血液由来の所長   作:サイトー

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 濃厚なキスシーンがあります。御注意ください。


啓蒙9:ベトレイヤーズ

 忍びは、憂いた目で少女を見ていた。自分と同じく、誰かの為に腕を失った者。もし有り得るならば、自分の忍義手を渡しても良いのだろうが、この娘に殺し極めた業を引き継がせ、怨嗟の寄る辺にする訳にもいかないだろう。

 そんな暗い気分になった所為か唐突に、この年頃の時、忍びは自分が何をしていたのかと過去を思い馳せる。

 

「…………」

 

 思い出は、修行と殺しだったか。戦国の世において、薄井の父が仕えていた葦名に敵は多かった。殺しなど日常に過ぎず、殺されぬ為の修行も当然の日課だった。義父である梟やお蝶とも子供時代は深く関わり合いがあったが、その二人も結局は自分が斬り捨てた。

 命を賭して守るべき者。マシュ・キリエライトにとって、それは一人だけと言う訳ではないのだろう。

 ならばこそ、身を投げて盾となる彼女を守るべき人がいなければならない。自分がそんな役柄ではないと無表情のまま内心、鼻で嗤うが、今はそう在っても良いだろう。

 そして、今の狼も守るべき主は一人だが、守りたい者は一人ではない。ならば、と忍びは黙り込む。何時如何なる襲撃にも備える為に、彼は影に溶けて見張りに徹することにした。

 

「いえ、大丈夫ですから。本当に無事ですので……」

 

「いや、いやいやいや。マシュ、貴女それって強がり過ぎじゃない?」

 

「でも、本当に大丈夫なんですよ。安心して下さい、所長」

 

「…………フォーゥ」

 

「ほら、フォウさんも心配しないで!」

 

 むん、と右手でポーズを取るマシュを所長を見た。普通に片腕がない姿が強調されて痛々しい。所長は次にあの悪魔野郎と出会ったら内臓全て千切り取ってやると決意を新たにしながらも、騎士は不死なので魂が磨り減るまで何度も内臓抉って殺してやると更に自分の心へ決意。

 ……純粋無垢にも程がある、と同時にオルガマリーはロマニとレフに悪態を心の中で吐いた。

 確かに善い娘にマシュは成長した。それは教育者として良い事なのだろう。人を羨まず、白く在りの儘に他人を喜べるマシュは、人間として羨ましく見えてしまう程に素晴らしいのかもしれない。しかし、マシュの片腕はカルデア所長を守る為に失った肉体の一部。そこまでの献身をマシュに求めておらず、下した命令に準じているならば、自分の命を第一に優先するよう命令してある筈。何よりも、彼女には待機する命を下しておいた。しかし、それでも所長の護衛は彼女の職務として正しく、ならばそれを責める権限も道理も、所長で在るが故にオルガマリーは所持していなかった。

 オルガマリーはまともな罪悪感など残ってはいない異常者ではあるが、自分を守ろうとしてその身を犠牲にした無垢な少女に対し、全く以って彼女らしくない罪の意識が脳に発生したことを自覚していた。

 

「はぁ……良いわ。いや、本当は良くないんだけど。まぁその……貴女は身を呈し、死ぬ寸前の私を守ってくれました。

 感謝します、マシュ・キリエライト」

 

「はい。ありがとうございます、所長!」

 

 左腕の切断面は、既にマシュが自分自身の霊媒魔術で治癒済み。流石に腕を生やすなど出来る訳もないが、出血を止めることは出来ていた。応急処置ならばカルデアでしっかりと学んでおり、怪我を放置して出血多量で死ぬような事にはならない程度の医療技術を持っていた。

 ちょっと箱入り娘に見えるマシュはこう見えて―――いや。知性的な雰囲気と見た目通り、非常に優れた学術知識と学問的技術を持っている。英霊を憑依させる程の魔術回路を持ち、魔術師としての素養も十分以上。Aチームでも学問は主席レベルの天才児。素の頭脳明晰さなら所長クラス。そのマシュは自分のそんな行動が、カルデアにとって一番利益となる正しい行いだと判断する。

 隻腕は辛いのかもしれない。けれども致命傷にならない外傷一つで所長が守れたのなら、自分の腕程度の犠牲なら安かったとマシュは安堵していたのだから。

 

「何処が安心できるんだよ、マシュ」

 

「せ、先輩……?」

 

「だって片腕が……マシュの左腕が―――!」

 

「…………―――先輩?

 でも、これは仕方がないことです。所長が死ねば、私はカルデアを守れませんから」

 

 怪我をしたことを心配される事は良く分かる。マシュにとって先輩はそう言う人で、そんな風に会ったばかりの何でもない自分へ、身を呈して守ろうとする程に立ち向かえる人だ。恐怖もあって、不安もあって、普通の感性のまま危機を超えて生き抜こうとすることが出来る人生の先輩だ。だが、それとこれの話は別。自分が戦闘で怪我をするのは同じく当たり前だ。恐ろしい事に、マシュは何の憂いもなく死ぬ気であったのだ。

 所長は、マシュはそれで良いと考えている。魔術師がそう在るべしと死ぬように、ロマニとレフによって外の知識と生きた感情を蓄えたマシュが、それでも今までの自分自身を肯定して生き、その結末として死ぬ事を許すのであれば、何ら問題はないと考えている。死ぬべきと本人が認めたならば、それで死んで良いのだろう。

 ……そう、思っていた筈。

 けれどもやはり、我々カルデアは彼女にとても酷い事をした。そして、今も行い続けていた。血塗れの悪夢を生き抜いた所長からすれば、純粋無垢など呪いよりも酷い束縛だ。強要せずとも、今の彼女は駒として完璧だった。だからこうして職務を全うして左腕がなくなった彼女を見て、所長は自分の魔術師的思想を嫌悪した。同時に、それを嫌悪出来る自分自身に安堵もしていた。

 

「ねぇ。マシュは………いや、良いんだ。今は、無事ならそれで。マシュは殆んど初対面だった俺のことも命掛けで守ってくれた。だから、マシュが所長を助けたことは絶対に間違いじゃない。俺もそうしたかもしれないし、助けたことは正しいことだから。

 それに俺はマシュが戦うことを否定しなかった。そうしないと全員が死ぬのは分かっていたから、怪我をするのも、許せないけど……生きる為に、仕方ないのかもしれない。

 でも――――所長、どう言うことですか?」

 

 だからか、藤丸はその様子からマシュの心を理解してしまった。身を捨てる献身を垣間見て、心情の動きを分かってしまうことが出来ていた。この歪みはマシュが自分自身で有するモノなのかもしれないが、それをそのまま利用しているのもまた事実。彼女が死んでも良い等と考えている訳ではないだろう。しかし、死ぬべき時に迷わず死ねるような強靭な意志を持っている―――否。持たされていると考えても良かった。それが職務上、許されている。

 藤丸は所長と言う人間と僅かな時間だが接してみて分かったことがある。

 オルガマリー・アニムスフィアは全てを理解した上で、マシュ・キリエライトがそう在ることを許容しているのだと。

 

