転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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今年最後の投稿(ギリギリ)

来年もよろしくお願いいたします!


今日がその日

「はぁッ!」

 

放たれた横薙ぎの一閃をバックステップで躱す。

お返しに魔力を込めた蹴りを見舞おうとも考えたが、こちらが着地するよりも前に追いつかんばかりの突進から繰り出された突きを、慌てて空中で体勢と移動方向を変える事でやり過ごす。

直後、急停止からの振り向き際に下段から放たれた切り上げを、上体を逸らす事で辛うじて回避。再びバックステップで距離を取ると、先程の切り上げで吹き飛ばされたのだろう帽子が空中で燃え尽きるのが見えた。

 

「いやぁ……映像で見てはいたけど、やっぱりかなりやるねぇ。

 得意な距離も完全に被っちゃってるし、流石の私もちょっとヤバいかも……」

 

これがシグナムかぁ……やっぱり近距離じゃ勝ち目は薄いなぁ。アリアなら遠距離からのバインドやら、砲撃やらで立ち回れるのかもしれないけど……

……って言うか、何でこっちにシグナムが居るのさ!? 今朝アリア『ヴィータとシグナムを引き離す事に成功した』って言ったよね!? 

とんでもない貧乏くじなんだけど! シャマルが近くにいる所為か念話も出来ないから私の文句も届かないしさぁ!

 

「その耳……使い魔か。」

 

シグナムのその言葉に頭を触って確認すると、どうやら先程のやり取りで帽子と一緒にパーカーのフードも外れてしまっていたようで、私の耳が外気に晒されていた。

多分シャマルが張ったのであろう結界のおかげで民間人に見られる心配が無いのだけど、その所為で逃げる事も出来ないのがなぁ……

 

「あー……いや、これはただの趣味でして……」

 

取りあえずこの場で考えた言い訳をしてみる。

以前テレビでやっていたけど、この次元世界には動物の耳を付けてはしゃぐテーマパークがあるらしい。普通にそう言うのがいる世界出身としては良く分からない感覚だけど、きっと何かが楽しいのだろう。……ふむ、咄嗟にしてはなかなか悪くない言い訳だったのでは?

 

「ほう? 傷付けまいと気を遣おうと思ったが……ならばその耳、切り落としても問題はあるまいな?」

「やめてください、おばぁちゃんの形見なので。」

 

軽くジョークも混ぜて時間稼ぎしてみるけど、シグナムの眼は依然として鋭いままだ。まぁ最初に()()()()()姿()()()()()()時点で向こうからすれば完全に敵だもんねぇ。

 

予定だとアリアが主戦力を分断している隙にシグナムかヴィータに変身した私が闇の書の主に近付いて、残りのヴォルケンリッターを無力化&主の確保って段取りだったんだけど……

体格とか性格を考えて、シグナムに化けちゃったのが運の尽きだったかなぁ。

はやてちゃんの家に一歩踏み込んだところでご本人登場だもん。直後に結界も張られるしさぁ……

 

「構えろ。先程の立ち回りからして、戦えない訳でもあるまい。

 それとも……最後までその態度を貫けば、やり過ごせるとでも思っているのか?」

「ち、違うんだよぉ~! 私はこの辺りに住む猫の……妖怪? で、ちょっとした悪戯のつもりで~……」

「参る!」

「ちょっ……!?」

 

もうちょっと話を聞いてくれても良いんじゃないかな!? いきなり切りつけて来るのはどうかと思うよ!?

 

……なぁ~んて冗談、言ってる場合じゃないんだよね実際。

こっちの予定が狂ってる以上、アリアの予定も狂ってる訳で……本来は後で合流するはずのアリアの援護も期待できない状態だ。私が一人で何とかしなければ……

 

繰り出される剣戟を時には躱し、時に受け流しながら考える。

 

エイミィちゃんには予定も告げずに出てきちゃったから私の居場所を知るはずないし、そもそも言う訳にも行かない。……って言うか、シャマルのおかげで念話自体封じられてる。

 

周囲は八神家を中心に小規模な結界が覆っており、魔力弾を信号弾代わりにってのも出来ないし逃げられない。

 

シグナムの攻撃は私が防御に徹すればギリギリ捌けるけど、まだシグナムはベルカ式デバイスの特徴であるカートリッジシステムを使ってない。この剣戟が全力の物と言う想定はしない方が良い。

 

 

結界で逃げられず、念話妨害で助けも呼べず、目の前にはシグナムかぁ……

うーん、ぱっと見でも解りやすいくらいに詰んでるね。

私お得意のウィットに富んだ会話術で時間を稼ごうとはしてるけど、どうもあちらさん結構苛立ってるみたいだしなぁ……

 

「どうした!? 躱してばかりではジリ貧だぞ!」

「こうして! 捌いてる、間にッ! 隙を、窺ってるッ! のさ!」

 

とは言ったものの、実際シグナムの太刀筋の鋭さと速度は脅威の一言だ。攻撃は最大の防御とは言うけど、ここまでそれを体現されるとその厄介さを身をもって実感させられる。

 

一応この場を切り抜ける策が無い訳じゃないけど、避けるだけではその策も成るかどうか……

 

「紫電……」

「やばっ……!」

「一閃!」

 

袈裟切りの軌道で振るわれるレヴァンティンを、飛翔魔法に加えて咄嗟に猫に変身する事でギリギリ躱す。

そしてまるで抜け殻のようにその場に残されたパーカーは、右腕の部分を切断され炎上し始めた。

 

ちょっと攻撃しようとした途端にこれだもんなぁ!?

