12月14日 PM 5:26 海鳴臨海公園
「これで……終わりだ!」
≪Shooting Edge multi shot!≫
「この俺がこんなところで……ぐわあぁぁぁっ!」
一瞬の隙を突いて放たれた無数の魔力刃に貫かれた相手が墜ちていき、海面に叩きつけられる前に回り込んでいた神場がその身を受け止めた。
「決着ゥゥゥーーーーッ!」
いつも訓練でやっている模擬戦の光景である。
「やっぱ封時結界って便利だよな~……
学校ある日でも結構訓練時間取れるし。」
「そうだな。自分で張れれば自宅でも軽い訓練は出来るから、使えるに越した事は無いんだけど……」
「……なんでよりによって結界魔法の適性が無いかなぁ、俺……」
模擬戦の終了後、持参した水筒でのどを潤していると、少し遠くの方でそんな会話をしている神谷と斎藤の姿を見つけた。
斎藤は砲撃の適性は結構高いんだが、障壁・結界の適性が皆無と言って良いレベルだったからな……
今となっては木之元がデバイスをカスタマイズしたおかげで特典を活かせる程度には障壁が使えるようになったようだが、結界となるとそれだけでは上手くいかないらしい。
……しかしこうして見回してみると、結構銀髪オッドアイじゃない転生者も増えて来たなと思う。
新しいデバイスに合った戦い方を考える紅蓮や、実に中二チックなバリアジャケットを纏った3人組の強力な合体魔法等の光景もジュエルシード事件の頃には見られなかったものだ。
「しかし、なのはやフェイトが居ないとやっぱり刺激が足りないな……」
「二人は今管理局の方を手伝ってるからな……闇の書の優先順位が高いのは仕方ないって。」
……そう、今回の訓練に二人の姿はない。
管理局の仕事を手伝う名目で、今頃は二人共無人世界を飛び回っている事だろう。
「なーんで俺達は行っちゃいけないのに同じ管理外世界出身のなのはは良いんだろうな?」
「ん? お前忘れたのか?
闇の書の蒐集は『一人につき一回』ってルールがある……つまり、なのははもう蒐集される危険が無いからだぞ。」
「フェイトは元々管理外世界出身とは言えないし、プレシアの事もあるからな……」
「いやぁ、まあ俺も頭じゃわかってるんだけどさぁ……やっぱり鍛えてる以上はその成果を発揮したいって気持ちもあるだろ?」
「あ~……まぁ、な。」
正直そう言う気持ちが俺に無いと言えば嘘になる。誰だって練習の成果は実戦で発揮したいと思うのは当然だろう。
ただなぁ……
「言っておくけど、お前らはまだマシな方だぞ? 俺なんて『一人で外に出るな』って言われてんだから。」
……俺達よりも重い制限受けてる奴が居るからなぁ。
「いや、お前は仕方ないだろ!? お前が作った魔法、試作品も含めれば1000超えてんだから!」
「しかもお前フェイト対策のガンメタ魔法10個以上作ってただろ!?」
「それ闇の書に吸われたらほぼ確実に『詰み』だからな!? 絶対勝手に外に出るなよ!?」
『魔法の創造』なんてチート能力を願ったばっかりに、神場は今登校時だって誰かの付き添いを余儀なくされているのだ。
ユーノが無限書庫で調べた結果判明した『闇の書は魔力と共に魔法も蒐集する』と言う情報が彼の自由を奪う結果となったのだ。……まぁユーノ本人が転生者だから実際の情報の出所が本当に無限書庫かは不明だが、事実だから仕方ないな。
「……あ、悪ぃ俺そろそろ門限だわ。」
誰かの言葉で結界の外にある時計を見れば、確かにもういつもの解散時刻だった。
「あー、もうこんな時間か……じゃあそろそろ解散にするか。」
「おっと、ちょ~っと待ってくれるかな?」
「えっ?」
「……なんでリーゼロッテが居るんだ?」
全員の視線がいつの間にかそこに居たリーゼロッテに注がれる。
「あ、当たり前のように呼び捨て……
あたしそんなに貫禄無いかな……?」
「良いから質問に答えろよ。」
「冷たいなぁ君達!?」
いや、だって俺らからしたら普通にスパイってバレバレだし。
本人には言えないけど。
「あたしは君達に良い話を持って来たって言うのにさぁ!」
「……良い話?」
「うん! ねぇ、君達。さっき『訓練の成果』を発揮したいって言ってたよね?」
話を聞いてみれば案の定、今度の作戦に臨時の戦力として参加したい人は居ないか? との事だった。
「いや、普通に考えて無理だろ。
クロノが許可出すとは思えないし、別の世界に一般人を軽々しく送り込んで良いのかよ?」
「おぉぅ、思った程乗って来ないね君達……」
そりゃあなぁ……リーゼロッテからしてみれば俺達は小学生だろうけど、中身はもっと年上なんだから簡単に釣られるわけがない。
「まぁ、一つ誤解してるみたいだから訂正しておくと……
別に作戦に参加するからと言っても別の世界に送り込む訳じゃないよ。
ちょっと今度の土曜日に地球でやって欲しい事があるだけだから、話だけでも聞いてくれないかな?
