灰と幻想のデジャブガル 作:なにがし
薄暗い空に、まだ若干青黒い空。それは未だ太陽が完全には登りきっていないことを──まだ完全に朝になりきれていないということを知らせる空模様でもあった。
しかし、そんな誰もがまだ起きてこないであろう朝の時刻に起き、淡々と鍛練を行っているのか。剣を振り回したり、魔法を行使したりして、一人黙々と何かをしている人が一人いた。
その人物はエル、その人である。
エルは自分が犯したある過ち以来、一人皆が起きてこないであろう時間──つまりは早朝を見計らって、黙々と鍛練をこなす様になっていた。
鍛練の内容はダガーを振り回したり、魔法を如何に迅速に行使出来る様になるか、ということを自分なりに試行錯誤してみたり、魔法の威力を自由自在に操れる様に制御の練習をしてみたり、とその日やその先日に思ったことなどを試してみたり、自分のまだ不出来であるところの鍛練など多岐多様に渡る訓練を自分なりに考えながら行っていた。
そして今日は──魔法使いになったその日に教えられた内容。
魔法を行使するにはエレメンタル文字や詠唱が必要だと教えてこられた内容から少し逸脱して、詠唱やエレメンタル文字を使わないでも魔法は行使出来るか?
いつもは体内からエレメンタルを行使する感じで魔法を使っていたが、今度からは外気。簡単に言うなら体外にある空気中に漂っているであろうエレメンタルを使って、魔法を行使出来る感じで魔法を行使するとどうなるか?
エレメンタルを身体全体に慣らして、身体中に薄く魔法を貼る様なことや、身体の中で酸素を巡らせている様な感じで魔法を体内で酸素を巡らせる様な感じで巡らせることは出来ないのか?
と、普通の人に言ったなら馬鹿にされてしまう様なことを本当に出来ないのか、と試してみることにした。
前まではどんな風にエレメンタルを行使し、魔法を繰り出しているかということは全く考えず、ただただ行使する魔法の全体像を思い浮かべ、そして魔法を呼び出すだけであった。しかし、つい最近エルはメリイの件でハルヒロたちに神官のことや魔法について詳しく教える一幕があり、その時に説明した魔法というものは体内に蓄えた精神力を使ってエレメンタルを呼び出し魔法を行使し、やはり体内で蓄えられた精神力? 魔法力? を使うからには、量には限りがあるとハルヒロたちには説明した。
しかし、説明して暫く経った後に何故自分の体内にある精神力を使うのに限られた姿でしか魔法を使えないのか? 何故魔法力という精神の力を蓄えていないと魔法を使えないのか? ということにエルは魔法への不可解さを感じた。
そして、もしかしたら魔法というものは魔法使いが考えている以上に不透明なもので、未だエレメンタルというものや精神力、魔法の行使の仕方について詳しく分かっていなく、もしかしたら魔法というものは可能性が広がっていて、もっと抽象の幅があるものだと推測し、自分なりに魔法のことについて色々と疑問に思ったことを自分で実験し、体感し、もっと魔法への理解度を広げようと長期的な計画を立てることにした。
さぁ、自分なりに資料を集めたり、実験経過のことを書き記したりしないと。
▼▲▼▲▼▲
実験を始めることにして、実験経過を書き記すことにしよう。
そう決めたのは良いが、紙を幾つも持っているなんてことはなく、買い出しをしなければならない。
今日は丁度、昨日休日に決まったばかりで本当に良かった。休みじゃなかったら夕方に買い出しに行かなければならなかったからね。
紙の買い出しや魔法について詳しく書かれている専門書の購入とある程度、もう買いたいものは買ったし、そろそろ帰ってきた本を読もうと思い、来た道を戻っていると、どうやらさっきまで開店していなかった店が開店したのか、外に椅子や机が並べられていた。
どうやらまだ人が来ていない様だし、店の雰囲気も悪くない。それに早く本を読みたかったところだ。丁度良いから此処で一休みするついでに本を読ませて頂くことにしよう。
帰り道の途中にあった喫茶店に寄ることにしたエルは注文のコーヒーが届いたのを確認した後、購入した本を開き、読み始めることにした。
