灰と幻想のデジャブガル 作:なにがし
『エルの書記』
何時からだろうか? 俺たちが作為的に連れて来られたと思ったのは?
確か一番最初。あの空間で起きたその瞬間に思っていただろう。
誰が俺たちをあの場所へと連れて来たのだろうか?
多分あのひよむーとか言う掴み所のない女性かあの騎士たちだろう。だって、非現実なこと──あの場所で色々な人が現れるというなら誰かが調べたりするだろうに誰もあの場所を調べようとはせず、あれ以降あそこには侵入するのを固く禁じられたのだから。
俺たちは命の奪い合いがない所から来たと気づいたのは何時からだったろうか?
多分、初めての戦闘を終わって暫くした後だったと思う。だって俺たちは必要以上に何かの命を奪うということに抵抗があったから。
俺たちはどうして此処に呼ばれたのだろうか?
戦争的視点で考えるなら戦力補充。居なくなっても困らない人間を何処かから連れてくるというのがまず頭に浮かぶだろう。どうやら人間はモンスターと争っているのだから。
どうして俺たちは義勇兵団に入らなければならなかったのだろうか?
俺たちにはどうやらこの地では身分を認められていない様なものだったから。
俺たちの様な事例が多々あったのなら、どうして俺たちの生活の保証をしてくれる場を作ってくれなかったのだろうか?
多分、義勇兵団事務所でブリトニー所長が俺たちに示した通り、俺たちがどうなってもどうでも良い。困らないというのがこの地のお偉い様たちの俺たちへの意思表示なのだろう。
どうして俺たちは義勇兵団に入ったのだろうか?
それが俺たちにとって最善の方法に思えたからだろう。
どうしてそれが最善だと思ったのだろうか?
記憶がない中、突然選択肢を用意されて、義勇兵団になるか。それとも義勇兵団にならないで何処かで仕事をするか? という選択を突然にさせられた上に何処かで仕事をするとしても最初は給金が安いし待遇も余り良くないとかマイナスなことばかり言われた上で、義勇兵団は貴方たちを見習い義勇兵にさせる代わりに最初に無料で十シルバーと宿舎を安く使わせて上げるとかプラスなイメージばかり与え、俺たちへの印象を底上げし、目の前のメリットに目を眩ませて判断を鈍らせたから。
俺は義勇兵団と最初に義勇兵団に連れて来たひよむーという人物に疑念を抱いている。
どうやら他の記憶がない義勇兵の先輩たちもひよむーに連れられて義勇兵になったと言っている。何故、ひよむーが毎回義勇兵団へと連れて行くのか? それが謎であるままならひよむーを疑わずには要られないだろう。だって、怪しすぎるし不可解な点が多すぎるからだ。
『補足』
ゲーム……遊び、娯楽の一種?
ファイト一発……応援? 気合いを入れる一言
他にもエトセトラエトセトラ……
様々な情報がエルの手帳には書き記されていた。
──自分の過去を思い出そうとすると、たまに胸がどうしようもなくざわつく時がある。やはり俺は余り良い人間ではないのかもしれない。
思えば俺が良い奴でないことは自分がこの地でみんなと生活を始めた時から気づいていたことである。だって、俺は普通の人とは少しかけ離れて過ぎた行動や考えを抱いたりする時が高い頻度であるのだから。
例えば──痛みに慣れる為にマナトに手伝って貰いながら(回復要因として)何度も自分の身体に自分が買ったダガーを刺した。
ある時は腕を刺し、またある時は太ももを刺し、またまたある時は脚を刺し、そのまたある時は腹を刺し……本当に様々なことを自分は結構初期の時期から行っていた。自分の身体を刺す以外にも切り裂いたりもして、痛みへの耐性を無理矢理付けた。
マナトもこれには流石にちょっと引いていたっけ……
だからこそ俺が普通と比べると極めて異常な人間に位置する人間であることは最初から理解している。だからこそ。
だからこそ……
例え自分が酷い人間だったとしても……
願わくば自分が失望する様な人間では無いことを願う。
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目を覚ます。身体を起こす。身体に激痛が走る。
俺は自分で寝床に入っただろうか?
辺りを見渡すとみんな眠りこけている。
俺は上半身服を来ていない。どうやらあの後気を失う様に眠った俺をみんなは運んでくれた様だ。
そのまま運んではくれたが身体を洗ったりはしていないだろうと思い、みんなを起こさない様に静かに宿舎にある風呂場へと向かう。
一歩歩くだけで身体の節々に痛みが走るし、頭が起きたばかりだからボーッとするが耐えられない訳でもない。
痛みに向けていた意識を手放し、今日着る服を片手に風呂場へ行く道を突き進む。
あれからどうなったのだろうか?
デッドスポットを倒してからすぐに帰ったのだろうか? それとも粗方コボルトたちが所持していた貴重品を集めてから帰ったのだろうか? みんなのことだから多分俺を心配して其処まで貴重品を集めないで帰って来たんだろうな……良い仲間に出会えたものだ。
風呂場へと到着し、ズボンやパンツを脱いでから浴場へ入る。まだ早い時間だからか誰も入っていない。毎日早く起きていたから今日もまた早く起きれたのだろう。毎日欠かさず早起きしていて良かった。
自分の身体は表面上は綺麗になっていて、多分みんなが気を使ってタオルとかで拭いてくれたのだろう。
あのままの状態で寝床に寝かされていたら悲惨な光景になっていただろうから拭いてくれたであろうみんなには感謝している。だけど、やはりしっかりとお風呂で洗わないと未だ汚いであろうという感覚は拭えない。だからこそ、昨日自分の血やコボルトたちの返り血。地面に転がったりして付いた汚れを皮膚の表面から落とす為に念入りに洗う。
「ふぅ……」
さて、今日は良い日に出来るだろうか?
昨日あんなことがあったからこそ、そう強く思う。