転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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最近投稿ペースが遅れ気味で申し訳ありません!


揺れる庭園、迫る刻限

突然の事だった。

時の庭園が大きく振動した事で体勢が崩れ、脚が止まってしまった。

 

「くっ…!」

 

機械兵の拳を寸前で回避し、カウンターに撃ち込んだスティンガーで脚の関節を砕いて距離を取る。

 

「今の振動は…?」

『クロノくん、聞こえる!?』

「! エイミィ、今の振動は何だ? まさか、もう次元断層が…」

『ううん、まだそっちは大丈夫…ただ、プレシア・テスタロッサが何者かと交戦中!

 そのせいで微弱な次元震が断続的に発生してる!』

「戦闘…!? 今回の作戦にプレシアとの戦闘は…」

『時の庭園には、正体不明の魔力反応がいくつか有ったでしょ…?

 その内の一つ…一番大きな魔力反応が魔導士だったの。』

「…第三勢力の介入だって…?

 しかも、一番大きな魔力反応って…」

 

あの反応が魔導士の物? バカな、あれほどの魔力量が人一人に扱えてたまるか…!

 

『クロノくん…』

「…解っている。多少の無茶は必要だが、最短距離を行こう。

 エイミィ、サポートを頼む!」

『うん!』

 

脚が砕かれ、何とか立ち上がろうともがく機械兵にトドメを刺しながらプランを練る。

プレシアと第三勢力と思しき魔導士の戦闘行為が継続されれば、いつ次元断層が発生してもおかしくない…

今までは魔力を節約していたが、どうもそんな状況ではないらしい。

 

「なのはに連絡は?」

『もう済ませてるよ。時の庭園の動力炉の封印はもう済ませてくれていたみたいだから、近い内に合流できると思う!』

「…わかった。」

 

本来は帰艦して貰うべきなのだろうが、状況が状況だ。なのはの魔力はいざと言う時の切り札になり得る…管理外世界の現地人であるなのはを巻き込むのは不本意ではあるが、ここは頼らせてもらおう。

 

「エイミィ、()()()()()の算出を頼む!」

『オーケー! 先ずはその通路を直進して5mのところにある階段を下りて!』

「了解。」

 

間に合うかどうかを考える段階はとうに過ぎてしまった。間に合わせるしかない…何としても!

 

 

 


 

 

 

目の前の光景を何と表現すれば良いだろうか。

嵐か自然災害か…そんな言葉では片付けられない地獄がそこにあった。

 

「ッ! …はぁ…リニスが張ってくれた結界があるとはいえ、目の前に雷が飛んでくるのはやっぱり怖いもんだねぇ。」

 

…リニスの奴、執事の奴から送られる魔力量が多いとは聞いていたけど…これほどなんて予想外だぞ!?

とは言え、リニスにも余裕がある訳ではなさそうだ。一見して互角にやり合っているようにも見えるが、よく見ればリニスの方が回避の動作が大きく、徐々にではあるが追い詰められている。

 

「不味いねぇ…このままだとリニスの方が持たないよ。」

「アルフさん、それは本当ですか!?」

 

…元執事か。リニスがあれだけ強くなっている原因は間違いなくこいつの魔力量だ。

つまりこいつは今のリニスを遥かに凌ぐ魔力を持っている筈なのだが…何でお前も結界の中に居るんだ。

 

「リニスの動きを見なよ。回避の動作が大きいだろう?

 対してプレシアはそれほど動いていない…アリシアの体を守る為でもあるだろうけど、そもそも二人の持つ余裕が違うんだよ。」

 

死病に罹っていてもこれだけの魔法戦を熟せる辺り、大魔導士の名は伊達じゃない。

流石に次元魔法は使っていないが、それでも魔力の扱い方に大きな開きがあるのが良く分かる。

 

「…そう言えばアンタ、プレシアの病の事…すでに知っていたんだよね?」

 

俺と同じ転生者なら、プレシアの病についても知っていたはずだ。

俺と違ってずっとプレシアの傍に居たこいつなら、この世界のプレシアも死病に罹っている事だって確信していたはずだ。

 

「そうですね…知っていました。」

「…プレシアの本当の計画についても知ってたんだね?」

「はい。」

 

なるほど、既に全部知っていてそれでもプレシアを止めに来たって事か。

つまり…

 

「って事は、あるんだね?

