灰と幻想のデジャブガル 作:なにがし
ハルヒロside
やっと着いたっ! ってそんなこと言ってる場合じゃない! 早くエルを見つけないとっ!
街に着いた俺はすぐに辺りにエルはいないかとキョロキョロと辺りを見渡す。
たしかエルはオルタナに着いたらすぐに『近くにいた神官』にマナトの治療をしてくれる様にお願いすると言っていた。だから神官かエルを見つければ良い。
歩きながら、再び周囲を見渡すと存外すぐにハルヒロはマナトを背負った状態のエルを見つけることが出来た。
「エルっ!」
見つけたっ! だけど、余り元気が無さそうに見える。まぁエルも俺もあのダムローから長い距離をずっと走ってきたんだから、そりゃエルも疲れるか……。
そう思うと案外すぐに心の嫌なざわつきは落ち着かせることが出来た。
「エルっ! マナトはっ! マナトは無事、治療して貰えたのか!?」
きっとエルは『心配しなくても大丈夫だよ、ハルヒロ。無事マナトは神官に治療して貰ったから』そう優しい声で言ってくると予想はしていた。
しかし、エルから告げられた言葉は──。
「えっ……っ!」
──ドサッ!
俺の予想とは正反対の言葉であった。
それからのことはあっという間だった様に思う。エルと一緒にマナトが師事して貰っていたお師匠様のところに向かい、ランタ達と合流し、目の覚めないマナトとお別れをした。
その前に多くの傷が着いていた俺たちをマナトの師匠が治療してくれたけど、俺はそんなことを気にしていられる様な気分でも無かった。だが、この現実は非情で、如何に自分が弱いのかを叩きつけてくる。
そして、マナトをお別れした今日という日の夜に──俺達はエルからあることを知らされる。
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辛くもあり、悲しいマナトとのお別れをしたエル達はエルとマナトが良く行っていたシェリーの酒場で、エルはハルヒロ達にあることを告げることにした。
それは──。
「神官の在り方?」
「そう。神官の在り方だ。神官は普通、前衛で積極的に戦うこと何て余りしないんだ。これを聞けば一見、じゃあ前衛で積極的に戦っていたマナトは凄い! ってなるかもしれないけど、神官が前衛に出ないのには訳があるんだ」
「その訳って何なんだよっ?」
「良い質問だ、ランタ。神官が前衛で戦うことをしない理由には一つの大きな訳がある。それが──神官はモンスターに最も狙われやすいという理由だ」
「じゃあ、なんでお前はそんな事を知っていて、マナトに注意しなかったんだよ?」
「マナトに何で神官なのに前衛で戦うのか? 余り無理はしないで欲しいって言った時、マナトは何て言ったと思う? ──『エル、心配してくれるのは嬉しいけど、皆には黙っていて欲しい。僕は心配いらないから』って強い眼差しで言ってきてね。参ったよ。その後にも『僕たちは毎日を生きるのに精一杯なんだ。だから、例え無茶をしても資金を貯めなければならない。それにエルも魔法使いなのに前衛も出来る様にするって無茶をしようとしてるでしょ?』ってね。あれを言われちゃどうしようもないよ。俺もマナトの気持ちが十分に理解出来ちゃったから。だから、恨むなら俺を恨んでくれて良い。俺の無駄なプライドが原因でマナトは死んだのだからね」
皆にこの事実を告げた訳には大それた理由なんてきっとない。これは至って私欲。自分でも何故こんなことを告げたのか分からない。だけど、何もマナトのことを知らないで死んだという事実だけ教えるのも違うと思ったし、俺は皆にこの事実を知らせて許されたかったのかもしれない。
これから俺は人一倍強くならなければならない。人一倍努力しないといけない。それが俺の男としての──そしていつか俺が誰かに俺達の仲間にはとても素晴らしい一人の男がいたと言える為に必要なことだと思うから。
それが俺が死んだマナトに出来て、俺が後悔しない様にする為の一つの行動に思えるから。
これは至って私欲。選択を誤った俺の懺悔であり、今出来る唯一の行動である様に思える。
だから、マナト。お前に次に会う時は胸を張れる様な人間になれる様、頑張るよ。だからマナト。次に会う時は俺を叱ってくれ。
「じゃあ、今日はもう俺は先に帰るよ。疲れたからね。後、ランタ。今日は急に怒鳴ったりしてごめんね? おやすみ、皆」
皆との仲は微妙になっただろうと思う。俺は皆に隠し事をしていたのだからね。
シェリーの酒場を出て、ふと空を見上げる。
いつもの様に星星はきらきらと輝いているというのに今日は何故か儚げで、消えそうで、手を伸ばしそうになった。
