転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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シャマルさん視点で開始です。


計画

「オラァ!」

「…」

「チィ、変な魔法ばかり使って…!」

 

面倒な事になったわね…

連続で繰り出されるアルフの拳を『旅の鏡』で逸らしながら、これからの計画を練り直す。

 

当初の計画ではヴィータがレイジングハートを破損させたのち、高町なのはのリンカーコアを蒐集する予定だった。

『闇の書』に『スターライトブレイカー』が渡ってしまう事は脅威だけど、この時代に転生者が多くいる事を加味して知っている攻撃であるならば対処も容易だろうと…そう考えて『闇の書』が使用する魔法を原作に寄せようと言う狙いだった。

 

本来の予定では今頃私は高町なのはを狙える位置に陣取り、機会を待っている筈だった。時期を待ち、ヴィータがそのまま蒐集できるならそれで良し。難しそうなら『旅の鏡』で『闇の書』を取り寄せ、そのまま『旅の鏡』でなのはのリンカーコアを蒐集する…そういう計画だったのに…

 

「まさか、見つかってしまうなんて思わなかったわ…」

「ふん、狼の嗅覚を舐めるんじゃないよ!」

 

アルフ…狼の嗅覚は盲点だった。

魔力を出来る限り隠蔽していたから見つからないだろうと言う油断はあったけど、こんなにあっさり見つかるなんて…

でも今更なのはの蒐集を諦める事は出来ない。

先ほど入ったヴィータからの思念通話によれば、既にレイジングハートは破損している。今回の機会を逃せばレイジングハートは強化され、蒐集の難易度は跳ね上がってしまうだろう。チャンスは今しかないのだ。

 

「そうね…仕方ないわ。

 シグナムもヴィータも手の内の一つを見せてしまっているようだし、今更よね…」

「何をぶつくさ言って…」

 

出来る限り手の内を見せたくはなかった。私達は私達の目的の為に『闇の書』を完成させなくてはならない。その時まで誰にも倒される訳にはいかない。

それが出来なければ私達に未来が無いどころか、はやてまで凍結封印されてしまう可能性も出て来るから。

だからこそ、転生者へのカウンターとして切り札は温存しておきたかったのに…

 

「気の毒だけど、貴女はここで倒させてもらうわ。

 少し痛いと思うけど、恨まないで頂戴ね?」

「なっ!?」

 

アルフの拳を『旅の鏡』で逸らした直後、大きな隙を晒したアルフの鳩尾に『魔力を纏わせた正拳突き』を放つ。

 

「ふっ!」

「うぐェッ!」

 

突き入れた魔力が炸裂。丁度車道に合わせて大きく後ろに吹っ飛ぶアルフをしり目に『旅の鏡』を開き、そこに体を滑り込ませる。出た先は交差点…そして目の前には()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ハッ!」

「がァッ!?」

 

すかさず脚に魔力を纏わせ、回し蹴り。

アルフは交差点を左折するように直角に吹っ飛ぶ方向を変える。

当然のように『旅の鏡』で回り込む。三度目ともなるとアルフも狙いが分かったようで、『旅の鏡』から出てきた私と目が合った。

 

「くっ…らえぇっ!」

 

吹っ飛ばされた速度を利用した飛び蹴りがこちらに向かって来るが、そうする事は読んでいた。

左に半歩移動し、体を反時計回りに捻りつつ後ろに倒す。飛翔魔法を併用し、腰の位置を固定。地上から上空へと打ち上げる後ろ回し蹴りがアルフの脇を捉えた。

 

「がふっ!?」

 

三度『旅の鏡』で回り込む。向かう先は上空。仰向けに飛んでくるアルフが見えた。

 

「ハァッ!」

「ぐっ!」

 

今度は上空から地上へと叩きつける踵墜としだ。

だが驚いた事に、アルフはまだ意識がはっきりしていたらしい。飛翔魔法で体制を安定させ、腕をクロスさせ防ごうとするが…

 

「残念だけど、こう見えて結構力あるのよ? 私。」

「なっ、重…ッ!?」

 

そのまま強引に足を振り抜き、叩き落す。

『旅の鏡』で地上に帰還して上空を見上げれば、上空に打ち上げた時よりも速い速度で降って来るアルフ。

 

「とどめよ。」

「がはっ!?」

 

掲げた拳がアルフに突き刺さる。勿論比喩表現で貫通はしていないが、魔力ダメージも併せて気絶させるには十分だろう。

これだけやっても魔力を纏わせれば非殺傷になるのだからこの世界は不思議だ。

 

「…とは言え、やっぱり骨に罅くらいは入ってそうね。」

 

気絶したアルフを歩道まで運び、出来る限り優しく横たえる。

 

「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで。」

 

私が本来得意とする癒しの魔法で負傷を回復させる…そうよね、本来私は癒しの魔法を得意とする『風の癒し手』なのよね。

襲撃者の一件以来強くなろうとした結果、何故かインファイターみたいな戦い方になってしまったけど…本来こっちが本職なのよね…

 

「…うん。内臓の負傷も完治してるみたいだし、これで大丈夫。」

 

本来軽い触診で分かる事は限られるが、そこはヴォルケンリッター。今まで踏んできた場数が違う。

魔力をソナーのように軽く流してやれば大抵の事は分かる。

 

「さて、と…予定より遅くなっちゃったけど、間に合うかしら?」

≪ヴィータちゃん、聞こえる? そちらの様子はどうかしら?≫

≪…ちょっと、面倒な事になってる。クロノが直々に出てきやがった。≫

≪えっ!? 今どこに居るの!?≫

 

そんな…結界を張ってからそう時間は経っていない筈なのに、もう解析されたって事!?

