灰と幻想のデジャブガル   作:差し出される手

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長らくお待たせ致しました。では、どうぞっ!


ダムロー旧市街地

 オルタナの北西約四キロ。歩いて一時間少々という少し遠く思える場所にその草臥れた街はあった。

 

 何故この様な場所へ向かったのかと言うと、マナトが夜遅くにシェリーの酒場へ行き、他の義勇兵から此処が義勇兵見習い達には最適であるという情報を仕入れたから此処に向かったという経緯がある。

 

 到着して辺りを見渡すと、辺りは剣や槍、骸骨などが其処ら中に転がっており、この街がもう使われていないということがハッキリと理解することが出来た。

 

 以前はオルタナよりずっと大きい街であったらしいというのにこの有り様。如何にモンスター達が恐ろしいか、数という脅威が恐ろしいのかを如実に表しているかの様なあられもない姿である。

 

 そしてこの街──ダムローは現在、ゴブリンの根城となっており、このダムローにいるゴブリンを狩る為にエル達は此処にいるのだ。

 

「ゴブ一匹。いるっぽい」

 

 ハルヒロが周辺を探索して、皆のところに戻ってきて言った第一声はこれであった。

 

「分かった。じゃあハルヒロとランタが前衛でユメとマナトが中衛。俺とシホルが後衛ということを考えてゴブリンを囲もうか」

 

 エルはこの頃(シホル達女性陣とマナト達男性陣の仲が一時期複雑になったせいで)自分が指示する様になったことで円滑に皆に作戦を組み立て、伝える。

 

 全員が頷いたのを見た後、全員がそれぞれの配置に移る。

 

 ランタは配置に付いた後、自分がゴブリンを仕仕留めて良いのかを指を指して合図をしてくる。

 

 マナトの方をちらりと見るとマナトもランタに任せて良いと思っていたのかマナトはランタの合図に頷き、手を振った。これは″やれ″という合図である。

 

 ランタはマナトから了承の合図が出たことを見て、軽く深呼吸をして、心を落ち着かせた後、思いきりロングソードをゴブリンの胸へと刺した。

 

「グギャッ」

 

 眠り落ちていたゴブリンへと刺したロングソードは一発でゴブリンを仕留めることが出来なかったのか薄い悲鳴を上げながら、目を覚まし、攻撃をしてきたランタへ向かって攻撃をしようと暴れ出していた。

 

「ダメだ!」

 

 及び腰になったランタを見たマナトはランタへと一喝した後、自分が持っているショートスタッフで頭、腕、脚、胸、色んな箇所を色んな手法で乱打していた。

 

 そしてそれに同調するかの様にランタもロングソードをより深く捩じ込み、攻撃を行った。

 

 ゴブリンは攻撃を受ければ受けるほど激しさを増していたが二人の攻撃が致命傷へと至ったのか遂に悲鳴が弱くなっていき、頭がガクリと下がり、身体が倒れた。

 

 寝込みのゴブリンを襲ったと言うのに、この苦労。この現実、場所で生活していくのが如何に困難かと言うことを皆はゴブリンに再度確認させられた様であった。

 

 皆がそれぞれゴブリンを倒したことで色々としているのを横目に、エルはゴブリンの悲鳴を聞いたことで此方へとやってくるものが居ないか辺りを見渡す。

 

 ざっと見た限りでは辺りにゴブリンがいることは見渡せない。なら、少し安心して良いかもしれない。という感情と。いや、警戒を怠ると死ぬぞ。という感情が相反する。

 

 いつもこうだ。必要以上に辺りを警戒して必要以上に疲れる。これが此処数日ずっと起きている。しかし、それが嫌だとは思わない。何故ならこれは自分にとって必要なことだと気づいているから。

 

「エル、警戒ありがとう。今回皆の力で4シルバー手に入れることが出来たけど、次はこんな簡単にいかないかもしれない。だから、皆。気を抜かないで次の獲物を探そう」

 

