被処刑者の四肢の骨を砕いて梟示・処刑する方法。車輪に固定した四肢の粉砕。車輪を用いた四肢の粉砕。また粉砕後に車輪に括り付けるなど、地域や時代によって過程に異なるところがあるが、粉砕された被処刑者の肉体が車輪に括り付けられて梟示されるのは共通となる。車輪を用いるのは、古代に太陽神に供物を捧げる神聖なイメージがあったためとされる。
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とのことで「この先、車輪骸骨に注意しろ」のメッセージを前書きします。
しかし車輪が太陽のイメージだと考えると、不死を車輪に括り付けて亡者後骸骨化処刑していた連中はダークソウルだと何処所属なのか不思議ですよね。絵画世界はグウィンの居城であるアノール・ロンドにありますから、地下にいた大量の不死だった亡者の更なる成れの果てである車輪骸骨は、太陽神に対する捧げ物だったのでしょう。そして、車輪骸骨は骨ニートの地域にも沢山います。そう考えると、不死を処刑していた宗派と考えると怪しいのは白教であり、主神ロイドの正体も色々と考察出来ます。
となれば、ロイドもまた太陽であり、ニトも太陽神の属性を持っているのかも、みたいな雰囲気です。個人的には、ニトとグウィンが人間共に人間から生まれた不死を自分達で迫害させる為に神話として作った架空の主神派ではありますけど。ついでに人間が主神ロイドを信仰すれば、そのソウルパワー的な奇跡の物語が伝承として王のソウル持ちの力に変換されてたんじゃね、と思っています。まぁ、最初の火の写し身が太陽みたいなものですので、王のソウルを持っている三柱と暗い魂の持ち主も、言うなれば太陽神みたいな闇の生物なのかもしれませんが。後、ダクソ3のカーサスで出た車輪は、多分覇王が車輪刑で人々を処刑しまくった名残なのかなぁと考えてます。
またこの辺の妄想は時系列設定に組み込んでいますので、車輪骸骨と白教の関係はこの二次創作だとそんな雰囲気にしています。
竜血騎士団詰所。オルレアンに設置された本陣。その要塞から離れた場所にあり、ヴラド騎士団長によって運営される竜の吸血鬼による部隊であった。しかし騎士団長であるランサーのサーヴァント、ヴラド三世は単体でその騎士団全てに匹敵する一匹の吸血鬼。竜の魔女によって兵器として運営される単独戦力であり、普段はこの国がオスマンであると錯覚されたフランスを焼き尽くす為、ほぼ毎日襲った街や村の住民を串刺しにし、抑止力として召喚された敵陣サーヴァントも串刺しにする毎日。
ならば、また別に指揮官がいた。
部隊に分けられた騎士団を纏めるヴラド騎士団長に従う副官がいた。竜血騎士共に団長とランサーが呼ばれるように、その吸血鬼は副団長と呼ばれており、隊は実質その男が纏めていると言っても過言ではないだろう。
「はぁ……はぁ、あ―――あぁ!」
「…………」
「あぁ……あ、あ、あー……っ」
「……ふぅ」
とは言え、元より徒党を組んだ血に飢えた獣の集団。命令すれば各々が好き勝手に皆殺しにし、洗脳されて植え付けられた戦術通りに連帯を組むだけ。言わば、魔女の怨念で調教された猟犬に他ならない。副団長が何処を襲え、あれを襲えと指示すれば、吸血鬼に抵抗する能力を持たない
本当に、彼らにとって人など餌に過ぎない。喰らえと命じるだけで良い。そうすれば何も考える必要もなく、餌場で生き血パーティを繰り広げるだけとなる。
「ア、ハァ……アアアアア!」
「く、むぅ……」
よって、暇潰しに副団長が走るのも必然だ。大き目のベッドが一つある暗い部屋にいるのは対面するように女を自分を跨らせて座らせている男と、その男に群がる幾人もの女体。そして、疲れ果て床やベッドに寝転ぶ裸体の女達。
―――性に飢えた狂宴だ。
捕えた女を貪り喰らう獣の御遊戯だった。
副団長に選ばれた男は吸血鬼となり、ワイバーンの血を吸うことで竜の眷属となり、そして人外の化け物になった。だが、人間だった頃と何一つ変わらなかった。罪人として牢獄に叩き込まれた時の人間性のまま、男は人間以上の怪物となって何も変わらず人生を自分なりに愉しんでいるだけだった。
「副団長、出撃命令でっせ!」
