灰と幻想のデジャブガル 作:なにがし
森探索二日目。この日は昨日のように穴ねずみが急に出ることもなく、ユメやハルヒロが敵が近くにいないか探しに行った。ハルヒロがこちらを見て大きく頷く。敵がいたという合図であろう。そして、ハルヒロは右手を振り下ろし奇襲の合図をする。
一番最初に向かったのはランタであった。大きく雄叫びを上げ、突き進むが奇襲なのでそんなことは意味がない。奇襲という作戦は最早機能していない。もう泥ゴブリンに気づかれているのだから。
「えいっ」
最初に泥ゴブリンに攻撃したのはユメであった。矢を敵に射るが矢は泥ゴブリンに当たることはなかったがしかし、泥ゴブリンが逃げようとした方向の前に矢が刺さったことにより、泥ゴブリンは驚いて怯ませることができた。これは明らかにチャンスである。
「ナイス、ユメ!」
ハルヒロが一番最初に泥ゴブリンと相対する。ランタ達はハルヒロとユメより遠くで待機していた為まだ着いていない。
ハルヒロは泥ゴブリンに向かって攻撃をするも少し血が出た程度であり、致命傷を与えることができなかった。
「
ランタの攻撃。しかし、昨日と同様空振りで敵を捉えることができていない。そして、泥ゴブリンがそんな空きを見逃すことはなく、ランタに向かって襲いかかる。
「っ!」
マナトの横やりによって泥ゴブリンの追撃を防ぐことができたが現在の状況を見るに泥ゴブリンの方が上手であった。
「ハッ!」
エルもまた泥ゴブリンに向かって攻撃をする。泥ゴブリンはダガーでの攻撃を避け、エルに向かって飛びかかる。これを最小限の動きで避け、飛んだ後の振動を体から逃がす為に生まれる一瞬の体の硬直、その後に脚を動かす為に生まれる隙を突き、左脚の関節を切る。
「ギッ!」
左脚の関節を切られた泥ゴブリンは悲鳴を上げながらもエルから距離を取った。
「ナイスだ、エル!」
泥ゴブリンはエルから距離を取ったものの、エルが攻撃している間にマナトが皆に指示したことによって泥ゴブリンは囲まれてしまっていた。
「マ、マリク・エム──」
シホルが目を瞑りながら呪文を唱えているのが見えた。
「シホル落ち着いて! しっかりと撃てば当たるから!」
「は、はい! ごめんなさい!」
シホルはエルにアドバイスされて、冷静さを取り戻し呪文を唱える。しかし、泥ゴブリンもシホルが何かをしようとしていることを察知したのか木の枝を投げてきた。
「きゃっ!」
泥ゴブリンが投げてきた枝を腕で払うことによってシホルに当たるのを防ぐ。その間にもしっかりとマナトの指示は続いており、泥ゴブリンに攻撃を仕掛けている。
「アアアァァァァァ!」
攻撃を受けた泥ゴブリンは凄まじく長い悲鳴をあげる。それは生への執着を感じさせる雄叫びであった。穴ねずみはこんな雄叫びをあげなかったからこそ、楽に倒すことが出来たのは運が良かったのだと改めて認識させられた。
「お、おまえら! 怖じ気づいてんじゃねーぞ! 殺るか殺られるかなんだからな! お、オレはこいつをぶっ殺して、
そうだ、その通りだ。殺るか殺られるかなんだ。決意していたと言ってもちっぽけな決意だった。もう動揺しない。
「慎重に…………!」
マナトはショートスタッフで泥ゴブリンの頭部を叩く。しかし、泥ゴブリンもそんなことで倒れるはずもなく、マナトに向かって腕をぶんぶんと振るっている。
「ふん! ふん!」
次はモグゾがバスターソードで泥ゴブリンを切りかかる。不利だと悟った泥ゴブリンは後ろに下がることで距離をとる。しかし、後ろにはハルヒロとユメがいた。
「や、やらなあ! ハルくん!」
「うおおお!」
ハルヒロが背中にダガーを刺そうとした瞬間に泥ゴブリンは振り返り再び雄叫びをあげる。
「アアアァァァァァ!」
ハルヒロは怖じ気づきながらもしっかりとダガーを振るい、泥ゴブリンの腕に攻撃を加えた。
「ウギャアギャア!」
泥ゴブリンは血を流しながらも辺りをぐるぐると回り、無闇に近づけないようにしている。しかし、こんな時の魔法である。
「マリク・エム・パルク」
エルはぐるぐる回っている泥ゴブリンに向かって魔法を放つ。同じところしか回っていなかったので当てることは容易かった。
「ギャッ! アアアァァァァァ!」
「これは命のやりとりなんだ! 俺たちも、相手も──泥ゴブリンだって真剣なんだ! これ以上ないくらい真剣勝負なんだ! 簡単なわけ、ない! 誰だって、どんな生き物だって、死にたくないんだ!」
「マリク・エム・パルク…………!」
さっきは枝を投げられたことで咄嗟に呪文を中断してしまったシホルが
「今だ!」
「うらぁっ! なぁっ──骨硬っ!」
マナトの指示によってランタがロングソードを振りかざし右肩に突き刺した。
「ふんっ……!」
モグゾーも泥ゴブリンに向かって思いっきりバスターソードを振りかざす。
──ドンッ!