 プレシアをここから連れ出す方法が…プレシアの病を治す方法が。」

「あります。元々その為にここに来たのですから。」

 

俺の質問に目の前の元執事は、今までの質問の中で最も自信たっぷりにそう答えた。

 

「…聞いたかい、アリシア?

 あるんだよ。プレシアを、アンタの母親をちゃんと助ける方法が…」

「…ママを、本当に…?」

 

ずっと虚ろだったアリシアの目に、意志の輝きが再び灯る。

 

「あぁ、詳しくは知らないけど…元執事が言うには相当自信があるらしい。」

「教えて…! 方法を! ママを助けられるなら、私なんだって…」

「アリシア、一旦落ち着こう。冷静にならないと助けられるものも助けられないよ。」

「アルフ…うん。」

「アリシアさん、ご心配なさらず。私の望みもプレシア様を助ける事ですので。」

≪神宮寺、聞いてたかい?≫

≪え、何の話!? ここからは遠すぎて普通に会話聞こえないんだけど!≫

≪…あー、ちょっと待ってておくれ。≫

「あー…えっと、元執事?」

「…何でしょう。」

「私の仲間がさ、今ちょっと別行動してるんだけど…情報の共有もしたいし、念話でお願いして良いかい?」

「なるほど、了解しました。」

≪神宮寺! このまま念話で状況の説明とこれからの動きについて話すから、

 潜伏と念話はそのまま続けておくれ!≫

≪あぁ…俺からしてみたら何が何だかだから、先ずは現状を把握しておきたいところだ。≫

 

 

 

 

 

 

≪…なるほどな、大体の手順は解った。≫

≪しかし…そうなるとプレシアの拘束が成功するまではあたしが出来る事ってのは殆ど無いねぇ…≫

≪そうですね…本来は私とリニスさんのみで実行する筈の作戦でしたので…≫

≪まぁ、俺とアリシアの役割も念の為以上の物ではないしなぁ…≫

≪うん…≫

≪…そうだ、一つ確認しておきたいんだが…≫

≪はい?≫

≪お前のプランを実行するには『管理局員がこの玉座の間に居ないといけない』、『次元断層によって虚数空間が発生している』と言う二つの条件が必要と言ったな。

 理由を聞いても良いか?≫

≪先ず『管理局員の存在』に関してですが、プレシア様を迅速に管理局の船に転送していただく為です。

 相手は大魔導士です。魔力ダメージによる気絶を狙うのは難しく、不意を突いてバインドで拘束するにしても恐らくは数秒~十数秒が限界でしょう。ですから拘束後は一秒でも早く時の庭園から離す必要があるのです。

 その後は時の庭園が飲み込まれるまで管理局の船で拘束できれば、プレシア様が虚数空間に飛び込む方法は完全になくなりますから。≫

≪…なるほどな、そうなると二つ目の条件もその為か。

 虚数空間を開くには膨大な魔力が必要になる…それこそジュエルシード6個では足りない程の。

 それを補っている時の庭園がある限り、プレシアは第二、第三の計画を立てる事が出来る…か。≫

≪はい、『虚数空間の発生』が必要な理由の一つはお察しの通り、プレシア様の計画成就の()()()()()()()を『今』に限定する為です。

 虚数空間が開いてしまえば、時の庭園が無くなる事だけは確実ですから。≫

≪…その言い方からするに、本題は別か。≫

≪…プレシア様の計画は元々、『フェイト』を兵器の名前にしない為の物。

 その計画の一部だけでも…時の庭園中に存在する『アリシアお嬢様の生体情報の抹消』だけでも成就させてあげたい。

 言ってしまえば、私の我が儘です。≫

≪セバスチャン…ありがとう、ママの為に…≫

≪いえ、フェイトお嬢様を生み出す研究には私も携わっておりました…

 研究に縋り、体を壊してまでプレシア様がこの世に生み出した願いの結晶を、無粋な輩に汚されたくないのです。≫

≪なんか…プレシアの計画と目的は一緒なんだねぇ。≫

≪そうですね、プレシア様はご自身も消し去る事で永劫にその可能性を消し去ろうとしています。

 私の場合はご存命のプレシア様に、自らの手でお二方を守っていただきたい…それだけの違いです。≫

≪そう言う事なら俺としては文句無いが…()()()()()()()()()()()()()がそれに納得してくれるかどうかだな…≫

 