私の体勢の変化から次の一手を予測し、攻撃する瞬間に隙が生まれるであろう箇所まで読んで攻撃してくる!

 

実際攻撃に移ってたら腕飛んでたよ今の! 見た感じ非殺傷だから多分気絶だけで済むとは思うけど!

 

「容赦無いね!?」

「私の姿で主に近付こうとしたのだ。これくらいの対応は当然だろう。」

「……素晴らしい剣技をお持ちですね!」

「今更おだてたところで何も出んぞ?」

 

あぁもう、何であの時ヴィータに化けなかったかなぁ私!?

って言うか、まだなの!? ()()()()()()()()()()()()()()の!? 多分もうそろそろの筈だよね!? ねぇ!?

 

 

 


 

 

 

「……失礼します。」

 

軽いノックの後に扉を開ける。

落ち着いた雰囲気の部屋の中に、その人物は居た。

 

「やぁ、わざわざ来てくれて済まないね。クロノ。」

「いえ、僕も貴方に用がありましたから……グレアム提督。」

 

俺は時空管理局本局内にある彼の執務室を訪れていた。

先日アースラの整備が終わったと言う知らせを受け取った際に、彼から持ち掛けられた『直接会って話がしたい』との誘いに乗った形だ。

 

今回の事件の裏で色々と暗躍しているグレアム提督の事、今回の話にも当然裏があると考えるのが当然だ。なのに何故その裏側をある程度知っている俺がその誘いに乗ったのかと言うと……正直このタイミングでグレアム提督の方から誘いがあったのは、俺にとっても僥倖だったからだ。

元々どう近付こうか考えているところだったのだから……

 

「私に用事……? ……まぁ立ち話もなんだ。そこのソファに掛けたまえ。

 お茶はどうだね?」

「いえ、直ぐに済む用事ですので。」

 

ちらりと棚を見ると、ずらりと並んだ胃薬が見えた。

あのデスマーチ以降こういう部屋になった人は少なくないが、これほどの品揃えとなると流石に珍しい。

彼の胃には特別多くのストレス負荷がかかったという事かも知れないな。

 

「……ふむ、君も胃薬を嗜むのかね?」

「いえ、流石に好んで常飲したりはしていませんが……」

「そうか……」

 

何故そこで残念そうな表情になるのかは分からないが、()()()()()()()()()()()()()さっさと本題に移ろう。

 

「それで、話と言うのはやはり今回の事件の事ですよね?」

「ああ、ロッテから連絡が来てね。何でも『5人目のヴォルケンリッターが現れた』とか。」

 

あぁ、今となっては正体も割れている彼女の事か。

確かにリーゼロッテには調べて貰うように頼んだ記憶がある。そこから情報が回ったらしいな。

 

「ええ……黒の長髪と言った点以外では特徴の薄い女性ですね。

 エイミィとロッテには彼女が何らかの組織が絡んでいないかの調査を頼みましたが……もしや何か心当たりが?」

「ああ、彼女の名はエールと言うようだ。

 前科は無く、背後に何らかの組織の影も見つからなかった。そして……」

 

その後もグレアム提督は、リーゼロッテの連絡を受けて調べたと言う彼女の情報をホログラムで映した資料も交えて次々と出していく。

 

投影されたその資料に目を通してみるが、中々しっかりと()()()()()()だ。彼女の出身世界から闇の書に関わる動機まで、『調べれば出てきそうな範囲』で詳細な情報をこうもずらりと並べられては疑念を持つのも難しいだろう。

 

……もっとも、彼女の正体を知らない者からすればの話だが。

 

「彼女について分かった事はこれくらいだ。君の捜査に役立つと良いのだが……」

「ご協力ありがとうございます。ありがたく使わせていただきます。」

「いや、このくらいの事であればいくらでも力を貸すとも。」

 

グレアム提督が端末から取り外した記録媒体を受け取り、丁寧にしまう。貴重な証拠だ。傷付けないようにしなければ。

 

「それと……君も私に用事があると言う事だったが、何かね?」

「そうですね、僕の用事も似たようなものです。

 先程の端末をお借りしても?」

「勿論良いとも。」

 

今度は持参した記録媒体を端末に差し込み、先程の資料同様に投影させる。

 

「これは……映像データかね?」

「はい。第97管理外世界のものです。」

 