「あー……ったく。見りゃわかるだろ。俺は今忙しいっての。そらよ、フンフンフン!」
「アァアアアーー!」
「そーは言いますが、団長様からの御命令ですぜ」
「―――あん?」
突如としてその暗がりの部屋に入って来た騎士に副団長は悪態を
「カルデア狩りですぜ。魔女様の啓示の通り、我ら竜血騎士団の楽園を滅ぼしに、クソッタレ共が遂に来たそうでっせ!」
「ナヌゥ……?」
副団長は罪人出身の吸血鬼だが、その手で抑止として現れたサーヴァントを殺した事がある元傭兵の竜血騎士。剣術や体術の技量だけを考えれば、それこそ殺戮技巧の技能を持つ人間だった化け物だ。そんな者が人外の身体能力を与えられれば、その戦闘能力だけで副団長に選ばれるのも当然。更に歴戦の傭兵であり盗賊だった罪人故に、戦争において集団戦でも高い戦術を行使する。
だから、嗤わずにはいられない。
殺して殺して、殺し続けて、遂に国家権力に捕縛されて死刑を待つだけだった身。
若い頃ならば国家に仕える兵士など容易く殺して逃げられたが、もはや老人と呼べる年齢となり、戦場を渡り歩いた事で負い続けた怪我が男を弱くしていた。殺戮技巧は鈍らずとも、身体能力はもはや弱兵に過ぎなかった。そうなれば悪逆から足を洗って真っ当な人生を送ろうとしない限り、国に捕まって死刑となるのも当たり前な未来。
「ククク……」
だが、それら全ては魔女様と騎士団長様によって覆った。若い頃以上の肉体で以って、今まで培った技術を振って人を殺す事が出来た。牢獄からも脱し、化け物になって思う儘に人間を殺せた。
「……カルデアかぁ」
サーヴァントを殺すのは、酷く面白い。奴らの流血を啜れば、更にこの体が強くなる。
「ア……ハァ、あ―――イヤァァアアアア!!」
ならばもう用済みだ。貫いていた女の首筋に齧り付き、その生き血を鱈腹呑み込む。そして、男は自分の血液を女に流し込む。しかし、暇潰しで用済みになったからと殺しはしない。見た目が良い女は、騎士団の士気向上に重要な道具。戦果を上げてよりフランスに戦火を広げた騎士に与える報奨だろう。更に人間から吸血鬼にしてしまえば、もっと頑丈な玩具となる。そんな竜血騎士団のシステムを作ったあの“人間”を、副団長は化け物になったと言うのに恐怖しかなかった。
あの灰と名乗る女は外道を更に腐らせた邪悪であった。
悪だとか、闇だとか、そう言う概念で現せるモノではなかった。
恐怖と言うカリスマ性に満ちた黒い女王。団長の後ろに魔女がおり、その後ろにあの狂った元帥がおり、その裏側にはあの女が竜の亡国には存在している。
逆らう気など―――起きる気にもなりはしない。
「おい、他の玩具はテメェらの好きにしな。オレっちは用事を済ませてくらぁ」
「グッヘッヘッヘ、有り難てぇ。感謝しやすぜ、副団長様」
「偵察部隊は?」
「樹や草に擬態中らしいですぜ。連中まだあのワザを見抜いていねぇみてぇです」
「オーケーオーケー、んー実にグッジョブ!
じゃあ、俺ら竜血騎士団―――英雄狩りに洒落込もうとしようか!!」
◇◇◇◇◇
朝日は特異点だろうと昇るもの。むしろ、全て焼却された世界に日は昇らず、火だけが世を焼きながら照らすのみ。今となっては殺戮が繰り広がる特異点と言う地獄だけを、光の源である太陽は照らしている。管制室で支援する皆は日の光に当たれず、現地で戦う者が健全な空間で呼吸が出来るのは皮肉な話なのだろう。
「一晩、ありがとうございました」
「いえいえ、大丈夫さ。それにしても、そちらのお嬢さんはもう大丈夫かな」
「あ、はい。マシュ・キリエライト、完璧に回復しました。トマスさん、御好意感謝します」
「ああ、困った時はお互い様だよ。忘れ物はないかい?」
「はい、大丈夫です!」
この家の家主はマシュに優しく微笑んだ。暇な時は狩りを営み、酪農もする農家でもあるトマスは、やはり人助けは無駄にはならず、こうして厚意によって金銭も得る事が出来た。無駄になることも多いが、良い事をすればそれは自分に帰って来ることもある。
―――
万国共有な諺通り、業は巡り巡って還るもの。今回は直ぐ様に金銭と言う形でこの狩人に還ったが、善人は損もするが得もそれなりにあるものだ。
「えー、とーちゃん。お姉さんたち、もういっちゃうの?
