転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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前回の後書きで「次回はヴォルケンズ回」と書きましたが、すみません。それは次回になります。
あと、開幕神宮寺視点です。(前回の後書き無視)

今回の話は本来次の話のヴォルケンズ回で回想として挟む予定だったのですが、長くなってしまった上に視点変更の都合もあって分割しました。



想定外の遭遇

「じゃあまたな、神宮寺。入局試験、頑張れよ。」

「あぁ、今度こそはちゃんとパスしてやるさ。」

 

そんなやり取りを最後にアイツ等と別れた後、俺は『海鳴臨海公園』に向かって歩を進めていた。

あの辺りは周囲に障害物も無く、次元間転送ポートの出入り口にもってこいだったらしい。ジュエルシード事件でそれが判明していた為、今回も転送して貰う為に向かっていると言う訳だ。

 

 

 

夕暮れ時とは言え人目もある為、徒歩で向かう事十数分。

転送用の待機場所へもうすぐ着くと言ったところで、海を眺める人影があるのが見えた。

…拙いな。待機場所にはもう少し距離があるとはいえ、人目があったら流石に転送は出来ないぞ。

かと言って「ちょっと何処かへ行ってくれ」なんて言える訳も無いし…

 

そう悩んでいると、海沿い特有の潮風が逆光で良く見えないその人影の長いポニーテールをそよがせる。

夕日を反射して輝くその髪の色は、鮮やかな桃色だった。

 

 

 


 

 

 

…今日も空振りか。

夕日が沈む水平線を眺めながら、一人ため息をつく。

 

いや、正確に言えば空振りでは無い。今日一日だけでも転生者らしい者ならば何人も目撃していた。

だが蒐集行動には移れていない…その理由は今私が一人だからだ。

 

これまでは最低でもツーマンセルで行動してきた。これは管理局員がツーマンセルでの行動を徹底していた事もあるが、戦闘不能にした相手を蒐集前に回収されない為でもある。

 

故にこちらが一人である以上、蒐集対象も一人で行動している相手でなければならない。

倒しても仲間に回収されればそれまでだからだ。…それに、今はあまり戦闘が長引くリスクは避けたいからな。

 

だが転生者もバカじゃない。単独行動をする者はおらず、それどころか5人以上で固まっている者が殆どだ。

1対5で戦い、更に蒐集を熟す。それも短時間に。…それは流石に分が悪い。

 

…ヴィータかザフィーラが動ければ良かったのにと思わずにはいられないが、今彼等は彼等で大切な検証の最中だ。

なのはのリンカーコアを蒐集した直後の私達の行動は、記憶が無くなった後の私の行動とも違った。その検証を行って貰っているのだ。

 

…思考が逸れたな。

 

重要なのは結局今日は蒐集が出来なかったという事と、もうすぐ夕飯の時間だから帰らないとはやてが心配するという事だけだ。

 

…風も強くなってきたな。

今日はしゃぶしゃぶと言う話だし、早く帰ろう。

 

そう足を『海鳴臨海公園』の出口へ向けて歩き出そうとした時だった。

 

「お前…シグナムか。」

 

夕日を反射する銀髪に、左右で色の違う瞳。

こんな時間に何故かこの公園にやって来たその少年は、偶然にも一人だった。

 

「…如何にも、ヴォルケンリッターが一人…『剣の騎士』シグナム。」

 

最後に美香様に闇の書の影響をリセットして貰ってからおよそ4時間か…

魔力を使っての戦闘は残りの時間を縮めてしまうが、折角単独行動している相手をみすみす逃す訳にも行くまい。

即座に甲冑を身にまとい、封鎖領域を展開。目の前の少年を逃げ道の無い戦場へと招き入れる。

 

「ちっ…マジかよ。これから帰って勉強しなきゃいけないってのに…」

「案ずるな。身柄は無事に返す。ただ、お前の魔力に用があるだけだ。」

 

そう言ってセットアップを促す。

今やっている事は盗賊の様な行いだが、これでも一応は騎士。そしてサムライを目指した身だ。せめて勝負はフェアに行きたい。

 

「仕方ねぇ、相手してやる。

 俺も勉強漬けでフラストレーションが溜まってんだ。手加減も出し惜しみもしてやらねぇからな! セットアップ!」

 

少年がバリアジャケットを纏い、臨戦状態に入った事でその魔力が今まで以上に良く感じられる。

なるほど、私に対して手加減と言う言葉を使うだけはある。容姿こそ瓜二つだが、昨日砲撃を軽くあしらえたような相手と同じように考えない方が良さそうだ。

 

