戦姫絶唱ヴァンパイア   作:とりなんこつ

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14.掌握する吸血鬼

 

 

 

「このMrD・Tって童帝のことよね? …なに考えてんのよ、あいつは!?」

 

「錬金術師を集めて何をやらかすつもりなんだ!?」

 

「やっぱり聖遺物を盗んでいたのはダイスさんだったデスね!」

 

「瞬間移動で出勤が条件なのに交通費全額支給…???」

 

装者たちが口々に驚きも露わにする。

 

「諸君、落ち着け」

 

弦十郎が大地に突き立つような太く鋭い声を放ち、皆の動揺を鎮めた。

 

「このビラを撒いたやつも、聖遺物を搔き集めていたやつの正体も分かった。

 なにより、やつのいる場所が判明したことが大きい」

 

「…チフォージュ・シャトー…」

 

響が呟く。

キャロル・マールス・ディーンハイムが世界を解体するべく作り出し、のちにシェム・ハ復活の装置としての役割も果たした、シンフォギア装者たちにとって因縁深い場所だ。

 

「現在あれは、日本国土に不法投棄されているも同然だ。シャトー自体が聖遺物の複合体でもあるから、S.O.N.G.としても介在する名分が立つ!」

 

拳を手に打ち合わせて弦十郎は断言する。

あの自称大吸血鬼が何を企んでいるかは分からねど、日本国内における聖遺物を使用した行動の殆どは危険禁止行為に該当する。

シャトー内には世界中から収集した聖遺物に、そこに錬金術師を集めているとあっては、とても座視できる状況ではない。

 

―――ほどなく日本政府を通して正式な対処要請があるだろう。

 

そう思いつつ、はやる装者たちを落ち着かせる弦十郎。

 

「ですが、こうもあっさりと居所を晒したのは、あからさまにすぎませんか?」

 

翼が納得のいかない表情を浮かべる。

何かしらの罠の可能性が否定できない。少なくともあの吸血鬼が、何の思惑もなくこのような手管を用いるとは思えないのだ。

 

「翼の言う通りだ」

 

重々しく頷いた弦十郎は、対策を講じる意味でも、もっともチフォージュ・シャトーに詳しいであろう人物に声をかけようとして―――。

 

「エルフナインくん? …エルフナインくんはどこだ?」

 

「え? さきほどまで、そこにいましたよね?」

 

狐につままれたような表情をする友里と藤尭。

装者たちも同じような顔つきで発令所内を見回すも、見慣れた金髪のエビフライのような髪型は見当たらない。

 

「…トイレにでも行ったんデスかね?」

 

切歌が首を傾げているのを横目に、弦十郎の野生の勘が囁く。

 

「…まさかッ!?」

 

ほぼ同時に、発令所のメインモニターがアラーム音を轟かせた。

半瞬遅れて藤尭の報告。

 

「都内でアウフヴァッフェン波形が感知されました!! …これはッ!?」

 

「ダウルダブラ、だとッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都庁跡チフォージュ・シャトー内玉座の間

 

 

 

ご主人様(マスター)。進捗状況はほぼ100%です」

 

「ふむ。想定以上だの」

 

未来の報告に、吾は微笑で応じる。

世界中より掻っ攫ってきた聖遺物に共鳴し、今やこの城は全盛期に等しい活性状態にある。

伴い、朽ちて傷ついた外観も、じきに癒えよう。

 

今こうやって玉座に付く吾であったが、分霊(みたま)たちは別室で幾つもの電話を受けるのに忙しい。

先ほど世界中にバラ撒いたビラ。それを見た有象無象の錬金術師たちが、こぞってここに来たがっている。

少しでも目端の利く術師であれば、いまや世界中の聖遺物がこの地に集まっていることを知っているはず。

 

もっとも、更に目端の利く連中は、吾が例のビラを撒く前にアポイントを取ってきておるがな。

現在のシャトーの修復は、先駆けて来訪を果たした錬金術師たちの手管による。

まあ、この城自体が聖遺物の塊なわけだ。それだけに興味は尽きまいて。

そういえば、連中のほとんどはパヴァリア光明結社に所属していたとか。

 

「…あのアダム・ヴァイスハウプトがここ最近まで生きながらえておったとはのう…」

 

