今回オリジナルの技が出てきます。
衝突。ただそれだけで周囲の砂が爆発したかのように巻き上がる。
「また一段と速くなったな。私が今まで戦ってきた中でも、お前ほどの速度を持つ者は数える程しかいなかったぞ。」
「く…ッ!」
雷の鎌と炎を纏う刀が競り合い、火花が散る。
シグナムの移動の速度は私よりも遅いが、レヴァンティンを振るう速度が異様に速い。その為、いくら速度で上回っても対応されてしまう。
速さが足りない、これではまだ遅いんだ。
…だったら、もっと速くならないと。
≪Haken Slash.≫
「ハァァッ!」
「ッ!」
バルディッシュを振るい、多少強引にでも距離を開ける。
<姉さん!>
<いつでもいけるよ!>
「バルディッシュ!」
≪sir, Sonic Form.≫
バルディッシュ・アサルトが発動させた魔法により、私のバリアジャケットが変化する。
防御を極限まで薄く、より速度を重視する形態へと…そしてソニックフォーム時に常時発動している補助魔法『ソニック・セイル』が、更に私の速度を引き上げてくれる。
この状態ならば姉さんの補助が無くても亜音速に至る分、姉さんの補助を攻撃に回して貰う事が出来る。
「守りを捨てたか…無謀だな。」
「無謀かどうかは、これからわかります。」
短距離走のロケットスタートの様なイメージで駆け出すと、次の瞬間には雷が落ちたかのような轟音と共にシグナムとすれ違う。
「むっ!」
金属音。すれ違いざまの斬撃が、レヴァンティンに弾かれた音だ。
即座に方向を切り替えると、こちらに正面から向き合うシグナムの姿。そして、その足元には魔法陣。
再び駆け抜け様に切りつけるものの、やはり響くのは金属音。
あの魔法陣についてはなのはから詳細を聞いた。『接近物感知』と『方向転換』の両方を兼任する魔法だと。
あの魔法こそがシグナムに死角が存在しないと言う根拠であり、亜音速の斬撃に対応できる種だ。
私のように速度重視の魔導士にとって天敵の様な魔法であり、勝つ為には攻略法を見つけなければならない。
前回は全方位からのフォトンランサーを試した。結果としてフォトンランサーはシグナムに届いたが、何故かシグナムの体は痺れておらず、迂闊に間合いに入った私は敗北した。
では今回はどうするか…当然、策は考えてある。そして、
≪Blitz Rush.≫
「っ!? これ、は…」
ブリッツラッシュ――私の
魔力弾にこの魔法を適用させれば魔力弾の速度を、私の両手足に働いている『ソニック・セイル』に適用すれば私の速度を引き上げる。
では、そんな魔法を私の右手と右足に働いている『ソニック・セイル』に
<うぅ、目が回りそう…>
<ごめん姉さん、少しだけ頑張って。>
そう、私の体は高速で回転する…周囲の砂を、大量に巻き上げて。
「なるほど…確かにこれは
シグナムのその反応で、私の予測が当たっていた事を察する。
シグナムが使っているあの魔法陣は多分、接近する
フォトンランサーの様な魔法、私のような魔導士…そして、今のように全方向から降りかかる砂粒までも。
いくら高性能なレーダーを持っていようと、探知した反応で画面が埋め尽くされれば何の意味もない。
恐らく長い闘いの歴史の中で『質量兵器』にも対処する必要があった為そう言う魔法になったのだろうけど、感知の対象を魔力を持つ物に限定しなかったのが運の尽きだ。
――貰った!
そして捉えたシグナムの背後…周囲の砂粒で私の接近は見分けがつかない筈だ。
<姉さん!>
<任された!>
ダメ押しとばかりに姉さんと交代する事で体からの放電を無くし、音を消す。これで探知は更に困難になる。
代償に速度は落ちるが、それでもソニックフォーム時なら十分な速度は出る…!
そして姉さんの振るうバルディッシュの刃がシグナムの背中を捉え…
――金属音。
「…今のは良い判断だった。だが、詰めが甘いな。」
「え…!?」
…鞘だ。
レヴァンティンの鞘がバルディッシュの斬撃を弾いた…!