「お前は私の名を知っていたようだが…改めて名乗ろう、『剣の騎士』シグナムだ。」

「神宮寺雷斗。…時空管理局志望の、ただの一般…一応嘱託か? …魔導士だ。」

 

別にそこまで無理して名乗る必要は無かったのだが…意外に律儀な奴だ。

 

「…参る!」

「っ!」

 

踏み込みと同時に鞘に収まったレヴァンティンを抜き放つ。7~8mは有った彼我の距離はあっと言う間に詰められ、目を見開いたままの少年の胴をレヴァンティンが捉えようかと言うその刹那…

少年の胴から魔力弾が複数個、黄金の波紋を伴って飛び出した。

 

「なにっ!?」

 

魔力弾の一つがレヴァンティンと接触し、残りの魔力弾も巻き込まれて誘爆。

 

「ちぃっ…!」

「うぐっ…!」

 

両者の間で発生した爆風はレヴァンティンを僅かに押し返す。腕に力を籠め、爆風諸共切り裂かんとレヴァンティンを強引に振り抜いたが手応えは無し。

神宮寺も爆風を利用して大きく距離を取ったらしい。

 

…煙に包まれたのは私の方か。そうなると、次の奴の行動は…

今までの戦闘経験から神宮寺がどういう行動を取るかをシミュレートし、即座に魔法陣を張る。

 

次の瞬間、夥しい数の魔力刃が砂煙を裂いて飛来した。

魔法陣の効果で既に感知していた為、問題無く対処するが…

 

…長いな。

どれだけの数を切り捨てても次から次へとキリが無い。既に切り捨てた魔力刃の数は千を超えているというのに、その勢いが衰える気配もない。

魔力刃を切り裂く度に発生する煙で相手の様子は窺えないが、もしや増援でも来たのだろうか?

 

…そう言えばこの魔力刃、感じる魔力の波長が明らかに一人分では無い。

少なくとも10人以上の魔力が混ざっている!

だが奴が助けを読んだにしても駆けつけるのが早すぎる…となれば、元々一人で行動していた事も含めて罠だったか…!?

 

長期戦は避けるべき…一気に片を付ける。

 

「レヴァンティン…鎧を。」

≪Panzer Geist.≫

 

凝縮した魔力が騎士甲冑の上にもう一つの鎧を生み出す。

試しに2,3発受けてみるが、問題無く防げる程度の威力のようだ。

足元に展開していた魔法陣を消し、カートリッジをロード…この状況を逆に利用し、奇襲をかけるべく駆ける!

 

 

 


 

 

 

「よし…何とか捕らえたようだな。」

 

魔力刃の爆発の仕方からしてどうやら防いでいるのではなく捌いているようだが、それでもいずれは限界が来る。

魔力刃の密度を維持しながら射出の幅を広げ、退避も難しくして…これで一先ずは時間が出来た。

今の内に周囲に意識を向けるが、どうやら本当にシグナム一人のようだ。視界に隠れられる場所は少ないし、まだ未熟だが魔力探査にも第三者の魔力は感知されていない…

 

こっちに来る前にリンディさんに聞いた情報じゃ、ヴォルケンリッターは常にツーマンセル以上で行動しているって話だったが…

 

…まぁ、一人ってなら都合がいい。

今のところシグナムは魔力刃の対応で手一杯ってところだろうし…どうする?

このまま時間を稼いでいる間に、向こうで待機してくれている管理局員に連絡して撤退するのもアリだが…

 

思考していると、突如爆発の仕方が変化する。間違いなくシグナム自身に着弾した。

いっそこのまま押し切ってしまうのもアリか? そう思ったのだが…

 

「なっ!?」

 

()()()()()()()()()()()()()…まさかシグナムの奴、魔力刃の中を直進して来てるのか!?

