転送魔法の光が収まると、俺達は銀髪オッドアイ達に囲まれていた。
「良く帰って来たな神宮寺!」
「よくも抜け駆けしてくれたな神宮寺!」
「あぁ、何とか生きて帰れたよ。」
そう言いながら遠慮無しにもみくちゃにしてくるこいつらの表情には、暗い感情は見受けられなかった。どうやら言葉とは裏腹に悪感情は向けられていないらしい。
きっとなんやかんや言って心配してくれていたのだろう。
「なのはも無事で良かった! 心配してたんだぜ!」
「勿論俺も心配してたぞ!」
「まぁ、一番心配してたのは俺なんだけどな!」
「あ、ありがとう! えっと…皆!」
…俺となのはに対する言葉は一応同じ意味で発されたのだと思うのだが…何だろうなこの扱いの違いは。
まぁ、女の子と男友達じゃあこんなもんだろうが。
「神宮寺!」
「…神場。」
俺を取り囲んでいた奴らがなのはの方に行った後、神場のやつがしたり顔で表れた。
「どうやらお前が『産業廃棄物』だの『リサイクルしようの無いゴミ』だの散々言ってくれたあの魔法…役に立ったようだな!」
「俺としては未だにアレを魔法と呼んで良いのか判断に困るが…まぁ、サンキューな。」
正直アレに頼る事があるとは思わなかった。どういう経緯で魔法が物質化したのかは不明だが、アレが物質としての側面を持っていたからこそプレシアを少しだけ押し戻せたのだ。そこについては素直に感謝しよう。
「へっ…良いって事よ。…ホラよ。」
「お前、コレ…」
「いつか
そう言って神場が俺に握らせたのは、あの忌々しい不気味な謎物質だった…
「…要らねぇよ!? 何でまた作り出してんだお前は!?」
「え、見てたぞ? お前あの時持ってたコレ全部使い切っちまってただろ。
残弾補充…な?」
「
こんなもんの使い時がそう何度も有ってたまるか!」
「えぇ…ま、王の財宝って容量無限だろ。持っとけ持っとけ。」
コイツ、軽々しく言ってくれるな…確かに容量に制限は無いっぽいが…
…
「お、入れた。」
「…まぁ、手段は多い方が良いからな。」
「…男のツンデレは需要ないぞ?」
「ツンデレじゃねぇよ!?」
転送魔法でたどり着いたのは、アースラの転送ポート…だろうな。初めて来たから確証は無いが。
「ここは…時空管理局の船でしょうか。」
「あぁ、先ずは艦長に報告が先だ。 …済まないが、道を空けてくれないか。」
「何処へ行くつもり? クロノ。」
突然背後から声をかけられたクロノは慌てて振り向く。
「よくやったわねクロノ、お手柄よ。」
そこに居たのはリンディ提督だ。どうやら俺達と一緒に転送されてきたらしい。
…もしかして時の庭園に来ていたのか。
「…艦長!? 何故…」
「あの後私も時の庭園に出向いたのよ。次元震の影響を抑える為にね。
もっとも貴方達に追い付く前に、作戦は完了してしまったみたいだけれど…」
リンディ提督はそう言うと、今だアリシアに抱き締められるような形で
「…貴女がプレシア・テスタロッサさんね。
事件の動機についてはエイミィから聞いています。」
「…知っているのなら話は早いわ。まだ間に合う…私を直ぐに時の庭園に転送しなさい。
貴女も子供を持つ親なら、私の気持ちは解るでしょう!?」
「そうね、私も自分の研究が原因でクロノを兵器のように造られるなんて…絶対に許容できない可能性だわ。」
「だったら早く…」
「でもね、それはこの子達も同じよ。
貴女が母親だから、家族だから…きっとこの子
自分や自分の妹を
「…っ!」
その言葉を聞いたプレシア様はハッとした様子でアリシアに目を移した。
「ママ…」
「…アリシア…フェイト…」
互いに見つめ合った事で思いを理解したのか、プレシア様の目から抵抗する意思が消えた事が分かった。
「…一緒に探しましょう。貴女達家族がもう一度健康に笑い合える日常を手に入れる方法を。
例え罪を背負ってしまっても、しっかりと償った後でやり直す事は可能なはずよ。
少なくとも貴女の罪は償っても償い切れない程ではない…私はそう思うわ。」
「…フ、フフフ…」
「…プレシアさん?」
「良いわ。私の負けよ…好きにしなさい。」
そう言ってリンディ提督を見るプレシア様の表情は、まさに憑き物が落ちたような表情だった。あるいは何かを吹っ切ったのかもしれない。
「ただし、これだけは誓ってくれる? もし私が病で死んだら、遺体は修復不可能な程に破壊して欲しいの。
事件の動機を知っているのなら、何故かは言わなくても分かるでしょう?」