「変に勘が鋭いわね、貴方。確かにカルデアは……いえ、違うわね。ごめんなさい。人間として謝罪するわ。でも、ここってそう言う組織なのよ。デミ・サーヴァントって言うマシュを見れば、想像通りのことをしていたとだけ言っておくわ」

 

「……ッ――――!」

 

「―――幻滅、したかしら?」

 

 その所長が洩らしたたった一言が藤丸にとって、確かに胸へ入り込む感情だった。顔の表情に嘘がないこの人は、勘でしかないが恐らくは―――マシュ・キリエライトの味方であるのだと。

 

「はい。けれど、所長やドクターが、望んでしたとは思えません」

 

「私は、まぁ何も言わないけどね。責任者だから、すべて承知の上よ。その上で部下が死ねば、その責任も所長として取るの。

 ……だから、カルデアを第三者的視点で聞きたいなら、ロマニからよく聞いておきなさい」

 

『ちょっと所長……!』

 

「なによ、主治医?」

 

『―――っ……はぁ、良いですよ。だから、帰りのレイシフト失敗なんて真似、しないで下さいよ!』

 

 そんな喧騒を聞きつつも、ディールはカルデアの礼装に戻り、蛞蝓とカリフラワーと狼を混ぜたような軟体啓蒙獣と成り果てていたローレンスもあっさりと人間の姿となっていた。

 

「フラグ乙でしょうか?」

 

「それは何だ、マスター?」

 

「嫌な予感と言うものです。虫の知らせを現代日本の流行り言葉で訳しました」

 

「ほう。いやはや、確かに言語変換の魔術は、余り魔術が得意ではない藤丸の母国語に合わせ、我らは日本語で話してはいた。だが、単語や文章の概念は分かるが、そこまでの流行り言葉は訳されぬ訳か。

 成る程。狩人は崖に立った、フラグ乙……と。こう言う使い方か」

 

「崖ですか……あれは、少し苦手です。それ以上に、好きにはなれたのですが」

 

 崖。正しく、身投げ場。敵を死に吸い込む掃除機。ダイスンスーン。特に聖職者にとって、格好の狩り場となるフィールド。アン・ディールは元々奇跡を扱う聖職者を素性とし、そして神に仕える人間として学んだ奇跡の内、攻撃力がない基礎的奇跡フォースがもっとも真価を発揮するのだから。

 ……フォースとは、決して守りの奇跡ではない。

 人を高所から落下死させる殺戮技巧の一種。ディールはよく無警戒に歩く獲物に崖近くで奇襲し、叫び声と共に哀れに落ちる不死の姿をほくそ笑みながら見るのが大好きだった。その光景、全く以て哀れなる落とし子であろう。

 ついでだが、苦手なのは自分も戦闘中によく足を滑らせて死んでいたからとなる。

 

「崖を?」

 

「はい。崖を」

 

「そうか。良くわからんが、我が主が天然だと言うことは理解した」

 

「何故です?」

 

「さてはて、何故かと来たか……難しい。それはまるで、その星が何故その名を有しているのか、と言うような問いだろう」

 

「ほうほーう。つまりあれですね、天然を天然と断じるのに理由はないと言うことですね?」

 

「流石は我が主、正鵠を射たな」

 

「カリフラワーみたいな顔だった癖して、口は随分と達者みたいですねぇ」

 

「あぁ、この世でもっとも美しい顔だろうな。そして私は、カリフラワーは好物である故に。暇な時があれば、白くべたつく蛞蝓眷属の血をソース代わりに頂きたいところだよ」

 

「おう……それはまた―――いや、良いです。食事をしても味とか私、全く分かりませんから何も言いません」

 

「残念だ。血の滴る獣肉ステーキほど、人間に幸福感と満腹感を与える料理はないと言うのにな。学友にも振る舞った我が叡智の料理学、マスターに振る舞うのも一興だったのだが」

 

「学友?」

 

「学友だ」

 

「ローレンス……友達とか、まさかいたのですか?」

 

「居たぞ。無論だとも。学徒らしく徹夜で研究し、学長と共に教室へ籠もって実験を繰り返したものだ。そして、私はあの生活に無頓着な連中の面倒を見るのが趣味でな、よく実験も兼ねて美味しい料理を作って食べさせたのさ。

 しかし解せんのが、評判が何故か一番良かったのが……ミコラーシチューだったのが許せんかった」

 

「ミコラーシチュー?」

 

「すまん。噛んだ。ミコラーシュシチューだ」

 

 学び舎ビルゲンワースの研究発表会において、ここぞと言う所でよく噛む男。それがローレンスであった。

 

「そうですか。ミコラーシチュー、食べてみたいものです」

 

 しかし、厭味ったらしく噛んだ方の名称を言う当たり、アン・ディールの性格は腐りきっているのだろう。その上でそんな彼女の言動を華麗にスルーするローレンスは、実に出来る大人な男であった。

 

「まぁ、旨かったぞ。ミコラーシュがヤーナム商店街で買い物して来た商品を適当に入れ、白くべたつくようクリーミィに煮込んだだけだったが。学び舎上級者は蛞蝓のような凄まじいゲテモノも好んでいたヤツも居た程だ」

 

「また白くべたつくって……え、それ、え。白子でも使っていたのですかね?」

 

「ふむ。白子料理か、まぁ嫌いでは無いぞ。精が付くからな、精だけに」

 

 ゲテモノ料理が何故か多いヤーナムである。牛や鶏よりも豚料理が多く、湖や川も近いので魚料理も豊富。部位を捨てることなく隅々まで食べる料理技術が発展していた。

 

「あら、セクハラですか?」

 

「そんな事を言えばだ、鶏の卵も殻の中身は卵子だぞ」

 

「成る程、確かにです」

 

 崖を使ったそんな殺戮技巧に酔っていた事までは流石に見抜けないローレンスは、自分のマスターが自分とは違う方向性で頭がぶっ飛んでいることを読み取りつつも、藤丸に負けないコミュ力を発揮していた。巧い事会話の方向性を逸らし、信頼関係を構築する手間を惜しまないマメなサーヴァントであった。

 

「―――で、ロマニ。計測はまだ終わらないのかしら?」

 

 マシュの体を肉体霊体含め総合的に健診しつつ、所長は管制室統括代理に声を上げる。一通りの敵を壊滅させたので傷を癒していたが、ロマニは変わらず働いている。取り敢えずの目的はまだ果たしていないが、敵性戦力がいなくなったこの特異点における各種情報を得るのも必要なこと。

 帰還する為に、所長はロマニの指令が必要なのだ。

 だが現状何も変わらないとなれば、この大空洞に訪れた当初の目標を破壊するしかないだろう。

 

『ええ、終わりません。しかし……この特異点は、今尚崩壊する気配はありません。やはり所長が言った通りだったようですね』

 

「そうね。じゃ、壊しましょうか―――大聖杯」

 

 肉体はそのままに、オルガマリーの意識が夢に堕ちる。数秒間だけだが意識を失い、所長は慣れ親しんだ狩人の夢に立ち戻り、その工房に保管しておいた水銀弾と、輸血液を血管に流れる血液に補充し直し、更に装備にも仕込み直しておく。素早く脳内魔術工房から意識が現実に戻れば、現実の所長も工房の装備品が充填されていた。だが、その短い間、主が無防備となる間は忍びが意識を張り巡らせ、やはり所長に隙などなかった。

