灰と幻想のデジャブガル   作:なにがし

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過去との対峙

 顔が赤い。俺じゃなくてシホルが。

 まぁ血を舐めようとしたのを注意されたらそりゃ恥ずかしいか。気持ちは分かるんだけどね。血が付着したら舐めてしまいそうになる時良くあるし、少量の血なら普通に不味くないし、むしろいつもでは味わえない新鮮な味が血には詰まっているから舐めることはしばしばある。

 だけどさ、恥ずかしいからって俺の腕を抱き締める必要なくないか? もしかして──。

 

「もしかして信用されてない?」

 

「当たり前、です。私たちの為に二人で残ったこと許していません」

 

「そうやなぁ~、シホルはエルくんのこと心配してたんよぉ、ぶつぶつと何か喋ってたし、ユメには小さくて聞こえんかったけど」

 

「そうか……ごめん。今度みんなには何か詫びるよ」

 

 シホルがぶつぶつ小さな声で何か喋っていたのは凄く気になるけど。ってか、そのユメの状況説明だと少しシホルが怖い子みたいになってるよ。

 

 俺もそのシホルを見るときが来るのだろうか? 

 

「ほぇ~、それは楽しみやな~。なぁ~、シホル?」

 

「う、うん」

 

「おい、おまえら」

 

「どうしたの? ランタくん」

 

 モグゾーはランタに何かあったのか聞き出す。

 

「おまえら、オレ様にも何かエルに言ったみたいに何か言うことは無いのか!?」

 

「もうあんなことするなよ、ランタ。心配したんだぞ。後、ランタ。ランタも詫び宜しく」

 

 ランタが何か俺にも無いのかと言ったのでハルヒロはランタに次はやるなよと注意することにした。

 

「そうやランタ。ユメたち心配で胸が磔になりそうだったんよ?」

 

 ユメはハルヒロに便乗してか自分の胸中を明かす。磔とは独創的だが。

 

「それを言うなら、胸が張り裂けそう。だと思うよ?」

 

「お、おう。悪かった。……ってかハルヒロ! 何でオレ様がハルヒロなんかに詫びをしないといけないんだよ! それとエル! お前だけ女に心配されてキャッキャッ、ウフフするなんて狡いぞ! それも隠れ巨乳のシホルに! 教えろ! 隠れ巨乳の感触を教えろ!」

 

「ランタ……静かにね?」

 

 流石に言う訳ないでしょ? それに気にしていなかったのを変に意識させに来やがって。ランタよ、どうしてくれるんだい? という気持ちも込めてランタの肩に手を当てて、優しく微笑みながら注意する。

 

 要約すると──ふざけんなゴラァ! である。

 

「お、おう。わ~ってるよ。ってか! お前のその笑顔怖ぇな!?」

 

「はぁ、そんなに抱き締められたいんか……。モグゾー、やってやりなさい。ランタは心配で人の温もりが必要な様だ。ランタちゃんに抱擁を交わしてやりなさい」

 

 モグゾーはニッコリとした笑顔でランタへと近づいていく。

 

「おい! そういうことじゃねぇ! モグゾーも此方に寄ってくるんじゃねぇ!?」

 

 ランタは後ろへスキルを使ってまで下がって、此方が何かしないか警戒している。

 

「面白そうだったから、つい。ごめんね、ランタくん」

 

「ばっ、馬鹿やろう。二度とやるんじゃねぇぞ! オレはそっちの趣味はねぇ!」

 

 ランタは両腕を両手で抱き締める様にして、身体を擦っている。

 

「良い気味」

 

 近くにいるからシホルからの嘲笑混じりな声が聞こえてきた。

 

 シホルぇ……どうしたんや……

 

 後、もう抱き締めなくて良いんじゃないかな? 歩き辛いよ? 言ったら悲しみそうだから言わないけどさ。こういう時メリイならどうにかしてくれると思ったんだけど、何故か来ない? 

