戦姫絶唱ヴァンパイア   作:とりなんこつ

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6.上映する吸血鬼

S.O.N.G.発令所 PM14:38 

 

 

『師匠ッ! さすがに数が多すぎますッ!』

 

モニター内の立花響の必死の声に、弦十郎は苛立ちの声を飲み込む。

…くそ、なんて様だッ!

 

現在、響が戦闘行動に入っているのは、とある大型商業ビルの地下駐車場。

屋内ということで、広域殲滅型のイチイバルではなく、ガングニールの投入が仇となったか。

駐車場の半分を埋め尽くさんとする数のアルカ・ノイズに、響が悲鳴を上げるのは無理はなかった。

ましてや、建築物を極力破損させないようにノイズを倒せなどと。

 

「こうも易々とテロを許してしまうとはッ」

 

思わず憤りが口から(まろ)び出た。

大元の要因は、やんごとなき方の退位特例法。

今週末に譲位に伴う式典を控え、都内の警備は厳重を極めていたはず。

諸外国の注目を集めるこの国古来の儀式は、同時に、テロの格好の標的でもあった。

 

「それをみすみす…ッ」

 

式典のスケジュールもコースも選定済みである。

ここで周辺施設に被害を及ぼせば、式典そのものの予定に大幅な変更が余儀なくされる。

各国の要人を招待しておいて延期や中止となれば、日本国の権威と面子は大いに損なわれるだろう。

テロの首謀者の目的はまさしくそれで、アルカ・ノイズは特異災害でもある。

ここで対応を誤れば、S.O.N.G.に対しての責任問題へとも発展するのは自明だった。

―――それでも、装者の命には代えられぬ。だがしかし…ッ!

 

弦十郎が総司令として煩悶する一方、その背後では、別の意味で緊張を孕んだやりとりが展開されている。

 

 

「あなたね、呑気にお茶なんてしてないで、なにか仕事しなさいよッ!」

 

目を三角にして怒鳴り声を上げるのは、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

対して、勝手に司令席へと腰を降ろし、優雅に茶器で紅茶を口に運ぶのは、夜の王にして赤き貴種。自称、真の吸血鬼たるドラゴンタイガー・ダイステイラー。

 

「吾は基本的に人と人の争いには介在せぬ。助力を仰ぐのは筋違いよ」

 

「…ッ! アドバイザーでしょ!? そのアドバイスができないなら、吶喊してあの子を助けてきなさいよッ!」

 

「おぬし、アドバイザーの仕事をなんか勘違いしとらんか? 参謀ぞ? 軍師ぞ? それが前線に出てなんとする?」

 

ぐうの音もでない正論である。

ぐっと言葉に詰まるマリア。

 

「とにかく! なんかアクションは起こしなさいよ、童帝!」

 

彼女とて無茶を言っている自覚はある。

現在、国内におけるシンフォギア装者の投入人員数は制限されており、それゆえのマリアの本部待機であるからだ。

様々な国益や権益の絡んだ結果にせよ、致し方ないことだった。

 

「その呼び方はやめい。おぬし、言霊というものを知らんのか?」

 

吸血鬼は顔を顰める。

 

「もちろん知っているわよ。でも、貴方が童貞なのは本当でしょ?」

 

「だから違うとゆーてるだろーが! ともあれ、吾はダイスと呼べ。でなければ…」

 

「ふん、でなければ?」

 

「おぬしのことを、ただのいやらしいマリア。略してタイマと呼んで使わす」

 

「は、はあッ!? なによ、それッ!」

 

「吾の言霊は強いぞ? そのうち、『チッ、うるせーな、反省してまーす』とか『別に…』とか言い出すのだ、おぬしは」

 

「な、な、な…!」

 

「むしろ、タイマ忍だな」

 

「なにワケのわかんないこと言ってるのよッ!?」

 

ほぼほぼ絶叫するマリアに、さすがの弦十郎も背後を振り返ってくる。

 

「こちらはかなり深刻な状況なのだが…ッ!?」

 

モニター上では、大量のノイズに囲まれて響が悲鳴を上げている。

全力を出せば一撃で吹き飛ばすことも出来るだろうが、同時にビルも基礎ごと破壊する可能性が高い。

 

『師匠ーッ! もう限界ーッ!』

 

「むうう…」

 

