今回は殆どシグナム視点です。
「シグナム、痛むところはない?」
「痛むも何も無い。最初から軽傷だと言っていただろう?」
今私は八神家のリビングのソファに座り、シャマルから治療を受けている。
軽傷だから問題無いと言ったのだが、今日の蒐集について行く事が出来なかったからと言って聞かなかったので、シャマルの気が済むのならと好きにさせている。
確かに今回の蒐集は私一人で行くしかなかったが、シャマル達はその分重要な役目を果たしてくれたので気にする必要もないと言うのに…
「…シグナム、まさかお前程の者がこの短期間に2度も傷を受けるとはな。」
「あぁ…だが見ての通り傷は浅いし、何より珍しい経験が出来た。後で情報の共有をしよう。」
ザフィーラの心配を帯びた声に、安心させようと明るく返す。
実際傷は負ったものの、今回の傷は昨日の…フェイトのフォトンランサーで負った物より軽傷である事は間違いない。
今はこうしてソファで体を休めてはいるが、それだってはやてやシャマル達が心配しているからそうしているに過ぎないのだ。
「1人目はフェイト、そして今回があいつ等の一人か…
腕が鈍った訳じゃねーんだよな?」
「少なくとも自覚は無いな…年を取らぬ体である以上、年齢による衰えも無い。」
ヴィータの問いに、そう返す。
はやてを主とした後も私達は鍛錬を欠かしていない。この身が老いを知らぬ以上、腕が鈍る事などありえないのだ。…本来ならばな。
「…はぁ、ままならねーな。
魔法生物からの蒐集は効率が悪いってのに、転生者を狙えば妙に強かったりしぶとかったりよー…」
「そうでもない。蒐集のペースと言う点だけを考えれば寧ろ予定よりも早いくらいだ。」
「…まぁ、
厄介か…本当に厄介な事になったものだ。
闇の書は蒐集した魔力で嘗て埋まっていた空白のページを修復する。前回の蒐集で得たなのはの魔力は50ページにも及んだ。
…多分なのはも私達と同じ事情を持つ転生者だったのだろう。おかげで予定よりも遥かに多くのページが埋まったが、今回に限って言えばそれが却って拙い結果を生んでしまった。
「まさか、文字通り『切り捨てた』過去が今になって牙を剥くとはな…」
脳裏に、遥か過去に自ら切り捨てた忌々しい男の顔が浮かんだ。
そいつの残した負の遺産によって、私達はこの上ない屈辱を味わったのだ。
その負の遺産の名は――『守護騎士
それは闇の書の改竄を試みた一人の男によって
そのプログラムが生まれた原因は、とある代の『闇の書の主』の命令に私達ヴォルケンリッターが従わなかったからだった。
当時成果の振るわぬ研究者でしかなかったその男は闇の書を偶然手にし、唐突に4人の騎士を得た事で自らが『運命に選ばれた王』だと錯覚した。
やがて自らの言う事に従わない物が有ってはならないという歪んだ思想を抱いたその男は、私達を強引に従わせる為にそのプログラムの構築に着手したのだ。
私を始めとする騎士が従わなかったのは、彼の命令が下衆な目的の元に下された浅ましい物だったからだと言うのに。
しかしその目論見は他でもない騎士によって阻まれた。当時の闇の書はまだ私達への干渉が弱く、自らの意思で動けたからだ。
レヴァンティンに腕を飛ばされ、喚く男の顔は今でも私の記憶に残っている。
その男を切り捨てた後、あの未完成のプログラムは管制人格自ら消し去ったはずだったのだが…
そのプログラムを、闇の書自身がサルベージする事までは防げなかったか。
蒐集した膨大な魔力と未完成のプログラムを媒体に、一時的にとは言え記憶や意思だけでなく体まで奪って行った。
闇の書自体に戦闘経験は無い。戦闘のノウハウ等持ち合わせている筈もない。ただ敵に突っ込み、得物を振り回すだけのラジコンにされたあの屈辱は恐らく誰にもわかるまい。
「…あの男のプログラムを、闇の書が完成させた…か。」
「完成…と言う訳じゃ無いと思うわ。
その証拠に、私達は今こうして自分の意思で動けているもの。」
「…ああ、そうだな。」
私が蒐集活動をしている間、シャマル達は体を操られる条件を検証してくれていた。
そしてその条件は『私達が一定(恐らく1/4ほどだと言う)以上の魔力を消費する事』であり、操られるのは今のところ長くても十数秒である事が判明した。外部から魔力で上手く干渉すれば、正気に戻せることも判明した。
思えばなのはを蒐集したあの時も、シャマルだけは行動を操られてはいなかった。それはシャマルが戦闘にあまり魔力を使ってなかったからだったのだ。
「…だがよぉ、そうなるとこれからの蒐集はどうするんだ…?