数秒とかからず爆発は俺のすぐ目の前までやって来る。そして…

 

「紫電…」

 

煙を吹き飛ばす業火を纏ったレヴァンティンと、それを振りかぶるシグナムが現れた。

 

「一閃!」

「くっ!」

 

咄嗟に障壁を張る。

この数ヶ月間勉強と並行ではあったが鍛えてきた障壁と、上段から振り下ろされたレヴァンティンがぶつかる。

しかし次の瞬間、あっと言う間も無く障壁全体に亀裂が走る。たった一瞬でこのざまだ…もうこの障壁は持たないと判断し、破壊される寸前と言うところで障壁を爆発させて再度距離を取る。

 

「…ほぅ。」

 

レヴァンティンを振り下ろした姿勢のまま、シグナムと目が合う。

見たところ先程の爆発も大したダメージにはなっていないようだ…体力にもまだまだ余裕が見える。

 

「マジかよ…アレを正面から破るのか…。」

 

思わず冷や汗が首筋を伝う。『王の財宝』の斉射を正面から突破されたのは流石に初めてだ。

…よく見れば、うっすらとだがシグナムの体が光って…そう言えばベルカ式には魔力を鎧のように纏う魔法が有ったな。

 

「…む? お前一人か?」

 

ふとシグナムが周囲に目を走らせる。

何故そんな確認をするのかはわからないが、援軍が来てるなら早く出てきて欲しいくらいだ。

シグナムは周囲の確認をした後、レヴァンティンを構えて告げた。

 

「…お前とはもう少し戦いを楽しみたいところだが、私も急ぐ身だ。

 悪いが、次で決めさせてもらうぞ。」

 

シグナムの纏っていた魔力が消える…時間経過で解除されたってところか。

当然シグナムは気付いている筈だが、新しく張りなおす気配はない。恐らくシグナムが言った通り、「次で決める」つもりなのだろう。魔力節約か…確かにシグナムの方が明らかに格上だが、それにしたって侮られたもんだ。

 

…互いの距離は目測だが3()()4()m()と言ったところか。この距離なら使えるな。

 

シグナムの背後に揺らぎが生まれる。『王の財宝』の出入り口の生成限界距離は5m…悪いがその油断、遠慮なく突かせてもらう!

 

シグナムの背後に開いた砲門から、魔力刃が飛び出したその瞬間…シグナムが突然振り返り、レヴァンティンを振り抜いた。

…ものの見事に魔力刃は真っ二つ。奇襲は失敗か…どうなってんだその反応速度。

だがシグナムの意識はこちらから逸れ、レヴァンティンを振り抜いた直後で咄嗟に動けない『間』が生まれる。

 

決めるなら今しかない!

 

 

 


 

 

 

背後に魔力を感じ、咄嗟に振り返りレヴァンティンを振り抜く。

目の前数十cmの所から飛び出した魔力刃が、レヴァンティンに切り裂かれて霧散するのが見えた。

 

やはり…! だがいつの間に背後に? 遠隔操作するような素振りはなかった筈…!

 

手品の種を考える間もなく、私を囲むように黄金の波紋が発生する。

 

「これは…まさか!」

 

思えば最初にそれを見た時点で違和感を覚えるべきだったのだろう。

普通魔力弾を撃つ際に波紋は現れない。現れるとしても、それは魔力による物だ。魔力弾と同じ魔力光である銀色であるべきだ。

黄金の波紋は別の現象だと察して然るべきだった…!

 

射程距離(5m)内…くらえ、『王の財宝』の結界だ!」

 

くっ…全方位に魔力刃か…!

昨日のフェイト戦に引き続き、二日連続で同じような状況に陥るとは…

 

前回と同じ対処をするべく足元に魔法陣を張るが、その間にも数発被弾してしまった。

フェイトのフォトンランサーの様な威力も、電気の性質も無い為動きに支障はないが…それでも全くダメージが無い訳では無い。

攻撃を受け続ければやがては累積した魔力ダメージで墜とされるだろう。

 

全く、油断のならない相手だ…!

 

「ハアァァァッ!!」

「なっ…なんて動きしてんだ…!」

 

動きに関しては放っておいてくれ! 私だって好きで体全体を乱回転させている訳では無い!

魔法陣で感知した魔力弾の方へ自動的に体を向けさせているせいだ!

 

だが、このおかげで時間の猶予は稼げる。

 

「レヴァンティン、鎧を!」

≪Panzer Geist.≫

 

再び鎧を纏い、回転を止める。

やはり魔力刃の威力が低いせいで、いくら喰らおうと鎧に罅も入らないようだ。

 

「あっ…くそ、そう言う事か…!

 そう言えば今の魔力刃って数ヶ月前の…!」

 

何やら気になる事を言っているが、構う余裕もない。

この結界とやらに物理的な干渉が効くかは不明だが、このまま突っ切る!

 

「紫電…ッ!?」

 

背後からの衝撃…いや、今でも魔力刃は絶えず受け続けているが…そんなものの比較にならないダメージを受けた。

鎧を貫いては居ないが、明らかに鎧に罅が入った事が分かる。

それに今感じた魔力…まさか…!