「砂による
一瞬だが、確かに私の感知範囲からあらゆる気配が消えていたぞ。
だが攻撃の際に、その『意』を消しきれなかった事がお前
「しまっ」
拙い…バルディッシュが弾かれた事で、今の姉さんは隙だらけだ。一方のシグナムは鞘を持つ左腕こそ振り上げているが、レヴァンティンを持つ右腕は既に引き絞られている。
「!」
次の瞬間まるで空気を裂くように放たれた突きを、体の主導権を強引に交代する事で辛うじて回避する。
<た! …あ、フェイト!>
<間に合って良かった…>
<ごめん、ちょっと油断しちゃった…>
<仕方ないよ。私でも多分同じ失敗をしてた。>
勝ちを確信した瞬間に生まれる油断は、なかなか消す事が出来ない。この世界に転生してさんざん思い知った事だ。
なのはとの決戦の結果も、言ってみれば私の油断が原因だった。
「…ほう。やはり、お前の方が反応速度も上か…」
シグナムが興味深い物を見るような眼でこちらを窺う。
「改めて自己紹介しよう。私はヴォルケンリッターの将、シグナムだ。
お前
「…私は、フェイト・テスタロッサ。姉さんはアリシア・テスタロッサ。
そして私達のデバイスのバルディッシュ・アサルト。」
「! …姉妹だったか。なるほど、良い連携だ。
では改めてかかってこい。転送の術式が完成するまでの間、相手してやろう。」
そう言って改めてレヴァンティンを構えるシグナムの足元に、魔法陣はもう無い。
先程のやり取りで、この世界では足枷にしかならないと判断したのだろう。
<どうする? フェイト。>
<…近接戦の速度では追いつかれる。先ずはあの魔法で試してみよう。>
<オッケー!>
相手はシグナム…私が一度敗れた相手であり、歴戦の騎士だ。一度見せた技も魔法も恐らくは通用しない。それが既に破った技ともなればなおさらだ。
出し惜しみは出来ない。この数日間、新しく身に着けた魔法で挑むしかない。
≪Plasma Lancer.≫
<プラズマランサー!>
バルディッシュが強化され、より複雑な術式を込められる様になった。
それにより実現したのがこの魔法。魔法そのものの強度が上昇し、簡易的な追尾性も獲得したフォトンランサーの発展形。
それに私達の魔力の干渉性質を加えれば…
構えた左手に環状魔法陣を持つ魔弾が一つ生成される。フォトンランサーと違うのは、アリシアと同時に使用したのに見た目にあまり変化が無い事だ。
よく観察すれば球状に制御された雷の中に、青い光弾を見る事が出来るかも知れないが…そんな余裕を与えるつもりは無い。
「<シュート!>」
そして魔弾が発射される。その速度もまた、フォトンランサーと比べてなお速い。
「ふむ…この魔法、何か仕込んでいるな。」
シグナムが迎撃の為にレヴァンティンを構えた瞬間、私は既に側面に回り込んでいた。そしてそのまま姉さんのサポートで得た亜音速の刃でシグナムに切りかかる。
その瞬間、目が合った。
「紫電…」
「!?」
迎撃!? レヴァンティンを包み込む炎に思わず目を見張る。
プラズマランサーに込められた魔力量をシグナムが理解できない筈がない。だと言うのに回避のそぶりも見せず、カートリッジの魔力まで防御や回避ではなく攻撃に利用するなんて…
「一閃!」
「く…ッ!」
本当に私に向けて振るってきた…!
振り抜かれる高速の刃をギリギリで直角に上昇する事で回避、視線をシグナムから離さない為に上下逆様になった為気付く事が出来た。
シグナムはレヴァンティンを振り抜いた勢いをそのままに回転切りに移行していた。元々が王手飛車取りのつもりで放った斬撃が次に捉えようとするのは当然、私よりも速度が遅かったプラズマランサーだ。
だが…
「“ターン”!」
「ほう…」
魔法そのものに込められた遠隔操作の術式は、私の合図で急停止と旋回を可能にする。
私の合図で180度方向を変えたプラズマランサーに、シグナムのレヴァンティンは僅かに届かない…!
レヴァンティンを振り抜いたシグナムは、一瞬とは言え明確な隙を晒したように見える…だがまだだ。シグナムの左手は既にレヴァンティンの鞘を握っている。元々が鞘と刃で一対のデバイス…その強度もまた同じだ。このままプラズマランサーを向かわせれば容易く迎撃されてしまうだろう。だから…
「“ターン”!」
<“パージ”!>
「…何ッ!?」
シグナムが驚愕に目を見開く。再びシグナムに向けて射出された魔弾が、突然5つに増えたのだ。鞘一つで撃ち落とせる数ではない。
「ハァァッ!! …ぐぅっ!」
…それでも3つも撃ち落とせる辺り、やっぱり地力が違うなと思い知る。だが、残り2つがシグナムに着弾したのをこの目で見た。
感電による硬直を確認し、上空から強襲をかけるが…
再び金属音。
「…やっぱり、動けるんですね。」
「…多少、動きに精細は欠くが…な。」
振り下ろしたバルディッシュの刃はレヴァンティンの鞘で受け止められていた。
シグナムの体には今も電気が奔っており、間違い無く感電している。
前回もそうだった。フォトンランサーの直撃で痺れていた筈の体を尚も動かし、私を圧倒した。
注意深く観察する。シグナムは確かに魔法により生み出された存在だが、生物としての性質を持ち合わせており血も流す。生物であるならば体を動かす為の電気信号が阻害され、まともに動けるはずはない…何か秘密がある筈だ。
「…! これ、は…」
「ふっ…気付い、たか…テスタ、ロッサ。」
シグナムは間違いなく感電している。唇や喉の動きが阻害され、言葉が上手く発せていない事からも明らかだ。
だが、体を包む淡い紫色の光…それに各関節に重なる様に浮かび上がる極小の魔法陣…!
