灰と幻想のデジャブガル   作:なにがし

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不穏

 ハルヒロはランタに飽き飽きしているのかサイリン鉱山でコボルトから入手したアイテムを売った後、無視を始めていた。

 

 ハルヒロがランタを無視したきっかけは勿論、ランタにある。何故こういうことになったのかというと、今日一日の報酬が少ないという不満からランタはハルヒロに明日もこうだったら、お前のも貰うからな! という発言からこうなったのである。

 

 だが、ランタはそんなことでめげる様な人間ではない。此方を無視するなら無視せざるを得ない状況にしてやろうと奇妙な躍りと音頭をし始めた。

 

「うっほっほーい、うっほっほーい、うっほっほいほい」

 

 ──にょきにょき! 

 

「うっほっほーい、うっほっほーい、うっほっほいほい」

 

 ──にょきにょき! 

 

 下半身だけ異様に動かし動くその動きは、理解が不明過ぎて最初は困ったもののずっと見ていると面白さが込み上げて来るものがある。そして、それは皆も同じなのか。

 

「ぷぅっ」

 

 最初はユメがランタの動きに陥没した。

 

「ぷっ」

 

 その次にシホル。

 

「ぷはっ!」

 

 次にモグゾー。

 

「っ……っ~! っ! っ! っ」

 

 メリイは最後まで声を出して笑うのを我慢しているのか、肩を震わせていたが、笑いが込み上げてきたのか顔を机に隠して、笑いを堪えようとしていた。

 

 俺も口に手を当てて何とか笑いを我慢していたけど、最終的には笑わされた。

 

 で、肝心のハルヒロはランタの躍りを見ない様にしていて、ずっと一人笑わずにいた。

 

 それを見て、俺の不安は積もり積もっていくのだった。

 

 ◆

 

 宿舎に帰った後、俺は寝床に転がりながら今日あった出来事を振り返る。

 

 今日はサイリン鉱山へ行った。そして、二層に降りようか迷っている時にランタが率先して先に降りてくれて、二層へ侵入してみた。

 

 二層はメリイが言う様に皆同じ体格のコボルトばっかで、最初にコボルトが二匹、その次に五匹俺たちに気づいて戦闘が始まった。

 

 最初の二匹の戦闘の時は皆、ゴブリンに慣れすぎたせいかコボルトの動きに慣れず、少しぎこちない戦闘だったが、コボルト五匹との戦闘ではしっかりと動けていて、安全にコボルトを倒すことが出来たと思う。まぁ皆がコボルトを倒し終わった後、ランタが最後のコボルト。自分一人で相手にしていたコボルトを倒すのに皆が援護しようとしたら、一人で倒すから良いと言って一人で相手をして、何とか倒していた。

 

 ハルヒロたちにはランタが一人でコボルトを倒す! と言ったのは単なる痩せ我慢の様に見えている様であったが、俺にはランタがこれからのことなどを考えて一人で倒せる様にしたいという気持ちの表れだと思った。

 

 だが、そうか……。

 

 ハルヒロたちにはランタの行動は理解し辛いか……。まぁ……ランタがいつも皆を変に弄ったり、揶揄ったりするから皆にとってはその延長線に見えるのかな? 

 それとランタへの怨みか……。はぁ、ランタが原因なところが多いけど、なんていうかままならないことばかりだね。

 

 このままだとパーティーが崩壊しかねないかもしれないね。どうにかしなきゃいけないな。でも、俺がなんでもかんでも教えるのも違うし……人間関係は複雑だ。

 

 今日あった出来事を思いだし、これから皆の仲をどうしていくか思い悩んでいると──

 

「エルにランタ。起きてるか?」

 

 ハルヒロが声をかけてきた。

 

「起きてる」

 

「何だよ、ハルヒロ」

 

「ちょっと話がしたいから外に出ないか?」

 

 ハルヒロの雰囲気は何処か思い詰めた感じで、夜の静けさと辺りの暗さがこれから起こることを予期している様で少し重く感じた。

 

 モグゾーのいびきで此処はまぁまぁ静かではないけどね……

 

 ◆

 

 宿舎から外に出ると、辺りは静けさが籠っていた。

 辺りには俺たち以外、人の気配はなく、俺たちという個の存在を一人一人に感じさせる様な静寂が俺たちを包み込み始めた時、ハルヒロが口を開いた。

 

「エルやランタはさ、パーティーのことどう思ってるんだ?」

 

 ハルヒロが言い辛そうに少しそっぽを向いて、重く口を開いた後に俺とランタに聞いてきたのはパーティーのことであった。

 

「あ? なんだよ? パーティーはパーティーだろうが」

 

 ランタはハルヒロの質問に要領を得なかったのか、顔をしかめながらパーティーはパーティーだと主張した。

 

「だからさ、そういう意味じゃなくて」

 

