「うーん…どれにしよかなぁ…?」
「取りにくい所の本だったら私が取りますので、言ってくださいね?」
「おおきにな、美香さん。」
今私はいつもの図書館に来ている。借りていた小説を返しに来たついでにまた新しく別の小説を借りようと思ったのだけど、興味をそそられるような小説はこの数年であらかた読み尽くしてしまって中々決められずにいるのだ。
「あ、はやてちゃん! 美香さんも、こんにちは…って言うにはもう遅い時間ですけど。」
「すずかちゃん! そうか、もうこんな時間やったか。」
「こんにちは、すずかちゃん。そうですね…晩御飯の準備もありますし、そろそろ帰宅した方が良いかも知れません。」
声をかけて来てくれたのは少し前に友達になってくれた月村すずかちゃんだ。彼女の挨拶に窓の方を見れば空はもう夕焼け色に染まっており、既に私が本棚を前に2時間ほど悩んでいたのだろうという事を教えてくれた。
「この間はやてちゃんに教えて貰った本、面白かったよ! 思わずシリーズ全部借りて一気読みしちゃった!」
「せやろ! 私も一番のお勧めやし、すずかちゃんなら絶対気に入る思たんよ!」
彼女とは小説の好みが合う事もあって、お互いにお勧めの本を紹介し合ってたりもするのだ。
先程美香さんはそろそろ帰宅した方が良いと言ったけど、まだ十分程は余裕がある。しばらく二人で話題に上がった小説の話で盛り上がった後、彼女にお勧めして貰った本を数冊借りて今日は別れることにした。
出口まで一緒に行こうとすずかちゃんが言ってくれたのであまり大きな声にならない様に話しながらしばらく進むと、迎えに来てくれたシャマルが私達に気付いて小走りに駆けよってくる。
「それじゃあまたね、はやてちゃん!」
「うん! また今度な!」
シャマルとすっかり慣れた思念通話で会話しながらの帰り道。私達は今日の
≪それで、何時頃出るんや?≫
≪そうですね…一度帰宅して、美香さんに『闇の書』からの影響を取り除いて貰ってからになるかと。≫
≪…今回の事は必要と分かってはいても、やっぱりちょっと罪悪感はあるなぁ…≫
≪私達も細心の注意を払うつもりではありますけど…想定外の事態が起こる可能性は高いと思います。≫
≪まぁ、相手は
そう…今回の特別な予定とはつまり、『なのはとフェイトとの交戦』だ。
原作に於いてレイジングハートとバルディッシュはベルカの騎士の『カートリッジシステム』に後れを取った事で破損し、修復の際に自ら『カートリッジシステム』の搭載を希望する。今回の目的はこれを狙い意図的に『二人のデバイスを破損させる』事にある。
デバイスが破損しなければレイジングハートとバルディッシュにカートリッジシステムが搭載されるかどうかは怪しいし、そんな状態では『闇の書』との戦闘に勝利を収められる可能性も大幅に下がってしまうと考えたのだ。
しかしここでまた問題が浮上する。…
彼等が『こう言うシチュエーション』に遭遇して黙っていられるとは思えない。なにせ私とすずかちゃんが『たまたま同じタイミングに図書館に居た』と言うだけで、『強引に引き合わせる』と言う事をする程なのだ。…気の合う友人となれたので感謝したいところはあるけれど、その強引なやり方はどうにも素直に感謝し難い。
…話がそれた。
つまるところ、彼等は
≪ヴィータちゃんも『封鎖領域』展開時に上手くやるとは思いますが、それでも万全ではありませんからね…ここは彼等の良識に賭ける他無いでしょう。≫
≪…それはまた随分と分の悪い賭けやなぁ…≫
今回は今まで以上に失敗が出来ない…だと言うのに何も出来ない私がもどかしい。
かつて読んだ小説のお姫様が騎士の凱旋を待つ気持ちはこんな感じだったのだろうか…
「…ヴィータ…まさか、この魔力が?」
「はぁ…ああ、高町なのはだ。」
いつもよりも少し遠出した街の上空…銀髪オッドアイが密集するこの街の中でも明らかに異常な魔力を感知し、ザフィーラからの問いかけにため息交じりに答える。
…いや、魔力値高すぎんだろ。高町なのはどんだけだよ!