わたし、まだ遊んでもらってなーいーのーにー」
「駄目よ。ちゃんと、さようならって言わないと」
「でもね、かーちゃん……んー、わかりました。みんな、さようならね!」
「ええ、さようなら」
「はい。さようならです」
そんな光景を藤丸は笑いながら見届け、自分も挨拶をした後は可愛らしい子供に手を振った。そうすれば、あの夫婦が育てた利口な幼子は、彼に対して嬉しそうに全身を使って手を振り返す。
「お世話になりました。お元気で、トマスさん」
「ああ、オルガマリーさん。御達者で」
そう微笑む所長が出した手をトマスは握り返し、山の森で出会った狩人とその家族とカルデアは別れを告げたのであった。
「では、出発します。目的地はラ・シャリテ、今日は余り休まず進みますからね」
「はい、所長!」
「マシュ・キリエライト、了解です!」
「うむ、結構。元気で宜しい!」
「……元気ですねぇー」
余りに眠れなかったジャンヌは、何だかんだ結構元気が復活しているカルデア三人衆の後ろ姿を見ながら呟いた。
……ワイン、今度死ぬ程呑もう。
そんな事をジャンヌが思い悩むのも無理はないだろう。偶には頭の中身を全て空っぽにして、悩み無く深い眠りに付くのも悪くない。
「面白い人たちでしたね」
「そうだね……」
農村から去って行くそんなカルデア一行を見送った後、狩人のトマスは妻の言葉に軽い返事をした。一晩だけ泊らせた見返りに多額の謝礼を貰い、当分は金銭面で困ることはない生活を思えば、自分の親切は良い方向に進んだと嬉しく思う。
……戦争は終わらないが、終わらない殺し合いはない。
侵略者を送り込むあの島国との休戦も、この静かな村で過ごせば何時かは訪れる。
周囲との関わりが少ない長閑なこの村は国家の繁栄などに興味もなく、強いて言えば税収だけが悩みの種だが、その税務官も最近は厭味ったらしい催促にも来ない日々。
「今日は、どうしようか……?」
「動物に運動でもさせたらどう?」
「それは、まだ良いかな」
まったりとした時間。既に客人が去って数時間経過し、そろそろ“昼のディナー”にしても良いかもしれない。狩り取った獣の肉は殆んど保存食にしたが、今日の分の肉はまだ残してある。
「とーちゃーん、ご飯したら今度私にも狩り教えてよ!」
「んー…‥良いけどね」
「やった!」
「けれど、とーちゃんと行く時はお姉ちゃんやお兄ちゃんも一緒だよ」
「えー。ねーちゃんとにーちゃんは良いよぉ……私だけ、私だけ!」
―――ボン、とそんな爆音が聞こえたのは本当に突然だった。
トマスは自分の家が農村の外れにある事を考え、その爆音が村の中心で起きたことを雰囲気で察した。嫌な予感などと言うレベルではない直感が彼を襲い、森の中で大熊と遭遇した時以上の恐怖心が湧き上がった。
「……え?」
「あ、アナタ?」
「少し見て来る。家で待っていてくれ」
「え、ええ」
「とーちゃん……」
そう言って家から出たトマスは見たのは―――火の海だった。
「なんだ、これ……―――何なんだ、これは!?」
見たこともないが聞いた事がある幻想の中にしか居ない筈の生物―――ワイバーン。トマスが暮らす村の上空を飛び回るそんな化け物が家を焼き、人を焼き、何もかも焼き払っていた。自然と足が地獄の方向へ進んでいたが、我に返った彼は咄嗟に森の木々に身を隠した。道に居れば、あんな上空から地面を見回す化け物からなんて一瞬で見つかってしまうだろう。
そして、上空のワイバーンから飛び降りる人影。あの高さから地面に落ちれば人は死に、鎧を着込めば自重で圧し潰れる筈なのに、その騎士達は何でもないように動き回っていた。人を襲い回っていた。森に住まう狼よりも素早く、熊よりも獰猛に、実に愉しそうに村人を暴行していた。あるいは、そのまま生け捕りにして地面を引き摺り回していた。狂宴に浮かれる者ならば、下半身を露出させて女に襲い掛かっていた。