吾の中に、遥か昔の感慨が蘇る。

アヌンナキの連中が寄ってたかって自分たちに似せて作った生命体。

傲岸で、向こう見ずで、身の程知らずな―――完璧なまでの人間の雛形。

そこまで自意識を育てておいて、「完璧すぎるから発展性が望めない。はい廃棄」なんぞと言われたら、吾だって反逆したくなるわ。

 

当時の吾も同じような境遇であったゆえ、すこぶる不憫に思えて逃亡に手を貸したのは、返す返す因果なものだ。

神代以降の歴史において、聖遺物を巡ってフィーネと鎬を削っていたらしいしな。

 

その挙句、恩讐の対象の一柱であるシェム・ハと相見えることも叶わず散ったのは、まあ、アダムらしいといえばアダムらしい。

つまるところ、彼奴はいくらあがいても神に及ばなかったわけだ。全ては神の掌の上に。

そういうことなのだろう。

 

ともあれ、錬金術の体系を編み、技術として蓄積させてきた手腕は賞賛に値しよう。

特に、彼奴の念話能力を発展させた固有術(ユニーク・スキル)、どこへでも電話機を出現させる術は便利なもので、さっそく吾が利用させてもらっていることは説明するまでもない。

 

「む? どうした、未来?」

 

ふと顔を上げた吾は、未来が不安そうな表情を浮かべていることに気づく。

 

ご主人様(マスター)…。本当にこれしか方法が…?」

 

吾は微笑んだまま未来の髪の一房を撫でる。

 

「おぬしの血を吸ったとき、既に賽は投げられたのだ。ならばあとは運否天賦よ」

 

もっとも運否天賦とは()()()()を天に任せるという意味だ。夜の王にして赤き基種である吾には当て嵌まらない。

つまりは、諧謔―――ジョークのつもりだったのだが、未来の表情は晴れてくれぬ。

 

「でも…!!」

 

言いかける未来の唇の前に人差し指を立てて蓋をする。

 

「どうやら、招かれざる客が来たようだ」

 

その刹那、玉座の間の扉が大きく弾け飛ぶ。

もうもうと立ち込める粉塵の向こうに現れた影に、吾は大きな笑みを向けた。

 

「いや。真のこの玉座の主というべきか? キャロル・マールス・ディーンハイムよ?」

 

「キサマ…ッ!!」

 

白衣を纏った幼子の容姿は、確かエルフナインと言ったか。

かの弦十郎の部下の一人だが、その実態はキャロルの肉体に予備躯体の精神が融合したものと聞く。

されど、今の彼女は、精神肉体ともにキャロルであろう。

 

「お初にお目にかかる―――と言いたいところだが、以前に幾度か顔を合わせたことを覚えているか、キャロルよ?」

 

イザークとかいう神仙の域に至りながら市井のために尽くす錬金術師がいるということで、物見遊山で足を運んだことがある。吾の正体を一目で看破したのはともかく、存外愉快で話の分かる男であった。

その後は幾度か酒を酌み交わす機会もあり、夜も更けると父親の膝で丸まって眠る幼子がいた。それがキャロルだ。

 

生憎と、間もなく吾は『死の眠り』につき、目覚めたのちにイザークが残酷に殺されたことを知る。

実に数千年ぶりに怒りが沸くも、恩讐を果たそうにも当事者たちは誰も生きてはおらぬ。

きっとあの幼子も、父親と同じ運命に殉じたに違いない。不憫な話よ。

 

そうだとばかり思っていたのだが、その娘が類い稀な錬金術師として素養を開花させていたとはな。

イザークとの死別が忌まわしくて、ここ数百年欧州全般に近づかなかったことが仇となったわ。

あの父の膝の上で甘えていた幼子が、よもや世界の腑分けを試みようとは大それたものよ。

その為にこのような城までこさえたのは、蛙の子は蛙と誉めるべきかの。

 

「知るか! キサマのような変態吸血鬼と面識があったと思うだけで怖じけが走るッ!」

 

「そうか」 

 

吾は苦笑で応じる。

予想通り、覚えておらぬと言うより、その時の記憶を無くしているのだろう。

膨大なアルスマグナを駆使するために、己の想い出を錬成燃焼させるなど、この吾をしても狂気の沙汰だ。

同時に、そうまでして力を求めしキャロルに憐憫の情が沸く。

 

「そこを退けッ! その座にキサマが腰を落ち着けるなどと、許した覚えはないッ!」

 

されどキャロルの剣幕は、吾の感傷をも吹き飛ばす。

 

「未来は隠れておれ。危ないでな」

 

「わかりました」

 

未来がそっと袖に下がったのを見届けて、吾はキャロルへと向きなおる。

 

「確かに元はおぬしの居城だったかも知れぬ。だが、もはや管理もままならぬであろう?

