灰と幻想のデジャブガル 作:なにがし
追記―四話の誤字修正を報告して下さった方がいました。報告してくれた方ありがとうございます。助かります。自分では気づけないことって多いので。
新しいスキル、チームとしての連携、調子の良い日。
それらが全て戦闘での良い結果を引き起こし、俺たちは有頂天になっていた。だからだろう。俺たちはコボルトを仕留めた後、少しの瞬間──警戒を怠った。
それが大きな致命的なミスを生み。俺たちはコボルトの大群に追われることになる。
▼▲▼▲▼▲
「四層って、もしかしてやりづらい?」
ハルヒロが四層に降りて、一匹のエルダーコボルトを倒した後に思ったことはこれであった。
「条件は良くない、かも、私たちも──あっ……」
メリイがハルヒロの意見に自分なりの経験則からの意見を言おうとして、言葉を詰まらせる。
何故、メリイが言葉を詰まらせたのか誰もが理解でき、エルはすぐにメリイが変に深い罪悪感を覚えない様にとメリイのフォローをする為に口を開こうとする。
しかし、此処でエルよりも早くメリイのことをフォローする人がいた。
それはハルヒロでもなく、ユメでもない。
ランタである。
「んだよ、いちいちそんなこと気にするなよ。てか、オレらはそんな心狭くないっつーの。なぁ、エル?」
「そうだね。気にする必要はないと思うよ」
ランタが此方に振ってきたのも、真っ先にメリイのことをフォローしたのにも内心驚きながら、エルはランタの言葉に同意する。
「ほら、エルも言ってんだからよ。気にするんじゃねぇ。それと……オレに惚れるなよ?」
キメ顔で決まった……っ! って感じで良い表情をしながら良いことを言ったランタ。
普通にしといたら好感度だだ上がりなのに此処で決めてくる辺り、流石ランタであると思わずにはいられない。
「うん。惚れない」
そしてまた、冷静にランタに対処する辺り、メリイも中々このチームに慣れてきたとエルは思う。
◆
四層よりは五層の方が狩りやすい。メリイから言われたこの言葉によって、エルたちは五層へと舞い降りた。
そして、エルたちはコボルトが来るのを待つ。
待つのだが……全然来ない。そして暑い。
五層は製鉄所があるからか四層と比べて極めて暑い。
滴る微量の汗を袖で拭いながら、コボルトが来るのをじっと待ち続ける。だが、此処で痺れを切らす脱落者が一人現れた。
「んがぁぁぁ!」
ランタである。まぁ痺れを切らす気持ちは理解出来る。暑い中で集中して敵が来るのを待ち構えるというのは精神的にキツい。
「ランタ、うっさい!」
一人が痺れを切らすとまた一人と痺れを切らす人が現れ出す。
そして、痺れを切らす二人目となった人物。それは──ランタに少し恨みがある、ユメである。
「お前の方がうるせぇよ! ちっぱい!」
「ちっぱいゆうな!」
「ちっぱいちっぱいちっぱいちっぱいちっぱい!」
「ランタ、暑くてむしゃくしゃするのも分かるけど、静かにね?」
こんな暑い状況下で余興にも欠ける言葉の羅列を言われても楽しくないとエルもまた脱落者三人目となり、痺れを切らす様にランタを注意する。
「わーってるっての、エル! だけど、暑すぎんだろうが! 敵も来ないしよぉ!」
ランタは誰にも当たることが出来ない怒りにたたらを踏み、地面を蹴ってストレスを解消している。
「ユメはちっぱいじゃないよ」
一方ユメsideはシホルがユメを慰めている。
状況だけ見ると混沌の様に感じる。
はぁ、早くコボルト来ないかな?
◆
「シッ! 静かに……っ!」
足音が聞こえ、真っ先に皆を静かにする様に指示したのはハルヒロであった。ハルヒロは盗賊として偵察をしたりする為か他の人たちより先に敵に気づくのが早くなっている様にエルは思う。
少し騒いでいた空気は鳴りを潜め、辺りを緊張感が包み込む。
──シャカシャカシャカ
地面の石や土を踏んだり、蹴ったりしている音が此方に近寄ってくる。
ハルヒロが攻撃の準備をしろと右手で合図をしてきた。
ユメがスキルの速目を使用しながら矢をつがえ、
──シャカシャカ……シャカ!
