらしいジュエルシードが、改めて臨戦態勢を取った。
ならば俺のやる事は一つだ。
≪Scythe Slash≫
ジュエルシードが
「ハァッ!」
高速で翔けて先ずは一撃! プロテクションに当たった衝撃をバルディッシュ越しに感じて確信する。
…この強度はなのはのプロテクションと同じだ。俺の攻撃では傷も付けられないだろう。
ならばと、先に隙を見つける立ち回りに変更する。バルディッシュを振る勢いを利用して回転、敵を中心に半時計周りに回り込む。この動きが既になのはに見破られている事は知っている…だからこそ、即席の連携にはもってこいだ!
≪
「シュート!」
俺が攻撃を加えた個所に、俺がその場を離れた直後にディバインシューターがヒットし爆発を起こす。それはまるで心が通じ合っているように、一切の間隙も生まずに延々と繰り返される。
普通の相手ならばコレで片が付くだろうが…
「無駄よ! そんな攻撃では、このプロテクションを破ることは出来ない! お返しよ、ディバインバスター!」
「…くっ!」
俺を狙って放たれたディバインバスターをギリギリで躱して距離を取る。
プロテクションで防ぎ、ディバインバスターで攻撃する…そんな単純な攻撃が何よりも恐ろしい。流石はなのはの魔法と言ったところだろう。
≪フェイトちゃん、聞こえる?≫
≪…大丈夫。≫
≪実はね…さっきのディバインバスターを防いだ時、私のプロテクションにはヒビが入ってたの。≫
≪! あなたのプロテクションにヒビが…?≫
≪うん、直ぐに張り直したんだけどね。でも、それはあの子も同じはず…私のディバインバスターも、あのプロテクションにヒビを入れられる。≫
≪…相手はその事を?≫
≪知らないと思う。だから…≫
念話を通しての作戦会議。それを悟られない為にも、攻撃の手を緩める訳には行かない。
3発目のディバインバスターを躱した辺りで作戦が纏まった。
≪…了解。≫
≪タイミングはバインドが成功したら…ね?≫
≪了解、隙は私が作る。…バインドのタイミングは任せる。≫
≪うん!≫
隙の作り方は既に掴んだ。問題はない。
「ハァッ!」
クロスレンジを保ち、回転の動きを利用して攻撃し続ける。
ジュエルシードも俺を振り払おうと砲撃を放つが、俺は奴の背後に回り、更に攻撃を続ける。
すると…
「くっ、ディバインシューター!」
奴は十中八九『ディバインシューター』に頼るのだ。
後はそれを至近距離を維持しつつ躱しながら攻撃し続けるだけで良い。
「フッ!」
「本当に化け物染みた反射神経ね…!」
奴がディバインシューターの操作と俺の動きに集中するあまり、周りが見えなくなったその時…
≪フェイトちゃん! 一度距離を取って!≫
「!」
合図だ。
打ち合わせ通りに全速力で距離を取る。
≪
なのはのレストリクトロック…レイジングハートの発音が極端に乱れるこの魔法は、指定した範囲内から逃げきれなかった者を全員、問答無用で拘束する上位魔法だ。
「! これは、バインド! でも無駄よ、こんな物は強引に…」
奴の体から発せられた蒼い光が、バインドの光輪を侵食していくが…
「ううん、これで終わり…レイジングハート!」
≪
「バルディッシュ!」
≪Yes, sir≫
そう、コレで終わりだ。
「ディバイン…!」
「サンダー…!」
俺となのはの様子を見たジュエルシードが焦り出すのが分かる。
侵食された光輪がボロボロと崩れていくのが見える。…だが、一手遅い!
「バスター!」
「レイジ!」
放たれた砲撃は混ざり合い、螺旋を描いて突き進む!
「プロテクション!」
バインドから脱出しきれなかったジュエルシードが、悪足掻きの様にプロテクションを張るが…
「こんな攻撃耐えきって…! ヒビ…っそんな!?」
不壊不朽を誇ったかの様に見えたプロテクションは、奴が縋ろうとした希望はあっけなく砕け散って…
「何故…何故!」
…最後のジュエルシードは封印された。
ジュエルシード蒐集パート、完結です!
次回はなのはとフェイトの休憩回を挟んで決闘フェーズに入ります。
プロットが何度も暴走しましたが何とかここまで…!(まだ無印)
長かったですが、クライマックスフェイズに移ります!(まだ時の庭園にも行ってない)
ここまで来たら道草の喰いようもないので一気に行くぞー!