転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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前半はアリサ視点、後半は銀髪オッドアイ視点です。(一応神無月視点)


新居にて

なのはからメールが来た。

内容を一言で纏めると、フェイトが地球に引っ越してきたので来ないかと言う物だ。

反射的に『行く!』と返信してしまったが、よく考えるとその反応は少しアリサっぽくなかったかもしれない。

 

「ここまでで良いわ。いつものように帰る30分前には連絡するから、帰りもこの場所でお願いね。」

「かしこまりました、お嬢様方。いってらっしゃいませ。」

「ええ、行って来るわ。」

「送ってくれてありがとうございます。」

 

待ち合わせの公園前についたので、送ってくれたドライバーにそう言ってからすずかと一緒に車を降りる。

 

「うぅ、やっぱり外は寒いね…」

「そうね…」

 

車の中は暖房が効いていた分、温度差で余計に寒く感じる。

大会社の社長の父が()の身を案じているのは分かるんだが、やはり過保護に思う事はある。ただ友達の家に遊びに行くだけなのにその度に車で送迎なんて、普通の家庭では考えられないよなぁ…

 

「こんな寒い中なのはを待たせるのも悪いし、ちょっと競争しない?」

「…多分、アリサちゃんは私に勝てないと思うけど…」

「うっ…」

 

そうだった…すっかり忘れてたけど、本気を出せばすずかは豹と同じ速度で走れるんだった。

いや流石にそんな速度をこんなところで出す訳が無いのは分かっているのだが、それでも勝ち目のない競争はあまりしたくないし…

 

「…やっぱり淑女たるものお淑やかに行きましょう。」

「ふふっ、なにそれー」

 

すずかがそう言って茶化す。

まぁ、お互いに中身が男だと理解しているのに『淑女』等とは俺も良く言えたものだとは思う。

 

「…っふ、ふふっ…ふふふ…」

 

だからそんなに笑う事無いんじゃないかな?

 

そんなやり取りをしながら二人で歩いていると、『平本兼正(ひらもとのかねまさ)』の銅像の下で待っているなのはが目に映った。

 

「なのはー!」

「あっ、アリサちゃんにすずかちゃん!」

「待たせちゃってごめんねー!」

「大丈夫だよ! 今来たところだし!」

「デートか。」

 

思わずツッコんでしまった。

 

 

 

 

 

 

数分ほど歩いて辿り着いたのは、この周辺で一番の高級アパートだった。

…地球出身じゃない管理局の人達がこんなアパートを借りれるって事は、やっぱり何処かで通貨を両替しているって事だよなぁ…案外政府とかの一部の人は管理局の事とか知ってるんじゃないだろうか?

 

「フェイトちゃん、ただいま!」

「…おかえり…? なのは。」

「夫婦か。」

 

いかん、また突っ込んでしまった。

 

「あはは…おじゃまします。」

「おじゃまします。」

「うん、いらっしゃい。アリサ、すずか。」

 

そう言って俺達を出迎えてくれたのはフェイトだけではなかった。

 

「アリサにすずかだね! あんたらの事はビデオメールで知ってるよ!

 あたしはアルフ、この子の使い魔さ。よろしくね!」

 

アルフが普通に人間形態で挨拶してるのは何か新鮮だなぁ…

…そう言えばジュエルシード事件の時に俺は結局アルフを見つけていないから、これが正真正銘の初対面か。

 

「アルフさんもビデオメールに映ってたけど、本当に犬耳が付いてるのね…」

「狼だよ!」

 

あ、やっぱりそこは重要なのか。

 

「ほら、早く上がりなよ! リニスがおかし作って待ってるからさ!」

 

ビデオメールで知ってはいたけど、やっぱりリニスも助かったんだ。

なんて言うか、普段学校ではアホな事ばっか言ってるあいつ等も頑張ってたんだな…

 

 

 

「へぇ…良い部屋じゃない!」

「ほんと、凄い立派!」

 

アパートの一室とは思えない広々とした空間に加えて、大きなガラス窓から外の景色が見える事もあり開放感は抜群。その上一つの部屋の筈なのに天井は高く、二階まで存在している。

正直前世の俺の家よりもよっぽど住み心地は良さそうだ。

 