「…良いでしょう。」
「っ!? 母さん!?」
付け加えられた条件をリンディ提督が飲むと、クロノが信じられない物を見るような目でリンディ提督を見る。
遺体を破壊する行為は、死者の冒涜として見られるばかりではない。実行する者の心も傷付ける上に、それを管理局員に行えと言うのだ。
そんな要求を呑んだ母が信じられないのだろう。
「良いのよ、クロノ。彼女の動機を考えれば、これくらいの要求は当然だわ。」
「しかし…!」
「それに、治す当てはあるのでしょう?」
そう確認する様なリンディ提督の目が俺に向けられる。クロノに伝えた内容がエイミィを通して伝わっていたのだろう。
「はい。方法や時期は誰に頼むかで変わりますが、その内の一人は私も知る人物です。
その場合は完治に1ヶ月程要しますが、彼に任せれば病で死ぬと言う事はまず無いでしょう。…少々、
俺は伝えられるだけの事を伝える。
「…君が言うには、最短で今日中にも治せる可能性があると言う事だったが?」
「はい。それはまぁ、この船に乗っている方の中に
「それは勿論、医療のスペシャリストと言う意味ではないのだろう?」
「はい。一般的な医療で治る類のものではないでしょう。
…
今日中にプレシア様を治せる可能性と言うのは、要するにその類の特典を持った転生者がこのアースラに配属されている場合だ。
可能性は高くはないが、もしかしたらと言う程度にはあると思う。次元間航行を行う部隊である以上、遠い次元世界で局員が負傷した場合や現地特有の病に罹る可能性を考慮して優れた船医を乗せていても不思議ではないからだ。
「…解った。一人心当たりがある…話を聞いてみよう。」
「はい、よろしくお願いします。」
クロノの言う心当たりが俺の思うそれである事を今は祈ろう。
…違った場合はまぁ、元々当てにしていた
「…うん、これで一件落着ね!
そろそろ移動しましょう、いつまでも転送ポートで長話するものじゃないわ。」
リンディ提督のその一言で、この場は解散となった。
…そう言えば周囲を銀髪オッドアイ達に囲まれてたから気にならなかったけど、ここってまだ転送ポートだったな…
「アリシア、もう大丈夫よ。逃げたりなんてしないから放してちょうだい。」
ママがそう言って腕に手を添える。
「…うん。」
「ありがとう、アリシア。」
久しぶりにママに触れる事が出来たので少し心惜しいけれど、いつまでもこうしている訳にも行かないので大人しくママを解放する。
「アリシア、ママはこれから管理局の人達とお話があるから…良い子にして待っていてね? また後でお話ししましょう。」
「もう、私はもうママが思ってる程子供じゃないんだよ?」
「ふふ…そうね。じゃあ行ってくるわ。」
そう言うとママはリンディ提督と船室に入って行った。きっとこれからの裁判について話すのだろう。
<私達の状態も何とかしなきゃだね、フェイト。>
<そうだね…私も流石にこのまま自由に動けないのは嫌かも…>
「…フェイトお嬢様。」
「えっ、アンジュ?」
フェイトと心の中で話していると、アンジュに声をかけられた。思い返せば私が生きていた時もこんな風に話しかけられた事は無く、随分と新鮮だ。
「こちらへ…」
「ちょっ…アンジュ!?」
アンジュは少し…随分強引な感じに手を引いて来ており、私はアースラの船室に連れ込まれてしまう。
<フェイト、アンジュに何かしたの!?>
<わ、私には心当たりは無いけど…>
「フェイトお嬢様に心当たりが無いのは当然です。…これは私達の方の問題なので。」
「えっ!?」
…今、私とフェイトの会話を聞いたの? この会話は誰かに聞き取れるものじゃないと思ってたけど…
「先ずは先にお詫び申し上げます。…フェイト様。」
「…さっきの感じだと、フェイトに対してって事で良いんだよね?」
「はい。」
<えっと…お詫びって何の事? 心当たりが無いんだけれど…>
「って、フェイトも言ってるけど?」
「…そうですね。こちらの話を現地の方に聞かせるのは問題ですが…この場合は致し方ないでしょう。」
随分と勿体ぶるなぁ…まるで漫画や小説に出てくる秘密結社みたい…
「フェイト様、私は神に仕える天使の一人でございます。」
…なんかとんでもない事言いだした…
<…つまりアンジュ達天使は、転生者が転生後に理不尽な不自由を被らない様にサポートしてくれていたんだね?>
何度考えても凄い話だ。この世界に天使が百人以上居るなんて…
…神様って結構過保護?
