流石に時間がかかり過ぎなので……
炎と熱気に包まれた無人世界。
「アクセルシューター、シュート!」
見渡す限りの大地が赤く溶けたその上空を、俺が操作する無数のアクセルシューターが飛び交う。
その内の幾つかはヴィータの鉄球により撃ち落とされ、鉄球を躱してヴィータに迫る物はグラーフアイゼンの一撃で直接迎撃される。
「“バスター”!」
「ちぃっ、厄介な……!」
グラーフアイゼンを振り切った隙を突くように二つの光弾を融合、術式を砲撃に書き換えて放つが……
「させん!」
ザフィーラの雄叫びと共にヴィータの前面に現れた光の壁に砲撃魔法が触れた途端、魔法の構築が分解され純粋魔力となって空気に溶けてしまう。
「済まねぇ、ザフィーラ! 助かった!」
「また、あの魔法……!」
ザフィーラの持つ対魔法用の絶対防御……名前は分からないが光の壁に触れた魔法はそれがどんな術式であろうと分解され、ただの魔力となって空気中に散ってしまう。
「やっぱあの魔法反則だよなぁ!?」
「魔法をかき消されたらミッド式の俺達に出来る事なんて無くね?」
あの後すぐに駆け付けてくれた
俺とフェイト(&アリシア)&アルフに加え、多数の武装局員と言う数の暴力に対してヴィータ&ザフィーラがたった二人で真正面から戦えている理由があの魔法だった。
こちらの攻撃は届かず、相手の攻撃のみが飛んでくる状況。不幸中の幸いと言うべきは、ザフィーラが明らかに魔力を節約しているという事くらいだ。
光の壁が現れるのは極短時間、その規模も必要最小限を意識している……恐らくはクロノが言っていた事情が原因だろうが、いくら節約しているからって結構な回数使わせた筈だ。そろそろ息切れしてくれても良いと思うのだが……
「ハァッ!」
「ふん!」
今もアルフと近接戦を行っているザフィーラに息切れの兆候は見られない。それどころか……
「隙あり!」
「無駄だ!」
フェイトの奇襲に対して、再びザフィーラが光の壁を作る。壁を通過したバルディッシュの光刃は消え去り、それを素手で掴んだザフィーラに投げ飛ばされたフェイトを受け止めたアルフが僅かに後退する。
「く……っごめん、アルフ!」
「良いってば! あたしも今度こそ上手く隙を作って見せるさ!」
「うん……!」
……今の、正直危なかったな。
ザフィーラに護衛対象がいなければ、或いは増援の武装局員がいなければ……今頃はザフィーラの追撃を受けていただろう。
「よそ見してて良いのかよ!」
「ッ!」
声に振り向いた先、グラーフアイゼンを振り上げたヴィータが見えた。
「ラケーテンハンマー!」
「レイジングハート!」
≪Protection Powered!≫
いつの間にラケーテンフォームに切り替えていたのか、回転を利用した一撃を全力の防御で受け止める。
「へぇ……ッ! 随分と硬くなったじゃねぇかよ……!」
≪Barrier……≫
「!」
≪Burst!≫
障壁に使った魔力を用いた指向性の爆発。攻撃の直後、それも至近距離という事もあって多少のダメージは期待できるかと思ったが……
「っぶねぇ……! 今の状態で喰らうのは流石に拙いな……」
煙が張れると大きく距離を取って躱したらしい、無傷のヴィータの姿が見えた。
アイゼンは未だラケーテンフォルム……接近を許すのはちょっと怖いな。
「アクセルシューター、シュート!」
「ちぃっ!!」
再び撃ち出されたアクセルシューターを見て、ヴィータが迎撃の為に更に距離を取る。
そして打ち出される鉄球。数は……8個か。一つ一つが銃弾のように回転していてかなりの速度だ。
シューターをぶつけないと俺の身が危ないな……
アクセルシューターが元々持っていた欠点……『魔法の使用中、使用者が移動できない』と言う弱点の克服はまだ出来ていない。
俺自身魔力弾の操作技術は相当鍛えたと言う自負があるが、それでも脳のリソースの大部分を割かなければアクセルシューターの操作は安定しない。
元々飛翔魔法との相性が良くないのか訓練により克服できるのかは分からないが、重要なのは一つ。
俺はあの鉄球を避けられないという事だけだ。
