転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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短編なら直ぐに書き終わる…そう思っていた時期が私にもありました。(慢心)

一期分が完結したので章を分けてみました。
以前に書いた文章、今と明らかに書き方が違う…ちまちま直して行こうかなぁ…


一期~A's編の空白期
短編その1


海鳴市の公園。

俺の目線の先には三脚に取り付けられた録画中のビデオカメラと、そのすぐ後ろのベンチに座りこちらを見守るアリサとすずかが居た。

 

「えっと…フェイトちゃん、アリシアちゃん。お元気ですか?

 私は元気です。」

 

…なんだこの小学生の手紙の一文目みたいな出だしは。

俺はアリサに頼んでビデオカメラの録画をし直してもらい、もう一度最初から話し出す。

 

「フェイトちゃん、アリシアちゃん…えっと、お元気ですか?」

 

くそ、もっと頑張れよ俺の語彙力!

…駄目だ、このままだとさっきのと変わらない。えっと…

 

「私、は…元気…です…」

「カット」

 

アリサ監督から問答無用のカットが入る。理由はもちろんお分かりですね!

 

「…ゴメンね、アリサちゃん。」

「いや、何に謝ってるのかは知らないけど…とにかく、一度落ち着きなさい。

 先に話す内容を固めましょ?」

「私達も一緒に考えるから…ね?」

「うん…」

 

話したい事はある程度決まっているのだ。あの後プレシアさんの調子はどうかとか、俺は今も皆と魔法を鍛えているとか、また会える日を楽しみにしているとか…

ただ、どうしてもそこに行きつくまでが小学生の手紙の一行目になってしまう。

実際今の俺は小学生だし最悪の場合そのまま送っても問題無いかも知れないが、いかんせん()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

ここは一つビデオメールもピシッと決めておきたいじゃないか…

 

…いや、別に正体を話した事を後悔なんてしてない。こんな事であの時の覚悟を撤回してたまるか!

 

 


 

 

「確か、この部屋だよね…」

 

時の庭園から地球へ戻る途中のアースラ。とある部屋の前で俺はゆっくりの深呼吸をすると、コンコンとドアをノックした。

 

「…はい。」

「あ、フェイトちゃん? 私、なのはだけど…今話せる?」

「なのは? …うん、今開ける。」

 

先程クロノから教えて貰ったのだが、診察の結果プレシアの病は治せるとの事だった。

ただしこの船の設備では不十分らしく、管理局の本部に戻ってから本格的な治療を開始するらしい。

今はプレシアも大事を取って安静にしているので、フェイト達と話すなら今の内だと教えてくれたのだ。

 

「お邪魔します。」

「うん…いらっしゃい?」

 

フェイトに割り当てられた部屋は見るからに一人用と言った感じで、必要最小限の物のみが置かれたこじんまりとした一室だった。

 

「フェイトちゃん、プレシアさんの病気治せそうなんだって? 良かったね!」

「うん。でも管理局の本部までは絶対安静だって。

 …次元魔法を使った反動が思ってたよりも大きかったみたい。」

「そうなんだ…」

「あ、でも安静にしていれば命に別状はないって。」

「そうなの? 良かった…

 …それで、ここに来た理由なんだけど…今の内に話したい事があって。」

「私に?」

「うん…秘密の話だから念話で…良い?」

「うん。」

 

俺がこの部屋に来た理由…もちろん、俺の正体を話す為だ。

真実を話すかどうかは迷った。フェイトが転生者である事は多分間違って無いと思う。

戦い方が違う、雰囲気が違う、時々口調も違っていたらしい。…でも万が一と言う可能性はいつだってついて回るものだ。

 

真実を話したらフェイトは俺をどう思うだろうか。もしもフェイトがなのはに会う為に転生して来ていたら…いや、そもそも別の転生者の影響で戦い方や口調が変わっただけで、実はフェイト本人だったら…

嫌うだろうか? 蔑むだろうか? 変な奴と思われるだろうか? それとも…

…いや、もうここまで来て後には退けない。秘密の話をすると、既に言ってしまった。

 

 

…ええい、ままよ!

 

≪実は………俺も転生者なんだ。≫

≪うん。≫

 

 

…いや、それだけ? 俺結構伝えるのに覚悟要ったんだけど…

 

≪えっと…はい。高町なのは、転生者です…≫

≪? …ああ! うん、フェイト・テスタロッサ。転生者です。≫

 

違う、そうじゃない。いや、そうじゃない事も無いんだけどそこは本題じゃない。

…えっ、反応軽くない? え、バレてた? 嘘、もしかして割と皆にバレてた?