今後の動きに関してはある程度固まった。

問題はやはり二つの条件を満たせるかと言う事と、それまでにリニスがやられないかと言う事だ。

今度の作戦ではリニスが重要な役割を担っている。だが、そのリニスは今…

 

「どうしたの? 貴女はもっと優秀だった筈よ?

 管理外世界の生活に浸かっている内に腑抜けたのかしら!?」

「…くっ、言ってくれますね…!

 二人との生活は私にとって何物にも代えられない輝かしい思い出です!

 例えプレシアでも侮辱する事は許しませんよ!」

 

プレシアの放つ無数のフォトンバレットはこの部屋の至る所から遠隔発生されており、その狙いは一つ一つが正確無比の凶弾だ。

リニスも回避の合間に夥しい量のフォトンランサーを飛ばしているが、その攻撃の尽くは空間に発生した謎の歪みによってかき消されてしまっている。

これでは勝負にならない。放つ魔法の数こそ拮抗しているものの、その戦闘の実態は残酷なまでに一方的な物だ。

 

≪アルフさん、何か考え事ですか?≫

≪…いや、プレシアの防御魔法に関してちょっとね…≫

 

プレシアを圧倒的優位に立たせているのは正体不明の防御魔法…アレの正体を掴まない事には俺達の計画だって成功するかどうか…

 

≪ああ、あの魔法ですか…≫

≪…知ってるのかい?≫

≪次元魔法の一種だと言う事は見当が付きます。

 後は、オートでは無い事と…恐らく周囲全体を覆うタイプではないだろうと言う事しか…≫

≪…バインドを防げるタイプでは無いんだね?≫

≪手元から放つのではなく、プレシア様の周囲に発生させる分には問題無いかと思われます。≫

≪ちなみに根拠は?≫

≪根拠と呼べるほどの物では無いかも知れませんが、プレシア様の眼の動きを見てください。

 リニスさんは大きく動き回っている為、放たれるフォトンランサーの方向は毎回違います。

 プレシア様はその放たれる方向を、一瞬だけ…しかし必ず目で確認しているのです。周りを覆えるのならその必要は無いでしょう?≫

 

…なるほど確かにフォトンランサーが発射される一瞬だけだが、プレシアの視線はリニスから離れてフォトンランサーに向いているように見える。

 

≪へぇ…よく見てるね。≫

≪私もこう見えて必死ですからね。

 リニスさんにも念話で伝えてはありますが、後々の為に今は気付いていない振りをしてもらっているんですよ。≫

≪まぁ、それなら後はやっぱりタイミングだけか…

 局員が来るより先に虚数空間が開かないと良いんだけどねぇ。≫

 

あの防御魔法を張られたまま飛び込まれちゃ、防ぐ手段がバインドくらいしか無い。

でも拘束はそう長い間持たない…クロノが間に合うと良いんだけど。

 

≪…アルフさん、そう言う事をうっかり口にすると…≫

≪え?≫

 

その時、時の庭園が大きく揺れる。

今までだって二人の戦闘の影響で散々揺れていたが、これまでの揺れよりも遥かに大きい!

 

≪…いや、あたしの所為じゃないよね? コレ…≫

≪まぁ、タイミングが合っただけでしょうけどね…≫

 

玉座の間の床が一部崩れ、その隙間からは黒い靄の渦巻く異界…虚数空間が覗いていた。




一期分も終盤です。
大体あと5話くらいで一期分が終わるかなと思います。
その後は空白期の短編…と言ってもヴォルケンズが来たのってPT事件のすぐ後なので、多くても5話くらい? の予定です。
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