それは―――虐殺だった。
騎士らは武器で直ぐに殺す場合もあったが、ワイバーンは様々な道具を持ち運んでいた。あれが何なのか、考えたくもない。あの騎士達に捕まった村人がどうなるのか、トマスは想像したくもなかった。
……息を、静かに殺す。
狩人として培った気配殺しで自然と融合する。
生き物を殺す際、自分の思考さえ止める専心で彼は隠れ切った。
「なんで、いきなり……神よ、どうして!?」
そして、処刑が始まった。遊び道具で御遊戯をする子供のように、処刑人役をする騎士が人々を殺し始めた。同時に見物する騎士達が捕らえた女を犯しながら、そのショーにヤジを飛ばしながら遊んでいた。五分もしない内に、即席パーティーが始まった。
串刺刑。生きたまま、串刺しにされる苦痛。獣でも発しない断末摩が響き渡った。
斬首刑。鋭く首を撥ね飛ばし、血液が飛び散った。苦痛に満ちた生首が転がった。
射殺刑。矢の的に人を代わりにしていた。一撃で殺さず、手足から射抜いていた。
車輪刑。手足を砕いて車輪に括る激痛。その車輪を柱に取り付けて、飾っていた。
……家族を目の前で殺された後、直ぐに殺される悪夢。バラバラになった人間のパーツが地面に転がっている狂気。そんな様々な処刑が一斉に、村中のあちらこちらで行われていた。
「あ、ああ―――…‥そうだ!」
そう思い出し、トマスは急いで家に戻った。自分には守るべき者がいて、守らないといけない妻と、息子と、娘達がいる。
―――嫌な、予感がした。
戻ることを自分の魂が拒絶していたが、それでもその恐怖を家族に対する愛情が抑え込んだ。
「俺のモットーなんだ、
「あーひゃひゃひゃ!」
「い、いや――イヤァァアアアアア!?」
地獄だった。地獄だった。地獄だった。目を背ける事もできない地獄だった。
妻が―――凌辱されていた。
娘が―――腑別されていた。
自分の家からも絶叫と嘲笑が聞こえてきた。家に居る筈の長男と長女も、やつらケダモノの餌食になったに違いない。
「あ、あ……――あぁぁああァァァアアアアアアアアアアアアアアア!」
娘の首が、槍に突き刺さっていた。妊娠していた妻の
トマスは、見ていることしか出来なかった。
ただただ恐怖の虜になっていた。助けに出ることを身体が拒絶していた。
――火が、焚べられた。
人間を薪にする戦火の炎が灯された。
もはや安全圏などない。平穏だった静かな農村は一瞬で地獄に落ちたのだ。
「夢なら、夢なら……ああ、神よ。夢なら、こんな悪夢から早く醒まさせてくれ―――!」
生存本能のまま、家族を置いて逃げ去った。トマスは妻と子を置き去りにし、自分だけが生き残りたいと森の中を突き進んで行った。
……一匹の吸血鬼だけが、その気配に気が付いていた。
「追えい。逃がすなよ、御愉しみはこれからだぁ……―――ヒャッハッハハハハハ!!」
◇◇◇◇◇
―――脳が疼いた。
「……来る」
「え。何が?」
「ちょっと茶化さないで、藤丸。敵よ、敵。こっちに意志を向けてるわね。しかもかなり邪悪」
「それまた急ですね。でも、まだ反応はないですよ。ドクターからも何の通信もないですし、狼さんやエミヤも発見してない雰囲気っぽいですから」
「気配とは別なのよね。何と言うか、世界がズレ込むような違和感と言うか、脳の中にある異物感とでも説明すれば良いのかしら。今一例え難いんだけど……あ。ほら、ワイバーンよ。
雰囲気、何か乗っけてるわね。何かしら――――ッ……」
『―――あー……すみません、所長。
丁度そちらに向かう生体反応をカルデアでも探知したのですが、所長の言う通りワイバーンと吸血鬼になったあの騎士らが―――……待て。他にも居る。
これは今一判断が付き難いと言うか……何だろう、生体反応を持つゴースト?』