管理局の動きが想定よりも格段に速い…急がないと遅刻どころでは済まないわね。

 

「何とか間に合わせないと…!」

 

ヴィータから教わった建物は…あれね!

とするとそれがよく見えるのは…

 

「あのビルの屋上ね…」

 

早くポジションにつかないと!

 

 

 


 

 

 

「民間人への魔法攻撃及び、ロストロギア『闇の書』の不法所持…

 大人しく同行して貰おうか。」

 

クロノ・ハラオウン…この若さ時空管理局執務官と言う地位にまで上り詰めた少年か。

…なるほど、強い。

ただ杖を構えているだけで、気迫からそれが伝わって来る。研ぎ澄まされた魔力、隙の無い構え、視線の動き…どれをとっても一流だ。

 

「…悪いが、出来ない相談だ。

 我らにも目的がある…諦められない望みがある。」

 

そうだ、まだ目的の全てを達成した訳ではない。なのはとフェイトのデバイスを破損させる事には成功したが、リンカーコアの蒐集もまた目的の一つだ。まだ退く事は出来ない。

愛刀であるレヴァンティンを正眼に構えると、クロノから感じる気迫が一層強くなる。

 

≪ヴィータ、ここは私が注意を引き付ける。お前は隙を見てなのはのリンカーコアを。≫

≪…いや、あたしも前に出る。どうやらシャマルの準備が整ったらしい。≫

 

私の隣に並び立つようにグラーフアイゼンを構えるヴィータを見れば、なるほど確かに『闇の書』が無くなっている。シャマルが『旅の鏡』で取り寄せたのだろう。

ならば二人で全員の注意を引き付ける!

 

「『烈火の将』シグナムだ。」

「…時空管理局執務官クロノ・ハラオウン。」

 

≪クロノは私が受け持とう。ヴィータは()()()()()()。≫

≪…ああ。≫

 

「参る!」

 

魔力を乗せた踏み込みで彼我の距離を詰めると同時に上半身を捻り、レヴァンティンを振り抜く。

 

「速…ッ!」

 

クロノは一瞬驚愕に動きが固まったが、直ぐに障壁を張って斬撃を防いだ。

咄嗟に組んだとは思えないほど堅牢な障壁だ。やはり場慣れしているな…だが!

 

「ハァッ!」

「くっ!」

 

魔力を乗せた蹴りで障壁ごとクロノを吹っ飛ばし、なのは達から少しでも引き離す。

…とは言え、5m程しか飛ばないか。ザフィーラやシャマルなら10mは固いんだが…

まあいい、ならば何度も吹っ飛ばせば良い。

追撃とばかりに距離を詰める…がクロノの杖の構え方に悪寒を感じ、障壁による防御に切り替える。刹那、障壁越しに何かが閃き…何かを防いだと言う手応えを感じた。

 

「くっ!」

「近接戦闘が出来るのはベルカの専売特許じゃない…!」

 

…今のは何だ? 斬撃か?

クロノが振り抜いた杖の先に一瞬だけ…だが確かに青い剣の幻を見た。

障壁を見れば、よく見なければ判らないほどに細い…亀裂のような斬撃痕…

 

「…素晴らしい太刀筋だ。ミッドの魔導士である事が惜しいな。」

「誉め言葉として受け取って置こうか。」

 

どうやら一筋縄でいかないどころの相手じゃなさそうだ。

まったく…この時代は本当に優秀な魔導士が多いらしいな。




クロノが使った魔法はフェイトの魔法を応用したものです。
フェイトの訓練に付き合う中で自らも近接戦闘の手数を増やすべくフェイトから教わり、自分用に改良しました。
杖を振り抜く一瞬だけ、魔力を凝縮した薄く硬い刃を発生させます。刃を出現させる時間が短い分斬撃は鋭くなっており、下手な障壁なら豆腐のように切れます。



以下、シャマルさんがこうなってしまった経緯。

襲撃者に遭った事でヴォルケンリッターの皆が強くなろうと意思を固め、それぞれ修行に身を置く中で戦闘用の魔法が得意ではないシャマルは『せめて身を守れる程度に戦えるようになろう』と決意しました。
前世から格闘家であったザフィーラに近接戦闘を教わりながら、自らの魔法と組み合わせた戦闘方法を模索する日々…
クラールヴィントをワイヤーのように使ったり、振り回したりと時々迷走する事もありました。でも最後に辿り着いた答えはインファイト…!
自らを転送できるように改良した旅の鏡を駆使し、超至近距離での戦闘を強制し、吹っ飛ばした相手に回り込み強烈な打撃を叩き込むと言うのが彼女の得意技となったのです。
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