勿論参加するかどうかは聞いた後に自由に決めてくれても良いよ!」
地球でやる事……ってなんかあったか?
皆と念話で相談してもパッと思い当たる事はない。あるとすればせいぜいが最終決戦くらいだけど、クリスマスイブにはまだ一週間以上あるし……
「まぁ、話を聞いた後で『聞いたからには強制参加だ』とか言わないなら聞くだけ聞くけどさ……」
「流石に子供に対してそんなえげつない真似しないよ!?
年齢の割に発想が物騒なんだから……」
その後聞かされた作戦は、随分と妙な内容だった。
確かに
……いや、まさかな。でもそれが出来るとしたら……ヴォルケンリッター達、詰むんじゃねぇか?
「本来ならこの作戦も管理局の局員だけでやるべきなんだけど、今ちょっと色んな世界に配置してるから人手が足りないんだ。
だから出来るだけ多くの人手が欲しいんだよね。結界魔法が使えるなら誰だって募集中!
……あ、当然神場君は参加したらダメだよ? 流石にね。」
「キレそう。」
周りを見れば何人か乗り気になってる奴も居る感じだ。
実際に聞いた限りじゃ危険は少なそうだし、別に難しい事をしろと言われている訳でもない。神場はともかく、俺はどうするかなぁ……
同刻 八神家
≪……蒐集の編成を変える……だと?≫
≪はい、現状の効率を考えればその方がよろしいかと。≫
まさか
≪おい、部外者があたし等の行動に口出すんじゃねーよ。≫
≪……私が身の危険を覚悟してまでシグナムさんにこう言っている理由の中には、貴女の事も含まれているんですよ? ヴィータさん。≫
≪あぁん!? 喧嘩売ってんのか!?≫
≪落ち着けヴィータ。……エール、言ってみろ。≫
≪……ちっ。≫
≪冷静な判断、ありがとうございます。シグナムさん。≫
ふん、心にもない事を……
とは言えここ最近の成果を見れば、確かに目に見えて蒐集のペースは減っている。
管理局が幾つもの無人世界に監視の目を置いているせいで、ヴィータの能力を活かせる相手に対する蒐集行為が出来ていない為だ。
エールの判断は、平等な目で見れば何らおかしい事でも無いのだ。
≪……なるほどな。
主の守りはシャマルとザフィーラに任せ、私とヴィータの二人で蒐集を……か。≫
≪はい。ザフィーラさんの守りとシャマルさんの転送術式があれば、主の身を守るのには十分かと。≫
……確かに一理ある。だがそれはシャマルとザフィーラが本来の能力を十全に発揮できる場合だ。
蒐集が進み、闇の書からの干渉を受けやすくなっている現状では不安が残る。
だがそれを理由にエールの意見を突っぱねる事は、自らの弱点をみすみす教えるような物……
≪ふむ……考えておこう。≫
≪お願いします。≫
エールとの思念通話を切り、はやてとヴォルケンリッターのみの思念通話を繋ぐ。
≪……どう思う?≫
≪私は罠やと思うで。
エールさんってリーゼアリアさんなんやろ?≫
≪はやてちゃんの言う通り、罠だと思う。
でも、彼女の言う事にも正しい部分があるのも確かなのよね……≫
≪あいつの意見を聞く理由なんてねぇだろ。
あたし等は可能な限り原作に近い時期に闇の書を覚醒させる必要があるんだ。
ペースが落ちてる事自体は、別に悪い事ばかりじゃねぇよ。≫
≪……ヴィータの言う通りかも知れん。これまでは寧ろペースが速すぎた。
エールと管理局の監視の目がある以上、蒐集のペースを落とすのにも理由が要る。
今回の事を理由にすればクリスマスイブまで時間を稼ぐのも不可能ではない。≫
なるほどな……確かに我々の目的を考えれば、闇の書の覚醒はクリスマスイブが望ましい。
原作通りに事を進めれば必ず上手く行くと言う訳では無いが、原作の流れにより近づける事で我々の知らない要素による失敗をいくつか回避できるだろうからだ。
例えば、グレアム提督達がデュランダルを完成させる前に闇の書が目覚めてしまえば手は付けられない……と言った具合に。
だがエールがこうして動いた以上、あちらの準備は整ったという事でもある。
既にデュランダルは完成し、凍結封印に必要な要素が揃ったという事……
……後はアルカンシェルを搭載したアースラが来れば、一応我々の求める要素は揃う訳だ。
≪……≫
≪どうしたんだよ、シグナム? 随分と悩むじゃねぇか。≫
≪シグナムは、はやてちゃんの事を考えてるんだと思うわ。≫
≪私?≫
シャマルはあの場に居たから察しがついたようだな。
≪……そう言えば三人には伝えていなかったな。
実ははやての主治医の方が言うには、はやての麻痺の進行が原作に比べると大分緩やかになっていると思われるのだ。≫
≪おぉ! 良い事じゃねぇか。≫
≪でもそれは私達の闇の書の蒐集ペースが原作よりも大分早いからだと思うの。
今は闇の書がはやてちゃんの魔力を蒐集しない程度に満足しているから……
だけど、もしも原作のペースに合わせようとしてペースを落とせば……≫
≪あ……≫
≪むぅ……≫
ヴィータとザフィーラも私とシャマルが悩む理由を理解したようだ。
原作に合わせれば、我々の目的を達成しやすくなる
……原作に近づければ近づける程、未確認の要素による事故は減る筈だ。そう思って行動してきたが、結果として今の私達の状況はどうなっている?