一言『全力でやれ』と言ってしまえば済むのだが、その背景の雑多な(しがらみ)が弦十郎を呪縛している。

それでも意を決して口を開こうとしたその刹那、ダイスがひょっこりと顔を出す。

 

「響、困っておるのかー?」

 

なんとも暢気な問い掛け。

 

『全力全開で困ってますッ!!』

 

その響の反応に、吸血鬼ダイスはふんと鼻を鳴らす。

 

「仕方ない。一度きりだぞ?」

 

次の瞬間、モニターを眺めていた弦十郎とマリアは目を見張る。

モニターの中でアルカ・ノイズと奮闘している響のすぐ横に、悄然とドラゴンタイガー・ダイステイラーが姿を現したのだから。

しかし、実際に発令所には彼が存在する。

 

「騒ぐな。あれは吾の分霊(みたま)みたいなものだ」

 

「そうあっさりいうがな…」

 

モニター上のダイスがアルカ・ノイズの群れを睥睨する。

次の瞬間、先頭の群れのノイズがくるりと反転。

後続のノイズへと突進し、互いに炭化していく。

ほんの一瞬で、地下駐車場を埋め尽くさんとしていたアルカ・ノイズは、残らず消失していた。

 

『だ、ダイスさん、いったい何を…?』

 

響が疑問の声を発した時には、分霊らしきダイスは消失している。

キョロキョロと周囲を見回す響に、発令所から声。

 

「なに、邪眼で連中の認識を混乱させ、同士討ちさせたまでよ」

 

さらりと言ってのける吸血鬼に、発令所の弦十郎とマリアは呆気にとられるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S.O.N.G.本部内 エルフナイン研究所 PM17:40 

 

 

「…凄いですね」

 

ノイズの同士討ちの映像を見たエルフナインが唸る。

 

「どうだ? 我々の技術で再現できそうか?」

 

弦十郎の質問に、エルフナインは幼い顔に渋面を刻んだ。

 

「おそらく不可能です。一度起動したアルカ・ノイズは既定のプログラムでしか動けません。それを、起動後に外部からか感覚(サーキット)干渉して誘導するなんて…」

 

ふむ、と弦十郎も考え込む。

もしかの吸血鬼の邪眼というものを再現出来れば、対アルカ・ノイズ戦における革新となるのでは、と期待していたのだが。

 

「やはり、先史文明由来というより、あの男自体が超常的存在で間違いないようだな」

 

ドラゴンタイガー・ダイステイラー。

装者たちは腹を抱えて笑っていたが、どうやら偽名でも芸名でもないらしい。

となれば、何かしらの意味が込められているはず。

先ほどの発令所でのマリアのやりとりを耳にするに、言霊という存在をおろそかにしていない以上、それは十二分に考えられる話だった。

 

「弦十郎さん。虎=tigerの語源をご存じですか?」

 

「確か…チグリス川を指していると小耳に挟んだことはあるが」

 

「そうです。そのチグリス川はメソポタミア文明の礎となった大河ですね。そしてシュメール神話では、エンキ神が川を流水で満たして作ったそうです」

 

「むう…」

 

かのドラゴンタイガー・ダイステイラー自身、フィーネとかつて恋仲だったと公言している。

全てを頭から信じたわけではないが、ここに来てエンキ神との符号も合わさると、眉につけた唾を拭わなければならないだろう。

 

「まあ、それも今からある程度判明するかもな」

 

弦十郎はそう独りごちて椅子から立ち上がる。

 

「さて、エルフナインくんも来るだろう?」

 

「はい。是非同席させてください」

 

先日、響がデートした際に、かのダイス氏にフィーネとの関係を尋ねたらしい。

いずれ見せてやる、と確約した彼に対し、他の装者たちからも続々と鑑賞の希望が出た。

そもそものシンフォギアという技術理論がフィーネと縁が深いのだから、至極当然のことだろう。

エルフナインを伴い、彼女の研究所を出る弦十郎。

その胸中に、奇しくも過日の小日向未来と同じ疑問が沸き上がっている。

 

「しかし、見せてやる、とは、いったいどうするつもりだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

S.O.N.G.本部 第一会議室 PM18:00 

 

 

本部内で一番広く階段席となっている会議室へは、既に装者6人に発令所のメンバーが勢ぞろいしていた。

 

「ようもよう暇人ばかりと見える」

 