 替わりに吾が有効に使わせてもらっているだけぞ」

 

「四の五抜かすな、喧しいッ!」

 

ほう。放つ殺気に大気がビリビリと震えておるわ。

さすが単身でシンフォギア装者の六人と渡りあっただけのことはある。

 

肩を怒らせたままキャロルが異空間より取り出したものに、吾は懐かしさに目を細める。

 

「エオヒド・オラティルの黄金の竪琴か…」

 

ダウルダブラと呼ばれるその聖遺物を、吾は幾星霜ぶりに目にしていた。

脳裏に浮かぶは、赤ら顔の陽気な大男がその竪琴(ダウルダブラ)を掻き鳴らす姿よ。

かのダーナ神族の首長とは、いわゆる飲み友というやつで、ぶっ続けで何昼夜酒を酌み交わしたことか。

 

繊細な旋律と豪気な歌声が耳に蘇る。

されとキャロルは、切り裂き唸るような旋律とともにダウルダブラを分解、再構成してその身へと纏っていた。

シンフォギアとは違う体系で編まれた聖遺物を纏う技術で、確かファウストローブとか言ったか。

 

「そこを退けッ!」

 

キャロルの腕が翻り、竪琴の弦を模した鋼線が床を抉りながら迫る。

四方八方から襲いくる弦に絡めとられ、吾は思わず感嘆の声を上げてしまった。

 

「ほう。黄金の弦を一瞬で銀糸へと錬成したか」

 

「いかにキサマが吸血鬼といえど、細切れにされてまで無事でいられんだろう?」

 

己が指で銀糸を手繰りながらキャロルの口角は吊り上がる。

次の瞬間にはその小さな指が動き、吾の全身を一寸刻みで寸断した。

 

「―――ふむ。この程度のものか」

 

「なッ!?」

 

健在の吾を見て、驚愕の声を上げるキャロル。

すかさず腕を振るい銀糸の斬撃を繰り出してくるも、吾は意に介さずキャロルへ向かい歩み寄る。

別段、攻撃を躱しているわけではない。

切り裂かれた端から肉体を再生しているだけだ。

無数の斬撃を柳に風と受け流す。

膝が触れ合うほどの距離を詰めてから、吾はキャロルへと笑いかけた。

 

「おぬしも吸血鬼には銀の武具が効くと思っている類か?」

 

再三、吾は吸血鬼ではないと言っていたはずなのだがなあ。

 

「それに、おぬしは『奇跡の』殺戮者であって、『吸血鬼の』殺戮者ではない」

 

「…ッ! そんな哲学設定などッ!」

 

なおダウルダブラの弦を振るおうとするキャロルの鼻先を指で弾く。

 

「!?」

 

顔を押さえ、大きく後ろに飛び退くキャロル。

盛大な涙目になっているのは、少々力を入れ過ぎたか? 

されど文字通り鼻っ柱を圧し折ってやったわ、ははは。

 

「…殺す。キサマの身を分解して解き殺すッ!」

 

鼻にかかった声でキャロルは絶叫。

同時に、彼女の背後に四つのエネルギー球が浮かぶ。

 

「ほう。四大元素(アリストテレス)か」

 

錬金思想の初歩にして奥義。

この世の全ては火、水、風、地の四つの元素で構成されていると定義すれば、逆説的にそれらを用いてこの世の全てを解きほぐせる。

吾とて、この世界の根源の理には逆らえぬはずだ。

そう見込んだゆえのキャロルの切り札であろう。

 

「因果地平の彼方まで吹き飛ばしてやるッ!」

 

「怖い怖い。なれば、吾もとっておきを見せるとしようか」

 

「抜かせッ!」

 

四つのエネルギーの奔流が解き放たれ、吾へと迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャロルは激怒していた。

必ず、あの阿呆な吸血鬼を玉座から放逐すると決意した。

 

チフォージュ・シャトーは彼女の作ったワールドデストラクターである。

その役割を終えた今、いずれは人間の手によって解体されるであろう。

それは構わない。仕方のないことだと納得している。

 

されど、それが他人の手によって好き勝手に使われるなど、とても許せるものではない。

なぜなら、廃城と化したあの場所は、キャロルに仕えた騎士たちの墓標だからだ。

最後の役目を果たし終えた連中の眠る場所を他人に荒らされるなど、とても我慢できるものではない。

 