「――――――っ……」
「貴方にも見えたのかしら、エミヤ?」
「あぁ、見えたとも―――串刺しだったよ、あの屑共め……!」
『……どう言うことだい、エミヤ。こっちからだと映像解析はまだ出来なくて』
「ドクター、今は反応だけを見ていれば大丈夫だ。しかし、これでは……―――所長、君は如何見る?」
「迎え討ちましょう。そう言う戦法を選んで来たということは、あちらの挑発行為ごと潰すのが一番手っ取り早いですからね。けれど、まず最初に私達の戦意を挫こうとするとは……はぁ、全く。あの英霊らしい悪趣味極まる戦争の仕方です。これは確実に、吸血鬼化した騎士共のネタはあのサーヴァントで当たりでしょう。
マシュ、藤丸―――眼を逸らさない様に。
戦い抜く意志が消えれば、もう立ち上がれないと思いなさい」
オルガマリーの脳が―――疼いていた。
串刺しと、千里眼で確認したエミヤが殺意と嫌悪で呟いた一言。彼女はそれを聞く前に全てを察してしまった。瞳によって脳が啓蒙され、地獄をまた一つ知ることで何かが脳髄に注ぎ込まれていった。
そして、その光景を瞳で確認した。そこまで徹底することに狂気を覚えて人間としてその所業に嫌悪し、だが狩人として血が煮え滾る強い興奮を覚えた。所長は血と狂気と人間性に酔って笑みが浮かびそうになるが、鋼の意志で抑え込んだ。
「了解しました。けど、その……エ、エミヤさん?」
所長の命令は任務遂行の前提として聞くが、それでも異様なまで殺気を放つエミヤの存在感は味方である筈のマシュにも辛い圧迫感がある。そして、冷静沈着なエミヤをそうさせる何かが非常に怖かった。
「―――……すまない、マシュ。私はどうやら、冷静ではいられなかったようだ」
「エミヤ……何が、見えたんだ?」
嫌な確信を持ってマスターである藤丸は自分のサーヴァントに問う。これから自分が一体どんな奴らと戦わないといけないのか、それを知る為に確かな情報を得なければならなかった。
「直ぐに分かる。だがしかし……いや、深い傷になる前に教えておく。これから聞く事と、そして見るモノを強く覚悟して準備しておけ。
―――串刺しだよ。
君達にも見覚えのある人々が、ワイバーンに乗る吸血鬼共によって槍に飾られている」
「待って、待って下さい……そんな、そんなことって―――嘘ですよね……?」
「マシュ。オルガマリーの言う通り、目を逸らしてはいけません」
「ジャンヌさん!!」
「これが戦争です。マシュ……貴女が目を瞑れば、誰が藤丸立香を守るのですか?」
今直ぐにでも血反吐を口から洩らしそうな顔色で、ジャンヌはマシュを叱咤した。心さえなければ、葛藤もなく、躊躇もなく、非情でさえない機械になれるのだろうが、人はそうなれない。そして、英雄は人である。死を経た英霊さえ例外ではなく、戦場は人間の心を掻き乱す。
だが―――ジャンヌ・ダルクは死者ではなく、今を生きる人間だった。
マシュ・キリエライトと同じく、命に相応しい今を懸命に生きる人間だった。
彼女は非情になれと言っているのではなかった。冷酷さを得ろと助言しているのもなかった。痛くとも、辛くとも、悲しくとも―――守り抜け、とそう願っていた。
「~~……っ―――マシュ・キリエライト、戦闘準備開始します!」
そんなマシュの気合いが聞こえたのか、ワイバーンに載る騎士らが直ぐの上空まで接近し、そのまま停止。戦闘行動には移らず、何か観察するようにカルデアの周囲に広がっていった。
「良いのかね、所長。私が先手で射殺した方が、何かと効率的だったと思うのだが?」
「バラけられると面倒だわ。エミヤ、閉じ込めて鏖殺しなさい」
「―――成る程。マスター、宝具を使うぞ」
「俺の心配は無用だよ。好きなタイミングでぶちかませ、エミヤ」
「了解した、
死に至る激痛……――それが、一体なんだと言うのか?
