戦姫絶唱ヴァンパイア   作:とりなんこつ

13 / 15
13.募集する吸血鬼

「世界の理を変える、ですって―――?」

 

マリアの射貫くような視線に、吸血鬼は答えない。

薄く笑っただけで、隣にある未来のむき出しの肩を抱く。

 

「そう焦るでない。ほどなくして、おぬしたち全員が知ることになるだろうから」

 

次の瞬間、未来ごと吸血鬼の姿は消えていた。

あまりに素っ気ない消失は、装者たち全員が思わず壇上へと駆け上がり、落とし穴でもあったんじゃ? と厚い絨毯の下を確認してしまうほど。

 

「…本当にどこにいったのかしら、あの節操なしの吸血鬼は?」

 

さっそく憎まれ口を叩くマリアだったが、微妙に早口のままだった。

曲りなりにも求婚されたという事実は、少なからず彼女にとって衝撃的なものであったことがうかがえる。

 

「ともあれ、いつまでもこの格好のままで佇んでいても仕方あるまい」

 

一方でバッサリと切り捨てるような口調の翼は、自分を含めて仲間の姿を見回した。

全員が揃ってフリルもたっぷりのドレスは、間違いなく機能性を欠いている。

 

「…ああ、そうだな。とりあえず着替えようぜ」

 

微妙に名残惜し気にクリスがそういった。

率先して部屋を出ていく途中で、絨毯の上の指輪をちらりと見る。

だが、彼女は足を止めようとはしなかった。

 

「切ちゃん、行こう」

 

「あ、調! 待ってくださいデス!」

 

慣れないドレスの裾を持って小走りでクリスのあとを追う年少組。

続いて颯爽と翼が出ていけば、後に残されたのはマリアと響のみ。

そしてマリアは、響が常になく肩から力を落としていることに気づいている。

むしろ仲間たちが足早にこの場を立ち去ったのも、響の状態の変化に気づいたからだろう。

 

(…まあ、みんなしてわたしにこの子のケアを押し付けていったのは少し業腹だけどね)

 

「マリアさん…」

 

消沈した響が見上げてる。

 

「ほら、シャンとしなさいな。あなたらしくもない」

 

「でも、未来が…。もう人間には戻れないって…!!」

 

吸血鬼ダイスが言っていた。もはや未来も自分と同質の存在になったと。元に戻す術はないと。

 

「狼狽えるなッ!」

 

平手一閃。パン! と響の頬が弾ける。

 

「ふざけたことを間に受けるんじゃない! わたしたちが、どれだけの奇跡を手繰り寄せてきたか忘れたのッ!?」

 

「………」

 

響は打たれた頬に手を当てている。

その目には痛みの涙が滲んでいたが、浮かんでいた悲しみの色は見る見ると活気を帯びたものへと変わる。

 

「…そう! そうですよね…ッ!!」

 

何度も無理と言われた。絶対に不可能と言われた。

絶望の檻に囚われ、心を完全に圧し折られてきた。

 

―――だとしても!!

 

響はキッと唇を引き結ぶ。涙は完全に乾いている。

 

「そうよ。それでこそあなたよ」

 

マリアはにっこりとして、

 

「さあ、急いで発令所へ報告に行きましょう。こういうときは、大人たちの知恵を存分に借りるものよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、発令所では、新たな問題が発生していた。

 

「司令! 深淵の竜宮から緊急通信要請です!」

 

危急を知らせる友里の報告。

 

「竜宮の深淵から、だとッ!?」

 

弦十郎は司令席を蹴立てて立ち上がっている。

この時、彼の脳裏に浮かんだのは実父の姿。

過日の大吸血鬼との戦闘で重傷を負った風鳴訃堂は、そのまま深淵の竜宮内で療養している。

 

すわ、親父がまた暴れ出したのかッ!?

