灰と幻想のデジャブガル 作:なにがし
ゴブリンと戦闘をしている皆は悲壮げだ。
この発端はメリイさんが原因である。ユメが矢を外したことに馬鹿にする様な言葉を口に出し、ランタがゴブリンに左の太股を切られたのを見て、ハルヒロが急いでメリイさんに治療する様にお願いしたのだが、それをメリイさんが急いで治す怪我ではないと一蹴し、その後に皆の戦闘を見ていたメリイさんが俺たちの戦闘はグダクダであると総評したりと、凄い勢いで皆からのヘイトを貯めていた。
しかし、こういう皆が戦闘に戸惑っているのも、皆がいつもより冷静さを欠いているという結果を導いてしまったのも、俺が皆のことを後回しにしていたことが原因だ。皆の改善しといた方が良いところ、戸惑った時にはどうしたら良いのか、その他にも色々ともっと皆に体験させるべきだったんだ。だけど、俺はそれを後回しにしていた。だから、此処でツケが回ったんだ。
これは何時か絶対に直面することであった。それがマナトの急逝によって、勢い良く浮き彫りになっただけ。
俺がまだ後で良いか。と腹を括っていた利息が急に俺たちの身に降りかかっただけなんだ。だから取りあえず、目の前でうろちょろしている短ゴブよ、死んでくれ。
短剣を右手で持っており、それを持ちながらうろちょろと俺の回りを回る短剣ゴブリン。所謂短ゴブ。
俺も自分の持っている短剣をダガーとは呼んでいてはいるものの、結局は言い方が違うだけでゴブリンの持っているものと何ら変わりはない。実際には短剣でも色々な形があるから一括りにはし辛いところもあるが……。だが、しかし結局はどちらとも短剣の部類には入る。
つまり──だ。これは短剣対短剣であり、人間対ゴブリンの戦いでもある。何普通のことを言ってるのかと思われるかもしれないが、俺が言いたいのはこの戦いは人間とゴブリン。どちらが短剣を使うのに優れているのか、と。問いかけられている様な戦いであるのだ。まぁ実際にはこんな風に短剣ゴブリンとの戦闘は何回か衝突したことがあるから何回目かの人間対ゴブリンの戦いとなるのだが。
「ギャギャッ!」
悲鳴の様な声をあげ、攻撃をしてくるゴブリン。鳴き声も悲鳴も喋り声も全てこんな風だから結局は何を言っているのかはイマイチ理解出来ない。理解する気もない。なので、悪いがさっさと方をつけさせて貰おう。
ゴブリンと短剣と短剣で唾競り合いをしている中で自分の短剣と腕に込めている力を一瞬だけだが緩めさせ、俺の短剣へと力を込める様に加えてきたゴブリンの重心が、俺という矛先がいなくなったことで前のめりに倒れそうになる。そして、俺はそのままゴブリンが前のめりによろめく様に倒れそうになるのを踏ん張っている一瞬の隙を利用して、ゴブリンの鼻から脳へと到達出来る様な上斜めの方向に自分の持っている短剣で一刺しする。すると、ゴブリンは体をぴくぴくしながらすぐに絶命した。
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「やってられっかよっ!」
一人の男がシェリーの酒場で怒りを宿していると誰もが分かる様な声域を出しながら、自分が飲んでいるお酒のジョッキをどかんっと大きな音を立てながらテーブルに勢い良く叩きつける。その少年は天パ少年R。
「そうやな~、ユメもどう接すれば良いか分からんのよな~。それにユメ、ゴブちんにちゃんと矢を当てられなくて、怒られちゃったやんか~。だから少し接し辛いんよ~」
怒った声域の男の人とは違い、ほんわかとする雰囲気を漂わせる口調をしながらも男の人の意見に同意なのか、一人の少女によって何気ない様に呆れられ、小馬鹿にする様な言葉を投げかけられたことを思いだし、それを投げかけた一人の少女のことを少し怖いと思っているほんわか少女Y。
「あ、あれはしょうがないと思うよ?」
若干落ち込んでいる少女Yを慰めようと弱々しい声ながらも、慰める少年M。
「モっくんありがとな、慰めてくれて」
「それで、だ。さっきからずっと黙り込んでいるお前らはどうなんだよ? あの女に何か思うことはねぇーのかよ?」
「まぁ、思うことはあるけど……」
「あたしも少しだけ……」
少年Rに問いかけられて、それに答え辛そうにしながらも思うことはあると少年Rに賛同する少年Hと少女S。
「だろっ! でだ、それでエルはどう思ってんだよ? 一番この中であの女と仲良いだろ?」
少年Rと少女Sの共感を得られたからか、はたまたお酒を飲んでテンションが上がったのか、少年Rは意気揚々とした感じで未だ少年Rの質問に答えずにいる少年Eへと言葉を投げかけた。
「そうだね。確かに言葉は乱暴というか冷徹で、とてもじゃないが好ましい態度とは言えないね」
少年Eは少年Rが騒いでいるのをしょうがない奴だ。と横目に見ながら静かにお酒を飲んでいた唇からジョッキを離し、少年Rの質問に理解出来なくはないと少年Rの意見に共感を示すと同時に──。
「だろっ! やっぱりエルも──」
「だけど。だけど、少なからずともあの人にも思いやりの気持ちは未だまだ持ち合わせているということも少しだけながら分かる」
自分たちが愚痴を言っているあの少女Mにも優しさの心があるとも主張する少年E。
「あっ? なんでエルはそう思うんだよ?」
少年Rは少年Eも自分の気持ちと同じなのだと思い、テンションを上げようとしたその矢先に否定の言葉も投げかけられ、少し雰囲気を悪くしながらもどういう意味なのか聞き質す少年R。
「いや、俺が何時自分が死ぬか分からないという話をした時、ランタ達だけじゃなくメリイさんも悲しそうにしていて、何か言いそうになったのを唇を少し噛み締めて耐えているのが見えたからね。それを見ると……どうにも酷い少女というだけじゃなく、他人を思いやれることも出来る少女の様に思えてね……だから別に、ランタの意見を否定した訳じゃないんだ。ただ、俺たちも少し何か改めるべきところがあるんじゃないか? って思ってね。メリイさんの言っていたことは実は俺が懸念していたことでもあるし……」
「あっ? どういうことなんだよ?」
「いや、実はさ、メリイさんが言っていたことは結構前から俺が懸念していたことでもあるんだよ。俺たちの戦闘スタイルはまだまだ改善の余地が多く、発展途上だってね。それに……メリイさんは言い方はあれだけど、多分言いたいことは普通の義勇兵ならしていることだよ? って意味でもあると思うんだ」
例えば、普通の義勇兵なら戦闘中に怪我をしても、直ぐに回復をしたりはしない。普通の狩人なら弓矢を外さないと聞く。まぁこれは俺たちの問題で誰かと比べるということは違うと思う。だが、これからもこの状態ではいけないし、変えていくべきことだとも思う。だから──。
「だから、メリイさんの不満を言う前に俺たちも頑張ろうよ。もう後悔しない為にも。それに不満を言っているだけって格好悪いだろ? 俺は男だからね。なるべくこれ以上情けない様な人間にはなりたくないんだ。だから一人一人が後悔しない様に行動しよう。そして皆で色々なことを決めていこう。俺たちはメリイを含めて仲間なんだから……そうだろう?」
未だチグハグで個性の塊としか言えない様なチーム。だけど、それでも光を見たいと思った。このチームでしか出来ないことは山ほどあるだろうから。