以前遭遇した管理局員の魔力を歯牙にもかけない程の絶大な魔力量…カートリッジを全てロードしてもこれほどになるかどうか…
…もうこれデバイス強化要らねぇんじゃねぇかな? これでカートリッジシステムまで手に入れたら、下手すりゃ人力アルカンシェルとかできるんじゃね?
なんて思わず考えてしまうほどだが、ソレはソレでコレはコレ。結局のところあたし達的にはなのは達が『闇の書』をちゃんと倒せるのならそれで良いのだ。要するに強くなる分にはどんどん強くなってくれた方がありがたい…筈だ。
「…では予定通りに。…気を付けろよ、ヴィータ。」
「はぁ…ああ、分かってるよ。」
別行動の為にこの場を離れるザフィーラを見ながら改めて思う。あたしってとことん損な役ばかり回ってきてねぇか? と。
「…アイゼン、封鎖領域展開。」
≪
展開された封鎖領域がなのはらしき魔力を捉え、空間を切り取る。これで銀髪オッドアイ共も簡単には入って来れない筈だ。
…どうやらなのはも屋外に出て来たみたいだし、そろそろ覚悟決めるか。
「こんだけ魔力量に差があるんだ。先手を強引に貰うくらい大目に見ろよな?」
≪Schwalbe Fliegen.≫
手の平サイズの鉄球を出現させ、アイゼンでテニスのサーブのように思いっきりぶん殴って打ち出す!
鉄球が赤熱したかのような輝きを放ち、なのはに真っ直ぐ向かうのを確認してあたしも上空から回り込む。
お前の実力がその魔力に見合う物か、確かめさせてもらうぞ高町なのは!
≪
自宅からほど遠くないビルの屋上。見上げる夜空に一点、赤い光が見える。
原作知識を持っているから分かる。ヴォルケンリッターの一人、ヴィータの攻撃だ。
直ぐにセットアップし、対応するべく手を翳しラウンドシールドを張る。
ヴィータの鉄球を受け止めたラウンドシールド越しに、左手に衝撃が走る。だが思ったほどの威力は無い…やはりこっちは陽動か。本命は…
「テートリヒ・シュラーク!」
背後に回り込んでのアイゼンによる一撃…!
俺は敢えて原作のように右手で新しく張ったラウンドシールドで受け止めるが、その衝撃は鉄球とは訳が違った。
「っ! 重い…!」
「チィッ、硬ぇ…!」
横凪に振るわれたアイゼンの一撃を受け止めたまでは良かった。だが、正直言って予想以上の火力だ…押し返せない…!
この拮抗状態を崩す為、ディバインシューターを撃とうとしたその時だ。ヴィータの口元が
咄嗟に周囲を警戒すると、ヴィータと鉄球に挟まれた俺のまさに真正面…空気を割いて向かって来る
「…くっ!」
このままでは拙い! そう思い咄嗟に自ら後ろに思いっきり跳び、ビルから落下する事で2個目の鉄球を躱す。
≪Flier Fin.≫
飛翔魔法を起動してその場に滞空すると、直ぐにヴィータが向かって来るのが見えた。
≪Schwalbe fliegen.≫
ヴィータの手元に現れる鉄球…数は5個!
≪Divine Shooter.≫
対応する為ディバインシューターを起動し、打ち出された鉄球を相殺する為に5つの光弾を向かわせる。
…だが本命は別だ。俺の体で隠すように背後に生成した
「君、どこの子!? 何でこんな事を!?」
「…」
時間稼ぎの問いかけにヴィータが答える様子はない…このまま行けるか?
「答えてくれないと…「悪いが…」ッ!?」
「そんな見え透いた時間稼ぎに付き合うつもりはねぇ…アイゼン!」
≪Explosion. Raketen form.≫
カートリッジロード…! このまま一気に勝負を決めるつもりか!?
グラーフアイゼンが変形し、槌の片方にドリルが、反対側にロケットエンジンのような推進機構が生成された。ならばこの後に来る攻撃は…!