 

≪…もしかして、バレてた? 俺のRP(ロールプレイ)に変なところがあったなら聞かせてほしいんだけど…≫

≪ううん、今初めて知ったよ。…て言うか、RPしてたの? ずっと?≫

≪えっ? うん、実は…≫

 

…俺はとりあえず全部話した。どうしてなのはRPをしようと思ったのか。ユーノが転生者だとバレたときにどうなったか。…その経験から絶対に正体がバレない様にしようと決意した事も。

 

≪…そう、そんな事があったんだ。≫

≪うん。だから色々バレない様に頑張ってたんだけど…≫

≪…最初の頃の私と似てるね。≫

≪えっ?≫

≪私もね、最初はなのはと同じように『フェイトらしく』生きようと思ってたんだ。

 私の場合は母さんにバレたら何をされるか分からなかったからなんだけどね…≫

 

だけど…と続けてフェイトは語りだす。リニスと最期の別れになると思った時に、初めて自分の秘密を打ち明けた事。その秘密を受け入れて貰い、この世界のフェイトの代わりに自分が収まったのではなく、自分がこの世界のフェイトとして生まれたのだと教えてもらったこと。

 

≪…それから私は自分らしく、フェイトとして生きるって決めたんだ。≫

≪…そうなんだ。≫

 

『自分らしく、フェイトとして生きる』か…

パッと聞いた感じでは俺のRPと大きな差は無いようにも聞こえるが、フェイトの在り方は俺と大きく異なる。

俺との初戦闘でフェイトは自分の最高速度を隠さなかった。

俺との最後の決闘でフェイトは『ファランクスシフト』ではなく、『次元魔法』を使った。

フェイトは『原作でフェイトがどう動いたか』だとか『フェイトだったらどう動くか』を考えず、自分の考えで行動を選んでいる。

俺は『なのはらしい行動』を意識するあまり、魔法も自分の意思も自由に表に出せる事が少ない。

そう考えた時、フェイトの在り方が羨ましく思った。

 

≪そう言えば、なのははどうしていきなりそんな話を?≫

≪…自分が自分でいられる相手が欲しかったんだ。

 友人でもライバルでも良いから、ただ知っていて欲しかったんだ。

 …それで受け入れて欲しかった。≫

≪…なのはは無理して『今のなのは』を演じてるの?≫

≪え?≫

≪自分のしたい事を諦めて、『高町なのは』に合わせて生きてきたの? なのはに自由は無かったの?≫

 

問いただすようなその言葉で、俺は今までの事を振り返る。

俺の自由…この8年間、正直自分の意思を出せない事は多かった。

それは口調を女の子らしくするだけにとどまらない。

なのはが知らない事は口に出せないし、なのはのイメージに合わない趣味は隠さないといけない。

ジュエルシード事件でも原作の知識を基に行動するにはユーノの協力が必要だった。…そのたびに窮屈に感じた事は確かだ。

皆が自由に出せる自分の考えを、俺が出せない事をもどかしく思ったのは1度や2度じゃない。

 

…でも俺だって全部なのはの行動に合わせた訳じゃない。

アリサとすずかと友達になった切っ掛けは確かに『なのは』に合わせたものだったが、それ以降の付き合いは全て自分の意思だった。

面白い話で笑いあったのも、すずかの家でのお茶会も、二人との時間が楽しいものだったからに他ならない。

ジュエルシードの事件で中々会えない事に寂しさを感じた事もあったし、久しぶりに集まって遊べた時は楽しかった。…その思い出のどこにも嘘は無かったし、二人との間に感じる友情は『俺』のものだ。

 

≪…いや…思い返してみると、案外俺も自由に話せる時間は多かったかもしれない。

 口調こそ『なのは』を意識しない時間は無かったけど、アリサやすずかと話している時は俺も心から楽しんでたな。≫

≪…うん、だったら無理に前世を話すかどうかで悩む必要は無いよ。

 それにもうちょっと自分を出しても良いと思う。

 それで文句が出てくるようだったら『俺がこの世界の高町なのはなんだ!』って、開き直っちゃえば良いんじゃないかな?≫

≪そ、そこまでは流石に勇気が出ないかな…≫

≪ふふ…まぁ、それは冗談だけどね。

 でも『高町なのは』が『高町なのは』であり続ける必要は無いと思う。

 人は成長の過程で色んなものの影響を受けるでしょ。

 例え今私の目の前に居るのが『高町なのは』だったとしても、その子は周りに居る銀髪オッドアイ達の影響をきっと受けてると思うよ。

 彼らに似て楽観的になるのか、反面教師にしてより真面目になるのかは分からないけどね。≫

≪…そう、かも知れないな。≫

 

