転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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迫るリベンジの時

とある無人世界に広がる大森林。

普段は鳥のさえずりが聞こえる程平和なこの森だが、今は大地を揺らさんばかりの轟音が断続的に響き渡っていた。

 

「くそっ…こいつ、ずっと引っ込みやがって…!

 おい、ザフィーラ! 本当にこんな奴が一番強ぇのか!?」

 

一見すると巨大なマリモのように見える植物の塊に幾度と無くグラーフアイゼンを叩き込んだもののまるで手応えを感じられず、ヴィータが苛立ちをそのまま口に出すかのようにザフィーラに問いかける。

 

「確かだ。

 少なくとも内包している魔力と言う意味では、この次元世界に並ぶ者はいないだろう。」

「つってもよぉ…ふんッ! こいつッ! 一向にッ! 攻撃するッ! 意思もッ!

 感じられねぇぞッ!!」

 

ヴォルケンリッターでも随一の破壊力を誇るヴィータが、今こうして梃子摺っているのには理由がある。

ヴィータ達は知る由も無い事だが、今相手している()()は元々『身を守る事に特化した種族』だ。

その本体は5m程の高さの植物なのだが、身の回りに危険を感じた瞬間に地中から自らの一部である根や蔦が飛び出し、まるで繭のように本体を包み込んでしまう。そしてその際の全長はなんと20mにも及ぶのだ。

 

元々頑丈な構造を持つ根や蔦だとしてもヴィータの一撃を防ぐ盾としては本来力不足の筈だが、内部に余裕のある構造が空間装甲としての役割を果たしており、ヴィータの攻撃が本体まで届いていなかった。それに加えて…

 

「くそッ…! こいつ、またポンポンと跳び回りやがって!」

「…一応言っておくが、そいつを飛ばしているのはお前だ。ヴィータ。」

「分かってるよ! くそ!」

 

内部に空間を持つ球体は攻撃する角度を上手く調整しないと、さながらゴム毬のように森の中を跳び回るのだ。

ヴィータの一撃が強力な事もあり、時に木をなぎ倒し、時に木に弾かれて変則的に動き回る球体にヴィータのフラストレーションは溜まる一方であった。

 

「あぁぁああッ! イライラする!!」

「…別の次元世界に行くと言う方法もあるぞ。」

「ここまでコケにされて引っ込めるか! ぜってぇこいつは蒐集してやる!!」

「そうは言うが、ヴィータ。もう随分と戦闘が長引いている。

 カートリッジの数も随分と減っただろう。」

「ぐっ…!」

 

これ以上はリスクが高い。そう告げるザフィーラに、ヴィータも思うところが無い訳では無い。

この一体相手に既に数十分が経過しており、使ったカートリッジも10を超えた。いくら蒐集の効率の為に多めに支給されているとは言っても、流石に底をつく一歩手前だ。

既に大赤字と言って差し支えない状況であり、ここであの植物を倒したからと言って元が取れる保証もない。

この数日間ただの一度も苦戦する事無く、順調に蒐集出来ていたが故の傲りに気付いた時には引っ込みがつかなくなっていた…と、ヴィータが反省した丁度そんな時だった。

二人からやや距離を取って見に徹していたエールから二人に念話が入ったのは。

 

≪お二方。戦闘中の所申し訳ありませんが、管理局がこの次元世界の私達を捕捉したようです。

 至急、退避の準備を。≫

≪…分かった。≫

≪随分と素直だな、ヴィータ。もう少しごねるかと思ったが。≫

≪…ちっ、流石に潮時だってわかってるよ。≫

≪賢明な判断だ。まだ()()()()()()()()ようで安心したぞ。≫

≪ふん…≫

 

攻撃の手を止めヴィータ達が距離を置いても、蔦や根は特に追撃をする訳でも無くただただ本体を守っている。

 

「はっ…あんだけやっても反撃の一つもしねぇってか。つまんねー奴。」

「…だからこそあの個体は今まで生き延びて来たのだろう。強さの形も千差万別という事だ。

 現にお前の攻撃もしのいで見せた。」

「はぁっ!? あたしだって事情が無ければ…むぐっ!」

「…その事について、今はあまりしゃべり過ぎるな。」

「ぐっ…! …おう。」

「…転送の準備が出来ましたわ。さぁ、陣の中へ。」

 