そしてマナトが亡くなった痛みを治療する為に休んだ三日後の次の日、俺達は一人の神官と出会う。
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目まぐるしかった日から四日という時間が経ったことで、それが更にマナトが死んだという事実を実感させる様に感じる。
そしてそれは等しくハルヒロ達も同じで、皆で一緒に朝食を食べる時の雰囲気は前より少し落ち着きがなく
、会話にも余り華が咲き辛く、普段話す時より若干小さめな声で話す様な感じであり、誰が見てもとは言い辛いが目敏い人なら活気が感じ辛いと判断出来る様なとても複雑な雰囲気であった。
そして、皆が皆、各々休んだ三日間が終わり、これからどうしようか、と一人悩んでいる中で俺は皆から今日会わせたい人がいるから武器を用意してと言われ、俺は昨日の今日でと。少し複雑な気持ちを抱えながらハルヒロ達に連れられるや否や一人の神官と会わせられた。
だが、これも一つの運命だったのかもしれない。だって、ハルヒロ達によって会わせられた神官は──。
「あっ……」
「あっ……」
昨日、マナトの治療をお願いした神官であったのだから。
「昨日はご迷惑をおかけしました。そしてありがとうございました。今日はよろしくお願いします。メリイさん」
向かう道中で皆に聞かされた名前を呼んでお礼を言う。いや、しかし。本当にメリイさんには申し訳ないと思う。だって、ほぼ初対面でマナトが死んだという事実をこの人に告げさせて、昨日は更に此方の心配もさせてしまったのだから。
「気にしないで良い。それより大丈夫なの、貴方? とても大丈夫そうには見えなかったけど」
「あはは、大丈夫だよ。それよりごめんね。初対面なのに辛いことを体験させてしまって……」
また心配させてしまったようだ。ランタから聞いた話によるとメリイさんの評判は余り良くないらしく、関わり辛い人物らしいのだが、案外他人からの情報は宛になんないのかもしれない。だって、こんなに心配してくれる人が評判が悪くなる理由が分からない。まぁ、表情が余り変わらないから勘違いされやすいのかもしれないが。しかしまぁ、この人とは始めて会った気がしないのは何故だろうか?
「っ。別に心配して貰わなくても良いから……。それで今日は何処に行くの? ダムロー?」
「えっと、エル。ダムローで良いよね?」
「そうだね。其処が良いね。いや、むしろ俺達はダムローにしか行けないよ。昨日の今日でダムローに行くのはとても辛いことだけど、俺達が良く知っていて、地形も分かっていて、ある程度安心して戦えるのは其処しかないから……」
「そうだよな……ごめん、エル」
「いや、ハルヒロが謝る必要はないよ。メリイさんもダムローで良いですか?」
「別に何処だって良いわ。行くなら早く行きましょ」
「あ、あのな? もう少し、ちょっとな、なんつーか、言い方っていうか、なんていうか、それどうにかなんねぇのか?」
ランタ達は四日前に会ったらしいがこのメリイさんの何を考えているのか考えさせない様な凍てついた表情がランタは苦手なのか、いつものパワフルさを十分に発揮することが出来なくなりながらも何とか態度を変えて貰える様にお願いしていた。
しかし、メリイは──。
「は? 何?」
一蹴である。これにはフォローする術が浮かばないし、どちらをフォローすれば良いのかも悩むので、エルはさっさとダムローに行くことでこの流れを変えることにするのだった。
「まぁ、取りあえずダムローに向かおうか?」
エルがこの場を取り仕切り、ランタとメリイの雰囲気を打ち切った中、ハルヒロはあることを思い起こす。
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エルがシェリーの酒場から言いたいことを言って、すぐにシェリーの酒場から立ち去った後、ハルヒロ達一同には長くもなく、短くもない静寂がこの場に訪れた。
ハルヒロはエルが座っていた場所を眺める。エルが座っていた席の近くには二つのジョッキが並んでおり、如何にこの短時間で沢山のお酒を飲んだのか窺えた。
「で、どうするよ?」
「どうするって何がだよ?」
ハルヒロはこの重い雰囲気の中でランタが何を言いたいのか意図を読み取ることが出来ず、何のことを言っているのか問いただした。
「あ? それはあれだよ。これからのこととか、エルの言っていたこととかだよ」
「そう言われても……俺たちは最初の頃はエルに。この頃はマナトにおんぶに抱っこだったからそんなこと俺に言われても……」
