転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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蒐集

シグナムがクロノを吹き飛ばした直後、ヴィータはその隙に俺達に襲い掛かってきた。

きっと思念通話で予め話し合っていたのだろう。その動きに無駄は無く、あっと言う間に俺達とクロノは分断されてしまった。

 

銀髪オッドアイは良く戦ってくれていた。レイジングハートが破損してしまっている俺に無茶をさせない様に積極的に前に出て攻撃を防いでくれていたし、フェイト程ではないが高速で戦闘するアリシアの攻撃に上手く合わせていたと思う。

 

ユーノは先ず俺の周囲に結界を張る事で俺の身の安全を確保してくれた。

それだけに留まらずヴィータの攻撃を何度も防ぎ、時には拘束魔法をちらつかせて牽制したり…サポート特化型の魔導士として最善を尽くしていた。

 

勿論俺も何もしていなかった訳じゃない。レイジングハートが破損してしまった為に砲撃魔法こそ自主的に封印したが、ディバインシューターによる援護は出来る。

空き缶リフティングで鍛えたコントロールは、確かにヴィータを翻弄していた。

 

時折クロノの様子を確認したが、あちらはあちらで上手く立ち回っているようだった。

複数のスティンガーの並列操作と一瞬だけ展開する高出力の斬撃魔法を上手く使い分け、シグナムの選択肢を的確に奪っていた。

シグナムも足元に張った魔法陣の効果かそれを無駄なく捌けていたが、あのままではじり貧だろう。

 

ヴィータも個では銀髪オッドアイよりも格上だが、多勢に無勢。攻撃する機会は少なく回避するべき攻撃が多いこの状況では、後方からシューターで攻撃する俺を狙えないだろう。

 

…このまま押し切れるのでは?

 

そう思った瞬間…ヴィータと目が合った。

 

直ぐに俺の錯覚ではないと確信した。多くの攻撃に対処する中で、偶然俺の方を見たのではない。ヴィータは明確な意思を持って、俺を見た。

 

何か拙い。そう思ったが、ヴィータの動きは早かった。

 

鉄球が一つ、銀髪オッドアイ達の攻撃の隙間を縫って発射された。

…一見普通の鉄球だ。多分威力と言う一点で見ればディバインシューターで撃ち落とせただろう。

だが、俺がレイジングハートのサポート無しで操作できるシューターは5つ…そしてそれらは全てヴィータの周囲に合った。

 

「っ!」

 

咄嗟にレイジングハートのサポート無しのラウンドシールドを張る。その鉄球に何やら嫌な予感がしたからだ。

 

鉄球がユーノの張った結界にぶつかり、結界を呆気無く貫通する。ユーノの驚愕した声がやけに遠く感じる。

破壊された結界が消え、ラウンドシールドが鉄球とぶつかり拮抗する。

 

「うっ…!」

 

重い球だった。最初に防いだ時のそれとは比べ物にならない…だが、防げないほどじゃない。

ラウンドシールドの角度を変えて鉄球を左後方に受け流すと、後方の壁にぶつかった鉄球が爆ぜて土埃を巻き上げた。

 

土煙はあっと言う間に部屋に充満し、俺の姿を一時的にとは言え包み隠す。

 

思えばこれこそがヴィータの狙いだったのだろう。

 

 

 

胸の内側に突如感じる異物感。

心臓が前に押し出されるような圧迫感。

もしやと思った時にはもう遅かった。

 

「ぐぅっ!?」

 

俺の胸を後ろから貫いたかのように腕が生え、その手には眩く光を放つリンカーコアが握られていた。

 

 

 


 

 

 

土煙が薄れ、なのはの胸からリンカーコアが取り出されているのが見えた。

異様に光り輝くリンカーコアから感じる力は、こうして露わになったからこそより明確に『異常な魔力』だと理解できた。

 

あたしを狙っていた5つのディバインシューターがなのはの制御を離れ、部屋のあちこちに着弾する。

 

「なのはァーーーッ!」

「くそっ、いつの間に…!」

 

銀髪オッドアイ達の悲鳴のような絶叫に、今まで感じていたストレスが多少和らぐのを感じる。

ったく、手こずらせやがって…

シャマルから「結界が邪魔で旅の鏡を開けない」なんて思念通話が飛んできた時は焦ったが、やって見れば何てこと無かったな。

…鉄球を放った隙を突かれて結構良いの何発か貰っちまったが、まぁ目的を達成する為だ。収支で言えば黒字だろう。

 

「これで先ず一人…」

「…くっ!」

 

ディバインシューターが無くなった事で幾分か動きやすくなった。これなら守るだけじゃなく、こちらから仕掛ける事も出来そうだ。

それに…

 

「おい、どうする!?」

「ヴィータを狙うか!? それともあの腕を攻撃して蒐集を止めるか!?」

 

こいつらの目的がブレ始めた…!