 ふぅー……と、一息吐く。

 空に宇宙が再び浮かび上がった。高次元暗黒と繋がるアニムスフィアの魔術刻印が高速回転し、所長が改造し尽くした魔術理論が発火。

 空を超えた宇宙を制する外側の次元理論が熱を帯び――――

 

「―――吐き気が止まらないな」

 

 そんな聞き慣れた声の言葉を受け、所長は空の宇宙を消し去った。

 彼女は目論見通り、元凶を誘き出すことに成功。空の宇宙も霧が晴れるように消え去り、魔力を消費して暗黒を呼び込んだだけのようだった。水銀弾と魔力の消費も隕石を落とそうとした程のものでもなかった。そして所長の隻狼が前に出るも、それを逆に所長が念話で抑えた。この男の対応は自分がしなければならないと、彼女は男に声を出す。

 

「久しぶりね、レフ。数時間ぶりかしら」

 

「……腹立たしい限りだよ。私のことなど、最初から見抜いていただろう?」

 

「それは、どれの事を指しているのかしら?」

 

「この特異点に来た時点で、だ。汚らしいアニムスフィアめ!!」

 

 突如として激昂するレフ・ライノールは、カルデアの彼とは何もかもが異なっていた。

 

「……レ、レフ教授―――?」

 

「あぁ、マシュ・キリエライトか。デミ・サーヴァントになったばかりか、私が手駒に使っていたセイバー消滅の原因にもなるとはね」

 

「貴方は、本当に教授なのですか……?」

 

 悪意に満ちた憤怒の顔。邪悪と化した怨念の瞳。あのレフからは程遠い悪鬼の如き表情と声色は、マシュに疑念しか与えなかった。本人とは全く思えないのに、だがあの存在感と魔力はレフ・レイノールのものだと判断するしかなかった。

 

「そうだとも。中身は少々違うがね。

 故に、こう名乗っておこう。レフ・ライノール―――フラウロス、と」

 

「フラウロス……ねぇ。まさか、悪魔の名を名乗るなんて……―――あぁ、しかし、貴方のソレ、本物ね。冗談や思春期のアレなら一番良かったんだけど」

 

「屑が。この屑が……貴様は、相変わらずの屑さ加減だ、アニムスフィア。マリスビリーの方がまだ人間性に満ち溢れていたぞ。

 この時、この場面において、自分が死ぬ事さえ如何でも良いと思っているな!?」

 

「えぇ、そうよ。如何でも良いわ。私の命なんて……―――って、そう思ってはいたんだけど。そこの娘が左腕を犠牲にして守った命となれば、貴方の謀に焚べる訳にもいかないのよね」

 

「そうかい。マシュの腕を贄としながら、悪びれることもなく生存する。今まで出会った人間の中で特に君は、あの王を思い出させる非人間だ

 ―――死ね。

 直ぐに死ね。今直ぐ、一秒でも早く死ね!!」

 

 そう嘲笑ったフラウロスは、口上を述べるのを本当に直ぐ止めた。まるで高次元暗黒と交信する所長と同じような仕草で天に腕を掲げ、空中に黒い穴の門を開いた。

 

「この世で最もおぞましい魂の悪魔が―――あの獣の眷属が漂着した時は、担当する2015年も潰えたと覚悟した。だがしかし、君たちの働きによって恐ろしき眷属は撃退され、人理焼却は完成された!

 ……さぁ。見届けたまえ、狂った星見の女。アニムスフィアの末裔よ。あれがおまえたちが成してしまった愚行の末路だ」

 

 燃える星の姿。カルデアスが赤く焼け、地表全てが焼き尽くされていた。時空が連結した空間越しに、オルガマリーは、マシュは、ディールは、見慣れた筈の星見の地球儀が滅ぼされているのを確認した。

 

「わぁ……血みたいに真っ赤ね」

 

 なのにレフが見たかった驚き慌てるオルガマリーの姿はなく、やはりレフの想像通り何処か人類滅亡を日常で起こる些細な当たり前な出来事として受け止めている所長しかいなかった。冷静な所長に反比例し、マシュは凄く驚いており、カルデアスが燃えていることの意味も一目で理解していた。藤丸は正直、高そうな地球儀が燃えている程度の認識しか出来ないので、マシュが驚く姿を見て唯事ではないのだと雰囲気で察しているのみ。

 

「しょ、所長……カルデアスが。あのカルデアスが、燃えています!?」

 

「燃えてるわね、マシュ。こりゃ駄目ね。うーん、カルデア初のレイシフト任務、ファーストオーダーは完全に失敗ね。観測出来た原因の特異点は見付けたけど、その削除が出来なかったとなるわね。その挙げ句、今こうして人類全て燃え尽きて、観測した未来の可能性が現実となってしまった、と。

 ……それでどうなのよ、ロマニ?」

 

『言えることは少ない。だから所長、ボクが代わりに彼と話をさせて貰うよ』

 

「良いわよ。裏切り者を殺すのは、情報を取ってからにするつもりだし」

 

 と言いつつも、レフが所長対策が万全なのもまた所長は見抜いていた。身体強化と視覚強化により、銃弾を見抜いて対処する近接能力を持ち、更に周囲には水銀弾対策の魔術障壁に加えて、あの男は防御結界を周囲に纏いながら移動していた。本来ならば土地に建てる結界を自分と共に持ち運ぶなど、言うなれば城壁を移動させているのと変わらない。

 だが、そこまでしないと安心出来ないと言う慢心が欠片もないレフの姿でもあった。

 自分の所業を語る姿は隙だらけで、何時でも殺せそうに見えつつも、それは誘いに他ならない。隙を突こうと攻撃すれば、それこそ自分が隙を晒す事となり、レフの思惑に乗るのと同意。相手が時間稼ぎをしているのなら、所長は様子見をせず狩り殺すのだが、そもそも特異点脱出の為に時間稼ぎがしたいのはカルデア側だ。その気になれば大聖杯破壊も容易いこと。啓蒙的直感に過ぎないが、所長は自分の第六感を信頼し、ここは後手に回るが吉と判断。

 故に、最後には殺す敵を眼前にして会話をする必要はなくとも、何故かオルガマリー所長(アニムスフィア家)を憎むレフにとってはしなくてはならない事なのだ。そんなレフに近付けば、何かしらの罠が仕掛けられていると判断するのが狩人の常識だろう。それを察したからこそ、所長は不意打ちに水銀弾でレフの脳漿をぶち撒けることもせず、内臓を地面に撒き散らすこともしなかった。

 

「ロマニ・アーキマン、やはり生き残っていたか。私がファーストオーダーに急かしていたことを感覚的に疑い、様子見に徹していたか……―――屑人間め!