そしてすぐ其処まで来たエルダーコボルトに矢を放った。
「がぅっ!」
顔面に当たった。今が好機と思ったエルとシホルは同時に魔法を唱える。そして敵もまたエルダーコボルト一匹だけでなく、顔面に矢が刺さったエルダーコボルトのすぐ後ろからエルダーコボルトBが現れた。
「モグゾー怪我してない方頼む! シホル! 怪我してない方狙うよ!」
「ふもぉ~」
エルはモグゾーにエルダーコボルトBの相手をして貰い、エルとシホルの二人は魔法の準備をする。
「はい! オーム・レル・エクト・ヴェル・ダーシュ」
シホルが呪文を唱え、
「
エルが無詠唱で魔法──
「モグゾー! シホル!」
「ふん!」
「はい!」
エルコボBちゃんと戦っているモグゾーに下がるように指示させ、モグゾーに魔法が当たらない場所に移動したのを確認して、エルとシホルは同時にエルダーコボルトBへと魔法を放つ。
「ががっ!」
エルコボBはシホルの
「モグゾー!」
エルは魔法使い二人によって無抵抗状態となったエルコボBに攻撃をする様に指示する。
「ふもぉ~」
大剣を大きく掲げ、振り下ろす。それだけで抵抗出来ないエルダーコボルトは床に倒れることになる。
エルダーコボルトAと戦っていたランタたちも同じくらいにエルダーコボルトを倒し終わったのか
「
ランタが勝利の雄叫びを上げていた。しかし……なんていうか、今回は──
「なんか、良かったね、今の感じ」
そう。良かった。ハルヒロの言う通りいつもより指示や動きが
「そうだね、良かった」
俺なんてモグゾー! モグゾー! シホル! モグゾー! みたいな感じで呼んでいるだけだったし。
「ぼ、ぼくもそう思った」
「あたしも」
「ユメもそう思っとったんよ~」
「えぇ、良かった」
「ま、オレ様のお陰なんだけどな!」
みんな、今までで一番手応えがあったからか、高揚している感じがする。だけど、此処は敵地。すぐにこのエルダーコボルト二匹をどうにかせねば。
「はいはい、そうですね」
「おい! 簡単に済ませるんじゃねぇよハルヒロ! 悲しいだろうが!」
ハルヒロがランタのことを雑に扱っているのを見た後、持ち物を回収しようとエルダーコボルト一匹が倒れている自分の後ろ側を振り返る。すると──
「まぁまぁ落ち着いて、取りあえずエルダーコボルトの持ち物を回収しよう……か」
「どうかした? エル……あっ」
草むらからコボルトが此方を見ているのが見えた。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!』
そして雄叫びを上げた。ランタの雄叫びとは比べ物にならない大きな鳴き声で。
◆
「おいおいおいおいおい! ヤバいんじゃねぇか! これ!」
一番最初にこの状況に動揺したのはランタ。
「そうだね、ランタの鳴き声より大きな雄叫びだったから、コボルトたち此処に来ちゃうね」
「その通りだ! てか、エル! こんな状況でオレ様を弄るとはさてはお前余裕だな!?」
「いや、少し実感が湧かなくてね。さて、取りあえず逃げるか」
次にエル。
「そ、そうだ! エルの言う通り四層へ逃げよう!」
その次にハルヒロだった。
「ついて来て!」
そのまた次にメリイだった。
「ほら、行くよ!」
動揺し過ぎて『ど、ど、ど、ど』と言い続けるモグゾーの背中を鎧越しに重いっきり叩き、正気に戻らせ、動揺していて地面に座ったまま微動だにしていないシホルとユメの手を引き、元来た道をメリイに先導されて引き返していく。だけど──
「
数が少し多すぎやしないか?
さっきまではコボルトの気配なんて微塵もしなかったのに、今は右の道から左の道から前の道からと、色々な方向から続々と敵がやって来る。
左右に
「モグゾー!
「うなぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うりゃっ! わ、わかったんよエルくん!」
「は、は、は、はい!」
エルの指示にやけくその様に
勿論、エルはみんなの今の心境を嫌という程理解出来る。今自分も同じ目に合わされているのだから。だけど、それ以上に周りが動転し過ぎているからどうにか自分が頑張らないとと思わされる。後、みんながパニックになり過ぎて此方がパニックになれなかった。
十匹かそこらの数がいるコボルトに突進するモグゾー。戦士という役職は不憫な役回りらしい。此処から生還したら何か労いとして奢ってやらないと。
「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい」
「ハルヒロ落ち着いて! 何とかするから!」
「っ、エル……っ! ごめん、エルばかりに任せて!」
「そういうのは後で!」
恐慌状態に陥っているハルヒロをなんとか落ち着かせながら、モグゾーの
狙う場所はコボルトが剣を握っている利き手。狙った場所に当てる成功率は未だ70%弱。だけど、そんなことを言ってる場合ではない。さよなら、俺の5シルバーたち。
「其処を右!」
何とか前のコボルトたちを通り過ぎることができ、メリイの指示の通りに右を曲がる。すると其処にもコボルト。
「モグゾー!」
「連発は無理!」
「無理でも前へ進め! 道は切り開く!」
「ぬぉぉぉぉぉ!」
モグゾーがコボルトへと合間見え、コボルトたちと唾競り合いをする。それをまた投げナイフで敵にダメージを与える。さよなら、俺の2シルバーたち。
「うなぁ!」
モグゾーの力によって敵が三体同時に吹っ飛ぶ。これは爽快な景色だ。もうみんな、疲労困憊だし、モグゾーなんて息も絶え絶えだけど。
「俺が前へ行く!」
そしてそんなモグゾーを見かねて、ハルヒロが上擦った声をしながらもモグゾーより前へと出て、コボルトたちを相手にして、どんどんと先陣を切り、進んでいく。
ランタはランタで後ろから来るコボルトの相手を受け持ってくれている。
……俺、此処だけ見ると何もしてない感じだな。まぁ横から来るコボルトを対処はしてはいるんだけど。
しかし、ハルヒロだけ前へ行くというのは危険な感じがする。此処は後ろからコボルトを俺で相手して、ランタにはハルヒロの援護をして貰おう。前に四層へと戻る道があるのに、前に火力がないのは詰む。
「ランタ、ハルヒロの援護してきて! 後ろは何とかする!」
「おう! ったく、エルも大変だなぁ!」
「お前よりは大変じゃないよ!」
「さりげなくオレ様をディスってんじゃねぇ!」
「そういう意味じゃなくて、沢山小さな傷を負ってコボルトを相手していたランタよりは俺はまだ気力があるよみたいな意味合いだよ! 少し言いたいことは違うけど!」
「はっ! そんなことオレ様には分かってたがな!」
「いや、全然分かってなかったでしょ!? てか、早く前行け!」
「人使い荒いなぁ! エル! 本性現しやがったな!」
「はぁ、だから──」
反論しようとしたところでランタはハルヒロのところへとスキルを乱用しながら物凄い速さで進んでいった。
◆
「メリイ井戸までは!?」
「もう少し!」
「よし! みんな、がんばって! もっと壁にくっついて囲まれない様にしよう! ランタとモグゾーは前でさっさと道を切り開いていこう! ユメとメリイは横! シホルは無理せずに! 俺とエルは後ろを!」
こういう時、ハルヒロがリーダーとしての資質があると分かる。俺は壁を背にして戦うということは考えてなかった。真ん中に陣取って、素早く敵をかわしながら戦う機動力重視の戦いをしていたから、だけどモグゾーとかの高火力重視は壁を背にした方が安心して戦える。周りを余り見えていなかった。こういう時にハルヒロがいてくれて助かると思わされる。ランタも。ランタはランタでしっかりとコボルトを相手取れているから安心して進める。
やっぱりハルヒロにとってはランタは苦手な存在なのかもしれないけど、二人はこのパーティーでは重要な役を背負ってる。まぁ皆が皆、重要な役なんだけど。
「井戸だ! 最初にシホル! 次にメリイ! ユメ! 俺! エル! モグゾー! ランタの順で登ろう!」
シホル、メリイ、ユメとどんどんと登っていく。そしてコボルトもまたどんどんと此方にやってくる。
「行け、ハルヒロ!」
ランタがハルヒロを早く登る様に急かす。
「るおおぉぉぉぉ!」
モグゾーが
「
エルが
「次、エル来い!」
ハルヒロが登り終わったのかハルヒロからの声が上から聞こえる。だけど──
「モグゾーかランタ先に行って! 俺は最後で良い!」
「えっ! でも!」
「早く! 俺ならすぐに登れるから!」
「オレ様も後で良い! 鈍間なお前は先に登れ! モグゾー!」
「う、うん!」
そんなこと言って、先に登れる様な状況でもない。魔法力も残り僅か、一割強ぐらいあれば良いぐらい。だけど、今のペースで敵が来るならランタかモグゾーを先に上がらせないと厳しいものがある様に思える。例えば、誰かが登れなくなる状況になるとかね?