映し出されたのは薄暗い廃ビルの一室だ。

はやての家からそれほど遠くない位置にあり、時間によっては猫や不良のたまり場になっているが……まぁ、そんな情報はどうでも良い。

肝心なのはこれに映っている映像なのだから。

 

「……特に、何も映っていないように見えるが?」

「肝心なのはここからです。」

 

しばらくすると、一人の女性が入ってきた。

長い黒髪が印象的で、その反面細かい顔のパーツは印象に残り難い……そんな女性だった。

 

「彼女は、もしや……?」

「はい、先程貰った資料の女性……『エール』です。

 より正確に言うのであれば……」

 

映像の女性『エール』が光を放ち、別の女性に化けた。いや、正確に表現すれば『戻った』と言うのが正しい。

 

「見ての通り、彼女の本当の名は『リーゼアリア』……貴方の使い魔の一人です。」

「……」

 

その後再びリーゼアリアは光を放ち、今度は猫の姿に化けるとビルの外に出て行った。

ただそれだけの映像だ。隠密性を上げる為に音声も入っていない上に、ここは地球とは違って魔法の存在する世界。これだけの映像では映像のリーゼアリアが本人と言う証明にはならず、証拠としてはまだ弱い。

 

だが、今回見せた映像だけでも効果は十分にあったらしい。

 

「なるほど……どうやら、私は君を侮っていたようだね。」

「……『エールがリーゼアリアに化けた』とは言わないのですね。」

「そのような言い訳は見苦しいだけだ。説得力に欠ける上に、調べれば直ぐに分かるだろう。

 それに……君が私の教えを守っているのであれば、既にある程度の裏は取っているだろう?」

「はい、勿論。」

 

因みにこの後の彼女を追跡してみたが、彼女が地球での拠点としていると推測されるアパートに帰っていくだけだった。

恐らくは中に転送装置があり、そこから本局と行き来しているものと思われるが、流石に内部の捜査には及んでいない為推測の域を出ない。

 

だがこの映像を元に許可を得て、あの部屋の捜査に入れば『管理局の使う機材』の一つや二つ出て来るだろう。

その出元を辿ればリーゼアリア及び、グレアム提督に行き着くのは時間の問題だ。

 

「ある程度の予想は付きますが……なぜこんな事を?」

「……闇の書事件の恒久的な解決の為だよ。」

 

グレアム提督の語る動機は、俺がアニメで見たものと同じだった。

その解決の方法も。

少し違うところがあったとすれば、管理局のセキュリティ強化の影響で作戦を急に変更せざるを得ず、現場の判断に委ねる部分が多くなってしまったところか。

 

「これはチャンスなんだよ。クロノ。

 闇の書はいくら破壊しても再生する悪魔の書だ。

 蒐集の犠牲になった者、滅びた世界は数えきれない。

 恒久的な解決は管理局の課題の一つだ。君なら分かるだろう?」

「その為には、罪も無い少女を人柱にするのも仕方ないと?」

 

グレアム提督の言い分に関しては、俺自身同意する部分はある。

完全封印さえ成功すれば、この先の未来で闇の書に滅ぼされる無数の次元世界を救う事に繋がると言うのは紛れもない事実だからだ。

 

だが、やはりその為に何の罪も無い少女を人柱にすると言うやり方は見過ごせない。

『八神はやて』だからではない。何も知らない少女が何も知らされないまま利用され、その果てに死と同様の永遠の眠りに就くなんて到底看過できる事では無い。

その考えを伝えるとグレアム提督は俺を説得するのを諦めたように項垂れ、やがてポツリポツリと話し始めた。

 

「……闇の書を見つけた時の事だ。

 君も既に知っている事だろうが、彼女にはもう親も親戚もいない。

 その上幼い頃から闇の書に蝕まれたせいで、その命もこのままではそう遠くない内に散ってしまうだろう。

 そんな少女が主に選ばれたと知って……私は事もあろうに運命だと思った。

 親も親戚もいない彼女であれば、永久封印に伴い生まれる悲しみも最小限に留まると。」

「……」

「今に思えば、あれは悪魔の囁きだったのかも知れないな。

 管理局員が見捨てて良い命なんて無いと言うのに……それが自分の使命であるかのように受け取って、もはや取り返しのつかないところまで来てしまった。」

 

グレアム提督は基本的には『善』の人間だ。今回の事件だって、個人的な復讐以上に次元世界全体の未来を考えての事だと思う。

……少なくとも復讐と言う理由だけで少女を無慈悲に人柱にするような人間だとは思えないし、俺自身思いたくない。

彼やリーゼの下で色んな事を学んだし、彼等の為人(ひととなり)も俺なりに見てきたつもりだ。

 

だから……

 

「まだ間に合います。今からでも……」

 

せめて最後は共に戦って欲しい――そう伝えようとして、

 

「……もう遅いんだ、クロノ。

 八神はやては、今日……闇の書の主に覚醒する。」

「なん、だって……!?」

 

俺の認識が甘すぎた事を理解させられた。

 

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