 色々とすることを終えた皆へとがマナトがゴブリンのことを嘗めてかからない様に注意喚起を促す。言っていることは至極当然で、ありふれたことである。だがしかし、この言葉に反論の異を唱える人も勿論いる。

 

「硬いこと言うなって! オレ様のお陰で大勝利することが出来たんだからよ。このオレ様のお陰で! こういう時は喜んだってバチは当たらないだろ?」 

 

 それはランタである。

 

 ランタが言うことも一理あり、至極当然な意見であるのだと思う。警戒し過ぎるのも、突然のこと、突発的なことが起きた時に瞬時に動けない様にするという懸念があるからだ。

 

 だがまぁ、マナトは今の俺たちの実力では警戒を怠ることは致命傷に成りかねないと気づいているのだろう。ランタの言葉に少し顔をしかめた後「そうだね。喜んでも良いかもしれないね。ランタは上手くやってくれてるし」とランタの意見に同調した。

 

 そしてマナトに同調されたランタは「だろぉ? オレ様凄かったろぉ?」と言った様な感じで調子に乗り出し、ハルヒロに「いや、お前相当必死だっただろ」とツッコミを入れられていた。まぁ、これはいつもの光景である。

 

 

 

 ダムロー二日目。昨日は合計五匹のゴブリンを狩ることが出来たことにより、調子づいたランタが、発見したゴブリン五匹の団体に突撃するのを提案してきたが未だ団体戦に慣れていない俺たちがゴブリン五匹に丁度良く相手出来るとは思わないランタ以外の皆の意見により、その提案は却下された。

 

 しかし、その後遭遇するゴブリンも運悪く五匹や四匹などの団体が多く、運良く見つけた団体もゴブリンが三匹。一時間粘ってもついぞゴブリン一匹や二匹の群れは見つけることは出来なかった。なので痺れを切らしたランタがゴブリン三匹の団体へ突撃しないか提案してきた。そしてその提案に皆は乗った。皆もまたランタ同様、一向に良い頭数のゴブリンに出会えなくて痺れを切らしたのだろう。すぐにその提案に同意した。

 

「エル! エルも此方に来てくれ!」

 

 だが、痺れを切らしたって別に自分達の実力が上がるという訳でもなく

 

「分かった! シホル、悪いけど行ってくるから何かあったら叫んでね。シホルが出来る範囲で良いから援護期待してるよ」

 

「は、はい!」

 

 皆はゴブリン三匹の身軽な行動により、窮地に立たされるのだった。

 

「マリク・エム・パルク」

 

 エルはエレメンタル文字を記しながら、呪文を唱え、ランタが戦っているゴブリンへと基礎魔法を放った。

 

「でかした! エル! くらいやがれっ! ゴブリン! このオレ様、暗黒騎士の実力を!」

 

「いや、暗黒騎士の実力をくらえって何だよ? そこは暗黒騎士の力をくらえっ! だろ?」

 

「うるせぇ! パルピロ! 細かいこと気にしてる暇があるんだったらお前もさっさと一体倒しやがれっ!」

 

「分かってるっての! ユメっ!」

 

「ほいなっ! ごめんなゴブちゃん!」

 

 未だ生き物との命のやりとりに慣れきれていないユメはゴブリンに可愛い名称を付けながら攻撃を加えようとし

 

「おわっ! ゴブちゃんほんま強いっ」

 

 見事かわされるという結果が待ち構えていた。だがしかし

 

「このっ!」

 

 ユメの攻撃をかわした後の一瞬の隙を狙ってハルヒロがゴブリンに追撃を行い

 

「グギッ」

 

 片腕に傷を与えることに成功した。

 

「気をつけてハルヒロっ! 手負いの生き物が恐ろしいって言う様に手負いのゴブリンもまた何をするか分からないからっ!」

 

「分かってる!」

 

「おいっ! エルっ! もっとオレ様を輝かせられる様に援護しやがれっ!」

 

「ふっ、ランタはこの状況でも頼もしいね」

 