二人が会話している裏で転送の準備をしていたエールが、術式の準備が出来たと声をかける。

そしてヴィータとザフィーラの二人が地面に広がった魔法陣の中に足を踏み入れたところで、周囲の空間が開いて管理局員達が現れた。

 

「時空管理局だ! 3人とも抵抗はやめて直ぐに投降を…なっ…!?」

「ハッ…とろいんだよ、ばぁ~か!」

 

…が、直ぐにそんな嘲りの言葉を残してヴィータ達は転送されて姿を見失ってしまう。

 

「あんのクソガキ…っ!」

「…まぁ、アレは確かにクソガキだったな。」

「ああ、100点満点のクソガキムーブだった。」

「クソガキヴィータか………アリだな。」

 

取り残された管理局員の中には額に青筋を立てる者もいるが、妙に満足げな者もいる。…言うまでもなく銀髪オッドアイ達(いつものやつら)である。

 

「…っ、そうだ! エイミィさん、アイツ等の転送先は!?」

『ゴメン…解析はかけてみたけど、転送魔法そのものに追跡防止のプロテクトがかかってる。

 解除自体は出来ると思うけど、それが出来た頃にはもう…』

 

別の次元世界に転移した後…

 

言葉には出さないが、彼もエイミィと同じ結論に至った。

 

「…あー、アイツ等明らかに準備万端でしたもんね…」

『うん…向こうが一枚上手だったみたい。

 君達も一旦帰艦させるね。』

「お願いします。」

 

やり取りの直後転送の術式が彼等を包みこむ。

この次元世界が再び無人に戻る過程のその裏では、根と蔦で出来た球体がゆっくりとその身を解していくところだった。

 

 

 


 

 

 

ところ変わって地球のアパートの拡張空間。

やや薄暗いこの空間では現在クロノ、エイミィ、リーゼロッテの三名がモニターを眺めていた。

 

「…はぁ、ゴメンねクロノ君。ようやく見つけたのに…」

「いや、アレは仕方ない。

 今回の件はたまたまあいつ等が諦めたタイミングと合致したのか、それとも僕達の動きが察知されたのかは分からないが…ともかく、ヴォルケンリッターが周辺世界で蒐集を行っている確証は得られた。全くの無駄足と言う訳では無いさ。」

「うん…それにしても、また新しい仲間が居たね。この女の人もヴォルケンリッターの一人なのかな…」

 

そう言うとエイミィは、ヴォルケンリッターと行動を共にしていた女性の姿をモニターに表示する。

先程の一瞬、エイミィは咄嗟にその女性…エールの姿を記録することに成功していたのだ。

 

「分からない。知っているとすれば…」

「…違うよ、絶対。あの女はヴォルケンリッターじゃない。」

 

視線を向けたクロノに答えるように、リーゼロッテが口を開く。

 

「あたし達は()()()()以降闇の書について調べていた事もあったから、ある程度は詳しくなった。だから断言できるけど…()()ヴォルケンリッターは『4人』だよ。」

「…()()?」

 

まるで過去は違ったかのような物言いに、クロノは思わず聞き返す。

 

「うん。前にユーノっていう子が見つけた古い文献だと、最初の頃は『5人目』が居たって記録も確かにあるんだ。

 でもそれは本当に古代ベルカ時代の記録で、ある時を境に『4人』になった後はずっとそのまんまなんだってさ。」

「…でも、それならさっきの人がその『5人目』って可能性も…」

 

エイミィの当然の疑問に対して、リーゼロッテは言葉を遮るように返す。

 

「あー…先に言っておくべきだったね、『5人目』が消えたのは古代ベルカの時代。

 でもさっきの転送魔法は…」

「ミッド式、か…」

「クロスケ大正解! 師匠がご褒美上げちゃおう!」

「いらない。それよりも…」

「そ、即答…」

 

元々ちょっとした冗談のつもりで言った『ご褒美』ではあったが、流石に即答で断られると少しショックなのだろう。ハグをしようとしていたリーゼロッテが肩を落とす。

 