 同僚を信じぬ冷徹さ、所詮は魔術の徒。

 自らの頭脳のみでそこの女に気に入られた賢しさが、これほど憎たらしいと思った事はない!」

 

『……まぁ、ね。でもお気に入りって観点じゃ、君はボク以上だったじゃないか』

 

「そうよー。本気で疑ってなかったわ。なにせ正直な話、寂しい子供時代を送った女としての私にとって、貴方って理想の男だったもの。パピーよりも父って感じがして好きだったしね。後、普通に部下として特級で優秀だし、技術者としてならば、カルデア所属の変態技術者みたいに変態性もなく優秀で使い易かった。そして、人理保証機関カルデアにとってシバを作った貴方は、その運営基盤となる魔術師に他ならないもの。

 だから取り敢えず殺すけど、殺した後は存在する事を許してあげるわ。その死霊を加工して、カルデアの使い魔にしてあげましょう」

 

『ナチュラルに腐れ外道な発言を今するのは止めて下さい!』

 

「なによー」

 

『はいはい、良いから……―――それでレフ・ライノール、ボクから質問がある』

 

「何かね、ロマニ」

 

 取り敢えず、何時もの妄言だと所長の言葉を聞き流す。素直に聞けば脳が狂うことだろう。

 

『カルデアが外部と連絡が取れないのは、通信機の故障じゃない。燃えたカルデアスを見たままに、そもそも受け取る相手が消え去っていたのですね』

 

「―――そうだとも!

 故に、こう言わねばならないだろう。2015年担当者レフ・ライノール・フラウロスが、貴様たち人類を処理したのだと」

 

「どうして、どうして……―――そんなことを!?」

 

「……オルガが最後に集めた48人目の適合者。あぁ確か、藤丸立香だったか。ふん、神秘を見抜けぬ貴様に話した所で分かるまい。地獄を一度たりとて見もしなかった屑に過ぎず、平和を弄ぶだけの下衆の一匹に過ぎぬ貴様のような、死の何かを知ろうともせぬ塵屑そのものに過ぎない人類にはな!?」

 

 強烈なまでの悪意。そして、憎悪と嫌悪。ゴキブリを見た主婦を何千何万倍も凶悪にし、ホームレスを哀れむ富裕層のような傲慢に見下す瞳を凶星のように輝かせたとでも言うべきか。

 フラウロスの意志は、人間一人の精神を圧殺するには十分だった。

 だが、何故かは分からないが、藤丸は挫けなかった。湧き上がる意志が少年を前へ突き動かしていた。

 

「それは理由なんかじゃない!?」

 

 そして、所長もまた藤丸の行動を良しと考える。相手の情報を聞き出すのも重要だが、テロを行った犯行動機や心情もやはり重要な情報なのだ。

 感情のまま悪行を行った男へ問いを断行する正義感。いや、生き残った事への義務感か。

 

「―――……そうか。

 では無知蒙昧でありながら、愚鈍且つ、更に白痴に等しい無能の貴様でも分かり易い様、私の心情でも述べようか」

 

 語るつもりもなく、語るべきことでもない。レフとてそれは知っている。分かっている。その筈なのだが―――心を突き破られれば、憎悪は溢れ出てしまうものなのだ。フラウロスとなったレフ・ライノールにとって、それは確かに人間へ告げねばならない事であったのだ。

 そして、所長も信じていた男の心理を知っておきたかった。

 裏切り者は殺すが、それでも裏切る理由は分かった上で殺しておきたかった。

 

「それはな、貴様らが醜いからだ」

 

「―――……は?」

 

 意味が分からなかった。醜いから人を殺し、星を燃やし、全てを焼き尽くしたと言うのか。

 

「分からないと言う顔をしているな。では、そんな馬鹿な貴様でも分かり易い例えを出してやろう。自分が平和だと何も見ようともしない屑共に、誰かの不幸や死に対して共感も知識も有り得んからな。

 ふむ、ではあれだな……―――交通事故は分かるかな、藤丸立香?」

 

「な、何を言っている……」

 

「やれやれ。何も知らぬ貴様に、戦争で息絶える少年兵の話をして何になる?

 あるいは老人になるまで人を殺す事以外の職に就かず、そんな人間に殺される人間の話は?

 生きたまま焼き殺される前に、自分の目の前で娘や息子が殺されてから死ぬ女の話は?

 国家や宗教と言う大きな力による理不尽により、無実の罪で処刑台に立たされて死ぬ男の話は?

 ……故にだ、白痴の貴様だろうと分かる例えで説明してやるのだよ。平和な国を生きる君とて、人が文明を生かすのに人の命を消費していることは分かっていよう。人間は死に続けることで、他の誰かの死を貪ることで繁栄を許されている。人類史が腐り続ける事を、延々と許されている。

 そんな君にとって、交通事故はとても分かり易そうな“死”だと思ってな。そして、2015年の文明最先端において、金ほど人間を分かり易く擬人化出来る概念もないだろうな」

 

「……え?」

 

「少しは頭を使い給えよ。人が文明発展に発明品として乗り物を利用している。何故か?

 経済の為だ。金と言う概念をより高度に発展させる為だ。君も流石に交通事故で人が死ぬのは分かっている筈だ。平和な国にとって、一番凄惨な死の代表例だろうが」

 

 やれやれ、と首を振りながらフラウロスは溜め息を吐いた。

 

「人類史が生み出した金とはね―――人の命で出来ている。

 そして、平和な国を便利にする車両と言うシステムは、必ず死人が出る。如何に完成されたシステムを作ろうが、人が死ぬ。子供でも分かる当然のこと。だが、何故誰もが交通の文明を捨てないのか。人が死ぬのは間違っていると誰一人戦わないのか。それはね、人の死を上回るリターンがあると理解しているからだ。事故死と言う悲劇以上に、経済の繁栄の方が自分達に利益があると理解しているからだ。

 そして、そうやって人間の命を材料に経済を回し、社会は運営されている。ここまで言えば流石に分かるだろう……?

 何より、社会を運営する為に材料とされる人間の命は、交通の利便以外にも様々だ。文明の利器に果たして、どの程度の命が消費されているか理解してるかね。世界を見れば、おぞましい程の営みに溢れ返っている」

 

 会社の運営をしている所長には良く分かる。金は命を食べる魔物。精密機械に使われるレアメタルも安価に手に入れるには、アフリカで武装組織が支配する鉱山などで、人間が労働力として消費されて死んで逝く地獄があり、そんな地獄から生み出た商品を誰かが買い、更に自分が金を使ってその誰かから買っている。

 身近にある携帯電話に使われている材料にも、そう言った命で作られた材料が使われている。

 無論、それだけではない。テレビやパソコンや車などの工業商品、あらゆる食品やその加工食品なども何処かしらで人の命が使われいる。

 

「その金で現代人は生きている。故に、その細胞一つ一つが―――人間の命で生まれ出た。母親の胎の中で生み出る為にも命が使われ、生まれた後も同族の命を社会を通じて喰らって肥え太る人間共。

 人間は―――人間で作られている。

 命とは―――命から生まれ出る。

 更に人間は金によって生物を喰い、生命の糧とする。人間はな、食べ物に人の命をブレンドし、その死をトッピングしなければ快適に過ごせないと分かれば、平然と他人を喰い物とする気色の悪い獣なのだ。2015年の中、平和な社会で生存する全ての人間が例外ではない。無自覚のまま他人を喰らい、社会に喰い殺された不運な誰かを可哀想だと笑うだけの化け物だ。