 

 ……俺が他力本願過ぎたか。反省。

 

 ◆

 

 三層に登った後は休憩の為に暗い場所──ヒカリバナがない場所で休もうということになり、ヒカリバナが咲いていないところで休もうとした時。

 

 ──ガタッ……ガタッ……

 

 何かが動いている音が聞こえた。多分、金属と何かがぶつかって鳴る音。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 ランタはその言葉を言った後にすぐに何処かへと向かった。戻ってきたランタが持っていたのはヒカリバナであった。ランタがヒカリバナを音がした方向へと投げつける。すると、ヒカリバナによって暗かった場所は照らされて明るくなり、其処に何があるのか見えてくる。

 

「ひゃっ! ……な、何するんやランタ!」

 

「お、お前が抱きついてきたんだろ!?」

 

 ユメは暗かった場所が明るくなって見えた物音の正体に驚いて、ランタに抱きつき、次はランタに抱きついているのに驚いて、ランタを突き放す。

 

 ランタも急にユメに抱きつかれたことに驚いたのかどもりながら言葉を返している。

 

 まぁ今はそんなことは取りあえず置いておこう。

 

 暗かった場所で物音を出していたのはどうやらスケルトン。

 不死の王(ノーライフキング)の呪いによって、仮初めの──偽りの命を吹き込まれた人の成れの果ての姿だった。

 

 スケルトンは三人。ハルヒロやモグゾー、そして皆は少なからず動揺している様だった。シホルは少し怖がっているのか俺の腕を再び掴んで来た。

 だけど、そんな状況の中に一人落ち着いている──無表情でエルには強張って見える人、メリイがスケルトンに向かってこう言った。

 

「久しぶり、みんな」

 

 その言葉を引き金にするかの様にスケルトンたちは突然俺たちへと襲いかかる。

 

 

 

 ▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 グリムガル辺境近くで死した者は不死の王(ノーライフキング)の呪いでスケルトンに──偽りの命を吹き込まれない為にも短くても三日、長ければ五日ぐらいまでに火葬しなければならない。それが唯一、偽りの命を吹き込まれない方法だとハルヒロは聞いている。

 

「デルム……ヘル……エン……」

 

「避けてっ!」

 

 メリイの指示が聞こえて咄嗟にハルヒロは横へと跳ぶ。

 

「ヴァン……アルヴ」

 

 詠唱が終わるその瞬間、風が此方へと降りかかってきた。

 

「あっつ……っ!?」

 

 熱い。目を開けたら目が溶けてしまいそうだ。確かこの魔法はエルも覚えていた技だったと思う。だけど、この魔法。こんなに熱かったのか……

 

 エルが余りみんなの前でこの魔法を使っていないのを見なかったのは援護に向かないからだったんだな。ってか、エルって詠唱なしで魔法を使うからモンスターたちにとってはやり辛いんじゃないか? とハルヒロは熱い風を受けながら思ったりする。

 

 スケルトンは三人で、一人は戦士。一人は盗賊。一人は魔法使い。

 

「私が解呪の光(ディスペル)で忌わしい呪いから解き放つ!」

 

 メリイはいつもなら積極的に前へと出ないが今回は積極的に前へと出た。

 

 止められない。止めるべきではないとハルヒロは思った。なら、今俺たちがすべきことは。

 

「モグゾーは戦士を! ランタは盗賊を! エルとシホルはその状況に応じて柔軟に行動して! ユメは俺と一緒に!」

 

 その状況に応じて柔軟に行動してって、アバウトな指示過ぎだろ……と思いながらもハルヒロは目の前の魔法使いに相対する。多分、メリイはこのスケルトン──ムツミを最初に解放するだろうと思うから。

 

 ハルヒロとユメはムツミが魔法を使う素振りを見せたら、その場から離れる。魔法を使おうとしたら離れる。それを何回か繰り返しつつ、安全に相手を相手取る。

 

「オーム・レム・エクト・ネムン・ダーシュ……!」

 

 シホルがムツミへと影縛り(シャドーボンド)を使って動きを拘束する。

 

「今! 光よ、ルミアリスの加護の下に解呪の光(ディスペル)!」

 

 メリイが不死の王(ノーライフキング)の呪いを解き放つ魔法をムツミへと使って、スケルトンへと変貌していたムツミは灰へと姿を消え、そこにはムツミが身に付いていた服などだけが残った。