「うん、ある程度以上のスペースがあった方が都合が良いからって…」

「主に管理局の方の都合でね!」

「…口が軽すぎますよ、アルフ。」

 

アルフに軽く注意を入れながらやって来たのはリニスだ。

手に持ったトレーから良い匂いがするところを見ると、お菓子を持って来てくれたらしい。チョコの匂いからしてチョコクッキーとかだろうか。

 

そしてトレーが机に置かれ…

 

「フォンダンショコラです。

 中のチョコレートはまだ熱いので、気を付けてくださいね。」

「わぁ…!」

「美味しそう!」

 

思ったよりガチ勢だった。

 

 

 

 

 

 

それからと言うもの色々な話をした。

内容は魔法の石騒動(ジュエルシード事件)でなのははどんな感じだったのかとか、魔法の世界は地球とどう違うのかとか…そんな感じだ。

アリシアもちょくちょくひょっこり顔を出しては色々と興味深い話題を提供してくれた。

そんな中、フェイトの入学の話がリニスから齎された。

 

「へぇ…じゃあ今度からはフェイトちゃん達も聖祥に?」

「うん。勉強だけならリニスが見てくれるんだけど、友達と一緒に学ぶ方がフェイトとアリシアの為になるって母さんが。」

 

フェイトやアリシアからプレシアの話を聞くたびに思う。

 

もう前世の知識とか何一つ役に立たないかもわからんね、これは…と。

 

一応ビデオメールとかで知ってはいたけど、プレシアもう完全に普通のお母さんじゃん。今はちょっと捕まってるけど。

俺の知ってたプレシアの影も形もないよ。ほぼINNOCENTじゃん。

 

「あっ、そう言えば…学校の方はフェイトちゃんとアリシアちゃんの事知ってるんですか?」

 

すずかがリニスに確認するまで俺も失念していたけど、そう言えばその通りだ。

フェイトとアリシアが一つの体を共有している以上、フェイトが授業の内容を理解してもアリシアが理解する前に先に進んでしまう事もあるかもしれない。(多分逆は無い)

そう言う場合のフォローを俺達がした方が良いのかにも関わって来る。

 

「ええ、学校の方は一応の事情を説明して理解していただきました。ただ…」

 

そこでリニスは少し言いにくそうな表情で口を噤む。

『ただ…』と言いかけたという事は何かしらの懸念があるのだろうが、こうして黙ってしまうという事は言いにくい事なのだろうか…

やがてリニスは意を決したように言葉を発した。

 

「アリサさんやすずかさんのお友達を悪く言う訳では無いのですが、クラスメイトの子たちの中にはフェイトとアリシアの関係を、その…悪く言う者が居るのではないかと」

「「「それは無いわ(よ)!」」」

 

俺達の言葉が重なる。フェイトとアリシアを悪く言う? そんな奴が居る訳がない。

男女関係無しに学年全員転生者だぞ? アリシアが助かった事を喜ぶ者こそいても、その逆は無い。

()()()()()とは言え、その点に関しては全幅の信頼を寄せても良いと断言できるね!

 

「そ、そうなのですか?」

「あのクラスは殆どが問題児だけど、フェイトとアリシアの事を悪く言う奴が一人でもいるとは思えないわ。」

「うん、皆転入生が二人も来てくれて喜んでくれる人ばかりだよ!」

「皆が困らせる人なんて先生くらいだもん!」

 

なのは、それは言わない方がリニスも安心できると思うんだが…

 

 

 


 

 

 

「「「「「「「「「「へっくしッ!」」」」」」」」」」

 

…組手中にいきなりくしゃみが出た。体調管理はしてるし、風邪ひいた訳じゃ無いと思うんだが…

 

「…ぷっ、はははっ!」

「はははは!」

 

誰ともなく笑いが巻き起こる。10人同時にくしゃみとか、映像あったらギネス狙えたんじゃねぇの?

 

「あー、おっかしぃ…何? 俺らここまで息ぴったしになってたのか?」

「チームワークが良いってレベルじゃねぇだろ!」

「君と心で繋がるRPG?」

「…あー、そう言えばもうそろそろ新作の発売日だな。お前ら買うの?」

「当然。発売日にクリアするまで寝ないぞ。」

「俺もー」

 

そんな無駄口をたたきつつもお互いに魔力弾の制御は抜かりなく、互いに死角の狙い合いが続いている。

とは言っても、もう何ヶ月も同じ面子で組手をしているせいかお互いに癖を熟知しているからな…何と無く次にどこを狙うのかが分かってしまう。

この組手ももう俺達にとっては殆ど魔力の制御訓練でしかないのかもな。

 

…ん?