「今の時代の魔導士がヴォルケンリッターに力を貸している事の方が重要だ。

 彼女の素性を調べてみる必要がある。個人ならまだ良いが…組織的な物が背後にあるとしたら…」

「っ! …ちょっと忙しくなりそうだね、これは。

 リーゼロッテさん! 手伝って!」

「えぇっ!? あたし!?」

「今まで何もしてなかったでしょ! ほら相手は闇の書なんだから、ここに来ている以上仕事する!」

「は、はぃ…」

 

何が悲しくて姉の素性を調べなければならないのだろう…そう思いつつも口に出せるはずもないリーゼロッテは、限りなく不毛な調査を始める事になるのだった。

 

 

 


 

 

 

≪ヴィータちゃん達が!?≫

 

授業を終えて帰宅中、クロノ君からの念話で知った情報に思わず立ち止まってしまう。

隣を歩いていたフェイトも同様で、二人が同時に立ち止まった事で少し先を歩く事になったアリサとすずかがこちらに何事かと振り返る。

 

≪ああ、君達は学業もあるから僕達だけで対処しようとしたのだが…≫

 

クロノからの念話によると、ヴォルケンリッターはまるでこちらの動きを察知していたかのように撤退したのだとか。

そして次の機会を逃さない為にも何時でも動けるようにしていて欲しいとの事だった。

 

≪私達も今からそっちに行きます! フェイトちゃんも今一緒に居るので…≫

≪待て、なのははまだリンカーコアの再生が十分ではないだろう。≫

≪…あっ。≫

 

いかん。完全に忘れてた。

急の念話だった事もあってつい…

 

≪…もしかして、忘れていたのか?

 はぁ…逸る気持ちも分かるが、今は安静にしておいてくれ。

 リンカーコアの再生が完了した時は改めて力を貸して欲しい。≫

≪はい…≫

 

何か色々と恥ずかしい気分だ。…だが言い訳をさせて欲しい。

確かに今の俺は激しい戦闘は控えている。だがあまり負担がかからない程度の軽い訓練は今でも毎日熟しているし、そちらに関しては全くと言って良いほど影響が出ていないのだ。

症状を全くと言って良いほど自覚できない以上、忘れてしまっても仕方がなかったのだ。

 

≪フェイト…済まないが、手を貸してもらえるか?≫

≪はい!≫

 

念話が途切れた後、フェイトが少し申し訳無さそうな顔で俺を見る。

俺は言葉も出ず、ついつい目を逸らす。

…初めてだよ、穴があったら入りたいと本気で思ったのは。

 

「…まさか、また魔法関係?」

「魔法関係って言うと…また、魔法の石?」

 

二人揃って変な雰囲気になったからか、転生者であるアリサ達にも念話があった事の察しがついたようだ。

 

「うん、ゴメンね二人とも。折角誘ってくれたのに…」

「…私も、ごめんなさい。ちょっと行かなくちゃ…」

 

折角この後はすずかの()()()()()と顔合わせだったと言うのに…まぁ、十中八九はやての事だと思うけど。

 

「…ううん。確かにちょっと残念だと思うけど、多分また色々大変な事になってるんだよね?

 そっちの方が心配だよ。」

「すずかちゃん…」

「すずか…」

「…私達の事は良いから、早く行ってきなさい。

 新しい友達の子には私が上手い事誤魔化しておいてあげるから。」

「アリサちゃん…うん、ありがとう二人共!」

「…ありがとう。」

 

そしてフェイトが二人に感謝すると、直ぐにセットアップして飛び立つ。

フェイトは恩赦の事もあって一段と張り切っている。それが変な焦りを生まないと良いんだけど…

少しずつ遠くなるフェイトの姿を見送りながら、そう思った。

 

 

 

「………えっ、なのはは行かないの?」

「あ、私は今回はおやすみ…かな。」

「…紛らわしい言い方するんじゃないわよ!!」

 

今日のアリサのツッコミは一段と鋭かった。




戦闘は次回かその次になるかと思います。

実は今回ヴィータが蒐集しようとした植物は多分一番蒐集しちゃダメな奴です。
蒐集すると最終決戦でナハトヴァールが蔦の防御を習得します。そんな相手を蒐集しようとしたって事はつまり、気付かない内に影響が強くなっているという事です。
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