 

「っ! 皆、落ち着いて! 先ずは牽制を…」

「遅いっ!」

 

連携が崩れれば所詮こいつらは烏合の衆! この隙に回り込んでやれば…

 

「し、しまった…!」

「これじゃあ結局…」

 

蒐集中のなのはと銀髪オッドアイ達の間に立ちふさがり、目的の達成を確信する。

 

「さぁ、これでどの道あたしを倒すしかなくなったな…?」

 

銀髪オッドアイ達の苦渋の表情ガ心地良イ。コレデ闇ノ書ノページガ埋マル…

ドウセナラフェイトモコイツラモ纏メテ蒐集ヲ…

 

 

 


 

 

 

ヴィータちゃんが結界を破壊した瞬間、『旅の鏡』を開いて腕を突き入れる。

狙うのはなのはちゃんのリンカーコア…!

それさえ蒐集すれば目的は達成、頃合いを見計らって撤退する手筈よね。

 

「あった!」

 

手の平に確かな感触! 良かった…「外しちゃった」って言って抜き差しはせずに済みそう。

さて、後はこれを体の外に押し出して…

 

…えっ、何この魔力…

これ本当に蒐集して良いの? 何かページが予定以上に埋まりそうなんだけど…

 

…ううん、悩むべきじゃないわね。なのはちゃんの魔力を蒐集する為に来たんだもの。

 

「…蒐集、開始!」

蒐集(Sammlung.)

 

『闇の書』が光を放ち、なのはちゃんの魔力を取り込んでいく。

ページは見る見るうちに増えるが、手のひらから感じる魔力にはまだまだ余裕を感じる…

 

…途中で蒐集を止めた方が良いかしら。既に30ページ以上蒐集してるのに魔力はまだまだ底が見えないし…

このままだと『闇の書』の影響が…

 

 

 

…デモ、コンナ美味シイ餌ヲ逃スナンテ勿体無イワヨネ。

 

…そうよね。『闇の書』を()()()()()()()()()()()()()()()()()()…餌が多いなら全部食べさせてしまいましょう。

 

 

 


 

 

 

「あ…っ、ぐっ…!」

 

肺や心臓が圧迫されている様な不快感、自分の内側から腕が伸びる異様な光景…そして魔力が絶えず蒐集されて行く実感…

正直、実際にこの立場に立ってみるとかなりショッキングな状況だ。

力が抜けて行く不安感も恐ろしいが、それ以上に魔力の流れが乱されているのが厄介だ。いつものように魔法が上手く構築できない。

 

「ディバイン…シューター…」

 

でも諦める訳にはいかないよな…

乱れた魔力の内…ほんの僅かな魔力の制御を取り返し、シューターを1個…かろうじて構築する事に成功する。

ここまでできれば後はこっちのもんだ。

魔力制御がいくら乱れていようと、()()()()()()()()()()を外す訳はない。

 

…くらえ、シャマル!

 

「シュー、ト…!」

 

 

 


 

 

 

「痛ったっ…!」

 

手首に何かがぶつかった衝撃で()()()()()

 

…今私、何を考えてたの!? この場で『闇の書』の完成なんてさせたら、地球が滅んじゃうじゃない!

どうやら急激に力を取り戻した影響で、私達に対する干渉も一気に進んでしまったみたいね。

 

慌てて蒐集を中断し、腕を引き抜く。

 

…『闇の書』の思考誘導…本当に油断も隙も無い。

今回正気に戻れたのは幸運だった。影響が深くない内に戻してくれた誰かには感謝しかない。

 

…潮時、ね。

 

≪シグナム、ザフィーラ、ヴィータちゃん! 撤退しましょう!≫

≪…ああ。≫

≪分かった。≫

≪はぁっ!? 何でだよ! こいつら全員『闇の書』に食わせちまえば今直ぐにだって…!≫

 

シグナムとザフィーラはとりあえず問題はなさそうだけど、やっぱりヴィータは影響を強く受けやすいみたいね。

 

≪…シグナム、()()()()。≫

≪仕方あるまい。≫

 

ストレスを強く感じたり感情的になるとその隙を突かれやすいみたいって事は分かってるんだけど、ヴィータはその辺りの制御が中々上手く行ってないみたい。

…やっぱり、『ヴィータ』に引っ張られているのかしら。それともそれ自体『闇の書』の影響?