 

「悪ぃ、ちょっとタンマ。何かメール来てるわ。」

「あ、俺もだ。」

 

聞けば皆メールが来てるらしい。

って事は一斉送信か。

 

俺らが今日この時間に集まってる事は来てない奴らも知ってるはずだけど…めんどくさがったのか?

訝しく思いながらも携帯を取り出し、画面を見てみれば懐かしい名前が表示されている。

 

「おぉ、神宮寺からか。」

「そう言えばあいつは俺達の訓練状況とか把握してないもんな。」

「あー、だから一斉送信か。」

 

納得しつつ文面を読めば、何と今あいつは引越しの手伝いに駆り出されて地球に来ていると言うではないか。

久しぶりに会って話そうと言われれば行く以外の選択肢は無い。

 

「マジか、あいつ今こっち来てんのか!」

「それじゃあ、今日はここまでにするか。翠屋でシュークリーム買ってこうぜ。」

「良いな、それ。あいつ久しぶりに食うだろうしなぁ。」

 

取りあえず何十通も返信が行くのは迷惑だろう。代表して俺が『みんな連れて行くわ』と返信した。

しかし神宮寺が引越しの手伝いか…『王の財宝』めっちゃ役立ててんなぁ、あいつ。

 

 

 

 

 

 

「…久しぶりだな。」

 

メールに添付されてた写真と住所で辿り着いたのは、何となくアニメで見た気もするアパートだった。

 

「おぉ! 久しぶり…お前神宮寺だよな?」

「何となく予想はついてたけど、あまり久しぶりって感じしないな。顔を合わせると。」

「まぁ、ほとんど同じ顔だからな。」

 

久しぶりに会っても久しぶりと思えない…同じ顔のデメリットが新しく発見された訳だが、そんな事は今はどうでも良いのだ。

 

「それよりもさ、引っ越して来たって部屋見せてくれよ。色々管理局の技術で魔改造してんだろ?」

「いや、俺が引っ越してきた訳じゃ無いんだが…まぁ、上げていいってリンディさんにも言われてるしな。」

 

って事は神宮寺はやっぱりこの後は向こうに帰っちまうのか。

まぁ、神宮寺は管理局のほうで色々あるだろうしな。

 

 

 

 

 

 

「おじゃましまーす!」

「ええ、いらっしゃい。直ぐに()()をお出しするわね。」

 

案内された部屋のドアを開けると、直ぐにリンディさんが来て出迎えてくれた。

 

「あ、どうも。コレお土産のシュークリームです。」

「あら、ありがとう! でもそんなに気を遣わなくても良かったのよ?」

「いえ引っ越し祝いも兼ねてますので。」

「そう? じゃあありがたくいただくわね。」

 

俺がそんなやり取りをしている間に、他の連中はさっさと部屋にあがって行き…

 

「うぉぉ、ホログラムだ!」

「やべぇ! かっけぇ! 未来的ィ!」

「あっ、そっちには行かないで! クロノ君が作業してるから!」

 

そんな声が聞こえて来る。

ちょ、そんな声聞いたら気になるじゃねぇか…!

 

「えっと…じゃあ、おじゃまします。」

「ええ。神宮寺君もこの後また向こうに戻ってしまうから、話したい事は今の内に話しておくと良いわ。」

 

何か思ってたよりも忙しいんだな、神宮寺の奴…

管理局ともなれば入社直後から色々やらされるのかねぇ…?