 エルは感心の中に少しの皮肉を混ぜ、ランタを褒める。だがまぁ、ランタの言っていることも尤もだと思い目の前にいる一匹のゴブリンに意識を傾ける。

 

「当たり前だろうがっ! このランタ様に死角なしっ! かかってきやがれゴブリン!」

 

「グギャッ!」

 

「って、おい! 本当に思いっきりかかってくるんじゃねぇよ! 今のはジョークだよ、ジョーク! 分からねぇか!?」

 

 ランタやるじゃんと思っていたのも束の間の様にランタはまたやらかしを始めた。本当にランタのやらかしのフォローとかを始めてどのくらいになるのだろうか? 

 

 そう思いながらエルはランタと鍔競り合いをしているゴブリンに向かって再び魔法を唱え、ゴブリンを弾き飛ばす。

 

「今だ! ランタ!」

 

「おう! ナイスだエル!」

 

 弾き飛ばしたことで地面へ突っ伏す様に倒れたゴブリンを見て、エルはランタに止めを刺す様に指示をする。

 

 本当なら自分が止めを刺したいところではあるが、エルの職種は魔法使い。

 

 ランタやモグゾーの様に前衛を前提とした刃物を使った必殺技がある訳でもないし、ランタが身につけているスキル【憎悪斬(ヘイトレッド)】の様な高速で動け、攻撃出来る様なスキルもない。なのでエルは適材適所な判断をしてエルより早く少し遠くにいるゴブリンへと攻撃を加えられるだろうランタに止めを任せた。まぁその他にも自分が止めを刺したらランタに後でとやかく言われるだろうから面倒事はランタに任せようという理由もあるのだが。

 

「よしっ! 一体撃破だぜっ! 次いくぞ、次!」

 

「いや、僕たちも丁度終わったから大丈夫だよ、ランタ」

 

「ユメ達も終わったから心配あらへん」

 

「たくっ、なんだよっ。このオレ様の英雄章の二ページにこの冒険での活躍を記してやろうと思ったのに」

 

「一ページには何て書いてあるんだよ? お前の英雄章には?」

 

「あっ? それはな、スカルヘル様に忠誠を誓った勇者ランタはヘッポコな盗賊、ハルヒロという人間を助ける。から始まるんだよ。当たり前だろうが、パルピロ。馬鹿なのか、ハルヒロ」

 

「馬鹿じゃねぇし、てか、ランタ。お前暗黒騎士なんだから勇者じゃなくて魔王の手下だろ?」

 

 ハルヒロの的確かつ当たり前の疑問がランタを襲う。

 

「細かいこと気にするんじゃねぇよハルヒロ。禿げるぞっ!」

 

 そして、そんなハルヒロのツッコミをいつも通りハルヒロをおちょくる様な言葉で会話の内容をずらした。

 

「そういうのいいし、悪いけどそんなことで反応しないから」

 

「反応しろよっ! なんか悲しくなるだろうがっ!」

 

「はいはい。皆、ゴブリンを倒し終わったからって気を緩めない。まだ此処はゴブリンの棲家なんだから」

 

「悪いマナト」

 

「分かってるっての。ほら、ハルヒロ。さっさとゴブリン漁るぞっ。マナト、お前達もだぞ」

 

「そうだね。さっさとゴブリンの持ち物を調べて、今日は終わりにしようか」

 

「そうだね。今日は慣れないことをしたからその方が良いだろうね。知らない内に疲労やストレスが溜まってるかもしれないし」

 

「ユメもなぁ、ゴブちゃんと戦ったからちょっと疲れちゃったやんかぁ。だからマナト君やエル君の意見に賛成やねん。シホルは?」

 

「わ、私も賛成」

 

「じゃあ、さっさと調べて帰ろっか」

 

 そんなやりとりをしつつ聞きつつ、エルとマナトはお互いの目を見ながら「お疲れ様」。「其方こそ」と、お互いがお互いを労い合うのだった。そして、この二人が労い合う理由はもしかしたら二人にしか分からないかもしれない。

 

 


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