俺はもしかしたら『なのはRP』と言うものを難しく考えすぎていたのかもしれない。

なまじ『原作知識』という特典を貰ってしまったばかりに、言えない事が増えた。

そんな()()を自分の意思にまで反映させて、自分で自分を閉じ込めていたのだ。

 

≪…なんて言うか、フェイトは凄いな。≫

≪私が凄い…?≫

≪今こうして話していてもさ、なんて言うか違和感が無いんだ。

 確かに知識にあるフェイトとはちょっと違うけど、それでもやっぱりフェイトがフェイトだって感じる。≫

≪…あまりピンとこないけど、それを言うならなのはもだよ。

 なのはもちゃんと『この世界のなのは』だと思う。

 今は自信が無いのかも知れないけど、ちゃんと受け止めてくれる人はいっぱいいると思うよ。≫

≪うん、ありがとうフェイト。俺もどうすれば『なのはとして』生きられるか、考えてみるよ。

 …ごめんな、別れの前なのにこんな悩みにつき合わせて。≫

≪あ…ううん、なのはが地球でどんな風に過ごしてきたのか知る事が出来て、私も嬉しかったよ。≫

 

 


 

 

「…って感じで、魔法の練習は欠かして無いよ。

 フェイトちゃんもアリシアちゃんも強くなってると思うけど、私だって立ち止まるつもりは無いから。

 また会える日を楽しみにしてるよ。」

 

…こんな感じだろうか?

フェイト達に向けたメッセージは何とかそれっぽい形になったと思う。

三脚に近寄り、ビデオカメラの録画を停止して映像を確認する。

 

「…うん、ちゃんと撮れてる。」

 

友達と言うよりはライバルに向けた感じが強くなってしまった気もするが、きっとこれがこの世界の俺達の関係なのだろう。

遠く離れた友達(ライバル)と互いの訓練状況を報告し合う事で、お互い訓練に身が入るだろうというものだ。

 

「ねぇなのは、そのフェイトって子は例の魔法の宝石騒動の時の子よね?

 …アリシアって子は誰?」

 

ビデオを確認していると背後のベンチからアリサの質問が飛んできた。隣のすずかも興味深そうにこちらを見つめている。

 

「えっとね…フェイトちゃんの双子のお姉さんだよ。ちょっと前に友達になったんだけど…まだ話してなかったっけ。」

「フェイトちゃんの事もなのはちゃんと戦ったって事しか聞いてないよ…アリシアちゃんはどんな子なの?」

「アリシアちゃんはね…」

 

俺は二人にアリシアの印象について話していく。フェイトよりも快活で悪戯好きな事や、フェイトに似て努力家な事。…でも勉強はちょっと嫌いな事。

アースラで一緒に過ごせたのは短い間だったが、とても楽しい日々を過ごせた事まで。

 

…いつかまたあんな日々を過ごせる事を願いながら。

 

 

 

 

 

 

『えっと…なのは、アリサ、すずか。お元気ですか?

 あの、私は元気です。』

 

…余談だがフェイトからのビデオメールは実に年相応なものだった。




フェイトさんになのはさんがカミングアウトする回でした。
なのはさんのスタンスを考えるとカミングアウトしないパターンもあるかなと思ったりもしたのですが、多分フェイトさんと話さないとなのはさんのRPの形は変化しないと思うので…

それとお気付きかと思いますが、フェイトさんの性格が柔らかくなっています。
これはアリシアの魂との融合が解除され、アリシアの影響を受けていた部分が殆ど元に戻っているからですね。
ただし話し方はむしろフェイトさんが積極的に取り入れている為、完全に今の口調が素になっています。
以降はフェイトさん視点のモノローグもこの口調で統一される事になりますね。

アリシアに関しても若干変化があります。
プレシアを救うと言う目的を達成した為、転生者に対するヘイトが()()()落ち着いています。()()()
一番好感度が高い神宮寺には普通に友達感覚で話しかけます。
この世界を現実と認識しない転生者に対しては塩対応である事に変わりませんが、()()()()()()嫌悪感レベルには届かない感じ。必要なら会話もするけど積極的には絡まない。
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