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!? 落ちた!?」

「声がでかい。…あぁ、一応惜しいとこまでは行ってたらしい。」

 

思わず声もあげたくなる。

それは当然あれだけ自信満々に管理局へ行ったというのにまさかの一歩目で躓いたから…ではない。

俺達は知っている。ビデオメールと一緒に送られてきた紙の束の分厚さを。

俺達と違い、神宮寺はクロノやリニス達と言うその道を専門とする人に勉強を見て貰っていたという事を。

 

つまり『俺達よりも恵まれた環境で学んだ神宮寺が落ちた』という事は、俺達が一発で合格する可能性も限りなく低いという事である。

 

「マジか…学校のテストに影響出るレベルで勉強したんだけど、まだ足りないのか…?」

「…そう言えば、俺も今お前らがどんな勉強してるか知らないな。

 ちなみに今歴史ってどうなってる?」

「『平本兼正』が出てきた所。」

「誰だよそれ。」

 

知らねぇのかよ神宮寺! 俺も最近初めて聞いたよ!

 

「まあ、相変わらず歴史がややこしい事は理解したわ。」

「分かってくれて何よりだわ。」

「因みに管理局の筆記試験の内容はその3倍はややこしいぞ。根底の常識から覆されるからな。」

「分かりたくなかったわ…」

 

聞けば勉強範囲は例の紙の内容で良いらしいが、『過去に実際に起こった事件を元にした応用問題』が出るらしい。

神宮寺はそこで大きく点数を逃してしまったようだ。

 

「みんなー、お茶を入れて来たよ。」

「あ、エイミィさん。ありがとうございます。」

 

そして机に置かれるトレーには人数分の翠屋のシュークリームと湯飲み。そして()()()

 

 

…あー、そうだったな。そう言えば。

 

「…あの、エイミィさん? これは…?」

「ん? あー、必要なかったらそのままで良いよ。

 ただ艦長が『あった方が良い』って言ってたから…ね?」

 

いや、『ね?』じゃないが。

…しかし『リンディ茶』か…抹茶と甘味の組み合わせ自体は珍しくもないが、飲み物の抹茶にまで入れるかと言われるとなぁ…

 

「ん? これもしかして翠屋のシュークリームか?」

「ああ、お前は久しぶりだろうと思ってな。お土産に買って来た。」

「…そうだな、かなり久しぶりだ。…ありがとな。」

「良いって事よ。」

 

その後俺達は本当に何でも無い話で盛り上がった。

あのゲームの新作が出るだとか、あの漫画が打ち切りになったとか、新しく始まったアニメが面白いとか…それこそ魔法の無かった前世でも出来るような話ばかりだったが、何となく今はそう言う話をしたい気分だった。

 

 

 

…因みにリンディ茶は普通に砂糖0で飲んだ。

何故か帰り際に残念そうなリンディさんの表情が印象的だった。

 




引っ越し回はここまでです。次回が始まる頃には神宮寺君は帰ってます。
次回は久しぶりにヴォルケンズに視点を移します。

以下補足

平本兼正(ひらもとのかねまさ)
モデルとなったのは幕末の頃に活躍した、『海鳴藩』のリーダー。なのは達の前世にはいなかった歴史上の人物。(あるいは存在していたが有名では無かった)
主に貿易面で活躍し、銅像が建てられる程度には名を遺した人物。
現代に於いては教科書にも『海鳴藩』の名前と共に登場し、転生者達を混乱させた人物の一人。海鳴市では特に有名な為、テストには必ずと言って良いほど出てくる。

細かい設定は決めてないですし物語に関係も無いですが、転生者にとっての小学校の歴史と地理の『めんどくささ』が少しでも伝われば。


・打ち切られた漫画
「ぐああ、この『石』は一体…!」
「メイガン、お前の『凶星辰の鎧』は確かに俺には貫けない程硬い!
 だがその鎧がお前と『細胞レベルで一体化している』のが弱点だったな!」
「よ、鎧の形が変わって行く…」
「あぁ…お前の居た世界で手に入れたあの『石』は触れた者に奇妙な力を与えるが、
 扱い方を知らなければその身を異形に作り変える…
 お前は知らなかったようだな、メイガン!」
「こんな、バカな事がぁぁ…うぐおぉオオォォォ!」
「でもどうするの、ハンス! アイツ、魔法の力も手に入れちゃってるよ!」
「だが鎧の防御は失われた。この銃とナイフが通じるのなら、誰が相手でも怖くはないさ!」
「…うん、私も怖くない。アイツが私の国を滅ぼした元凶でも、ハンスとなら怖くない!」
「あぁ…行くぞおぉぉぉぉ!」

『★ハンスの勇気が世界を救うと信じて!
               ご愛読、ありがとうございました!』
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