 

「次!」

 

 メリイがムツミを呪いから解放し終わると同時にすぐに次の行動へと移っていった。その姿は今まで出来なかった心残りを無くそうと頑張っている様にハルヒロには見えた。

 

「おらおらおらおら! おい、エル! もっとコイツに魔法かけろよ!」

 

「分かってるよ! まぁ俺よりはシホルの魔法の方が有効そうだけどね!」

 

 エルとランタは盗賊のオグを相手取っていて、モグゾーとシホルは戦士のミチキを相手取っている。メリイの仲間はみんな俺たちとはレベルが違うと思わされる。多分俺がオグとやり合ったら多分だが、勝てないと思う。それだけ腕が立つ様に思える。

 でもだからこそ、エルって異常なんだなとも思う。エルって魔法使いなのに詠唱しないよな。エルが詠唱しているところなんてエルが後衛として戦っている時に数回あるかくらいだし……

 

「ランタ!」

 

「おう!」

 

 ハルヒロがランタを呼ぶと同時に二人は何をすべきが良いのか分かるかの様にハルヒロとランタは自分の位置を入れ替え、ハルヒロは盗賊のオグを正面から相手取る。オグはどうやら突然目の前から消えたランタな戸惑った様で一瞬身体が硬直した。

 

 ──今だ! 

 

 ハルヒロはオグを攻撃する。オグはハルヒロの攻撃に蝿叩き(スワット)で防ぐ。次はオグが攻撃をしてきて、それをハルヒロが蝿叩き(スワット)で防ぐ。蝿叩き(スワット)という攻撃をしのぐスキルをどちらとも覚えているから状況が変わらない。だけど、俺には仲間がいる。

 

「おらっ!」

 

 オグの攻撃を蝿叩き(スワット)で防いでいるハルヒロが自分の手からダガーが抜けそうになった瞬間にオグの背後から脚を攻撃するランタ。

 

 打ち合わせはしていないというのにこの分かっていたかの様にオグの背後から攻撃するランタとの連携にハルヒロは心が震えた。分かりすぎている様で気持ち悪いと。

 

「光よ、ルミアリスの加護の下に解呪の光(ディスペル)!」

 

 メリイがランタによって脚を損傷させられたオグに駆け寄り、魔法をかける。オグもまた、ムツミの様に灰になり、生前身に着けていたものだけが残る。

 

 それがハルヒロには残酷に思えた。

 メリイの手で呪いを──仲間を解放する。それは辛いことだろう。誰にもこの役目を渡したくはないとは思いつつも辛い現実に向き合わないといけない。それはなんと苦しいものか。

 俺たちはマナト一人だったけど、メリイは三人が一斉に居なくなった。苦しさは一緒だと思うけど、降りかかる重さが違う様な気がする。だからこそ、下を向いて何かを耐えているメリイに何ていう言葉をかければ良いかわからない。

 

「……あとはミチキだけ」

 

「おい! おまえにはオレらがついてんだからな、そこんとこ忘れるんじゃねぇぞ! そこんとこ!」

 

 顔を上げたメリイにランタは長剣の切っ先を向けながら、メリイへと言葉を投げかける。

 

「えぇ、分かってるわ」

 

 ランタの言葉に優しく微笑むメリイ。それをみて、ハルヒロは安心した。多分、大丈夫じゃないけど、メリイなら乗り越えられると思ったから。

 

「メリイ! 動き止めるから来て!」

 

「えぇ! 今行く!」

 

 エルがメリイを呼び、俺たちは最後のミチキさんの元へと向かう。

 

 ミチキさんはシホルとエルの魔法──影縛り(シャドーボンド)凍てつく血(フリージングブラット)で身動きが取れなくなっている。そしてその隙をモグゾーが

 狙ってミチキさんを倒す。

 

 エルとシホルの合わせ技は凄い使い勝手が良いし、協力だと思う。影縛り(シャドーボンド)で暫くの間身動きが取れない様にし、凍てつく血(フリージングブラット)で脚を凍らせる。凄い相性が良い組み合わせだと思う。

 