既にエールと言う不確定要素が発生し、グレアム一派の計画に変化があった事が確定している。
その結果として本来は可能だったはずの闇の書の蒐集ペースの調整も出来なくなり、さらに蒐集が進むほどに意思も体もままならなくなると言う事実まで発覚した。
この状況で優先するべきはどちらなのか……そう考えた時に過るのは襲撃者の言葉だ。
『転生者は例え望まずとも未来を変えてしまう。その一挙手一投足全てが未来を歪める蝶の羽ばたきなのだ』……彼の言う通りだった。
未来を変えぬようにと動いても、私達の知らぬところから風が吹く。
地球の転生者が、管理局の転生者が、時には私達自身の行動が……思い描いた未来の絵をぐちゃぐちゃにかき乱し、まったく別の姿に変えてしまう。
心が迷う。
時間だけでも原作に合わせる事は、多分今からでも可能だろう。
だがもしもその結果はやてに苦痛を与えるだけ与えて、それでもなお計画が失敗するような事があれば……そう考える事を止められない。
≪迷う事はあらへん!
私はこうして八神はやてに生まれた時点で覚悟はしとる!≫
≪はやて……≫
私は知っている。はやてが時々心臓を苛む苦痛に耐えている事を。
その際に表情が歪んだことも一度や二度ではない。……今、この時でさえそうなのだ。
懸命に隠しているようだが、首筋を伝う汗が暖房の暑さによる物じゃない事なんて……この場に居る皆が理解している。
これ以上の苦痛を与える選択を、容易に選べるはずもない。
≪はやて……隠す必要は無い。
我ら全員、今もはやてが苦痛に耐えている事は知っている。≫
≪……それは、数百年戦い続けて得た観察眼ってやつか?≫
≪……いや、お前と過ごした数ヶ月の積み重ねだ。≫
≪ズルいなぁ……そんなん持ち出されたら、誤魔化しきれる訳無いやん……≫
≪はやてちゃん……≫
≪……分かった、正直に言うわ。
確かに今も私の心臓は滅茶苦茶痛いし、これ以上の痛みがあるなんて考えただけで怖くて仕方ない。
それでも、計画が失敗したらこの痛みに耐えた理由も無くなってまう。
私は……絶対に生きたい。そんで皆とこの先もずっと一緒に居たい……どんな苦痛に耐えてでも。≫
≪……分かりました。≫
はやての言葉で私の心も決まった。はやてが既に覚悟を決めていたのなら、私も覚悟を決めよう。
実は転生者が一気に管理局に入った時点でヴォルケンズの計画が上手く行かない事が確定してたと言う話。
1.管理局に大量の同じ顔が入る。
2.連絡系統の混乱と、スパイを危惧した管理局のセキュリティが一新。
3.グレアム提督達がその影響を受ける。
4.作戦の変更。リーゼとグレアム提督が軽々に連絡を取る事が出来ない為、
より現場での判断を重視した物に&管理局のシステムへのジャミングも出来ず、仮面の男による介入の危険性が上昇。そもそもクロノの方がリーゼよりも強い事もあって出来なくなる。
5.ヴォルケンズに直接介入する事に。
6.監視の目が付くため、闇の書の蒐集ペースをコントロールできなくなる。
エール=アリアを引き入れた事がケチのつき初めではありますが、引き入れなかった場合はそれこそ何をするかもわからないのでどちらが正しかったのかは不明。