本格的な戦闘は次回から。
決戦の日、俺はフェレット形態のユーノを抱えながら海鳴臨海公園を目指していた。
≪それでなのは? フェイトちゃんに勝つ為の秘策はあるの?≫
≪いや、切り札は用意したけど作戦自体はあんまり無いよ。出方が分からない相手にあれこれ想定しても逆に策に溺れそうだし。≫
フェイトは少し前、時の庭園に帰った際にプレシアの元で修行したらしい。それは当然、今日の決闘で俺を倒す為であり、戦い方から変えて来る可能性が高い。
フェイトの速度は脅威だが、そればかりに注意していると足を掬われる事にもなりかねないのだ。
≪切り札って言っても『スターライトブレイカー』でしょ? 今までの行動から考えて、あの子も多分転生者…敵の知っているカードを切り札にするのは、ちょっとリスキーじゃない?≫
≪まぁ…それはそうなんだけどさぁ…≫
そこで少し念話を区切り、後ろをちらりと見る。そこにはお馴染みの銀髪オッドアイ。
「ん? どうした、なのは。」
「何だ? 何か用か?」
「…トイレか? だったらあっちにコンビニが…」
「大丈夫、分かってるって…決闘は1対1。邪魔はしないさ。」
「あぁ、そう言う事か。」
いや、そう言う事でもないのだが…
≪ここの段階でスターライトブレイカー撃てるようにしておかないと疑われる可能性もあるだろ? …無理に使う心算は無いけどな。≫
≪…ま、皆が期待している事って言ったら、やっぱりスターライトブレイカーよね。≫
アニメの世界で原作キャラの戦闘に居合わせた時、何を一番『見たい』と期待するか…そう聞かれた時、なんて答えるだろうか? 俺は間違いなく『必殺技』と答えるだろう。
なのはのRPは確かに『高町なのはがこういう時にどういう行動をとるか』が大事だ。だが今の俺の境遇を考えた場合、『高町なのはとして期待されている行動』もある程度とる必要があるのだ。
『期待通りの高町なのは』であれば疑われる事も少ないだろうからな。
それに今になって思い返せば、原作知識を得た俺が『なのはの能力』を願った理由の一つには『スターライトブレイカーを撃ってみたい』と言う思いも間違いなくあった。
子供の頃、漫画の主人公の必殺技を真似したなんて経験は誰しも一度はあると思う。『かめ〇め波』『アバ〇ストラッシュ』『螺旋〇』…それを使える世界に来れたら?
…そりゃ使ってみたいじゃん?
≪いや、『使ってみたいじゃん?』じゃないわよ! …使うべき状況じゃないのに強引に使おうとすれば、逆にRPが崩れるわよ?≫
…念話に漏れていたようだ。
≪解ってる。あくまでスターライトブレイカーは勝つ為の手段の一つだ。そこは忘れてないよ。≫
≪なら良いけどね。≫
そんな調子で念話をしながらしばらく歩き、海鳴臨海公園の海の見える広場に到着した。辺りを見回すとフェイトとアルフは先に到着していたようで、海を眺める後姿が見える。
「フェイトちゃん! アルフさん!」
「…お? 来たね。…随分人数が多いけど、決闘の1対1は守ってもらうよ?」
「分かってるって。俺達は見学兼周囲の警戒だよ。」
「俺の場合は封時結界の事もあるけど…うん? そっちはアースラがやるのか?」
「ふぅん? …ま、それなら良いんだけどねェ。」
『どうやら揃ったみたいだな。』
みんなで話していると、クロノから通信が入る。
『今からその一帯に結界を張る。アースラに搭載されている特別強固な結界だ。
結界が張られた後に決闘を開始してくれ。』
「あ、やっぱり結界はアースラの方で張るのか。」
「クロノー! 観戦って何処ですればいいんだ?」
『決闘を観戦する方がおかしいとは思わないのか…?
観戦については各自自由にしてくれと言いたいところだが、一応管理局法では君達も一般人か…
…はぁ、仕方ない。今からアースラに転送する…おい、案内してくれ。』
『あ、はい。』
『…と言う訳だ。転送準備…いいな? はい、3、2、1!』
「ちょっ…」
投げやりなカウントダウンの終了後、結界が張られたのと同時に皆の姿が消える。どうやら転送がされたらしいが…クロノ随分と荒れてるな。こういう時はあっちの銀髪オッドアイ達が何かやらかしてるんだろう。俺には解る。
『決闘のルールをおさらいしよう。魔法は非殺傷設定のみの1対1、戦闘区域は海上30m沖までを含んだ海鳴臨海公園を囲う結界内。結界が破られる事は無いとは思うが、結界への意図的な攻撃は無しだ。ここまでは良いな?』
「うん。」
「…(こくん)」
『時間制限は無し、ただしルールを意図的に侵害する行為…特に『命の危険がある』とこちらが判断した場合、即座に決闘は中断させてもらう。そして、敗者は自らが持つジュエルシードの全てを勝者に譲渡する…何か質問は?』
「大丈夫。」
「…一つ、この結界に侵入した第三者が介入してきた場合は?」
『…現状こちらではそんな存在を確認してはいないが、確かに可能性はあるな。その場合はこちらで強制転移させて拘留する。…罪に問う事は難しいだろうが、決闘の邪魔はさせないと保証しよう。』
「うん、それなら良い。」
『ではここからは君達の決闘だ。双方の健闘を祈る。』
最後にそう締めくくり、通信が途切れる。
フェイトと正面から向き合うと、これまでの戦いの記憶が次々と思い浮かぶ。
「…ついにこの日が来た。きっとこれが、私が全力であなたと戦う最後の機会。」
「…最初は私の完全敗北だった。でも、皆と一緒に鍛えて追い付いて…」
「一勝一敗…この決闘で決まるのは、ジュエルシードの所有権だけじゃない。」
「うん、決着を付けよう。ここで全部! レイジングハート!」
≪
「ジュエルシードの事を抜きにしても、私は負けられない。色々教えてくれた、母さんとリニスの為に…バルディッシュ。」
≪Yes, sir. Set up.≫
互いにセットアップし、飛翔する。
「行くよ、レイジングハート!」
「勝とう…バルディッシュ。」
今、決戦の火蓋が切られた。
決闘の描写に入るとそれはそれで長引いてしまいそうだったので、ここで一度区切ります。
因みに今回クロノくんが荒れていた理由は
『船内の銀髪オッドアイ達が決闘の記録の為にはしゃぎ過ぎたから』です。