物凄い音が聞こえたの同時に泥ゴブリンの頭に物凄い怪我を負わせる。しかし、頭は頑丈である。凄い怪我に見えても案外大丈夫だったりする。
「頭は意外に頑丈だから、その調子で止めを刺すんだ! モグゾー、ランタ! きっとまだ生きてる!」
エルはモグゾーとランタに指示を出す。
「う、うん! なっ!? ──ふんっ!」
「気にしすぎだぞエル! こんな大怪我してるんだから、生きてる筈ねぇだろ! うぉっ!?」
ランタはこの怪我では生きていられないと思ったのか気が緩んでおり、モグゾーはエルの言う通りに攻撃を食らわそうと攻撃の準備をしていた為、泥ゴブリンが起き上がって逃げようとしたところに攻撃を食らわせることができ、息の根を止めることができた。他の面々も泥ゴブリンが起き上がったことに驚いていたが。
その後はマナトが泥ゴブリンに近づいて神官特有の仕草をしたり、ランタが戦利品の確認をしたりした。戦利品は動物の牙と穴が空いている硬貨であった。
「何はともあれ、初勝利だね」
皆が一通り休んだ、落ち着いた後にマナトは皆を一瞥して言い放った。
「すべてオレ様のお陰だな!」
「そやなあ」
ユメの同意の声はやけに冷たかった。どうやら、まだランタのことは許してないらしい。
「…………まだ根に持ってやがるのかよ、悪かったって! ちっぱい言って!」
「また、ちっぱい言った!」
「謝る上ではしょうがないだろ!」
「普通に謝ればいいやんかぁ! ユメ様ごめんなさい……って!」
「しつけーやつだな。心の広さはやっぱりあれと比例してるな!」
「むっかぁぁっ。ランタ! 今絶対! 胸見て言ったやろ!」
「なっ! 何故わかった!」
ランタは本当に何故わかったのか理解できないのか大袈裟のような驚いた顔を晒している。
「女子はそういう視線には敏感なんや! アホ!」
ユメは顔を真っ赤に染め、もうランタのセクハラに我慢のなのか弓をつがえて、矢を撃つ準備をしている。
「撃つ! この矢はユメ! 外れん気がする!」
「や、やめっ、おまっ、ご、ごめんなさい! ごめんなさいユメ様! この通り! だから、許せ! ……おい! エルからもユメに何か言ってくれ!」
「んー、ユメほどほどにね。掠れる程度ならいいと思うよ」
「おいっ! エル! 何承諾してるんだよ! オレを助けろよ! てか、助けて下さい! エル様!」
「うん。ありがとな、エルくん。てか、ランタ! そこは許して下さいユメ様やんかあ! 何で命令形なん!? 納得いかへん!」
おい、誰か助けてくれ。とエルはマナトやハルヒロに目線で助けを求めるが見事目を反らされるのだった。つまりは見放されたのである。
「ゆ、ユメ様! ごめんなさいこの通り許して下さいユメ様お願いします何でもしますから!」
めっちゃ謝るの早いね。よく舌噛まなかったね。
「こう言ってるし他の方法で許してあげたら」
エルはユメに一応助言してみる。
「エルっ! ……て、てめえって奴は! ……オレは良いダチを持ったぜ……っ!」
ランタはこの時エルが神様に見えた。エルの顔が見れない。
※太陽の方向に立っている為、日差しでそう見えただけです。
「しゃあないなぁ」
「そしたら、そこへ飛び込んで」
「へっ…………?」
「泉に飛び込んで。そしたら、今日のところは勘弁してあげる」
「ばっ、おまっ、エル! 助けてくれ!」
「ユメが譲歩してくれたんだから、これで飛ばなかったら男じゃないで、ランタ。なっ? ハルヒロ達もそう思うよね」
見捨てた仕返しに皆も共犯にしてあげようではないか。それに面白そうだし。
「そうだね、これで飛ばなかったら男じゃないね」
「そうだぞ、ランタ。ここは男らしく飛んじゃえよ」
「う、うん。そうだね」
「あたしも賛成」
マナト、ハルヒロ、モクゾーも同意らしい。マナトとハルヒロもエルのしようとしていることを理解したのか。一瞬ニヤッとしながらも輝かしい笑顔で同意する。シホルは冷たい目でランタを見ていた。
「くそっ……じゃあオレ、男辞めるわ!」
「じゃあランタの下半身にぶら下がってるのはいらないんやなぁ」
ユメは冷たい目をしながら再び矢をつがえた。
──怖っ! 男子一同の心境はこれであった。
「ばっ! おまえっ!」
ランタは本当に撃たれると思ったのか勢いよく泉にダイブした。
「……いい気味」
──怖っ! シホルも怖っ!
エルはシホルの声を聞き逃さなかった。それと同時に女性陣を怒らせないように気をつけようと堅く誓うのだった。
今日の儲けは一シルバーと三十カパーでした。分け前は一人十八カパーでした。
皆様は灰と幻想のグリムガル。ご存知でしょうか?
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アニメまたは原作小説なら観た。
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アニメも原作も読んでいる。
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知らない。
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記憶にございません。