「魔法で…体を強引に動かして…!?」
「正解、だ!」
瞬間、バルディッシュ・アサルトが振り抜かれた鞘に弾かれ、流れるような動きで私に向けて振るわれるレヴァンティンを身を翻すようにして回避する。
「なんて無茶な事を…関節の可動域を超えれば、自分の体だって無事では済まないのに…」
「私が何百年戦いの中に身を置いたと思っている? 戦いの動きなら全てこの身に、そして記憶に染みついているとも。
後は魔法陣にも利用している回転の術式の応用だ…この刀さえ手放さなければ、例え四肢が千切れかけようと私は戦える。」
「…くっ…!」
言葉を交わすだけで気圧される。シグナムの口ぶりと目に、嫌な現実感を見たからだ。今の例えだって、多分実体験の内の一つに過ぎないのだろう…
勝てるのだろうか? 四肢が千切れかけても戦い抜いた騎士に。感電と言う武器が通用しない相手に…
<諦めちゃダメだよ、フェイト!>
<姉さん…>
<私達は恩赦を手に入れて、早くママともう一度一緒に暮らすんでしょ!?
フェイトはそれを諦められるの!?>
<!>
そうだ…諦めて良い訳が無い。感電が効かないから…相手が何百年も戦い抜いたからって
「…」
「…良い眼だ。私が今まで戦った万の相手の中でも、お前ほどの眼を持つ者は少なかった。」
どうやらすっかり麻痺も消えてしまったシグナムがレヴァンティンを鞘に納め、居合いの構えを取る。
「誇れ。そう言う眼を持つ事が出来る者は強くなる…お前と次に剣を交える時が楽しみだ。」
体にのしかかる重圧とその言葉から、次の一撃で決着をつけるつもりだと理解する。
次に放たれる一撃は、恐らくシグナムが最も信頼を寄せる一撃だ。長い戦いの人生の中で最も多くの敵を屠ってきた――まさに『必殺技』と言って良い。
「いえ、次に持ち込ませるつもりはありません。ここで決着を付けます…!」
「それは不可能だ。この技を躱すならば、お前が退くしかない。
『雲の騎士』の将たる我が秘剣…
≪Explosion.≫
シグナムが居合いの構えを取っている為レヴァンティンはこちらから見えないが、カートリッジをロードする音が3回聞こえる。
それだけの魔力を消費する一撃という事…それに、さっきのシグナムの言葉も気になる。
<…姉さん、いざと言う時の為にいつでも速度を出せるようにサポートお願い。>
<うん。あの技はどう見てもまともに受けたらダメな奴だよね。>
「
シグナムの腕がブレる。次の瞬間、鞘から炎が噴き出した。
「
「ッ!」
即座にシグナムから距離を取る。一瞬鞘から噴き出したと思った炎の正体は、溢れんばかりの魔力を喰らい龍のように長くなったレヴァンティンの連結刃だ。
分割された刃の一つ一つが炎を纏い、シグナムを中心に渦巻きながらその円をどんどん広げている。
広がる速度はそれほどでは無い…だけど、範囲が広い!
50m…100m…まだ広がる…! その光景はまるで巨大な炎の蛇がとぐろを巻いている様な…
「!」
<来るよ!>
<解ってる!>
蛇に睨まれたような感覚、鋭い殺気が私を貫く。
直感のままに右に思いっ切り飛ぶと、直後に炎が頬を掠める。
連結刃を包む炎が火勢を増し、居合いの如き高速で飛来したのだ。
<ねえ、フェイト…? 今の速度…フェイトより、速くない…?>
<…>
言葉が出ない。姉さんの言葉に返す事が出来ない。
炎が通り抜けたその先を見れば遥か地平線の先まで蛇が駆けたような跡が残っており、正面を向けばシグナムは姿を消していた。
雲霞…大勢の人が群がり集まるたとえ。
滅却…消し滅ぼすこと。
詰まるところ、戦争中に群がる敵兵を一人残さず戦闘不能(もしくは逃げ出す)にしましたよって実績がある技です。
非殺傷です。本当です。
シグナムの技らしいネーミングに出来ているかが一番不安。
因みに最後の一撃の威力はシュツルムファルケン未満ですが、とぐろ状態の連結刃に飲み込まれれば多段ダメージでシュツルムファルケン以上に酷い目に会います。
(最後の一撃の速度はシュツルムファルケン以上)