因みにこの会話は誰かに聞かれる事は無い。と言うのも、今話している私達以外の時間が止まっているらしいのだ。
室内に置かれている時計は常に同じ時刻を刺し続けているし、放り投げたクッションは空中で止まってしまった。これも天使の力らしい。
「はい。本来は不自由を感じさせる前に対処するのが正しかったのですが、この度はフェイト様の状態に気付いた時には既に遅く…僅かな時間とは言え、自らの意志で動けないと言う不自由を被らせてしまい申し訳ありませんでした。」
<だ、大丈夫だって! 結果的には上手く行ったんだし…それに、天使が介入するのって『転生者同士』の問題でしょ?
アリシアは転生者じゃないし、仕方ないよ。>
「ありがとうございます。しかし、これはこちらの不手際ですので後々何かしらのご要望があればお申し付けください。天使の領分として許される範囲で
何か本当に凄い事になった。天使の力を一回だけとは言え貸してもらえるって事じゃん。
確かフェイトの前世で似た知識があったはず…詫び石って言うんだっけ?
「だって。得したね、フェイト! 詫び石じゃん!」
<アリシア…そう言う言い方は…>
「そうだ! アンジュ、私達の状態を何とかできるロストロギアって無い?」
天使ならこの世界について神様の次に詳しいはずだ。それだったら解決の方法だって…
「お二方の現状を解決する手段は残念ながらこの世界にはございません。」
「えっ…無いの? 次元世界のどこにも!?」
「はい、転生者に付与される能力に関しましても『魂』と言う物に関わる能力は禁じられておりますので…そちらの方でも解決は不可能でございます。」
どうしよう。神様の次にこの世界に詳しい人に否定されちゃったら…
<って事は、アンジュがこの状態を何とかしてくれるんだよね…?>
「はい、その為にこの度は少々強引な手段を取らさせていただきました。」
「なんだ…そう言う事なら早く言ってよ。凄い焦っちゃったじゃない。」
「申し訳ございません。」
なんだ、この場で解決できるんじゃない。…それもそうか。天使が直接会いに来たんだから、問題の解決に出向いたって方が自然だもんね。
色々あったから頭が回らなかったや。
<…因みになんだけど、何とかするって具体的にどうするの?>
「はい、現状フェイトお嬢様の魂と融合しかかっているアリシアお嬢様の魂を…
「…え?」
アンジュが告げた言葉に、回らなかった頭が更に真っ白になった。
<…回収?>
「はい、回収して輪廻の輪に戻す…分かりやすく言うと成仏…でしょうか。」
<待って! 成仏って、じゃあアリシアとはもう…>
「…本来、死した者の魂は遅かれ早かれ未練を断ち成仏するものです。
今回の事は本当に想定外が連続して起こったイレギュラーなのですよ。」
<だからって…!>
アンジュの言葉で思い出した。そう言えば私は幽霊だった。
この数ヶ月間フェイトの中から見てきた景色はどれも新鮮で、この数時間フェイトの身体での体験は生前のそれよりも刺激的だったから忘れてしまっていた。
…私は死者だった。
「うん…解った!」
<アリシア!?>
「フェイト、分かるでしょ? アンジュの言う通り今の状態がおかしいんだよ。
死んじゃった私が20年以上現世に留まって…その後に妹の身体で動いてるなんてさ。」
<でもアリシアは良いの!? 母さんが言ってたじゃない! 後で話そうって!>
「っ!」
『アリシア、ママはこれから管理局の人達とお話があるから…良い子にして待っていてね? また後でお話ししましょう。』
…フェイトのバカ! 思い出しちゃったじゃない! せっかく忘れようとしてたのに!
「あはは…私、ちょっと悪い子だったみたい。
ママに嘘吐いちゃった。」
<アリシアっ!>
ダメだ、このまま話してたらきっと自分で決められなくなる。
私はもう20年以上幽霊で過ごしてる。生きてたらもう既に大人なんだ。自分の事は自分で決めるんだ。
「…うん、良いよ。アンジュ、やっちゃって。」
<アリシアッ!>
「私がこう言うのもおかしいとは思いますが…本当によろしいのですね?
最期に母と話すくらいの時間は取れますが…」
「うん…さっきアンジュも言ってたでしょ?
『死んだ人は未練を断ち切って成仏するんだ』って。
ママと話したら…きっとまた未練が出来ちゃうよ。」
「…分かりました。」
自分で言ってて気づいた。…私、今、あの時のママと同じ事言ってるんだ。
…本当にママに似て育っちゃったんだなぁ、私。…フェイトもそうなのかな?