「なんか文句でもあんのかよ? ハルヒロ。俺はきっちりと自分の役割を果たしているじゃねぇか」

 

「どこが……」

 

「わかんねーのかよ。ほら、今日オレ一人でもコボルト一匹とやり合えるって証明しただろうが? なぁ、エル?」

 

 ランタはハルヒロに反論をさせない為か、それとも俺を此方側に引き寄せて、ハルヒロを不利にさせる為か俺に意見を求めてきた。

 

「まぁそうだね。ランタの言っている通りではあるね」

 

 だが、ランタのその質問には正しく、そうだねとしか答えられない。まぁハルヒロが言いたいことも、ランタが言いたいことも分かるからこそ、これから二人の仲をどうしていくべきか悩んでるのであるが。

 

「エル。でもさ、ランタは……」

 

 少し申し訳なさそうに此方に向けて話しかけてくるハルヒロ。最後までハルヒロは自分が言いたいことを喋らなかったが、今日の二人を見ればはっかりと何が言いたいのか分かってくる。

 

 つまりハルヒロはランタがチームの輪、指揮を下げていると言いたいのであろう。でも──

 

「うん。ハルヒロの言いたいことも、ランタの言いたいことも分かる。でも、どちらの意見や考えが正しいかなんて行動して見ないと分からない。だから、俺はこの場においてはどちらの味方にもならない」

 

 しっかりと二人に自分がどちらに過度な擁護はしないと主張すると此方の方は真っ直ぐ見て、続きを促してきた。

 

『……』

 

「ランタは敵と一人で戦える様にしたいという意思がある。それにはランタが一人で敵を相手に出来る様になれば、戦術の幅が広がるとか皆に余裕が出来るとか自分が強くなりたいとか色々と考えて出ている行動だし、俺はそれを否定しないしむしろ好感を持てる」

 

「馬鹿いってんじゃねぇよ……」

 

「ハルヒロはハルヒロで、ランタが一人で急に不可解なことや行動をすることからチームの輪を乱しかねないから嫌だ、緊張感がないと言いたいんだと思う」

 

「まぁ……そんな感じ」

 

 恥ずかしそうにするランタ。

 少し気を使っているというか気にしているのかぎこちなく頷くハルヒロ。

 

 二人の反応は別々だ。

 

「確かにどちらの意見も正しいと思うし、一考の余地があるものばかりだ。だからこそ、俺はこのことについてどちら側にも付こうとは思わない。勿論、意見が違うし、行動理念が違うんだから、嫌になったり、衝突することはあると思う。けど、しっかりと相手だって考えて行動しているんだ。だから、なんで相手がそういう行動を取るのか考えてから、否定して欲しい。ただ否定するだけじゃ、相手の存在そのものを否定しているみたいだからね」

 

『……』

 

「相談したいならいつでも来て良いよ。俺なりの答えは教えないけど、話を聞くことや一緒に考えるだけなら出来るからね。じゃあ俺はもう寝るよ。お休み」

 

 元来た道をゆっくり歩きながらこれまでのことを思い出す。

 

 ハルヒロはランタにからかわれ、ランタはハルヒロをからかう。これは初めて会った時からそんな感じだった。

 

 勿論、ちょっかいをかける相手はハルヒロの他にも俺たちがいる。だから、皆はランタを遠ざけている。ランタが自分の気にしていること、コンプレックスみたいなところを指摘することがちょくちょくあるから。

 

 だが、反対にそれは──ランタが俺たちのことを良く見ている。観察していることの表れでもある。まぁ勿論、俺もランタに思うことはあるが。だけど、ランタの様な人材は絶対にいつか頼りになるし、皆は気づいていないかもしれないが最良の価値を出している。

 

 例えば、最初のゴブリンと戦闘の時、真っ先にゴブリンへと向かったのはランタだし、メリイをチームに率いれるのに其処までの期間を用さなかったのもきっとランタが要因であろう。

 

 いつもランタは皆と違う行動を取るから、何コイツみたいな目で皆から見られるけど、そのランタの行動に引っ張られて行動することは多々ある。

 今日の二層へ降りる時もそうだった。皆が先に進むのにすくんでいる時、真っ先に行動するのがランタ。それで俺たちは助けられている。

 だから、俺から見たら、ランタは嫌われ役をわざとやってくれる様な、嫌われ役を買ってくれている損な役回りの人みたいな感じに映っている。

 

 これからどうなるかは分からないけど、パーティーの誰かが抜ける様な悲しい出来事が起きない様に動いて行ければ良いと思う。

 ランタの様な仲間は頼りになるし、ハルヒロの可もなく不可もなくみたいな安全を求める気弱さはこれからも大事になる。

 今のチームには一人が欠けても、二人が欠けても良い仲間なんて誰もいない。だからこそ、どうにかしなければと俺を焦らせるのだが……はぁ、難儀なものだね。

 

 

 

 

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