 ……此処まで言えば、もう私の思想は分かった筈だ。

 今の貴様らは、赤子として生み出たその瞬間から―――命を喰らう薄汚いケダモノである」

 

 金と言う経済価値を維持する為に、果たして幾人もの命が消費され、そして今も消化され続けているのか。それは所長とて理解していた。

 1ドル、1ユーロ、1ルピー、1円。それらの一つ一つの通貨は、どれもが命を素材にしている社会の象徴だ。この位の金額なら良いだろうと安直な考えをする愚者を所長が心底嫌うのは、その為だ。世界を見回し、金と言う概念を社会がどんな風に生み出ているのか分かれば、一円程度だなんて、絶対にそんな台詞は悪意失くして喋れない。

 

「そら、そんな糞のような社会しか作れない塵共を―――この星から焼き消して、何が悪い?」

 

 もはや憎悪しかない。既に怨讐だけがフラウロスの両目の中で、聖人を磔にした十字架のように、黒く暗く輝いていた。

 ―――憎み、恨み、嫌い、貶め、辱め、嬲る。

 人間が、人間自体にして来たあらゆる邪悪を込めていた。

 

「……っ――――――」

 

 だから、藤丸には分からない。人間である藤丸には分からない。人間は確かにそうだが、人はそう在ることは罪ではない。だがしかし、もし人間が人間で在るだけで罰を受けるとなれば、この世全ての人間にナニカが罰を下すのかもしれない。

 けれども、やはりそれは間違いなのだと藤丸立香は決意した。

 邪悪によって滅ぶのかもしれない……いや、確かにこの瞬間、それによって焼き滅んだのかもしれない。

 

「―――間違っている。

 そうかもしれないのだとしても、無知な俺でもそれは分かる。俺は、俺が暮らしてきた故郷が、焼かれず平和な世界のままで在って欲しい!」

 

「それが傲慢なのだ、人間!!

 生き延び、生き永らえ、どの時代まで腐り済めば良い。

 何処まで、何時まで、我らは貴様らが死に腐るのを許せば良い。

 お前らが描き続けた人類史と言う絵画は、もう駄目だ。隅から隅まで腐り果てた。だからもう、我らが皆で燃やすしか手段など有り得ない!」

 

 濃厚な邪気と悪意に満ちた魔力は発しながら、サーヴァントに負けぬ威圧感が空間を押し潰す。

 

「その言い様、貴方って本当に人間じゃないようね。レフ・ライノールではなくなったフラウロス」

 

「―――オルガマリー・アニスムフィア。

 特に貴様は念入りに殺してやろう。人間らしい人外の化生め」

 

「へぇ、出来るのかしら?」

 

「貴様が如何な化け物と言えど、あのカルデアスに叩き落とされれば終わるしかあるまいて!!」

 

 瞬間―――念動魔術が発動する。その気になれば人間程度の肉体など、レフは空間圧縮によってテニスボールのような肉塊にする事も容易い魔術師だ。

 それを所長に向けて無詠唱のノーカウントで行い、彼女の全身を魔術力場で拘束。

 対魔力を持つサーヴァントだろうと中々に抜け出せない重圧は、レフの思念操作のまま相手を空中に浮かび上がらせ、自由自在に振り回すことも可能であろう。彼はその魔術によって所長をあの時空連結した穴へ叩き落とし、カルデアスによって分子分解させ続ける無限地獄に落とそうと画策していた。

 

「――――――ッ!!」

 

 思考の瞳とは――――脳に芽生えた意志である。

 へその緒とは――――人を超えた人の証である。

 狩人オルガマリーにとって、自らの思考と狩猟を縛る神秘など有り得てはならない。それが例え、自らの親となる赤子の上位者だろうと、人間以上の魔神だろうと、狩人は必ず敵を狩らねばならない。本来ならば悪夢の中でしか許されない上位者(グレート・ワン)の力だろうと関係ない。

 上位者が求めに求めた赤子の赤子、ずっとその先の赤子の赤子は、もはや上位者にとっても未知なる存在。

 

「―――ぐ、ぅ……ぉぉおおおおおおおおあああああああ!!?」

 

 オルガマリーの瞳が閃光を発する。眠る人の夢を覚ます朝日のように、彼女は両目から悪夢に浮かぶ赤い月の明かりを解き放った。

 それは夢の月光であり、現実を覚ます月明かり。

 

「私はね、レフ――――月の魔物に、血を穢されているの」

 

 赤い月明かりの瞳のまま、オルガマリーはそう微笑んだ。吹き飛ばされて叫び声を上げたレフは驚愕の表情のまま、オルガマリーに向けて目を見開いて更に絶叫する。

 

「なんだ……貴様は、それは一体なんなんだ―――ゲハァ!?」

 

 瞬間、フラウロスは全身の魔術回路が炸裂。大量の吐血を始め、両目から血の涙を流し、鼻と耳の穴からも血流が飛び出した。その光景はまるで、脳そのものが穴を通じて大量出血するイカれた姿であり、入り込んでしまった狂気を発狂する前に脳髄から直接的に瀉血するようだった。彼女に干渉してしまった所為で、逆に彼が魔術越しに狂気に近い何かに干渉され、その霊体と肉体と血管が狂い始めた。

 ……いや、狂い始めるところだった。

 それをレフは咄嗟の判断で、自らの血液を外へ噴出した。そうしなければ、オルガマリーの赤い月光で汚染された血が、レフ・ライノール・フラウロスを今とは違う存在へ作り変えていたことだろう。

 

「瀉血の業……か。それを学んでいなければ、私は貴様に返り討ちにあっていた訳か」

 

「いやはや、不死に近くないと無理な筈なんだけどね、それ。でも、何処で学んだのよ?」

 

「聖堂教会に伝わる秘術さ。何処ぞの秘境から伝わったのか知らんが、死徒に汚染された場合における緊急的処置だよ」

 

「あー……そんなことが。ふーん、ガスコイン辺りかしらね。でも素直ね、レフ。そんなにはっきり応えてくれるだなんて、降参でもする?