 

その予想に、弦十郎の血の気がすっと引いた。圧し折られたアバラが疼く。

 

「通信繋ぎますッ!」

 

藤尭の声に続き、メインモニターが切り替わった。

そこには、管理責任者が額の汗を拭きながら困惑しきった表情を浮かべている。

背後で誰かが暴れまわっている気配はない。

されど油断は禁物とばかりに、弦十郎は静かに気を配る。

脱走した訃堂に脅されている可能性は皆無ではない。

 

『…実は…』

 

モニターの向こうで、管理責任者でもある所長の汗を拭いながらの報告は、幸いにも訃堂の脱走ではなかった。

しかしその内容は、弦十郎たちにも大いに困惑を齎すことになる。

 

「…竜宮内に保管してあった聖遺物が、全てなくなっているだとッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発令所に、制服に着替えた装者全員が集結した。

彼女たちの報告を受けて弦十郎は渋面を作る。

装者全員に求婚をしたという点も驚くべきことだが、小日向未来が吸血鬼と同質の存在となったという話の方がより深刻だろう。

 

「あの男は、未来くんが元に戻る術はない、といったのだな?」

 

「…はい」

 

弱々しい声だったが、はっきりと顔を上げて頷く響がいる。

彼女の内心を推し量りつつ、弦十郎は益々顔を顰めざるを得ない。

 

思い返せば、小日向未来の体内におけるテロメアの変化。

それこそが吸血鬼化の証明だったのだろう。

同時に、エルフナインと交わした会話を思い出す。

神獣鏡を使えば、あるいは体内の吸血鬼化した原因を除去できるかも知れない。

しかし、吸血鬼と化しているのは未来本人で、今のところ彼女は主人と仰ぐダイスに従属している。

ならば別のアプローチを―――と思考を巡らせる寸前、弦十郎はカッと目を見開く。

 

「そのダイスは、どこに消えたのだ?」

 

「わっかんねえよ。いきなりあたしたちの前から、あの子ごと消えちまってさ」

 

クリスが答える。

 

「それより司令。わたしはあのエロ吸血鬼が『世界の理を変える』って言っていたのほうが気になるんだけど」

 

マリアの言に、弦十郎は「むう」と唸る。

 

「…あ! アタシは分かっちゃったかも知れないデス!」

 

「切ちゃん、本当!?」

 

「えへへ、ダイスさんは、アタシたち全員にプロポーズしてくれたデスよね? でも、日本では旦那さん一人にお嫁さんは一人が常識じゃないデスか!」

 

「うん、まあ、そうだね」

 

「つまり、ダイスさんは、日本でも一人でたくさんのお嫁さんを貰っても大丈夫なようにするんデスよ!」

 

人差し指を立て、えへんと胸を張る切歌。

 

「…日本の法律改正を世界の理って言っちまうのは、ちっと話がセコすぎじゃねえか?」

 

クリスは言う。

 

「それに、中東の方では一夫多妻が常識よ?」

 

少々あきれながらマリアも突っ込む。

え~、違うんデス~? と凹む切歌に軽く笑いを誘われるも、『世界の理』という言葉は吟味せざるを得ない。

チラリと弦十郎は横目でエルフナインの様子を伺う。

彼女と同化したキャロルは、かつて世界を解剖しようと試みている。

その時の『世界』と同じような壮大さを持ち合わせているように思えた。

 

「まあ、本人に訊くのが手っ取り早いんだが…」

 

口にしつつ、弦十郎はこちらから捜索しても発見できる確率は薄いと踏んでいる。

なにせ神出鬼没さは伝承の吸血鬼以上だ。

本気で逃亡されれば、追いつくことは不可能に違いない。

 

「もっとも、未来くんも一緒であれば、そう遠くへと行くとも思えん」

 

無駄になるやもと思いつつ、姿を消した吸血鬼の捜索を部下へと命じる弦十郎。

同時に、このタイミングでの深淵の竜宮からの聖遺物喪失の件についても思いを馳せる。

この緊急事態を装者たちへと伝えるか一瞬迷ったが、結局詳細を説明することにした。

 

「竜宮から、全ての聖遺物が…!?」

 

真っ先に気色ばんだ声を上げたのは翼だ。

 

「よもや、お祖父…いや、風鳴訃堂が?」

 

「被疑者は現在病室で大人しくしている。現時点ではシロだろう」

 

弦十郎にそう返され、翼は喜んでいいのか安心していいのか微妙な顔つきになる。

 

「それで犯人は?」

 

「現時点では不明よ。カメラにもセンサーにも何も検知されてなくて…」

 

マリアの質問に答える友里。

 