 

…考えるのは後ね。今はクロノや、多分今もこちらを見ている『管理局』を上手く撒いて家に帰るルートを考えないと…

 

 

 


 

 

 

正気に戻った時、俺は先程までの俺に激しい怒りを抱いた。

 

「…」

「お前…()()は何だ。

 俺に手加減でもしようと言う施しのつもりか!?」

 

目の前のヒーロースーツの男が、その言葉以上の怒りを込めて拳を振るう。

 

違うと言いたかった。

あれは俺ではないと…()()()()が俺の戦いである筈がないと。

だが何を言ってもそれは言い訳にしかならない…

 

だから俺はその拳を受け流し、カウンターにボディーブローを見舞う。

 

「ぐはっ!」

「…私にも事情がある。先ほどの無様な戦いを許してくれ。」

「ああ…っ! これでこそだ…! ぐふっ…」

 

その言葉を最後に気絶した少年を、近くのビルの屋上に寝かせる。

魔力ダメージで気絶したからか、バリアジャケットは解除され素顔が見えていた。

これなら意識を取り戻した時に結界が解除されていても、そこまで奇異の眼で見られる事も無いだろう。

 

「紅蓮、か。」

 

戦い方は粗削り、攻撃は素直で読みやすい…そんな男だった。

俺が元々回避主体の戦い方を得意とするだけあって、有効打は殆ど0と言う有り様だったが…だからこそその異常性が浮き彫りになる。

紅蓮は俺に攻撃を当てられなかったが、その間も俺は紅蓮に何度も攻撃を当てていたのだ。

だと言うのに最後の一撃が入るまでこいつはずっと至近距離で戦い抜いた。

 

「…驚異的なスタミナだな。」

 

戦闘技術を磨けば良い戦士になりそうだ。

いつか俺達が本当の自由を取り戻したら、且つてのシャマルのように鍛えてやるのも悪くないかも知れない…そう思えた。

 

 

 


 

 

 

…危なかった。

クロノとの戦闘中急激に『闇の書』の影響が強くなったと言う自覚はあったが、影響の強さに抗う事も出来ず呑まれてしまっていた。

足元に展開していた魔法陣は他ならぬ()の手により消されており、先程までの()()()()()()()()()()がしていたという事を自覚させられる。

 

「お前は、一体…」

 

クロノの困惑する目が痛い。

私の戦い方が変化した事が分かったのだろう。…いや、それだけなら()()()()はしない…

先程の私の()()()()()()がその目をさせたのだろう。

 

「…興が冷めた。我等はここで退くとしよう。」

「なっ!?」

「結界は解除する。これ以上の戦闘行為はしない。」

「そうは行かない…! 管理局の執務官として、僕はお前達を…」

「…レヴァンティン。」

≪Flammen Käfig.≫

 

目の前の空間をレヴァンティンで薙ぎ、発生させた炎でクロノを囲う。

あまり長くは持たんが、数秒間拘束するには十分だろう。

 

「!」

「済まない…私がこれ以上恥を晒す事になる前に退かせてくれ。」

「お前は…、ッ! 待て!」

 

クロノの声を無視して撤退を開始する…文句を言うヴィータを無理やり回収して。

 

嗚呼、これほどの屈辱があるだろうか。

一時とは言えあのような戦いをさせられ、戦っている相手に背を向け、脇目も振らず撤退しなければならぬこの有り様…

戦いに負けたのなら解る。自らの意思なら文句は言わぬ。目的の為ならこの思いを飲み込もう。

 

だが、これは無粋な第三者(プログラム)によるあまりにも不躾な割込み。

 

…おのれ、『闇の書の闇』め。

 

この怒り…決して忘れんぞ。




我ながら伝わりにくいかなと言うところがあったので補足。

何故『闇の書』の影響が強くなったかですが、これは以前から書いている通り『闇の書』が完成に近づいたからです。
当然ヴォルケンリッターもある程度その影響が出る事は予想しており、直前に美香さんに影響をリセットして貰う等で対策していましたが、度重なる戦闘となのはさんの魔力が想定よりも遥かに多かった為に結局影響を受けました。



シグナムさんが最後に使った魔法補足
魔法名『Flammen Käfig』(直訳で『炎の檻』)

クロノ君を足止めさせたいけどシグナムさんそんな魔法持ってなかったよなぁ…と言う都合もあって生み出された魔法。
炎に変換した魔力で対象を中心に直径2m程の球体を生成し、閉じ込める魔法。
鳥籠の柵ように穴が開いている為、酸欠にはならない。
持続力はそれほどでも無いが、内側からの攻撃に対する強度はなかなかの物。うかつに触れれば魔力ダメージを受けるが、威力としてはそれほどでも無い。
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