 現に──あんなに戦っていなくても見ていたら強そうだと分かるミチキさんの身動きを取れなくしてモグゾーに攻撃のチャンスを与えたのだから……

 

「光よ、ルミアリスの加護の下に解呪の光(ディスペル)! ……さよなら、ミチキ」

 

 終わった。遂に。だけど、なんだろう。達成感は感じない。むしろ、人が死んだらこうなるんだという現実を再び突きつけられた。再確認させられた感じがする。

 

「……終わったな」

 

 誰も何を言って良いのか分からなくて言葉を出さなかった中をランタが一番に口を開く。こういう時、ランタがいて助かるとハルヒロは思う。

 

「そうね」

 

 メリイは目の前のミチキさんの灰を両手で優しく包み込みながら目を閉じる。

 

「……終わった。ようやく……これで。私がやらなきゃ行けなかったことが出来た。みんなのおかげで。ありがとう」

 

「ミチキさんたちが居たっていう証。持っていくでしょ? はい、これ」

 

 エルは肩側の肩だけで背負っていた小さめの鞄から中くらいの袋を取り出して、メリイに渡す。

 

「えぇ、そうね。ありがとう」

 

 今は邪魔すべきではないだろうと思い、メリイを視界から外し、みんなを見る。全員無事に生きている。あんなことがあったのに無事生きている。エルは上半身に着ている服がボロボロで心もとないけど生きている。生きているんだ。

 

「もっと強くならないとな……」

 

 ハルヒロはポツリと小さく思ったことを言葉にする。

 

「そうだね。俺たちはまだまだだね。伸び代がいっぱいだ」

 

 エルは何を思ったのか分からないが此処とは違う何かに意識を傾けている様だった。

 

「僕も……僕ももっと強くなりたい」

 

「ん~、オレは新しい必殺技でも考えるか……」

 

「あたしも、あたしも攻撃系の魔法を覚えたい」

 

「ユメは狼犬 が飼えたらいいなぁ。おっきく育つまで時間がかかるらしいんやけど」

 

「どうやって持ち歩くの?」

 

 形見を集め終わったメリイが此方へとやって来ながら、ユメへと尋ねる

 

「子犬いれのバックでも買ったらいいんかなぁ?」

 

「大荷物になっちゃうけど、確かに狼犬は見てみたいかも」

 

「そやろ、エルくん。ユメお師匠様から子どもの狼犬見せてもらったんやけど、とってもかわいかったんよ~」

 

「馬鹿やろう。戦闘なんかに持っていったら邪魔だろうが」

 

 まぁ確かに俺も見てみたいけど、ランタの言う通り戦闘に持っていくのはどうなんだろう? とハルヒロも思わなくはない。

 

「まぁそれはさておき、そろそろ上へと登ろうか?」

 

 このままだとユメとランタがまた言い争うと思ったのかエルはさっさと帰ろうと提案してくる。まぁエルは上の服があれだから早く帰りたいという気持ちが強いのだろう。俺も同じ状況だったら、帰りたいと思う。

 

「今日は疲れた……」

 

「ほんとうやなぁ……」

 

 シホルとユメは物思い気に今日のことを思い出している。気持ちは分かるけど、だけど──。

 

「まだだよ。まだ終わってない。だから気をゆるめるのはオルタナに帰ってからってことで、まぁ流石にもう大変なことは起きないと思うけどさ……」

 

「分かんねぇぞ」

 

 悪どい笑みをしながらそういうことを言ってくる。ランタ。

 そんな調子だから大変なことが起こるんだよ、ランタ。

 

 ──っ! 