 それとも、ここから逃げ出す算段でもついたの?」

 

 一切の油断なく周辺の力場を瞳で監視し、フラウロスの動きにも注視する。無論のこと人間ならば再起不能なまで壊れた筈の魔術回路を修復しつつ、その回路によって再度エーテルを練る魔力の流れにも同じ様に注意する。人狩り専門に特化させた獣狩りの曲刀を右手に持ち、旧式拳銃(エヴェリン)を左手に備える。

 間合いを計る様に所長は、瞳で吹き飛ばしたレフに近寄った。

 油断も隙もなく、更に自分にはカルデアと言う仲間もいる。直ぐ後ろには隻狼がおり、進むマシュの背後から藤丸も近付き、ディールとローレンスも所長を守るようにレフへと近づいて行った。魔術回路が修復可能な化け物だろうと、ここで囲んでしまえば確実に殺せることだろう。

 

「あぁ、算段はついているとも……―――哀れなるオルガよ」

 

「……へ―――ぇ?」

 

「すみませんね、所長。人理焼却に賛同していたのです、私」

 

 所長の背後に居た忍びはあっさりと、女の右手で振われたクレイモアで首を断ち切られていた。油断も慢心もなかったが、暗殺者に彼の意識は注視せず、そして彼女の殺戮技巧は忍びに匹敵する暗殺術である。背後を晒した、それだけの隙が死に直結する程の業。警戒すると言う行いがそも無意味。対処するには、最初から女を徹底的に疑っているか、敵であると事前に気配を察知する必要がある。忍びは女にとって同格の技量を持つ技巧の化身であるが、そもそも同格の化物程度ならば暗殺し慣れていた。おそるべきは暗殺など絶対に不可能な忍びを相手に、いとも容易く暗殺を成功させる究極の殺人技。首を一閃された狼は、女の業を義父の業よりも惨たらしいと理解し、そのまま死んで逝った。

 そして、所長は背後から心臓を貫くように、左手の短剣で突き刺されていた。聖職者を名乗るこの女は剣神に等しい忍びを斬首するのと同時に、隙が全く無かった所長の心臓を刃で抉ったのだ。所長はその声の主を―――アン・ディールを見ようと振り返ろうとしたが、更に首を左腕で後ろから絞められて、大剣を手放した右手でまた短剣を突き直された。グチュリ、と血生臭い音が鳴って所長の心臓から、血が出た。

 

『所長……!?』

 

「ぐ……ぅ……っ――――!」

 

「やはり、良いものですね。自分を信じてくれる相手を、背後から短剣で突き殺すのって」

 

『アン・ディール……―――待て、待て待て、やめるんだ!!?』

 

「ふふふ。さてはてメインを頂きましょうか」

 

 そして、闇色に光輝くディールの左手が所長を鷲掴みにする。更に両腕で彼女を前から抱き締め、強引に自分の唇で所長の唇を抑え込む。舌で相手の舌を蹂躙し、溢れる唾液ごと口内を舐め回す。深淵のように暗い接吻は性的でありながらも冒涜的で、どんな陵辱よりも背徳的でさえあるほどだ。

 マシュと藤丸は助けに飛び出すも腕だけ軟体化させたローレンスの触手が首を絞め上げ、じっくりと所長が死に逝く姿を見るしかなく、そんな自らの無力に苦しむ二人はローレンスにとって最高の娯楽。叫び声さえ首を抑えられて上げられない二人と、啓蒙を喜ぶ一匹の獣と、地面に転がる生首と、遠くで何も出来ない医者と、人類を憎む一柱は、人を犯す闇の悪霊(ダークレイス)が作りあげた深淵の業を垣間見る事となる。

 

「ん……ッ――――」

 

 直後、悪夢のような吸精が始まった。

 白い光が吸い込まれるようにディールは唇から食べ、逆に所長は力を抜かれるように脱力していく。小刻みに体が震えているのが生きている証なのだろうが、それはまるで毒ガスを吸って臨死間際になった小動物のようだった。

 ダークレイスの業であるそれは本来、ソウルを犯して命と性を奪い取る邪悪な力。名をダークハンドと言う小ロンドの闇である。髑髏を模した闇の仮面を被る彼らは人の魂を闇で嬲るに過ぎないのだが、ディールは更なる深淵の業として実際に口付けし、相手から何もかも吸い上げることを可能としていた。

 もはや立つことも儘ならない所長は後ろへ倒れ込み、ディールもまた所長を押し倒すように前へ倒れた。それでもまだ吸精の接吻を続け、アン・ディールは自分が一度に吸い込める限度までオルガマリー・アニムスフィアに対して陵辱の限りを尽くしたのだ。

 

「ふぅ……中々のソウル、ごちそうさまでした。では―――もう一度」

 

 地面に倒れ込んだ所長を足で挟んで馬乗りとなり、ディールはまたダークハンドを光り輝かせた。

 パン―――と発砲音が鳴る。一瞬さえない早抜きで額に銃口を押し付けられていたディールは咄嗟に首を動かし、水銀弾の弾道から避け切った。再度の銃撃に備えてディールは一気に離れ、所長も立ち上がった。

 生きていた所長も凄まじい。だが、早撃ちに対応するディールもまた狂っている。

 だが直後、仕掛け武器が襲来する。たった一歩で間合いを支配した狩人相手に、徒手空拳であるディールに為すすべもなく―――等と、武器が無ければ死ぬ生易しい女ではない。神に至った仙人に匹敵する余りに鋭い体術を突如として万全に扱い、武器を捌きながら反撃に拳と脚が狩人を襲う。狩人は後退しながらも旧式拳銃(エヴェリン)で水銀弾を放ったが、あろうことかディールはその銃弾を手から何かしらの波動を発射することで正面から粉砕した。

 

「そう。貴女こそ、狩人を生み出した暗い魂だったのね―――灰の人」

 

「驚きですね。いや、凄まじい生存執念でありますよ―――夢の狩人」

 

 だが、違うのだ。所長は狩人オルガマリーで在る。その右手は生命力が僅かにでも意志が灯っておれば、彼女は自分の体を動かす事が出来る。ダークハンドによって拘束され、その余りに深い闇は狩人が放つ上位者の狂った眼光さえも魂にぽっかり開いた奈落の穴に吸い込まれ、一切の抵抗が出来ない様に見えたとしても、そうではない。

 右手に咄嗟に隠し持っていた輸血液を太股に差し込み、一瞬にして肉体を甦らせた。

 そして互いに通じたソウルと意志から、ディールがアニムスフィアの全てを理解したように、オルガマリーもアンを理解した。ディールこそ―――否、それこそ虚構。そんな名前の女など、カルデアには最初から居なかった。女の名は原罪の探求者であり、薪の王であり、闇の王であり、火の簒奪者であり、灰であった。

 

「灰か。偉く寂しい名だったのね、アン・ディール?」

 

「あぁ、それ偽名です。本名はそっちの灰。

 そうですね、恩人の彼女からは灰の人(アッシェン・ワン)と呼ばれていましたね。もし私を呼ぶなら、簡単にアッシュとでも言って下さい。まぁ、別に好きな名で呼んでも良いんですけどね」

 

「そう……アッシュと言う訳ね」

 

 つまるところ、原罪の探求者アッシュ・ワン。それこそ、この灰が持つ本当の名前となる。

 

「けれども、どうか大人しくして下さい。所長、そこで触手プレイの餌食になっている貴女の部下が、これからどんな結果となるかは、貴女次第と言う訳ですからね」

 

「―――はぁ……別に。捕まった時点で基本、死んだ者って考えるのが普通じゃない?