集まった面々にダイスがそう皮肉るも、この時ばかりはマリアも反論しようとしない。

先史文明、いや、神代の出来事を肉眼で見る機会なのだ。おそらく一生に一度と断言しても過言ではないだろう。

 

「とは言ったものの、吾の記憶に拠るものだからな。現代のおぬしたちにも理解できるよう、多少エンコードしなければならぬ」

 

さらりと現代用語を駆使する吸血鬼の横で、クリスが皆が思っている疑問を口にしている。

 

「だからって、どういう風に見せるつもりなんだ…?」

 

会議室の正面にはプロジェクター用の巨大なスクリーンが降りて来た。

続いて部屋の電灯は消され、スクリーンに大きな光点が浮かび上がる。

光の焦点が合う。

そこでまずスクリーンに流れてきた映像は、リボンに丸く囲まれた月読調の顔のアップ。

彼女はけだるそうな表情で『がーお』と吠え声を上げる。

 

「なにやってんの調ッ!?」

 

思わず席を立ち声を荒げるマリア。

 

「オープニングだけ手伝ってって言われたから協力したの」

 

飴をカラコロと舐めながら調。

 

「変なトコに凝っているなあ…」

 

呟いてから背後を仰ぎ見て、雪音クリスは思わず声を上げる。

 

「な、なにやってんだよ、アンタ!?」

 

彼女の声につられ、振り返った全員が見た。

会議室の階段席の最上部で、プロジェクターよろしくその二つの目からスクリーンに映像を投影している吸血鬼の姿を。

 

「これぞ、吾の邪眼の一つ。投影眼ぞ」

 

「そりゃあ便利だ…ってゆーより! 幾つあるんだ、アンタの邪眼はッ!?」

 

「吾の邪眼は百八式まであるぞ?」

 

「………」

 

「それより、さっさと前を向きなおるが良い」

 

絶句するクリスらに、ダイスはスクリーンを見るように注意を促す。

もうなんでもアリだな、とブツブツとクリスは漏らす。

彼女を含め、全員が前を向くと、唐突に始まるBGM。

 

トゥルッ トゥルッ トゥルッ トゥルッ

 

「まさかのビートボックス!?」

 

「いちいちうるさいわ! 目から映像は出ても音まで出るわけなかろう?」

 

考えてみれば当たり前の正論でマリアの驚愕を切って捨て、吸血鬼は更にビートボックスを刻む。

 

 

 

 

 

トゥルッ トゥルッ トゥルッ トゥルッ トゥルッ トゥルットゥットゥッ ダイスザサ~ド♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、映像と一緒に流れ始めるナレーション。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吾の名はダイス三世。かの名高きティアマトの孫だ。世界中のカストディアンが吾に血眼。

ところが、これが捕まらないんだなぁ。ま、自分で言うのもなんだけど、狙った獲物は必ず奪う神出鬼没の大吸血鬼。

それがこの吾、ダイス三世だ。

 

 

 

 

狩猟神ウル、吾の相棒。早撃ち0.3秒のプロフェッショナル、クールなアーチャー。そのうえ義理堅く、頼りになる男。

 

 

 

 

須佐之男命。国産みの神イザナギとイザナミの三男。高天原の暴れん坊。荒神。なんでも真っ二つにしちまう、怒らせると怖ぁ~い男。

 

 

 

 

マルドゥク。ご存じ、エア神の息子。太陽神にして呪術神。吾を捕まえるのを生き甲斐とする、吾の最も苦手なとっつあんだ。

 

 

 

 

謎の女、フィーネ。女盗賊か神託の巫女か、この吾にも分からない謎の女。 いつもひどい目にあうが、憎めないんだなぁ。吾はカワイコちゃんに弱いからねぇ。

 

 

 

 

そのナレーションを皮切りに、スクリーンに展開されるは一大痛快娯楽スペクタクル。

エンターテイメントがぎっしり詰まった映像が終わり、最後にご丁寧に『to be continued…?』の文字入り。

室内の電気が灯ると、まず喝采を上げたのは暁切歌。

 

「いや~面白かったデスね!」

 

「そうだろうそうだろう」

 

得意満面の笑みを浮かべる吸血鬼に、戸惑い顔で質問をしたのは響だ。

 

「あの、ダイスさん。これって本当のこと…?」

 

「心外だな。全て吾の記憶ぞ? もっとも現代風に大分脚色してあるが」

 