 

 背筋がゾクッとする感覚があり、後ろを振り向く。すると──

 

「デッ……っ!」

 

「あぁ?」

 

「ぬも?」

 

「ふえ?」

 

「っや……」

 

「嘘……」

 

 なんていうことだろう。死の斑。デッドスポットがいた。

 

 ランタも、モグゾーも、ユメも、シホルも、そしてメリイもみんな驚いている。

 

「おぉ、ランタ。今日のお前はフラグ建築士一級らしいな。流石だぞ、ランタ。お父さんは嬉しい」

 

 ……エルを除いて。エル、おまえ……何かあったのか? 今日はおまえもランタ同様絶好調だぞ……

 

 

 

 ▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 エルはデッドスポットが出てきても冷静だった。むしろランタが言った瞬間にあっ、これは楽には帰れないな。と思った。だって、今日のランタは凄いフレンズだから。

 

「モグゾーはデッドスポット! 他はエルダーコボルト! 俺はモグゾーを援護するよ!」

 

「わ。分かった!」

 

 しかし、みんな動揺していたな。まぁ俺も今日のランタが絶好調の死神様みたいな雰囲気じゃなかったら戸惑っていただろうけど、今日のランタは何かと悪い意味で凄い日だからね。こうなるのはむしろ必然。ビバ、ランタの厄日。いや、むしろ俺たち全員が厄日? 

 

「どうも~!」

 

 モグゾーがどうも斬をデッドスポットへとかます。だけど、それを簡単に大きな包丁剣で弾き返すデッドスポット。

 それからはデッドスポットの怒涛(どとう)の攻撃。モグゾーは防戦一方でずっと受けるには厳しい攻撃だろう。だが、モグゾーには悪いがチャンスが来る暫くの間だけ我慢して貰う。

 

 地面に落ちていた石をデッドスポットに当たる様に投げるエル。

 

火炎壁(ファイアウォール)

 

 そしてその石を″対象″として地面からではなく、石から火炎壁(ファイアウォール)を繰り出すエル。

 

 デッドスポットに当たる瞬間に繰り出した火炎壁(ファイアウォール)はデッドスポットに見事に命中し、デッドスポットの左上半身とデッドスポットの顔が火炎壁(ファイアウォール)によって燃え上がり、ダメージを与えることが出来た。だが、しかし。

 

 ──グウォォォォォォぉん! 

 

 所詮はそれだけで。身体が大きなデッドスポットは耐久値や身体に纏っている毛が普通のコボルトとは違う様だ。

 

 デッドスポットが此方へと顔を向けた瞬間、爆発した様な爆発力の跳躍で此方へと大きな包丁剣を横に振り回していた。

 

 右横から来る大きな──死へと繋がる様な攻撃。それを右手に持ったダガーで包丁剣がダガーと当たったその刹那にダガーと包丁剣を擦り合わせる様にし、ダガーを滑らせ、自分へと振り回されてきた包丁剣の上を滑る様にしてかわす。

 

 一瞬デッドスポットの動きがスローモーションに見えた。走馬灯が流れてくるかと思った。だが、身体は自然と動いていた。

 

 良かった。毎日朝早く起きて、欠かさず何時間も練習してきて。

 良かった。小刀じゃなくて、ダガーを握っていて。多分、小刀だとダガーとは用途が違うから今の動きは出来なかっただろうから。その前に壊れただろうから……

 

「どうも~」

 

 デッドスポットの背後から此方へとやって来たモグゾーはデッドスポットの背にどうも斬りをかます。

 

「グウォッ!」

 

 背中を切られた痛みに驚いたのかデッドスポットは身体を180度回転させながら、包丁剣を大きく振り回す。俺たちを近づかせない。離させる為の攻撃だ。

 

 ──ゴガンッ! 

 

 モグゾーの大剣がデッドスポットの攻撃によって壊れながらも大きく吹き飛ぶのが見えた。多分、大剣だけでは耐えられず、鎧を通して身体にもデッドスポットの恐ろしい攻撃が当たっただろう。

 

雷電(ライトニング)

 

 デッドスポットに雷を当て、ダメージを与える。だけど、それでもデッドスポットは倒れない。倒せない。

 

 モグゾーから背中を切られても、火で身体を焼こうとも、雷で身体を怖そうとしてもデッドスポットは倒れようとしない。

 

 むしろ、デッドスポットも前の俺の様に感覚が鋭くなって、より獰猛になっている気がする。

 

 此方へ跳びかかる様に包丁剣を持っていない左腕を此方へと向けて前へと突き出してくる。

 

 ──避けられない! 