推進機構に火が灯り、アイゼンを構えるヴィータごと回転し始める。
ディバインシューターは回転しているアイゼンで破壊され、その勢いのままヴィータは突進してきた。
…ついに来たか、この瞬間が。
原作ではここでレイジングハートは破損させられ、修復の際にレイジングハートの希望でカートリッジシステムが搭載される…言ってみればレイジングハートの強化がされるのだ。
カートリッジシステムが齎す瞬間的な爆発力は『闇の書』との戦闘に於いても重要なファクターであり、この先の勝利をより確実にしたいのであればカートリッジシステムは手にしておきたい。
だがレイジングハートは道具や機械じゃない。自分の意思があり、思考し、会話できる以上、それは一つの生命だと考えられる。それに加えて今俺が手にしているレイジングハートは転生者…言ってみれば同胞なのだ。『破損』ではなく『破壊』されるかもしれない危険を前に、メリットデメリットだけを根拠に軽々しくBETして良い物ではない。
…だからこそ、俺達は話し合ったのだ。
≪レイジングハート…本当に良いんだね?≫
≪あぁ、
何度もした確認を、最後に改めて行う。
そう、レイジングハートは最初から破損も覚悟の上でレイジングハートに転生していたのだ。…と言うより『それくらいの覚悟が無いとレイジングハートになりたいなんて言わない』と言うのが本人の談だ。
…ここまで言われたら、俺も覚悟を決めないとな。
レイジングハートは破損の覚悟はしていても、結果が本当に破損で済むかどうかは俺にかかっている。
言わば俺は
だけどこれもレイジングハートが俺を信頼してくれたからこその覚悟、答えてやらなきゃそれこそ相棒じゃない。
目の前にレイジングハートを構え、ラウンドシールドを張る。
…大丈夫だ。もしもヤバそうな軌道だったらラウンドシールドで防いでいる間に位置を調整してやれば良いんだ。
そして、俺のラウンドシールドとヴィータのラケーテンハンマーが衝突した。
なのはとヴィータの戦闘が始まる少し前…なのはの立つビルの屋上から数百m離れたマンションの屋上に、その少女は居た。
「…やっぱり、ここに来ていたんですね。」
「ん? …あぁ、君か~。どうしたの? こんな時間にこんな所に来ちゃって。」
前触れも無く虚空から現れた女性に背後から声を掛けられ、振り返った少女は気の抜けきったような声で質問を返す。
「目的は…貴女と会う事、ですかね…?」
「…ふ~ん? なるほど…私に会うのが目的だったんだー」
「えぇ、少し話をと思いまし「違うよね?」…」
突如、少女の雰囲気が一変する。やる気なさげな目元も緩み切った表情も変わらないのに、声のトーンだけが冷たく張り詰めた。
「私の邪魔をしに来たんでしょ?」
「…それは、貴女の目的次第です。」
「一応私と貴女の目的は同じはずなんだけどな~?」
「そうですね…それは私も同意見です。」
その言葉を皮切りに、両者の周囲に夥しい数の魔法陣が展開される。
「…なるほど、本気なんだ。」
「冗談でここには来ませんよ…貴女も分かっているでしょう?」
「とは言っても本来私達って互いに戦う事は禁じられてなかったっけ?」
「そんなルールはありませんよ。」
「それはこんな状況を想定してないってだけで、暗黙のルールってやつじゃないのかな?」
「ルールで縛れない例外は出ますよ。どんな組織にも。」
両者は互いに意見を譲らない。
「…そこまで言うって事は、君にも言い分があるんだよね?
君の本当の目的は一体何かな?」
「この戦闘に…今夜、これからの戦闘にだけは介入しないでいただきたいのです。」
「まぁ、それはこんな行動に出ている事から分かり切ってるんだけど…理由は?
私は万が一が起こるようならこの一件に介入するべきだと思ってるんだけど?」
「…
「それもそうなんだけど…そう言えば君は知らないのかな?
レイジングハートも転生者なんだよ。
「承知の上です。ですが、それならば貴女も知っている筈です。
レイジングハートが自らの破損も覚悟のうえでこの場に居る事を望んでいる事を。
そこに介入するという事は『レイジングハートの自由意思を否定する』と言う事ではないですか?」
「…ふ~ん、なるほどね~…一理あるかもしれないね。
確かにそう言う考え方だと『互いに覚悟の上での決闘』とも取れるのかな?」
「分かっていただけましたか?」
説得に一定の手ごたえを感じたのか、女性の表情が若干和らぐ。だが…
「う~ん…難しいねー、これだけじゃあ私はまだ意見を変える訳にはいかない。
だからさ、君の
少女の方はどうやら女性がひた隠しにしていた『本当の理由』を理解していたようだった。
見抜かれていた事を理解した女性は、観念したのか本当の理由について話し出した。
「…彼女達には次がありません。それは『闇の書』に介入する権限を持たない私達の無力が原因です。
ですから私は彼女達に『自分の力で未来を手にする権利』を…機会を与えたいのです。」
「そっか、君はずっとあの子達を見て来たんだったね…だから情が移っちゃったんだ?」
「…」
女性はヴォルケンリッターの努力をずっと見ていた。
最初は襲撃者にヴォルケンリッターが襲われた時、転生者同士の戦闘故に割り込んだだけだった。
だが彼女達に起こっている異常に気付き、介入できない自分の立場に嘆き、『闇の書』の影響で繰り返される『初対面』に悲しんだ。
そしてそれでも諦めず努力を続ける彼女達に、いつしか必要以上の好感を持ってしまっていたのだ。
「私達の権利は公平性を以って保証される…知ってるでしょ?