「だからって、これはねーだろーよ!」

 

クリスが大声を上げる。

 

「いくら現代アニメ風にアレンジしたとしてもな、荒唐無稽がすぎるだろうッ! おまけに三世ってなんだよ、三世ってッ!?」

 

「まあ、おぬしらがどんな感想を抱くかは自由だが…」

 

苦笑しつつ、ダイスはクリスと翼を同時に眺める。

 

「作中でもあったが、いちど吾ら一行もマルドゥクと協力したエンキに捕まったことがあってな。そこでウルのやつはイチイの弓を、素戔嗚のやつは天羽々斬を、それぞれ罰として取り上げられたあげく砕かれてしまってなあ」

 

それが回り回って今、クリスと翼のシンフォギアの基となっているという。

感慨深げに語るダイスに、二人は微妙な表情で顔を見合わせるしかない。

仮にこの話が本当だとしても、いったいなんとコメントすればいいのか分からないのだ。

 

「おまけにその時、フィーネのやつがエンキに一目ぼれしたようでな…」

 

忌々しげに言うダイスを、マリアが気を取り直すように嘲る。

 

「あら? 貴方、フィーネと恋仲だとかいってなかった?」

 

「そう、それよ! あやつの頼みで、吾がどれだけ危ない橋を渡ったと思っている!? クロノスのせがれの目を盗んで種火を取ってくるように頼まれたときは、本当に死にかけたぞ!?」

 

「ア、ハイ」

 

「そのくせ、いつも血を吸う寸前ではぐらかされてばかりでな。『今度血を吸わせて上げる♡券』なんぞ、12枚綴りで何枚分のストックを無駄にしたことか」

 

「………」

 

しみじみ言う吸血鬼に、沈黙をもって答えるマリア。

如何な彼女とて、「それって都合の良いように利用されていただけじゃ?」と口に出さない情けが存在していた。

 

「まったく、本当に性悪な女だった。しかし、そこがまた魅力でもあってな…」

 

遠い目をするダイスに、マリアは「まあ当人が納得しているなら良しとしましょう」なんて思っている。

他の装者の反応も彼女に準じていて、全員でなんとも言えない視線を向けるしかないのだが、肝心の吸血鬼はその視線の意味を全力で誤解していた。

 

「いやあ、これ以上のフィーネとの恋バナは勘弁してくれ。あの時は吾も若かったというか…」

 

おそらく数千年単位で過去の話でも照れくさいようだ。恋の話に心がときめくは、時間、時空すら超えた普遍性が存在するからに違いない。

―――たとえその恋が一方的なものであったとしても。

 

「あれ、なんだか涙が…」

 

響と未来が異口同音に呟き、同時に目尻を拭っている。

 

「さっきの映画のフィーネ。なんかマリアに似ていたデスね!」

 

「はあッ!? どこがよ?」

 

切歌に指摘され言い返すマリア。

 

「別にアンタの恋バナには興味ねーよ! それよかフィーネについてもっとこう…」

 

ストレートにぶっこむクリスに、

 

「いやいや、ミスター・ダイス。出来れば、その、もう少し恋の行方の話の方を…ッ」

 

頬を微かに染めて翼がコソコソと訴える。

 

「飴はもうないの?」

 

話の渦中にいるダイスの袖の裾をくいくいと引っ張る調がいた。

 

まったくのカオスの様相を呈する会議室の内情を、後部席の高みから見下ろす弦十郎。

珍しく額に汗を浮かべた彼は、傍らのエルフナインへそっと語りかける。

 

「…今見た映像の話は、本当だと思うか?」

 

「今のところはなんとも言えません。でも、出てきた固有名詞の数々は無視できませんね…」

 

エルフナインも冷や汗というか脂汗をかいていた。

無理もない。仮にダイスの話を肯定すれば、人類の歴史や現代に伝えられてきた神話が根底から覆りかねないのだ。

…ひょっとして、オレはいま人類史の転換点に立ち会っているのでは?

弦十郎をしてそんな大それた考えが脳裏をよぎったが、太い首を捻って振り払う。

代わりに、隣にいる錬金術師でもある分析官へ命令を下した。

 

「すまないが、後で検証してレポートにまとめてくれ」

 

「はい、わかりましたッ」

 

「…十分に眉に唾をつけて、頼むぞ?」

 

 

 

 

 

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