蒐集の為に戦闘が長引けば、記憶か体を持ってかれんだぞ?」
ヴィータの指摘は尤もだ。戦闘で魔力を消費し過ぎれば、私達は十数秒とは言え素人未満の醜態を晒す。
その隙を突かれて拘束されれば蒐集どころではない。
…魔力を使わず、隙を作らず蒐集を続ける…不可能ではないが難しい問題だ。
「方法が無い訳では無い。幸いにして私達にはカートリッジシステムがある。
自らの魔力を温存し、カートリッジの魔力を多用すれば戦闘は可能だ。」
「理屈は分かるが、それはほぼ不可能と言って良いのではないか?
長期戦になればカートリッジを使い切ってしまうだろうし、そもそもロードする隙を簡単に与えてはもらえんだろう。」
そう、この方法で戦闘が出来るのは本当に短時間だ。カートリッジを使用した魔法で奇襲を掛け、そのまま倒し切る必要がある。
だが今までの蒐集で分かる通り、そんな簡単にいく相手は居ない。管理局の局員も目にするのは転生者ばかりだからな…
「今、闇の書のページはどれだけ埋まっている?」
「…4/5ってところね。」
パラパラと闇の書をめくって確認したシャマルがそう答える。
残り1/5…か。
「それだけであれば無人世界の魔法生物の蒐集で間に合うか?」
「…蒐集が順調に進めば間に合うと思うわ。でも、間違いなく管理局の妨害があるでしょうね。」
残り1/5…およそ133ページか。魔導士…それも転生者相手なら10人程で埋まるが、蒐集できなければ成果は0だ。
魔法生物であれば…今まで狩って来たペースで考えると、大きい物なら140体と言ったところか。
数こそ必要になるが、恐らく確実なのはこちらだろう。
シャマルの言う様に管理局の妨害がある事は確実だが、管理局は別に魔法生物を守ろうとしている訳では無いからな。
「構わん。以降は魔法生物の蒐集を中心に行い、管理局の魔導師が出てきたら即撤退の方針とする。
魔導士の蒐集はハイリターンだが管理局の眼が常に向いているからな。」
この選択が正しいか否かは結果が出るまで分からないが、それでも私が責任をもって選ぶべきだ。
それが偶然とはいえヴォルケンリッターの将になった私の役目なのだから。
――管理局のとある通信にて。
『ふむ、そうか。…ああ、こちらでも確認したよ。それで…
「そうですね、ここまでは問題ないかと…ただ…」
報告者…リーゼアリアが言葉を一度飲み込む。
彼女の今の立場を考えれば、通信における言葉も選ぶ必要がある。
特にここ最近は管理局のセキュリティ強化の一環で通信の内容は記録されるようになった為、下手な事は言えない。
『…ただ? 何か問題があったのかね?』
「…いえ、彼等の動きはリンディ提督が把握しつつあります。
恐らくは近い内に対処
だからあくまで表現上はリンディ提督側として発言する必要がある。断じて『リンディ提督に把握されつつある』等と言う表現をしてはいけないのだ。
…全く、あの銀髪オッドアイ達のせいで計画が無茶苦茶だ。彼女は心の中でそう毒づく。
いざとなればヴォルケンリッターが蒐集しやすくなるように管理局の通信を妨害しようと言う案もあったのに、セキュリティ強化のついでに通信技術まで一新されたせいでそれも出来ない。
彼女の『父さま』の立てた計画も大幅に一新されていた。
『ふむ、流石はリンディ提督だな。
ただ彼女は確かに聡明だが、まだ私達に比べれば経験が浅い。
そういう部分の
「そうですね、いざとなれば私達が直接出向くのも有りかと…」
『なるほど。確かに相手はあの闇の書だ。
11年前の事件を知っている私達なら手助けも出来るだろうね。早速リンディ提督に口利きしておくよ。』
…リンディ提督の元に、
介入なんてしようものなら正面から倒されます。
★ここが凄いよ管理局の新警備体制!★
・一定以上のセキュリティレベルが設定されているドアは、局員が持つカードが無いと開かないぞ!
・局員全員の魔力波動が記録され、対応してない魔力波動だとカードは使えないぞ!
・重要な部屋は出入りの度に魔力波動が記録され、更に局員のデータベースに無い魔力波動が入り込むとその部屋がたちまちロックされて『檻』に変わるぞ!
・本局内の通信はそれがどんな物であれ傍受されるぞ!
・管理局が使用している通信を傍受、妨害しようとすると数秒で逆探知されるぞ!
・そのうえで傍受・妨害されそうだった通信の周波数が自動的に変わり、干渉をすり抜けるぞ!
・以上のセキュリティはJ・Sさんの協力のもとに製作されております。
実は裏で巻き込まれていたJ・Sさん。ただし彼は先ず自分の代わりに仕事を遂行してくれるプログラムをくみ上げたので被害は軽微です。
軽微は強固になったがその分闇も深くなった管理局。脳ミソ達もにっこにこなのである。