「はあん? あの建物ん中には相当な数の聖遺物があったんだろ? それを誰にも見つからずごっそり持ち出せるなんてことあんのかよ?」

 

クリスの言は至極最もなものだ。

すると、沈黙していた響が弾かれたような声を出す。

 

「師匠! それはきっとダイスさんが盗んだんじゃあ…!」

 

「ああ、それはオレも考えなくもなかった」

 

クリスの指摘した通り、深淵の竜宮自体の警備システムも大したものだ。

加えて、あの施設は深海にあるので、盗むのはともかく運び出すだけでも大仕事となる。

それを人目に付かず実行できるとあらば、もはや自然の存在ではあり得ない。

 

「そっか! ダイスさんは自分のコトを大泥棒って言っていたデスよね!?」

 

切歌の台詞に、室内に微妙な空気が流れる。

誰もが先日に見せられたあの映像を思い出していた。あまりに荒唐無稽に過ぎて冗談半分に受け取っていたのだが。

 

「…用途はともかく、あれだけ大量の聖遺物を使えば、世界の常識を捻じ曲げることはできるかも知れません」

 

専用席でディスプレイに厳しい視線を注ぐエルフナイン。

彼女は深淵の竜宮に保管されていた聖遺物のリストを検索している真っ最中。

 

「なら、あいつの仕業で決まりじゃねえか? エルフナインが言うみたいに、世界の理を変えるってのにも符号するしな」

 

「じゃあ、世界の理を変えるって、具体的に何をするつもりなのかしら?」

 

「それは知らねえけどよ…」

 

推察はいくらでも出来る。

だが、何か決定的な答えを出すには、逆に材料が多すぎた。

 

ともあれ、聖遺物の大量消失は大問題である。

弦十郎は日本政府と国連への速やかな報告と、今後の対応策を検討するために奔走。

エルフナインは深淵の竜宮の保管リストから、各種聖遺物の詳細を吟味し、起こりうるであろう反応を推察。

藤尭はエルフナインの分析を手伝い、友里は関係各部者への連絡と調整に余念がない。

 

この未曾有の事態に、装者たちも解散帰宅とは至らない。

一次待機のままローテンションを組んで、交代で休憩を取ることになる。

 

「…未来」

 

仮眠室のベッドに仰向けになり、響は呟く。

ひょっとしたら、寮の部屋に未来は帰ってきているかも知れない。

そんな期待も、既に派遣されている調査員からの報告によれば、寮の部屋に戻ってきた形跡はないとのこと。

また、念のため、彼女の友人関係や、立ち入りそうな場所、秘密裡に実家の方まで調査員は出張っていたが、目撃情報すらないとの報告も上がってきている。

 

「…もう、どこいっちゃったんだよ、未来」

 

最愛の陽だまりの行方不明。もちろん心配だったが、かつてノーブルレッドたちに未来が拉致されたときよりは不安は少ない。

なぜなら彼女の傍らには、あの吸血鬼がいるはずだ。

風鳴訃堂を一蹴してのけた光景を、響も目の当たりにしている。万が一にでも未来に物理的な被害が及ぶことはないはず。

なのに、響はギュッと胸の上を握る。

心を揺らす、かつてない感情。知らなかった感情。

 

これは―――妬む心。嫉妬だ。

 

ダイスに求婚されて嬉しかった。

出来ればついていきたい、といったのも嘘じゃあない。

 

だけに、そんな彼の傍らに未来(しんゆう)がいることが気にかかる。

吸血鬼の能力に未来が救われたことは理解している。その力のせいでベタぼれ状態になっていることも理解している。

その上で、響は思うのだ。

 

どうしてダイスさんの隣にいるのが、わたしじゃあないの?