「へっ! エル! 格好付けやがって!」
「それはランタもだろ!? しかしなぁ、これだと登る隙は無くなりそうだなぁ……」
「そうだな!」
「はぁ……」
どうするか? いっそのこと。登らないで隠れて遣り過ごすか。
「俺たちは俺たちだけで逃げるか? ランタ」
「はっ、その方が良いかもな。この量じゃ流石に登ろうとした瞬間にブッスリだ」
「じゃあ、逃避行と行こうか?」
「ふっ、だな」
『ランタ、エル! 登ってきて!』
「分かった!」
「おう!」
ハルヒロに頷いたと同時にエルとランタは闇に紛れる様に消えていき、ハルヒロたちのところにエルとランタが来ることはなかった。
▼▲▼▲▼▲
『これは……サイリン鉱山四層到達時、コボルトの大群から逃げる前の一部の出来事』
サイリン鉱山四層。此処には三層には無かった生き物がいる。
それは──
「はぇ~、かわいいなぁ」
豚鼠である。
豚鼠とは義勇兵が勝手に付けた名前、所謂アダ名で。
その名の通り、名は体を表すとは言ったもので、その見た目は義勇兵たちが豚鼠と名付けたのも頷ける様な姿形をしていた。
遠くから見ると豚の様な体格も相まって豚と見間違えてしまうこともしばしばあることであろう。しかし、近づいて見れば分かる。これは豚の様で豚ではないと。
それは何故か?
何故なら──顔と尻尾が豚の様相とは如何にも違うのだ。そう。言うなれば鼠。鼠の顔立ちに似ているのだ。
しかし、良く見てみれば……かわいいの、かもしれない。うん。
もう少し小さめ──小豚サイズなら尚良いのだが……
「かわいいの、かな?」
シホルもまた、エル同様にユメの豚鼠ちゃんかわいい発現に困惑していた。
先程も前述した通り、豚鼠は姿形が驚くべきことに豚と鼠の配合の様で一目見たら最初は驚くところだが。それ意外にも驚くべき要素、変な要素が一つある。
それが──豚鼠たちの色がカラフルであるという点である。
ある一匹の豚鼠は薄汚れたピンク色の肌をしていて、またある豚鼠は薄汚れた薄い緑色の肌をしている。本当に豚鼠によって肌の色が様々である。
「うん、かわええよぉ~。だけど、こっちのほうはあんまかわいくないなぁ」
ほんわかとする口調で豚鼠は可愛いと主張しながら、顔を豚鼠とは若干離れた場所に向けて、ユメは顔をしかめた。
ユメが眺めた後、顔をしかめた場所はエルもさっきからちょくちょく視線に入ってきて気になっていたけど、なるべく見ない様にしていた場所であった。そして、ユメが顔をしかめたのを見て、ユメ同様視線を同じ場所に向けると、其処には──豚ミミズがいた。
豚ミミズとはまた、義勇兵が付けた名前で。
その名の通り、豚の様な感じはあるのに、その見た目はミミズ。
言うなれば豚の様な体の太さがあり、ミミズの様に身体が長い。
これらの要素が合わさった生き物こそ──豚ミミズそのもの。だからこそ、この生物を一言で表すのなら太長い。その一言に尽きる。
そして見た目も──少し悲惨……
この生物はどうにか豚鼠サイズの大きさにならなかったのだろうか? 豚ミミズは少し多き過ぎる気が……
『これがコボルト大群パニックが起こる前の一部の出来事である』
《因みに豚鼠と豚ミミズは雑食なのかエルダーコボルトを倒した後に、死体を他のコボルトたちにバレない様に豚鼠たちがいる場所に隠したら豚鼠たちがむしゃむしゃとエルダーコボルトを食べたことを記載する。とても凄惨な光景だった》
最近シホルのこと全く物語の中に入れ込んでいないと思ったのですが、よくよく考えれば原作でも其処までシホルのことが描写されていなかったなと思いました。なので、この作品ではシホルのことを沢山描写出きればなと思います。番外編とか作ろうかな?
☆10評価
vanilla様
おはぎパンマン様
☆9評価
劉人様
評価ありがとうございます。