ゆえにキャロルは激怒している。

シャム・ハとの決戦後も、シコシコと脳内の電気領域より思い出を収集していたエルフナインへの感謝を、彼女の人格ごと封じ込めている。

脳内では必死に何事かエルフナインが訴えてきているが、端から耳を貸すつもりもなかった。

 

だが、それもこれも終わらせる。

四大元素のエネルギーを収束させて放つ必殺秘奥の『エレメンタルノヴァ』。

いかなヤツでも、これを喰らえば無傷ではいられまい!!

 

四つの光球より、風と水と地と火の属性を帯びたエネルギーが迸る。

それぞれの光線が、吸血鬼を名乗る変態を直撃して―――

 

「馬鹿なッ!?」

 

キャロルが驚愕の視線を向ける先。

 

 

風のエネルギーは突如地面から出現した巨大な土壁に遮られた。

 

水のエネルギーは吹き付ける炎に残らず蒸発させられた。

 

地のエネルギーは鋭い風に切り刻まれて散った。

 

炎のエネルギーは氷塊へと閉じ込められて消えた。

 

 

それぞれが、相反する元素によって無効化されたのだ。

己に匹敵するほどの四大元素の放たれた方向を見たまま、キャロルは全身で驚きを露わにしていた。

なぜなら、彼女の凝視する先に立っていたものは。

 

 

 

「見かけよりショボい攻撃ですこと」

 

「派手に反逆。地味に従属」

 

「マスターには悪いけど、今はこっちのマスターがマスターなんだゾ」

 

「あらあらこちらのマスターは、アタシたちが望んだものがぺったんこ♪」

 

 

 

四つの原色。四つの属性。

かつてキャロルが造りし自動自律人形にして、彼女に忠誠を誓う終末の四騎士(ナイト・クォーターズ)

 

 

「なぜ、オマエたちがここにいるッ!?」

 

 

驚愕のまま彼女は叫ぶ。

チフォージュ・シャトーを墓標に見立てた通り、オートスコアラーたちの廃棄躯体が大量に眠っている。

ボディ自体が存在することに疑問はない。だからといって、以前通りに再製できるかどうか全くの別問題。

 

それが、全盛期もかくやという威容で連中は稼働している。

満を持したような揃い踏みに、さすがのキャロルも動揺を抑えきれない。

そもそもの連中の燃料たる想い出は、もはや微塵も残ってないはずで…。

 

「想い出も、『知』の一部であろう? ゆえに、吾の『血』を与え、彼女らの不足する活力(エナジー)を補ってみたぞ」

 

居並ぶ四体の向こうから、吸血鬼がニタリと笑う。

その笑みにすら苛立ちを覚えるも、己に刃向かう四騎士の首筋を注視し、キャロルはギリリと歯噛みの音を轟かせる。

全員の白磁の細い喉に、揃って穿たれている二つの小さな穴。

 

「キサマ…! オートスコアラーの血を吸ったのか!?」

 

エルダーベリーで作られし人形の、躯体に流るる血は水銀。

いかな吸血鬼といえど、無機物など本来操れる道理はない。

 

「さすがおぬしの造りし人形よ。人の形であれば、人間の理の方へ存在と位相をズラすのも吝かではない」

 

「…ッ!」

 

戯れ言を、と言いかけた叫びをキャロルは飲み込む。

四騎士たちが吸血鬼を護るように立ちはだかっているのは明らかだった。

それがどのような哲学設定が働いた結果であることも理解している。

 

―――吸血鬼に血を吸われた存在は、吸った存在に従属する。どのような例外もなく。

 

キャロルの顔が一瞬だけ悲哀に歪んだ。

 

「…そこをどけッ!」

 

しかし即座に思考を立て直し、キャロルはダウルダブラの弦を振るう。

吸血鬼を倒せば、呪われた従属関係も全てご破算に出来るとの伝承を信じて。

 

ギンッ!