 

「…はあ」

 

漏らした溜息は熱く重い。

 

きっと初めて自覚した恋心。

それは、かつてのガングニールの欠片より、深く心臓に突き刺さっている気がする。

 

綺麗だ、と面向かって言ってくれた。

可愛い、と褒めてくれた。

そして何より。

わたしを、過去のわたしも含めて助けてくれた―――。

 

文字通り心の中まで入ってきた吸血鬼の姿は、響の脳裏に焼き付いて離れてくれない。

風鳴訃堂の外道極まる要求に困惑する自分の拳を、やさしく解きほぐしてくれたダイスさんの手。

 

薄暗い仮眠室で響は頬に血を上らせて、たちまち表情を曇らせる。

 

『吸血鬼は死の眠りを避けられぬ』

 

悲しそうな彼の台詞が耳によみがえる。

 

それは、吸血鬼という超常的な存在に対する対価か。

ある一定周期で強制的に落ちる眠りは、最短でも50年は目覚めることはないという。

 

もしダイスが死の眠りを迎えたら。

次に会える時は、下手をすれば自分は完全におばあちゃんだ。

 

でも、吸血鬼と同じ存在になった未来は、一緒に眠ってもずっと今の姿のままで―――。

 

彼への思い。

親友への思い。

もしかしたら自分だけが置いていかれるかも知れない寂しさ。

ならば親友を取りもどす? 彼への思いはどうなる?

 

色々な感情が様々に絡みあい、響の瞼からこぼれて枕を濡らす。

 

「…教えて。わたしはどうすればいいの?」

 

いつも寄り添ってくれる陽だまりはいない。

自分でもよく分からない涙をこぼしながら、暗い部屋で響は嗚咽を噛み殺すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼と未来の行方は杳と知れず、三日が過ぎた。

この間、特に聖遺物関連の事件やアウフヴァッフェン波形も観測されなかったことにより、さすがに切歌と調、そして響の三人は、本部から下船してリディアン音楽院に出席している。

ただし、行方不明の小日向未来は欠席のまま。

一応S.O.N.G.サイドからの根回しで病欠としていたが、このまま事態が推移するようであれば誤魔化すのにも限界がある。

そろそろ未来の両親へも報告と説明が必要か―――などと、弦十郎が友里らと検討を重ねていた時だ。

その世界規模の不思議な出来事が起こったのは。

 

 

 

 

 

 

「…響さーん! お帰りデスかー!?」

 

「あ、切歌ちゃん。調ちゃんも」

 

響が振り向く。その様子は、明らかに精彩を欠いている。

パタパタと走って追い付いてきた切歌と調は顔を見合わせると、

 

「今日、これからふらわーによって帰らないデスか?」

 

「わたしも切ちゃんも、なんかすごくお腹空いちゃって…」

 

どうデス? といった具合に仲良く首を傾げてくる二人。

切歌はともかく調は小食だ。

そんな彼女らがこんな申し出をしてくること自体珍しく、さすがに響も気を使われていることに気づく。

 

(やっぱり元気ない風に見えるのかなあ。…こんなんじゃいけないよね)

 

ぴしゃりと両頬を叩いて気合を入れ、響は明るい声を出す。

 

「よーし、行こ行こ! 今日こそわたしは抹茶アンコ豚玉焼きに挑戦しようかなッ!」

 

「おお、あの伝説のぉ!?」

 

れっつごーデス! とスキップする切歌に手を引かれ、響は空を見上げた。

晴れ渡った空に、ここ数日の間、もやもやとしていた思いが形になって行く。

 

…うん、決めた。わたしはね、未来がどこにいようとも…。

  

空に向かって手をかざす。そしてその手をギュッと握り締めた時だった。

 

「え!?」

 

空から、無数の白いものが降ってくる。雪かな? と響は首を捻り、その異様さに目を見張る。

 

「あ…」

 

「なんデスか、これは!?」

 

調と切歌も気づいたらしい。

二人とも空を見上げ、そこから降ってくるものに、そろって驚きの表情を浮かべていた。

 

ひらひらと舞い落ちる白いもの。

それは、空一面を覆いつくすほどの無数のA4サイズの紙片だった。

 

 

 

 

 

 

後日、『奇妙な降雪(strange sonowfall)』、略称SS事件と呼ばれるこの現象は、全世界で、ほぼ同時刻に観測されている。

 

約一世紀ほどの昔にあった大戦の頃、航空機よりこのようなビラを撒いての宣伝行為があったとの記録がある。更に少し時代を下って、デパートやイベントの宣伝としてのビラ撒きもあったらしいが、大量のゴミが発生するとの環境的な問題や、テレビやラジオといった他のメディアにとって代わられたこともあり、いつしか行われなくなって久しい。

 