『魔法の心得──著者.アレキサンドロス・アスアス』
この本を買った理由は目次が分かりやすく、どういう内容が書かれているか一目で理解出来たからだ。目次をさらっと読み、どういう内容が書かれているのかを今一度確認してから目次のページから離れ、本を読み始める。
『君たちは魔法というものをどういうものと理解しているだろうか?』
『精神力から織り成す一つの奇跡。エレメンタルを使って起こす一つの事象。魔法力という精神の力を行使して行う一つの事象。自分の想像力から生まれるもの。きっとこれは人によって様々な捉え方があることだろう』
『しかし、捉え方は一つでも、変わらない不変のこともある。それが魔法には無限の可能性があるということである』
『幾つもの属性、幾つもの技。全てが全て、奇跡と形容することが出来るものばかりである』
『私は長年の間を魔法という未知なるものを解明する為に費やしてきているが魔法のことを知れば知るほど奥が深くなっていき、魔法の際限ない可能性に魅させられる』
『まず魔法の凄いところはエレメンタルの力を借りるだけで、電気、火、水、光、闇。他にも多種多様な魔法が使えることだろう』
『しかし、だからこそ、今よりも更に魔法を強化したい、十全に扱える様になりたいのなら──魔法のことを、エレメンタルのことを、自分のことを深く理解するべきである』
『それこそが魔法の可能性を開く、一つの近道である』
ふむ、やはり本の冒頭であるからこそ、ありきたりで読者に質問提起をする様な内容が書かれている。しかし、そうか。俺が思った様に魔法の可能性は奥深いか。
それに──此処までの内容で気になることが幾つかある。エレメンタルの力を借りるだけで多種多様な魔法が使えるというところ、俺が魔法ギルドで習った魔法四系統と神官が使う光魔法の他にもまだ属性があると言っている様な内容が書かれているところ。
もしかして、まだ俺が知らないだけで魔法には他の属性があるのか? なら、どういう属性があるだろう? いや、どういう属性や魔法なら人は使うだろうか?
本から目を離し、辺りの景色を見渡す様にしながら考え事をしていると──。
「あっ……」
「……」
いつの間にか横のテーブルの方の椅子に座って、紅茶を飲みながら此方に目を向けているメリイと目があった。
◆
「それでメリイは何で此処に?」
「見て分かるでしょ? 紅茶を飲みに来たの。そういうエルは?」
「まぁ、買い物をしたついでに雰囲気が良い場所を見つけたから休憩するついでに買ったばかりの本でも読もうかな、と」
「そう……」
まぁしかし、メリイは少しは俺たちのこと信用してくれる様になったのかな? 普通に会話してるし。だけど、よくよく考えてみるとまだメリイと関わって三日しか経ってないのか。濃密な時間を過ごしていてすっかり忘れていた。まじ、濃密ギリシャヨーグルトパルテノ。何言ってるか分からないけど。
「それでメリイさんも本を読みに? 本持ってるけど」
「そうよ? 悪いかしら?」
「いや、良いと思うよ。それでどんな内容の本?」
「自分のことをゴブリンだと思ってるオーク男と自分のことをセイレーンだと思ってる狼女の恋愛小説よ」
「それはなんていうか、まぁ……業が深そうで面白そうだね」
「ふふん、でしょ?」
▼▲▼▲▼▲
いや~、あれほどメリイが色々と話してくれるとは思わなかった。お陰で本を読む時間が無くなってしまった。まぁそのメリイとお話しした内容が業が深そうな本の話なのはどうかと思うけど……。あぁいう業が深いお話しが好きなのかな? 別に恋愛小説の恋愛要素を楽しんでいる感じではなく、意味が分からな過ぎて突っ込んで良いのか悪いのか分からない。あの業の深いところを話す時は楽しそうだったし……。まぁ、俺も業の深いお話しが聞けて、楽しかったけど。特に狼女がセイレーンじゃないと自分で気づいたかと思ったら本当は自分は白雪姫だと勘違いに勘違いを重ねたところとか……。
だけどまぁ……メリイと仲良くなれて良かった。明日も頑張ろう。