 

振るわれた必殺の鋼線は、ブレードソードで受け止められた。

 

「元のマスターに申し訳ありませんが、今のマスターへの無体はご遠慮くださいませ」

 

フラメンコの靴音(サパティアード)を刻み、ファラがスカートの片裾を持ち上げながら優雅に一礼。

 

「くッ」

 

次の一撃を見舞おうとしたキャロルだが、後方へとたたらを踏むように飛びずさる。

先ほどまであった彼女の足場は、無数のコインで破砕されていた。

 

「地味に妨害」

 

広げた指の間にコインを煌めかせ、レイアが特徴的な立ちポーズを決める。

すかさずキャロルが態勢を整えなおそうとしたところに、巨大なツインテールの赤毛と緋が走った。

 

「ミカちゃんもホームランを決めて、明日はハンバーグだゾ!」

 

「ワケの分からないことをいうなッ!」

 

ギャリン! とカーボンロッドを鋼線で受け止めてキャロルは叫ぶ。

同時に、激しいまでの戦いづらさを意識せざるを得ない。

 

そもそものオートスコアラーは、キャロルの権能を四大元素的に分割したものである。

相手で一体であれば、歯牙にもかからない。

仮に四体同時に相手どったとしてもオリジナルのアドバンテージは大きく、悪くて拮抗する程度のはず。

しかし今、その目論見は大きく崩れ去ろうとしていた。

 

間断なく繰り出されるオートスコアラーの固有スキル。

もちろんキャロルにとって難なく退けられる技ばかりだが、それが複数とあってはさすがに手こずる。

相殺するための文字通りに手が足りない状況は、直列処理と並列処理の対比そのままだ。

だが、たった一人で世界へ挑もうとした希代の錬金術師キャロルを侮るなかれ。

四色に染めあげられる激闘の最中に、それでも吸血鬼を打倒すべき一手を繰り出す。

 

「そこだッ!」

 

放たれる黄金の光線は、キャロルのみが操れる第五元素。

狙いすました一撃は、呑気に観戦していた吸血鬼へと命中し―――鏡のようにバラバラに砕け散る。

 

「なッ!?」

 

「はっずれ~♪」

 

ギザギザの歯を斜めに歪め、手の中の氷で出来た鏡を弄ぶはガリィ・トゥーマン。

生み出される一瞬の虚。

ハッとキャロルが気づいたときには、すぐ目前に黒衣の吸血鬼の姿が。

 

「もう十分であろ? 趨勢は決しておる」

 

「…ふざけるなッ! オレはまだ負けてはッ!」

 

「もうよい。頑張ったな、幼子(おさなご)よ」

 

その優し気な声音を耳に、キャロルの肩から力が抜けた。

一緒に激情まで消沈していく様に、キャロル自身が戸惑う。

 

「何も心配することはない。決しておぬしにとって悪いようにはせぬ」

 

なおも言葉を続ける吸血鬼に、安穏になって行く心に逆らいながらキャロルは怒声を上げる。

 

「キサマのいうことなど信じられるかッ!」

 

「ならば誓おう。おぬしの父イザークと、その友である名誉にかけて」

 

「!! キサマは何を…!?」

 

なお睨みながら、突然キャロルの脳裏に一つの光景が像を結ぶ。

脳の中に散り散りになった電気信号が偶発で結びつき、思い返された失われた記憶。

おそらくその偶然性は、奇跡と称しても良い確率であったはずだ。

 

雪がしんしんと深い夜。

暖炉の前に座るパパの膝に頭を乗せ、ちろちろと踊る炎をうっとりと眺める自分。

時折、頭上で穏やかな笑いが流れていた。

何の話題なのかは分からない。

それでもパパが笑っているのを見るのが大好きだった。

そんなパパと向かい合ってコップを傾けていたのは―――目前のこの黒衣の男!?

 

「キ、サマ、は…」

 

キャロルは目を見開く。急速にその面立ちは幼さを取り戻していく。

 

「…ラミィ、おじさん?」

 

どこか舌ったらずな声に吸血鬼はゆっくりと頷くと、ダウルダブラのファウストローブが解除されたその頭髪へと手を乗せた。

 

「今は眠れ、イザークの娘よ」

 

吸血鬼の双眸に映るキャロルの四肢から力が抜けた。ゆっくりと瞼も落ちていく。

 

「おぬしの所業を世界中の誰もがけなしても、吾だけは褒めてやる。よう頑張ったな、キャロル」

 

完全に脱力した幼い肢体を抱きとめて、吸血鬼(ラミア)ことドラゴンタイガー・ダイステイラーはシャトーの高い天井を仰いだ。

 

「次におぬしが目覚めし時は、幾分か優しい世界になっていることを約束しよう―――」

 

その周囲には、四体の騎士が恭しく跪いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

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