あまり感情的にならずに、失敗しない程度に適当にやるのが丁度良いんだよ。」
「…」
当然それは承知していた。
自分達に与えられた権利が私情で振るって良い物ではない事を理解できない程愚かではなかった。
「だからここは私が身を引こうじゃないか。」
「…えっ!?」
だからこそ少女の結論に驚愕し、戸惑った。
少女の周囲に展開されていた魔法陣群の全てが消失し、少し遅れて女性も慌てて魔法陣を消す。
「君はまだ若いからか純粋すぎるところはあるけど、その分私とは違う見方が出来る。
…まぁ私情で動く事はやめた方が良いと思うけど、今回の行動に関しては何の根拠も無い訳でもないし…良いよ、『レイジングハートの自由意思を尊重した』って事で傍観してあげる。」
「ありがとう…ございます?」
「何で疑問形なのさ…」
「いえ、随分あっさり退き下がったなぁ…って…」
こんなにあっさり退き下がるのならあんな風に魔法陣を展開して威圧する必要も無かったのではないか…釈然としないものを感じつつも、少女の言葉に耳を傾ける。
「さっきも言ったでしょ? 『失敗しない程度に適当に』が私のモットーなんだよ。
私が見た感じだと十中八九は大丈夫そうだしね~。」
「は、はぁ…」
「まぁ、心配しないで。万が一レイジングハートが破壊されちゃっても、『デバイスだからこそのカバー法』もあるしね。
『死者蘇生』なんて大事にはならないし、多分許可も出るでしょ。」
その言葉に違和感を感じた。まるでレイジングハートが破壊されても『後から蘇生出来る』と言っているように感じたからだ。
「…あれ? もしかして、私遊ばれました?」
「あ、バレちゃった? 実は元々介入するとしても戦闘後かなって思ってたんだよね~」
「なんっ…早く言ってくださいよ! もーっ!!」
「あっはっは! まぁ、ここは二人仲良く観戦と行こうじゃ~ないか。
ほい、君の分。」
「えっ? わっ! とと…」
完全に遊ばれていたことを理解した女性は、咄嗟に投げてよこされた物を慌ててキャッチする。
「これって…双眼鏡…?
あの、普通に見えますよね? 私達の視力だと。」
「こう言うのは雰囲気が大事なんだよ~?
欲を言えばポップコーンとかも欲しいくらいさ~」
「は、はぁ…?」
まるで映画を見るかのような気楽さで話す少女の姿に、なぜここまで気楽に構えていられるのだろうか? と疑問を感じつつも、おとなしく隣に並び戦いを見守る事にした…渡された双眼鏡越しに。
「…あの、朱莉さん? やっぱり肉眼の方が見やすいのでは?」
「こう言うのは不便を楽しむものだよ? 戦いを見失いそうになる瞬間のスリルはなかなか…」
「私達が見失ったら拙いでしょ!? サポートできないじゃないですか!」
「君は相変わらず硬いなぁ~…えーっと、今の名前って何だっけ?」
「美香です!」
「あぁ~そうだったそうだった! じゃあ、みーちゃんだね。」
「み、みーちゃん…?」
「おぉ! 戦いが始まるみたいだ! 見逃したらもったいないよ!」
「その前に名前の呼び方について異議が…」
天使的には朱莉さんは美香さんの上司にあたります。
天使の二人の会話が長くなりましたが、結論から言えば『今夜の戦闘に天使は介入しないよ』という事だけ覚えてくれれば大丈夫です。
- 7/30 追記-
なのはさんの最後の辺りの考え方に強い違和感があったので修正しました。