「くっ……!」
ヴィータに向かわせた20発のシューターの内、8つを鉄球の迎撃に向かわせる。
上手い位置とタイミングで砲撃に切り替えれば2つの光弾で対処出来るかもしれないが、流石にそんな曲芸をぶっつけ本番でと言うのはリスクが大きすぎる。
ここは一つの鉄球に一つの光弾で相殺するのがベターだ。
限られた短い時間の中で観察したところ、鉄球の軌道は俺に向かって一直線……どうやら鉄球の操作は早々に放棄しているらしい。これなら単純に狙うだけで良さそうだ。
連続して8つの爆発。鉄球の迎撃に成功し、周囲が煙に包まれる。
ここまでは良し。問題は……この煙の目晦ましでヴィータに向かわせた光弾の制御をミスらないかだな。
俺は発射した光弾を操作しながら、周囲の状況を改めて確認しようとして……
「ぁぐッ!!?」
「なっ……あんた、何してんだい!?」
小さな悲鳴と、アルフの動揺を孕んだ声に目が吸い寄せられた。
「えっ……?」
揺らめく煙の筋の切れ目から、その光景は窺う事が出来た。
そこにはエールの首を片手で掴み、吊り上げるザフィーラの姿があった。
「ヴィータ!」
「解った!」
「!?」
ザフィーラの呼びかけに応じたヴィータが、アクセルシューターや武装局員を無視してザフィーラの元へ一目散に駆ける。
何をするつもりなのかは分からないが……
「させない……! “バスター”!」
「ハァッ!」
同時に放った6つの砲撃は、ザフィーラの作り出した光の壁に阻まれてヴィータに届かない。
「っ! それなら!」
「させんッ!」
「くっ……!」
フェイトがヴィータの合流を阻止しようと迎え撃とうとするが、直前で振るわれたザフィーラの拳をバルディッシュで受けて大きく距離を取らされる。
「エール、やれ!」
「カハッ……いわれ、なくても!」
そしてヴィータと合流したと同時に転送の術式が展開され……俺達の前から姿を消した。
モニターに映るあの二人の様子は気になるけど、今の最優先は……
「逃げようったってそうは行かないよ!」
転送先の特定と追跡!
薄暗い部屋にパネルをタップする音と私の声だけが虚しく響く。
うぅ……何か寂しくなってきたけど、今はヴォルケンリッターの転送先を割り出すのが先だ。
無心に術式の情報を解析にかけていくと、転送先が徐々に絞られてくる。
先ずは転送先の次元世界は……
「……えっ、地球!?」
表示された結果は第97管理外世界……間違いなく地球の何処かだ。
これはもしかしたらチャンスかも知れない。
窮地に陥った末の転送となれば、それは拠点への撤退である可能性が高い。細かい座標を絞り込んでいけば、闇の書の主の居場所も……
「……あれっ、この座標って確か……?」
見た事のある座標だ……それもここ最近何度も。私の記憶が正しければ……
「やっぱり……
何? あそこ何かのパワースポットなの? 魔法関係のあれこれがやたらと集中してるんだけど?
「とりあえず現地の映像を……って、嘘……!? ちょっ、何でこんな時に……!」
……そうか! そう言えば今日って土曜日だったか!
「だからってこんな時にそんなところで訓練しなくても良いじゃんか……!」
モニターに映し出された光景……それは公園の一角に結界を張り、いつものように訓練をしていたと思しき銀髪オッドアイ達の姿だった。
「しかもヴォルケンリッターも結界の中にいるし……!
兎にも角にも彼等は一応民間人だから、先ずはこっちに転送して……あっ!」
ダメだ……
今は土曜日の午前中……公園には結構な数の民間人の姿がある。
あの結界を張っているのは彼等自身だ。彼等を転送すればあの場にある結界は魔力の供給が断たれ、解除されてしまう。
そうなれば民間人……それも魔法の使えない正真正銘の一般人が危険に晒されるうえに、空中に浮かぶヴォルケンリッターの姿を見られたら魔法の存在まで……!
「ど、どうしよう……! 何もしないなんてありえないし、兎にも角にも先ずは……!」
急いでフラムヴァルにいる皆に通信を繋ぐ。
「皆、聞いて! ヴォルケンリッターの転送先は、『海鳴臨海公園』!