<アンジュ!? 待って! 私はこのままでも良いから…>
「申し訳ありませんが、そう言う訳には行きません。
転生者に不自由を被らせないと言うのは、我々の義務ですから…」
<アンジュ!!>
「…
<…アンジュ…?>
アンジュがフェイトにそう告げるとフェイトが静かになった。
…怒らせちゃったのかな。…ゴメンね、フェイト。
「…アリシアお嬢様。伝言等あれば…」
「…うん。
フェイト、私が居なくなっても泣かないでね!
後、ママとアルフとリニスに『大好きだ』って伝えてね!
それと神宮寺に『ありがとう』って言っておいて!
…大好きだよ、フェイト!」
うん、伝えたい事はこれくらいかな。
普通死んだ後に大好きって伝えられる事も、ありがとうって言えるような友達も出来ないよ。
…うん、私は幸せだった。
<アリシア…>
「…よろしいですね。では」
<! アンジュ! 『要望』! 今使うから待って!>
「フェイト!? でも…」
<アリシアの魂を私の中に残して、今まで通りに二人で話せて、私も動けて、それでアリシアも動ける感じに出来ない!?>
「…二重人格の様な感じでよろしいでしょうか?」
「フェイト、待って!」
<待たない! それで良い! 出来る!?>
「…神に確認が取れました。許可が出ましたので、ご要望とあれば。」
<うん! やって!>
「フェイト、ちょっ…」
「了解いたしました。」
再三の私の制止も聞かず、フェイトは要望を使ってしまった。
…やっぱり親子って似るんだなぁ。ママもフェイトも頑固者だ。
「では、私はこれにて…」
事が済んだらアンジュはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
…こう言う所はホント変わらないなぁ。無駄が無いって言うか機械的って言うか。
クッションが地面に落ち、ポスッと小さな音を立てる。時間も正常に動き出したらしい。
「…アリシア、居る?」
<…居るけど…>
フェイトの問いかけに渋々答える。
「良かった…もう、あんな勝手な事は許さないからね。」
<………うん。>
「何、文句あるの?」
文句…と言う訳ではないけど、色々言いたい事はある。
本当に今要望を使っても良かったのか、後々にもっと必要になる場面が有ったんじゃないのか。
使っても良かったなら良かったで何で恥ずかしい遺言を言う前に思いついてくれなかったのか。
…本当に色々言いたい事はあるけれど、今一番言いたい事は…
<いや…どうせなら新しく私の身体を作って貰えば良かったんじゃないかな? って…>
やっぱりこれだよね。
「…」
<…>
「…何でもっと早くに言ってくれなかったの!?」
<言おうとしたよ! でもフェイトが止まらなかったんじゃん!>
「ぅあぁぁあぁ…」
フェイトが顔を両手で覆いながらその場にしゃがみ込む。
後悔している訳ではなく、単純にその発想が出来なかった事が恥ずかしいのだろう。
本当に私とフェイトは似ている。焦ると視野が狭くなったり、『こう』と決めると止まらなかったり。
…まぁ、それでも
<…まぁ、この状態も私は結構気に入ってるし、フェイトが良いんだったら私は良いよ。…ありがとね。>
「…ぅん。」
こうして私達の問題も無事に解決し、PT事件と呼ばれる事になるこの一件は物語に描かれたよりも幸福な結末を迎えたのだった。
「申し訳ございません、一つ申しそびれておりました。」
「ひゃうっ!?」
扉を開けてアンジュが戻って来た。あっ、時間もまた止まってる!
「魂を分ける際に魂と密接に関係があるリンカーコアも増やしてあります。所謂必要な処置と言う事で。
それぞれ対応するリンカーコアがありますので、ここで慣らして行きますか?
特にアリシアお嬢様は随分感覚が変わるかと思われますが。」
えっ…
この後滅茶苦茶練習した。
リンカーコアが魂と密接に関係すると言うのは捏造設定です。
個人で色が違い、心臓のような臓器とは違い物理的に体内に存在する訳ではない為、これでもおかしくはないかなと。
(本音はこのままだとなのはさんに置いて行かれそうなフェイトさんの強化の為)
アリシアのリンカーコアの魔力は青色(水色?)です。変換資質は持たずフェイトさんよりも出力は弱いですが、一時的に融合していた影響でフェイトさんよりちょっと弱い程度です。(要するに鍛えれば超一流の魔導士になれる)
因みに今回アンジュが使用した時間停止を始めとする強力な能力は『緊急時』に『必要と判断した天使』が『神様にオーダー』する事で『一時的に』使用可能となる能力です。
DIO様のザ・ワールドとは違い、時間制限や使用間隔の制限はありません。
更に任意の対象を動けるようにしたりも出来る万能能力です。チートですね。
後もう一つだけどうでも良い情報を一つ。
セバスチャンは緊張すると「はい」を良く言っちゃうタイプの人です。