 貴女って何と言うかね、やっぱりちょっと抜けてるわよね。この私がまさかそんな程度のことで命を危機に晒す訳もないでしょうに」

 

「ふふふふ……あら、冷たいです。マシュさんは、所長の為に腕を失ったと言うのに」

 

「えぇ。だって、私がそんな普通なことをするとでも?」

 

 桜色の祝福が死体に降り注ぐ――――刹那、オルガマリーの隻狼は影ごと消え去った。薄井の森に潜む霧がらすのように、忍びは一瞬の間でローレンスの上空に移動。落下と同時に鞘から引き抜いていた楔丸と、仕込んだ義手忍具である錆び丸を義手に備え、二刀同時の斬撃を繰り出した。

 呼吸一つ挟む時間なく、ローレンスの触手は切断される。

 首を支点に空中に吊るされていた藤丸は落下し、マシュは落としてしまった盾を咄嗟に拾い直した。

 忍びは追撃でローレンスを二刀連撃で斬り刻んでも良かったが、今は安全確保を第一とする。戦う手段がない藤丸と手負いのマシュを敵と裏切り者共から守る為、二人の前で愛刀を構え、心臓を握り潰す凶悪な殺意で以って牽制していた。

 

「あぁー…‥油断しましたね。不死でしたねぇ、貴方。あの怪物の“神の怒り”を受けて生きていたのは不思議でしたが、そう思えばそう言うタイプの不死性でしたね。死ねば幾度かその場で蘇生する。

 ダークレイスの接吻が所長に決まった所為で、ちょっとテンション上がってましたか」

 

「隻狼、二人を守っていなさい。絶対よ。この裏切り者三人は、カルデア所長として処断します。それと、あいつら卑怯者だから、また手負いを必ず狙ってくるわよ。気をつけなさい」

 

「―――御意のままに」

 

 一言のみ、忍びは了承の念を漏らす。それだけで、彼は何者にも動じぬ像と成り果てた。

 

「―――狼さん……!

 私が先輩を守りますから、貴方はサーヴァントとして所長を守って下さい!!」

 

「……………」

 

「狼さん……?」

 

「……………」

 

 再度、刀を構え直す行為だけが忍びの返答。本音を言えば藤丸も所長の加勢をしたかったが、それをすれば自分とマシュは死ぬ。必ず死ぬ。先程まで仲間だった筈のローレンスの悪意を首から感じ取り、あの男はマスターの命令ならば何でもするサーヴァントなのだろう。

 そのローレンスは、既にマスターであるアッシュの方へ回っていた。自分とマスターで挟み撃ちにする方が良いとローレンスは思いつつも、念話によるマスターからの指示となれば従わざるをえない。結果、所長と灰が先頭で向かい合い、三対四の睨み合いに移行した。

 

「それで何故裏切ったのよ、ディール……じゃなくて、アッシュ?」

 

「別に名はどっちでも良いと言ったでしょう。でも、その問いには答えましょうか。何と実はですね、レフさんに協力すれば、この焼却から私と私の家族だけは助けてくれると約束してくれたのです。地表全ては焼き払われ、人間が住まう場所など一つもなくなり、文明が完全崩壊しようとも、此処とは違う平和な平行世界に送ると言って下さいました。

 …………カルデアを、裏切りたくはありませんでした。

 しかし、親兄弟を生きたまま焼き殺すと言われ、泣く泣く私は裏切りを働かないといけなかったのです。ですから、どうか私は助けて下さい、所長。お願いします、この命乞いを聞きいれて下さい!!」

 

 両手を合わせ、涙目で命乞いを願うアッシュは、本当にそうとしか見えなかった。放っておけば、土下座までする雰囲気である。

 

『嘘だ! 聞き入れちゃいけませんよ、所長!?』

 

「ええ、嘘ですよ。流石は浪漫野郎、鋭いです。カルデア以前からの付き合いですからね」

 

 ケロリ、と激しく表裏が裏返る。しかし、ロマニはこの女がそう言う手合いだと分かっていた。

 

『貴女がそういう女だって言うのをボクは分かっている。カルデアを裏切った理由も、魔術師らしく目的達成に近道だからって事だけだ』

 

「そうそう、裏切りの理由なんてそんなものですよ」

 

『……ッ―――貴女は、そんな程度のことで、カルデアを!!』

 

「んー……いや、少し勘違いですかね。私が裏切りを始めたのは、そこの裏切り者が爆破テロをした後ですからね。あの虐殺を迫られる謂われは何一つないでしょう」

 

『―――は?

 だったら貴女は爆破されたのにも関わらず、レフ教授に寝返ったとでも?』

 

「はい。人理焼却……―――とても、良いじゃないですか」

 

 虚偽も真実もアッシュにとっては等価に過ぎない。彼女は自分の目で確認し、自分の頭で思考し、それで得られた事実のみを受け入れる。同じく、人に話す言葉も同じなのだろう。他者に信じられようが、不信を抱かれようが、どちらも同じだ。

 嘘を吐いた直後、さも当然のように真相を吐露する。

 ロマニはその変化も見抜いたが、それは見抜かれても構わないとアッシュがそう考えているからでしかない。

 

「腐った絵画は焼き尽くすものです。人理(テクスチャ)も同じことでしかありません。腐り続ける者共が望まないなら私も放置します。あぁですが、その絵画に住まう者が一人でもその火に死の希望を見出すのであれば―――私は、世界を燃やす火を愛したい。

 腐り膿む前に燃え尽きたいと願うなら、私は人を焼き尽くす人間性の炎となりましょう」

 

 闇のように暖かく微笑みながら、太陽のように強烈な存在感だった。暗い魂が天を闇色に黒く照らし、相対した全員に地獄よりも深い暗黒を笑み一つで示し上げた。

 暗く、深く、高く、温かく、火のような闇。

 この女は本当に、絵画を燃やす様に世界を焼ける者だった。人理など一枚の絵画に過ぎず、されど然程も興味はない。しかし、腐った絵画(テクスチャ)を燃やす炎は、世界を焼き滅ぼす暖かい火は、灰にとって身を温める残り火よりも愛しいもの。

 篝火で身を休める様に、延々と揺らめく焚火を楽しむ様に、灰は何かを燃やす火を見届けたい。

 

「はぁ……それは本当だろうけど、本気で火が好きなんだろうけど、それはカルデアを裏切った理由じゃない」

 

「おっと、それは秘密です。辞表はありませんが退職しますので、所長だろうと話す気はない訳です」

 

「……軽いわね」

 

「えぇ。慣れるものですよ、色々とね―――ではフラウロス、尻尾を巻いて逃げるぞ。もはや頃合いだ。その身を犯す狂気も抜け切ったことだろうて」

 

「貴様が、我らを仕切るのかな?」

 

「構わんぞ。貴公が私を仕切れるのであればだが?」

 

 そのまま大剣(クレイモア)を装備し直し、灰は左手にダークハンドと呪術の火を宿したまま騎士盾の取っ手を握る。深淵の穴を持つ亡者からダークハンドに闇が伝わり、その盾も闇に染まった。火もまた同じく伝播するのだろうが、それをするのは魔力の無駄使いだろう。

 

「あらま。じゃあ逃げるのね、裏切り者共?」

 

「裏切り者ですか……―――ふふふ。えぇ、では裏切り者らしく、処刑される前に何とかしませんと。けれどもね、私の新しい上司さんが嫌だと言うのであれば……まぁ、仕方がないと言うだけのことですから」

 

 その光景をニヤニヤと背後からローレンスは見守るのみ。念話で話された計画通りに進み、こうしてキーとなる者も実際に現れたが、人理焼却は余程な悲劇であり、この特異点は喜劇なのだろう。あのヤーナムと同じく、悪夢を人の夢が巡り、そして我らは決して夢を諦めぬ。それだけを忘れず現実から目覚めれば、悪夢は決して終わらない。

 そして魔術回路と霊体を修正し、あの狂気を発狂前で瀉血によって排除したフラウロスは立ち上がり、まるで巨悪に立ち向かう人間のようにカルデアの前に立ち塞がった。

 

「この―――……っち。まぁ、良い。貴様相手に煽り合いなど不毛なだけだ。所詮、人理焼却さえも些事でしかない狂った人間性の化身め。

 ……だが、貴様らカルデアにはどちらも同じことだ。

 既に人類は滅んでいるのだから。もはやこの結末は誰にも変えられない。

 これは人類史による人類の否定だ。お前達は進化の行き止まりで衰退するのでも、異種族との交戦の末に滅びるのでもない。

 自らの無意味さに!