「ちっ……エルの奴。俺たちに隠してマナトと色々と決めやがって……あぁ~、もうやめだ、やめ。最悪だ。マジやってられるかっつーの。何が義勇兵だ」
「やめてどうするつもりだよ?」
「そうや、ランタ。ユメたちが義勇兵を辞めて出来る仕事なんてあらへんよ。それにランタは暗黒騎士だから他の職に付けへんし」
ここでハルヒロとランタの会話にユメが入ってきて、ハルヒロと一緒に自暴自棄なランタを止めようとする。
「あぁっ!? そんなこと知ったこっちゃねーんだよっ! 何が戦士だっ! 何が狩人だっ! 何が暗黒騎士だっ! 何が魔法使いだっ! 何が神官だっ! エルの奴も俺たちに隠してマナトと色々決めやがって……。やってられるかってのっ!」
ユメの願いとは裏腹にランタ言葉は激しさを増していき、ハルヒロはこういう時、いつもエルがどうにかしてくれていたということで此処はいつもの様にエルを頼ろうと、無意識にエルが座っていた場所へと目をやるが、既にエルがこの場から立ち去ったことを思いだし、ハルヒロはいつも周りに頼っていたということを再認識させられ、
「それは俺たちが何もしないから、マナトとエルが色々と決めてたんだろ? そう……だから、マナトに色々と負担をかけたんだ……」
それがマナトの負担になっていたであろうということにもやっと気づくことが出来た中、それが更にマナトが戻ってくることはないという現実を突きつけてくる様にも感じた。
「ちっ……元はと言えば、ハルヒロがゴブリンにやられなかったらこんなことになんなかったんだよ」
ランタはハルヒロが自分の未熟さや愚かさに気づき、一人傷ついている時に追い討ちをかける様にハルヒロへと自分のやり場のない気持ちを押し付ける。
「っ! 俺のせいだって言うのかっ!」
「あっ! 俺は間違ったこと言ってるかっ!」
二人のやり取りは段々と激しさを増していく。
「間違ってはないけど……」
「じゃあ──」
「いい加減にしろっ! 今、仲間同士でいがみ合う場合じゃないだろっ! 頭を冷やせ!」
しかし、此処でずっと静かに黙っていたモグゾーが火を吹いた。
「そうやよ、ランタ。どうしたら良いか分からないという気持ちは分かるけど、此処で仲間同士で争ったらアカン!」
「わーってるよ。つか、モグゾーあんな大きな声出すんだな」
モグゾーが大きな声で怒ったことに驚いたランタはそれを隠す為かの様に、モグゾーのことを茶化すが──モグゾーはランタに鋭い視線を浴びせ、ランタを黙らせた。
ランタをモグゾーが黙らせたことで再び静かになった雰囲気の中で、漸く此処で未だ一度も喋っていないシホルが口を開く。
「あたし、エル君があたし達に内緒にしていたこと……仕方がないことだと思う。だって、あたしがエル君の立場でもマナト君が内緒にしていたこと、皆に話せないと思う」
「確かにマナトだから、エルが止められないなら誰も止められそうにないよな。俺達がそれを知ったとしても誤魔化されるだけか、丸めこまれそうだし」
ハルヒロはシホルの言い分に確かにそうだよな、と思い、エルが隠し事をしていたという事実によって抱えていた複雑な心境から脱することが出来た。
「そうやなぁ、ユメならマナト君に誤魔化されそうやなぁ」
「僕も其処まで強く聞き出せなくてマナト君に誤魔化されそう」
またユメやモグゾーもハルヒロ同様にシホルの言い分に共感することが出来たのか一言で頷くことが出来た。そしてランタも──。
「まぁ俺なら何とかなっただろうがな!」
いや、ランタもシホルの言葉に共感出来たのか、さっきまで怒鳴っていたことが嘘かの様にいつもの調子が戻ってきた。
「いや、ランタ。お前もマナトのことに気づいたとしてもマナトにそのこと『流石だね、ランタは』みたいに誉められたりして有耶無耶にされそうじゃん」
「いや、そんな訳ねーから、分かってねーなパルピロはっ!」
「はいはい。そうだね」
「簡単な相槌してかわすんじゃねーよ! 虚しくなるだろうが、ハルヒロっ!」
マナトがいないという悲しさを変えることは出来ないが、この調子ならもしかしたらこれからもやっていけるかもしれない。ハルヒロがそう思った矢先にハルヒロ達のところにキッカワが現れ、キッカワがマナトとエルがいないことに気づき、二人のことを尋ねてきて、ハルヒロがマナトは死に、エルは先に帰ったということを伝え、再び重い空気が流れ、これから神官どうしようと言う話題になり、重い空気の中、皆で悩み出した中、キッカワはハルヒロ達にある提案をして、キッカワからある人が紹介される。
それが四日前にエルがマナトの治療を懇願した神官──メリイだった。