今回は視点がころころ変わりますが、ある二人の視点が交互に切り替わるだけなのでそこまで読み辛くはない…と、思いたいです。
そして今回で短編ラストです。次回からはいよいよA's編!
夏休みを目前に控えたある日曜日の昼下がり…俺の目の前で待機状態のレイジングハートがスピードラーニングを聞いていた。
レイジングハートを挟み込むようにイヤホンの先端を吸盤状に加工した物を取り付けているので音漏れこそ無いが、ラジカセから延びるイヤホンで赤いビー玉を挟み込んでいるこの光景を一般人が見たら頭の中は疑問符で埋め尽くされるだろう。…いや、多分魔導士でも理解できないだろうな。この光景は。
≪…≫
だが当のレイジングハートは真面目そのものなのだ。何せこれからはレイジングハートも喋らなければならない時代に突入する。魔法名だけではなく、日常会話の一つや二つは熟せないと間違いなく転生者だとバレるだろう。
…そんな時だった。
―ピンポーン…
来客を告げるインターホンの音が部屋に響く。思わずビクッとしてしまったが、時計を見ればなるほど約束の時間だと分かった。
レイジングハートをラジカセの影に隠してから「はーい!」と返事をして玄関の扉を開けると、見知った二人の姿が見えた。
「なのは、来たわよ!」
「お邪魔します、なのはちゃん! 今日は暑いねー…」
「アリサちゃん、すずかちゃん! どうぞ、上がって上がって!」
来客は俺の友達であるアリサとすずかだ。普段はすずかの家で遊ぶ事が多いのだが、偶にはと言う事で今日は俺の家で遊ぶ事になったのだ。
そして二人を招いた理由がもう一つ…フェイトとアリシアからのビデオメールが届いたのだ!
それは魔法の訓練を終えて軽くシャワーを浴びた後の事だった。
―ピンポーン…
「ん…? あぁ、もうこんな時間か。って事はあいつらか。」
生憎と今の恰好はバスタオル一枚だ。これで玄関に出るのは非常識が過ぎるな…っと、さっきまで着てた服は汗でビチャビチャで着れたもんじゃないな。
―ピンポーン…
急かすようなチャイムの音。まぁ呼んだのは俺の方だし、今日は春にしては暑いからな…気持ちは分からなくもない。
「ちょっと待ってろー!!」
えっと、着替え着替え…
―ピンポピンポピンピンポピピピンピピピンピピピンポピンポーン…
…
「うるせぇ! 人ん家のインターホンで三々七拍子すんじゃねぇ!!」
「遅ぇぞ神谷…今外が何℃だと…なんだお前その恰好。」
「いくら暑いって言ってもパンイチはねぇだろうよ…」
「…もしかして、お前ん家の冷房壊れたのか?」
「シャワー浴びてたんだよ! 着替え探してたのにお前らが急かしたんだろーが!」
「どうでも良いから先ずは部屋に入れてくれ…外はマジに暑いんだよ…」
「…はぁ、分かったよ。とりあえず上がってくれ。」
まぁ、訓練に集中するあまり風呂の時間が遅れてしまった俺の所為でもあるしな…これくらいの憂さ晴らしは許すとするか。
これからの予定は…とりあえずは神宮寺からのビデオメールの内容次第だな。
『…私の近況報告はこれくらいかな?
クロノとの実戦形式の訓練で私も姉さんも順調に強くなってるよ。』
「何ていうか…なのは達のやり取りって結構物騒じゃない?