既に訓練中だった民間魔導士がヴォルケンリッターに遭遇してる!
至急転送するから戦闘の準備を!」
『は!? えっ……!? お、
『皆……!』
急な話だけど、今まで彼等はなんやかんやでこう言う場面を何度も乗り越えてる! その経験を信用しよう!
転送システムを操作し、海鳴臨海公園内に張られた結界の中に皆を転送! 後は……
「待機中の局員に告ぐ! ヴォルケンリッターと民間魔導士が遭遇!
現場は同民間魔導士の張った結界内! 詳細な座標をデバイスに送るから、至急出動を!」
『了解!』
情報を送って……っと!
なのはちゃん達も着いたみたいだし、後は現地の皆に繋いで……!
エールに発動させた転送の術式の光が収まると、そこは間違いなく地球だった。
だが……
「……なんで結界の中なんだァ!? なぁ、オイ!!」
直ぐにエールの奴を問い詰めようとするが……
「にゃぁッ!!」
「むっ……!?」
「何ッ!?」
ザフィーラに首を掴まれていたエールは猫に変身して、ザフィーラの手を抜け出す。そして……
「転送だと!? ザフィーラ!」
「ハァ!!」
ザフィーラの魔法無効化の魔法、『雲散霧消』の光がエールに迫るが……
「……逃げられた、か。」
恐らくここに転送する前に予め準備していたのだろう。光がエールに触れる前にその姿は掻き消えた。
「ちっ……! あの野郎、何企んでやがる……!」
「目的の場所の検討は付く……恐らくははやての家だろう。」
「……そう言う事かよ。舐めやがって……!」
直ぐにシャマルに思念通話を繋ぐ。
≪シャマル、そっちにリーゼアリアが向かった! 気を付けろ!≫
≪分かったわ。ヴィータちゃん達は今どこ?≫
≪どこかって言われてもな……≫
今あたし等が居るのは海の上……うん?
周囲を改めて見回すと、あたしの後ろに少し行ったところに整備された歩道が見える。
海との境界には小さい子供が海に落ちるのを防ぐための鉄柵があるのが分かる。
いや待てよ、これどこかで見た事あると思ったら……
≪多分、海鳴臨海公園の辺りだ。直ぐにそっちに駆けつけたいところだが、結界が張られてて直ぐには向かえそうにねぇ。≫
≪結界……!? 管理局の!?≫
≪いや、どうにも違うらしい。地球の魔導士が張ってるみてぇで、管理局の奴らはいねぇ。≫
ホントあの顔した連中は碌な事しねぇな。多分あの顔に関わって良かった事なんて一度も無いぞ?
≪……分かった。蒐集はまだ駄目よ?≫
≪ああ、解ってる。≫
「さて、と……行くか、ザフィーラ。」
「やむを得ないか。」
思念通話を切ると、銀髪オッドアイ達の方に向かう。
向こうもあたし達には気付いていたらしい。それぞれ持ってるデバイスを構えている。
はぁ、本当ならあんまり関わりたくねぇんだよな……。
「オイ。」
「や、やるか……?」
「今あたし等は急いでんだ。さっさとこの結界を解除しな。
……痛い目に会いたくなかったらな。」
正直シグナムがいれば向こうはどうとでもなる。なんせあそこには美香も居るからな、魔力をいくら使っても闇の書の影響はリセットし放題だ。
だが念には念を。もしもシグナムの目を搔い潜って、はやてに接触する事があれば……そう考えるとどうしても心がざわつく。
焦りに胸中を埋め尽くされる。
だと言うのに……あたし等と奴らの間に転送の術式が展開されて行くのが見えた。
光をかき分けるように飛び出してきたのは……
「皆、大丈夫!?」
「ヴォルケンリッターがこっちに……ッ!」
「なのは! フェイト!」
更にその後に続くようにアルフや武装局員もわらわらと……
『皆、とにかく蒐集されないように自分の身を守る事を最優先に時間を稼いで!
直ぐにこっちで結界を張って民間人の皆は退避させるから!』
……はぁ、流石に拙いか? これは……
文章的におかしい点や違和感のある箇所等ございましたら指摘していただけると嬉しいです。