 自らの無能さ故に!

 我らが王の寵愛を失ったが故に!

 何の価値もない紙屑のように――――跡形もなく燃え尽きるのさ!!」

 

 グニャリ、と時空間が歪み切れた。風が吹いた霧のように世界が薄れ出し、裏切り者共(ベトレイヤーズ)の背後で此処では無い何処かに繋がる異空間廊(トンネル)が強引に開門した。

 

「君なら分かるだろう、マシュ?」

 

「……っ――――!」

 

 その言葉が発動キーになったのか分からないが、大聖杯が崩壊した。恐らくは、レフがカルデアを爆破したように何かしらの爆発物を使ったのかもしれない。その破壊力は凄まじく、この大空洞が完全崩落するのも時間の問題。

 この特異点Fは―――崩壊する。

 

「私はそろそろお暇する。君を殺せなかったのは個人的に残念だったがな、オルガ」

 

「私もよ。どの世界に逃げようとも追って、貴方を必ず狩り殺すわ。約束よ、レフ」

 

 邪悪な憎悪の貌で所長を睨むも、諦めたようにトンネルへ向かう。

 

「では、来給え。人類史を焼き尽くす同胞共」

 

「はい。それでは失礼させて頂きます。カルデアの皆さん、ではまた世界を焼く時にでも」

 

「我らは決して夢を諦めない。ならばこそカルデアよ、また何処ぞの悪夢で再会しようか」

 

 オルガマリーは裏切り者共の逃走を許す。空間を超えて消え去る三人を見送り、この特異点を安全に脱出する方を選択した。

 自分は良い。隻狼も大丈夫だろう。

 だがマシュ・キリエライトと藤丸立香は万全でなければ、意味消失に耐え切れないだろう。

 

『特異点の崩壊が始まっている。時空の歪みに呑み込まれるぞ。急いでレイシフトだ!』

 

 カルデア管制室でロマニは、医師にも関わらず完璧な操作によって澱みなくレイシフト準備を整えた。最初から用意していたように、後はキーを一つ押し込むだけで発動できるようになっていた。

 ……マシュは、マスターである藤丸と手を握る。

 一人で身を放り流されるよりも、誰かの体温を手で感じ取れる方が自分を見失わずに済む。

 

『いいかい、とにかく意識を強く持ってくれ。位相の波の中、意味消失になんとか耐えるんだ!』

 

「そうよ、マシュと藤丸。結構辛いから、二人は手でも繋い…………―――ほうほう、もう繋いでいるのね。偉い偉い。

 じゃあ、フォウは私の方に来なさい。邪魔しちゃ悪いからね」

 

「「所長!?」」

 

「フォウ!」

 

「アサシンはどうする、私と繋ぐ?」

 

「……御冗談を。しかし、主殿が……そう望むのであれば」

 

「いやね。冗談よ、冗談。

 さ―――皆で帰りましょう、私達のカルデアに」

 
















 原罪の探求者、改めて最後の灰について。ついでに、生まれは女の聖職者。名前は複数あり、薪の王、火の奪還者、原罪の探求者、火の無い灰。本人は原罪の探求者を真名とするが、名前は単純に灰となる。
 ↓
 200X年、マリスビリーに勧誘されて、ホイホイ南極へ。
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 デミ・サーヴァント計画に興味深々。英霊のソウルでルドレスの錬成炉を使いたくなる。むしろ、その気になればマシュをそう言う完全体に錬成可能。 
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 所長が死んだ後、自分のダークソウルの気配がする女が新しく所長に。
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 話して見た所、精神性が絵画世界のソウル中毒者に近いので仲良くなる。
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 テロに巻き込まれる。
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 異星の神がキリシュタリアと接触。
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 他のクリプターも異星の神に保管される。
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 キリシュタリア、交渉頑張る。
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 しかし、灰は最初から覚醒済み。そもそも篝火がないと睡眠する生態さえ備わっておらず。
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 神だったので適当にとりま糞団子を投げる。闇霊の対人礼儀は守ります。
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 糞団子、その衝撃に神が戦慄。
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 亡者の王として食べた最初の火を全力燃焼させ、火の奪還者を超え、彼女だけが持つ闇の薪の王モードに。
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 異星の神の不思議空間を、世界を焼き滅ぼす火で焼却。
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 空間を消滅させ、篝火を刺す。時間と世界を超えて脱出。
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 虚数空間に出てしまう。
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 冷凍亡者キャンセルに成功。
 ↓
 虚数空間、深淵より快適。
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 此処でまた篝り火セットし、単独顕現もどきで元の世界に戻ろうとする。
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 ソロモンの千里眼がヤベーのを見付けてしまった。見なかった事にしたいが、あれがカルデアに帰還すると時間神殿がファイヤーされて終わる。多分、人理焼却も効かず、計画成功してもタイムスリップに篝火で着いて来る確信があった。と言うより、この亡者の王は人間以外に勝ち目がない。何せ聖杯だろうと神霊だろうと、誰も到達出来ない本物の不老不死。
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 特異点Fに行く途中だったフラウロス派遣。相手の正体を知って恐怖する。
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 虚数空間で仲が良かった同僚の話をちゃんと灰は聞く。
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 前の世界と同じく、腐るならと世界燃やす運動に賛成。むしろ、滅びて腐る前に燃やすべき。
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 別にこの平行世界の汎人類史一つくらい良いかとノリノリ。
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 火を喰らった亡者である故に、そもそもな話、人理の炎を手に入れたい。星の火の輝きを見てみたい。
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 最初から世界など救うつもりはなく、滅びようとも平行世界に移動してまた探求の旅をすれば良いだけ。
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 特異点Fにフラウロスに連れられて移動。
 ↓
 何気ない顔で所長と合流しようとする。
 ↓
 千里眼を見返されたフラウロスが焦り、間違えて灰のルートにヘラクレスを送ってしまう。
 ↓
 所長と再会。
 ↓
 本編。

 序章が完結しました。取り敢えず目的でしたフロム主人公同士の濃厚な場面を書けて良かったです。流石にこの序章が、薪の王と狩人様の二人が幸せなキスして終了するとは、リハクの目でも見抜けまい。けれどもダクソしている人間なら、良くやっている事ですので分かっていたアンハッピーエンドでした。

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