 

 そう思った瞬間に被害を最小限にする為に、身体を右側に倒し、デッドスポットの拳が当たる範囲を狭める。だが狭めても──。

 

「がぁっ……っ!」

 

 ──ドゴン! 

 

 威力が半減する訳でもない。左腕に当たったデッドスポットの拳の威力をそのままに身体は空中へと高く跳んでいく。振り子の原理みたいだ。左腕に当たった大砲の様な威力を元に身体がぐるぐると空中を回転しながら飛んでいく。これは死ぬかもしれない。大怪我を負うことを覚悟して地面に叩き付けられる心の準備をする。

 

「おっ……らぁっ!」

 

 そしてエルが地面に叩き付けられ、大きな衝撃が身体を迸る。そんな瞬間は起こらなかった。だって──。

 

「死んでねぇか、エル!」

 

 落ちる瞬間ランタが助けてくれたらしいから。

 

「おお、流石だね……ランタ。でも……俺……凄く痛い。マジデッドスポット、リスペクトっすわ」

 

 痛すぎて口調も変になる。本当に久方振りに耐えられない様な痛みを受けた。

 

「っしゃっ! 俺もモグゾー助けに行ってくるわ! 其処で待ってろよ! エル!」

 

 地面には叩きつけられなかったけど、左腕が痛い。デッドスポットの腕力高過ぎ。余り感じたことない痛みだ。こんな時に貴重な体験をさせられるとはいやはや……マジ死の斑ですわ。後、ランタ。遠くからランタたち見えてたけど、ランタ弱腰だったのに急に強気になったね。なに? 吹っ切れちゃったの? 

 

「見せて、光よ、ルミアリスの加護の下に癒し手(キュア)

 

「ありがとうメリイ」

 

 まだ少し痛みがあるけど、耐えられないことはない。

 

「えぇ。だけど回復は後三回ぐらいしか使えないわ」

 

「みんなヤバい! コボルトたちが大量に此方に迫ってきてる!」

 

 ハルヒロが此方へとやって来て、緊急事態を知らせてくる。

 

 はぁ、これはあれだな。死へのカウントダウンだな。じゃあ、今俺がすべきことは一つだな。

 

「ハルヒロ、みんなを連れて逃げて!」

 

「っ! エルはどうするんだよ!」

 

「此処に残るけど? だって、デッドスポット相手しないといけないし、コボルトも相手しないといけないでしょ? 一斉に相手取れる可能性があるの俺しかいないじゃん。このままだと死んじゃうし……」

 

「駄目だよエルくん! 約束したばかりなのに! お詫びをしてくれるって……っ!」

 

「悪いけど、それキャンセルで」

 

 シホルやみんなには悪いけども。

 

「じゃあ、俺がデッドスポットに攻撃した瞬間にモグゾーやみんなを連れて逃げるんだぞ、ハルヒロ!」

 

「分かった……っ!」

 

「じゃあ行くよ! 火炎壁(ファイアウォール)!」

 

 石をデッドスポットがモグゾーによって斬り伏せられた場所目掛けて投げつつ、当たる瞬間に魔法を権限させ、デッドスポットに攻撃を与える。

 

「グウォゥ!」

 

 負っている傷の中に石は入らなかったけど、近くには当たって見事火炎壁(ファイアウォール)が敵の負傷している背中を焼き尽くす。

 

「今だ! 行くぞみんな!」

 

「死ぬんじゃねぇぞ! エル!」

 

「そうだね~、じゃあ生きてたらランタの奢りでソルゾでも食べに行くか」

 

「おい、エル。お前もオレ様みたいにフラグ作ってるなよ!」

 

「フラグは作ってなんぼなんだろ?」

 

「はっ、本当に生きて戻ってきたら仕方ねぇから特別に奢ってやるよ!」

 

 おぉ~、あのランタが奢ってくれるのか誰にも奢ったことを見たことがない。あのランタが……。これは死ねないな。ランタが本当に奢るのか気になるし……

 

「デッドスポットはん、遊びましょうか?」

 

 さぁ、賭けの時間といきましょうか。BEDするのは俺の命ということでね。

 

 賭け事には強いからね。負ける気がしないかもしれない。

 

 

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