かつてないほどの大量のビラが全世界規模で撒かれるということも異常だが、更に不思議なことに、地面に落ちたビラはそのまま溶けるようになくなってしまう。まるで雪のように。

そのくせ、手にとったビラはいつまでも消えることはなく、しかもその紙片は、表を見てもひっくり返しても、雪のように真っさらに何も書かれていないのだ。

 

誰もが奇妙と首を捻ったのは当然で、この世界規模の異常事態はさっそくS.O.N.G.も把握するに至る。

響たち三人が紙片を手に本部の発令所へ駈け込んできたのは、そんな世界中の情報がぞくぞくと集まってきている最中だった。

 

「し、師匠、これ!」

 

「おう、響くんか。状況はこちらでも把握している」

 

弦十郎が腕組みして見つめる巨大モニター。

そこにはいくつもの分割された映像が展開されていた。

アメリカ。中東。ヨーロッパ。果ては北極、南極、アマゾンの空までに、無数の白い紙片が舞っている。

 

「これはどういうことなの!?」

 

既に食い入るようにモニターを見つめていたマリアが叫ぶ。

 

「わからん。特に人体に害はないようだが…」

 

そう弦十郎は応じておいて、発令所を見回す。

響たちが来たことにより、既に詰めていた翼らと合わせ、装者は勢揃いした格好だ。

 

「この謎の紙片の件もあるが、まずは諸君たちに伝えておかねばならないことがある」

 

弦十郎はそう口火を切る。

 

「! ひょっとして、あの子の手がかりかッ?」

 

響より先に色めき立つクリスに、しかし弦十郎は答えない。

替わりに友里に向かって顎をしゃくれば、彼女が頷くとともにモニターの映像が切り替わる。

表示されたのは世界地図で、注釈つきのアイコンが幾つも明滅していた。

 

「司令、これは…?」

 

翼の声。

 

「…この三日間で、世界各国より極秘回線での通達が相次いでいてな」

 

弦十郎が説明することには、この映像は各国が秘密裡に研究、秘匿していた聖遺物の情報だという。

装者たちが一様に戸惑った表情を浮かべる中、真っ先に気づいたのはマリアだった。

 

「…ッ! 司令! もしかして、世界各国でも聖遺物の盗難が相次いでいるってこと!?」

 

「そう、マリアくんのいう通りだ」

 

弦十郎の表情が苦々しいのには二重の意味がある。

一つは、未だ聖遺物を搔き集めているものの正体と目的が明確でないこと。

そしてもう一つは、あのシェム・ハとの死闘を目の当たりにしてなお、世界各国それぞれが聖遺物を秘匿し独自の研究を続けていたことだ。

人の身に過ぎた技術は、一歩間違えれば諸刃の剣となるというのに。

 

「まあ、それはそれとして、この紙きれはなんなんだよ、一体?」

 

「それは…」

 

首を捻るクリスに弦十郎が応じようとしたとき。

小柄な影が、皆の前に進み出てくる。

 

「この紙片に、その全ての答えが書いてあります」

 

静かに、神妙な面持ちで断言するエルフナイン。

 

「…でも、それは何も書いてないデスよ?」

 

切歌が訝しげな声を上げる中、紙片かざしたエルフナインの手が発光する。

光に炙り出されるように、たちまち紙片に浮かび上がったのは日本語だった。

 

「これは、錬金術師に向けて配られたビラなんです。しかも、読む対象の言語を自動的に設定してくれる特殊機能付きですね」

 

エルフナインの説明もそこそこに、皆が紙片を覗き込む。

そこには、明朝体でこう文字が記してあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

錬金術師募集中

 

 

年齢:不問

 

勤務時間:8時~17時(コアタイム) フレックスタイム制もOKです!

 

給与:完全歩合制

 

資格:錬金術師3級以上必須。当社へ瞬間移動できるレベルの方。

 

待遇:交全支給。服貸与。食事つき社員寮あり。

 

事業:聖遺物の研究全般

 

応募:アダム式電話でTEL後、履歴書を持参してください。

   担当兼オーナー MrD・T 

   ※電話した際は、ビラを見たと一言お願いします。

 

勤務地:日本国旧首都庁跡チフォージュ・シャトー

 

とてもアットホームな職場です♪

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。