魔法の事ばかりなのは良いけど、戦闘訓練って普通しないわよ?」
「あ、あはは…色々ありまして…」
「なのはちゃんとフェイトちゃんってどちらかって言うと『ライバル同士』って感じだよね。
お互いを意識するからどこまでも頑張れちゃうって感じ。」
「…うん、私もそう思う。フェイトちゃんが頑張ってたら私もフェイトちゃん以上に頑張ろうって思えるもん。」
競い合う相手がいるという事程モチベーションを生む物は無い。この数ヶ月間は特にそれを自覚させられた。
フェイトが頑張っている事を知れば、自然と俺も頑張れた。元々魔法の練習は楽しい事もあり、気が付けば魔力弾操作の空き缶リフティングは5個同時に出来るようになっていた。
『それと、裁判についても私は大丈夫そう。…でもやっぱり母さんは無罪とは行かないみたい。
分かってたけど、やっぱり少し寂しいかな。…姉さんはもっとだと思う。』
「…裁判かぁ。やっぱり何の裁判かは教えてくれないのよね?」
「うん…ゴメンね、私も話して大丈夫か分からないから…」
「魔法の世界の話だもんね。」
『…って感じで訓練の方はクロノも付き合ってくれているから腕は鈍って無いぞ。
寧ろ王の財宝を使わない戦い方をみっちり仕込まれたから以前より強くはなってるはずだ。』
「いや、神宮寺が強くなったかは良いから訓練法とか教えてくれよ。」
「それな。後はフェイトとプレシアの裁判の進捗とか色々あるだろ…」
神宮寺からのビデオメールで知りたい情報がなかなか出て来ず、少しずつ焦れてくるこいつらの気持ちも分かる。分かるが、それ以上に俺には言いたい事がある。
「いや、お前ら人の家のアイス勝手に食ってんじゃねぇよ…」
「外が暑かったんだから許せよ…代わりに買って来たアイス入れておいたからさ。」
「…まぁ、そういう事なら良いけどさ。」
まぁ、買って来たアイスがあるなら良いか。こいつらとは好みも近いし、チョイスに関しては大丈夫だろう。
「…お? 裁判の情報があるらしいぞ。」
『二人の裁判に関してだが、規則で裁判の内容は詳しくは話せない。
ただフェイトは無罪、プレシアは懲役刑辺りに落ち着くと言うクロノの見立ては当たりそうだ。』
「ぃよっしゃあ!」
「まぁ、プレシアは流石に無罪とはいかないわな…」
「懲役刑か…刑期にもよるけどまた家族一緒になれるといいな。」
「病気は治ったんだし大丈夫だと信じようぜ。」
…うん、こうして未来が良い方向へ変化すると言うのはやっぱり達成感がある。特にプレシアに関してはアニメの結末を知っている分、助ける事が出来たと言う喜びも一入だ。
今回俺はあまり助けになれなかったが、だからこそこれから鍛えて俺自身が誰かを助けられるようになれればと言う思いは強い。
どうやら神宮寺が今やっている訓練に関しても教えてくれるらしいし、これから頑張って強くなるとしよう。
『…うん、私からはおしまい。次は姉さんから…やっほー! なのは、アリサ、すずか! 見てるー!?』
「…何回見てもこの瞬間はちょっとシュールよね…」
「二重人格なんだっけ?」
「うーん…正確にはちょっと違うみたいだけど、詳しくは私もよくわからないかな…」
「魔法の世界って凄いわね…」
最初俺は二人にフェイトとアリシアの事をどこまで話すか迷っていた。
何しろ随分と訳ありな二人だ。話して良い事と良くない事の線引きが難しく、その旨もビデオメールに添付して相談したところフェイトは直ぐに『二重人格(のようなもの)』である事を明かした。
曰く、『アリシアは誰が何と言おうと大切な姉であり、どう思われる事があろうと隠し立てする事なんて無い』との事だった。寧ろ隠そうとした事にムッとしてたほどだ。
それからのビデオメールはアリシアのマシンガントークが続いていた。クロノが訓練で手加減してくれないとかママと話せる時間が減ったとか、アルフに子ども扱いされるとかリニスに悪戯して怒られたとか…どれもそこにある家族の温かみを感じられて、それはそれは微笑ましいものだった。…微妙にアルフの笑い声が聞こえる辺り、アルフも同じ部屋にいるのだろう。
「…一応確認なんだけど、アリシアの方がお姉さんなのよね?」
「あ、あはは…」
…アリシアには悪いけど、アリシアが子供らしいと言うのはこちらでも共通の認識なんだ。ごめんな。
『…とまぁ訓練内容は概ねこんな感じだ。
正直訓練内容はハードだが、手探り状態で特訓していた頃よりは分かりやすい成果が出る。
それと俺達の年齢だと魔力量は無理に伸ばそうとするよりも体の成長にある程度は任せた方がいいらしく、魔力操作を重点的にだとさ。』
「マジか…結構魔力量伸ばそうとしてたんだけど悪影響とか出るのかな。」
「効率の問題なんじゃねぇか? まぁどっちにしろやっちまったもんはどうしようもないし、これからは操作の方を中心に鍛えていけばいいだろう。」
「じゃあ魔力弾スーパーボールとマルチタスクは継続、魔力量増加を狙った訓練は削減して組手とかに回すか。」
『後、管理局に入りたい奴はこれから言う内容をメモしておけ…げんなりするぞ。』
「ん?」
何だ、なんか雰囲気が変わったな?
『実力を示せばすんなり管理局入りって訳にはいかないってのはお前らも知ってるよな?
俺もクロノから教えて貰ってるんだが、面接以外にも管理世界や次元世界に関する常識問題…筆記試験があるんだと。
クロノが言うには最低限身につけておくべき知識らしいが、結構ややこしいぞコレ。
俺が勉強用にって貰った内容を印刷した物を添付するから、コピーして必要な奴に配って置け。
管理局に入りたいならな。』
最後にそれだけ告げて神宮寺からのビデオメールは終わった。
そして俺達が囲む机の上に神原が一緒に送られてきたと言う紙の束を広げ始めた…
「…で、これがその問題集だが…お前ら分かるか?」
「全然。」
「見る前から言うなよ…えっと、何々?