 

「その反応…やっぱり()()()()()()()は通用するらしいな…!」

「そう言う事か…どうりで魔力がバラバラなはずだ…」

 

()()()()()()()()()()()か…!

これは…少々拙いか。今まで私が鎧で受けられたのは魔力刃の威力が低いからだ。だがここから黄金の波紋が撃ち出されるのがなのはの魔力弾に変わるとなれば…

 

なのはの魔力弾の威力は魔力刃の比ではない。温存していた事から察するに残弾制限があるはずだが、どれだけのストックがあるのかを私は知らない。

鎧だけでは不安が残る。だが魔法陣を張れば攻める事も出来ん。時間を稼がれれば、私の記憶が…!

 

…致し方、無いか…!

 

「神宮寺と言ったな…この勝負、預けるぞ!」

「なっ!?」

 

レヴァンティンに魔力を集中させ、発射されてきたなのはの魔力弾の一つに叩きつける。

忽ち魔力爆発が発生し、封鎖領域内を解放された魔力が暴れまわる。

 

ヴィータの技の猿真似だが、これで撤退しよう。

 

 

 


 

 

 

「神宮寺と言ったな…この勝負、預けるぞ!」

「なっ!?」

 

そう言うが早いか、シグナムがレヴァンティンをなのはの魔力弾に叩きつける。

直後凄まじい光と暴風が荒れ狂い、堪らず目を閉じてしまった。

 

…どうやらその一瞬で逃げられてしまったらしい。

 

咄嗟に射出こそ止めたものの、目を開いて直ぐに確認した結界の中はもぬけの殻だ。

 

「…はぁっ…何とか、切り抜けたらしいな…」

 

なのはの魔力弾を使った()()()()が通用して良かった。

…さっきの魔力弾はジュエルシード事件解決後、最後になのはが入れてくれた物だった。

学校のジュエルシードの怪物討伐後の魔力弾だと威力の面で不安があったからな…とは言え、そのストックは決して多くない。

あのまま全力で射出し続ければ1分持たなかっただろう。

 

『神宮司さん、大丈夫でしたか!?』

「あー、オペレーターさん? まあ、何とか追い払う事は出来ましたけど…」

 

待ち合わせのすぐ近くだったからな…結界が張られればそりゃ分かるか。

 

『一応こちらから局員を派遣したのですが…どうやら少し遅かったみたいですね。』

「いや、仕方ないですよ。交戦自体短かったですし。」

 

戦闘を振り返ると10分も経っていないからな…観測から要請、ポートを開いて駆けつけるって言ったって結構ギリギリだっただろうし…

 

『いえ、少々私達も今の海鳴の状況を甘く見ていました。

 直ぐに神宮司さんをこちらに転送しますね。』

「あー…じゃあお願いします。」

 

…しかし、アレだな。

シグナム…と言うか、ヴォルケンリッター全員なのか? どうも俺の思っている以上の強敵みたいだ。

元々あれくらい強いのか、何らかの理由で強くなってるのかは知らないが…

今更ではあるが、あいつ等の事が心配になって来たな。

 

…いや、まあ信じてみるか。

 

こっちにはリンディさんもクロノも残るんだし、俺より強いフェイトとアリシアもいる。それに何よりなのはが居るんだ、何とかなるだろう。

 

 

 

まぁ…最後は随分バタバタしたけど、久しぶりに帰ってきた地球の空気は悪く無かったな。

 




前回の後書きでかいた『次回が始まる頃には神宮寺君は帰ってます』ですが、
本来は回想で全部シグナム視点のつもりだったのです。長くなって分割した結果嘘になりました…すみません。

以下補足と多分抱くと思われる疑問に対する置き解答。

シグナムの乱回転ですが、一応シグナム自身想定した挙動ではあります。
魔法陣の『姿勢制御』の効果事態、殆どこの為です。
フェイト戦でも煙の中でこの挙動をしてましたし、何なら古代ベルカでもやってました。

因みにですが、フェイト戦でフォトンランサーを受けたのに麻痺の影響がなかったのはまた別の魔法? が原因です。



Q.何で神宮寺帰るの? 勉強ならクロノ達が居る地球でも出来るんじゃないの?

A.神宮寺君は現在『ミッドチルダ』で生活しています。
 これは「管理世界の常識を身につけるなら管理世界で生活するのが一番!」と
 リンディさんが提案したためです。
 その為、現在の勉強の内容は『ミッドチルダで一人で生活する事』なのです。
 (もちろん勉強も訓練もしてる)
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