『居住区画における魔法使用に関する規則について』? なるほど…全然わからん。」
どうやら本当に向こうで言う一般常識に関する問題らしい。こっちで言うところの道路交通法とかか?
地球には魔法が無い為、当然魔法に関する法整備なんてされている筈もない。管理世界の常識は管理外世界の非常識…これは厄介だな。
「あー…そうか、そりゃ必要な知識だわな…」
「…つまりこういう事か。俺達はこれから『訓練』と『学校の勉強』と『管理局に入る為の勉強』を並行して行わなければならない…と。」
「いや、『学校の勉強』は大丈夫だろ…」
「…お前、社会のテスト何点だった?」
「それは今関係無くない?」
「微妙に前世と歴史違うのホントめんどくさい…前世の知識に引っ張られる…」
「地名もな…授業受けるまで気付かなかったけど、前世に海鳴市とか無かったもんな。そりゃ地名とかも変わるよなって。」
二人からのビデオメールはあの後やっぱり一緒の部屋にいたらしいアルフとリニス…そしてプレシアも登場し、お礼の言葉で締めくくられていた。
そんなものを送られてはこちらもお返ししたいと思うのが当然だろう。
「…と言う訳で、お返しのビデオメールの内容について協議したいと思います。」
「いや、なにが『と言う訳で』なのよ。」
「もう…アリサちゃんは監督なんだからそんなこと言わないの。」
「ちょっ、すずか!?」
何はともあれ、今の俺達に足りないと思うのは何か…答えは見えている。
「私はやっぱり家族を出したいなっておもうの。」
「なのは、戻ってきなさい。」
そんなこんなで皆で楽しみながら撮影したビデオメールをまた送り、訓練をしながら返信を待つ。そんな日常の楽しさを実感した一日だった。
神宮寺から送られてきたビデオメールを見終わって、例の問題集も一通りコピーし終わって…
俺達は机を囲み、頭を悩ませていた。
「…神宮寺に送るビデオメール、どうする?」
「こっちの近況報告って言っても…報告する事無いよな。こっちは今は平和だし。」
「とりあえず、落ち着いてこの紙に知りたい事書き連ねてこうぜ。」
コピーの際に余っていたコピー用紙をテーブルの上に置き、俺も頭を抱える輪の中に入る。
「そんなの腐るほどあるが?」
「フェイトとアリシアの現状、リニスとアルフの普段の様子…知りたい事は山ほどある。」
「プレシアさんも仲間に入れてあげて?」
「プレシアについては言ってただろ…すこぶる穏やかでフェイトやアリシアと話している時は終始ニッコニコって。」
「てぇてぇ」
「てぇてぇ」
「生で見たかったなー俺もなー。」
「管理局について行けば良かったじゃん。」
「いや、はやての方も気になってさぁ…」
「わかる」
「わかる」
「わかりみ~!」
「どんだけ~!」
「背負い投げ~!」
あ、これ話し進まないパターンだ。
そう察知した俺は皆のグラスが空になっているのを良い事に席を立つ。
「俺ちょっとジュース取って来るわ。」
「行ってら~!」
…
「…で、何でこんな事になってんだ?」
俺がジュースを取りに行っている間に話し合いは大変な事になっていた。
「インストールしたIKK〇が抜けなくて~!」
「癖になっちゃって~!」
「かなしみ~!」
「悲しい時ー!!」
「悲しい時ー!!」
「ふざけて真似したIKK〇に、会議が支配された時ー!!」
「別のもんインストールすんな!!」
くそ、ツッコミ役の俺がこの場を離れるべきでは無かったか…!
思わず視線を逸らすと
え、夕日…? え、6時? あれから4時間も経ってたのか…!?
「おいお前ら! とりあえずビデオメール撮るぞ!」
俺達のビデオメールは基本的になのはのビデオメールと一緒に送る事になる。それは当然管理外世界から向こうに郵便物を届ける方法が限られるからであり、専用の人手を動かす事になる為セットにした方が何かと都合が良いからだ。
今までのペースから考えて、恐らくなのはは翌日にはビデオメールを用意し終える。そして俺達の中には門限がある者も多く、明日は月曜…撮るなら今しかないのだ。
「良いか! カメラ回すぞ!」
「んー、オッケー!」
「また面倒な物をインストールしやがって…!!」
こうして完成したビデオメール…一種の電子ドラッグのような地獄絵図は神宮寺の訓練に支障をきたしたらしく、返答のビデオメールは怒りと心配に満ち溢れていた。
…いや、俺は悪くないよな…? コレ…
ツッコミ不在の恐怖。
平和ななのはさんサイドとカオスな神谷サイドを交互に…やってる事は同じなんですけどね。
次回はA's編に突入します。