藤丸は生きる為ならば、一秒後に迫る死の恐怖を踏破すると決めてきた。生きたいと願うなら、棺桶に片足を入れながら全力で自分自身を痛め付けないとならないと分かっていた。辛いのが当然で、生きたいと願うなら苦しまないといけない事を悟っていた。
ならば、カルデアから魔力を。令呪の下地となった
「エミヤとマシュに魔力を多く回しながら、いけるのね?」
「いけます……ッ―――」
「なら、良いわ。死ななきゃなんとかして上げる」
「―――はい!」
弱点となる自分を守りに徹し、且つ魔術回路に損傷を与え難いサーヴァント。そうなれば、藤丸が取れる選択肢は一つだけ。そしてマシュはライン越しに、マスターである先輩が受ける苦痛を把握していた。1%にも満たない実感だが、彼女の先輩が痛覚そのものに熱湯を流し込まれるような苦しみを耐えている事に気が付いていた。
それを負担することは出来ないが、霊媒治癒は得意な魔術であり、マシュは自分の先輩が怪我をすれば自分が治せば良いと思った。膨大な魔力を流し込まれて損傷した霊体ならば、彼女の腕前をすれば治すのも可能。
「アサシン、佐々木小次郎!」
「―――――――……」
まるで浮遊霊が実体化するように、その青い男はフワリとマスターの隣に具現。目元が影に覆われており、その顔も陰となって表情は全く分からないが、口元は堅く結ばれている。既に長い日本刀を鞘から抜き持ち、雅な風の気配を纏いながら無形の構えを維持し、一瞬も掛らずに近付く標的の首を落とす事が可能であろう。
敵がそうであるように、カルデアもまた準備は整った。
そして―――ワイバーンに乗る騎士達を視認出来る距離になった……なって、しまった。管制室も映像情報を取得出来る範囲に入ったと言うことは、その光景を藤丸立香とマシュ・キリエライトも視界に入れたと言う事実。所長はもう分かっていた事だったが、それは余りに平和な日常から掛け離れた邪悪の営みであった。
「さぁて、オレらが竜血騎士団諸君。人類を救いに来た偉い皆さんにご挨拶!」
「初めまして、殺しに来ましたぁ!」
「こんにちは、死ね!」
「犯すと楽しそうな美女が多いな!」
「ぎゃひゃっはっはっはははははは!!」
「フランス万歳! 魔女万歳!」
「おおおおジャンヌ・ダルクが居るぞぉ!!!」
「キエー!」
「汚物は消毒だー!」
「素晴しい。副団長的に良い声だぞぉ……アッヒャッハハハハハ!!」
実に愉し気に、装飾された槍を揺らしていた。人間の屍を串刺しにして飾っている槍を、騎士達は死を嘲笑いながら振り回していた。股から突き刺さった槍の先が人の死体から飛び出ていて、騎士達は掲げた死体から飛び散る赤い液体を全身に被り、血塗れな鎧姿となっていた。
―――おぞましい姿。
これが果たして人間の成れの果てなのか?
熱狂に浮かれた邪悪共の宴に限りはないのだろう。飾られる屍は芸術品だった。あの騎士共が屍を飾り付け、個性に満ちた一品だった。幾度も繰り返した事が分かる創作活動だった。裸体に剥かれた人々を素材に、処刑した死体で遊んだ娯楽品だった。
火で炙られた黒焦げの屍。
四肢を引き千切られた屍。
弓矢で仙人掌になった屍。
斬首された頭部だけの屍。
四肢と首がない胴体の屍。
車輪に手足を括られた屍。
手足のみ串刺にされた屍。
顔面を鈍器で潰された屍。
色々で、様々で、多種多様にも程がある串刺しにされた人間の展覧会。
マシュは生まれて初めて―――人間が気持ち悪い、とその感情を覚える事が出来てしまった。理性の皮を剥ぎ取られた人間と言う生き物の正体であり、狂えば誰も“この様”に成れてしまうのだと分かってしまった。残虐である事は何ら特別な悪ではなく、人ならば誰でも人にこんな所業を行えるのだと知ってしまった。
「ド、ドクター……どうしてこんな、怪物が……これが―――人間なんですか!?」
『あぁ、あんな奴らも人間なんだ。人間だけが、こんな風に人間を殺すことが出来てしまう。そうじゃない人間以外の生物の事を人はね……怪物って呼んでいるだよ、マシュ』
「……っ―――それじゃあ、なんでドクターは……そんなに冷静で!?」
『カルデアに来る前は、こう言うのに見慣れていたからね。あの騎士達は吸血鬼だけど、ボクは人間があんな風に人間を殺すのを―――脳が、腐るほど見て来た。何も出来なかったけど、何も救えなかったけど、ボクは多くを見届けた。
だからマシュ……君は、それで良いんだ。
辛くて、痛くて、苦しくて、無理せず心に傷を負っても良いんだよ。耐え切れないなら、それで良い。君に責任は一切なく、あるのはボクたちカルデアの身勝手な期待だけだからね』
心が折れても良いとロマニは言う。立ち向かえ、などと口が裂けても言える訳もない。強大な敵が立ち塞がり、そうしないとマシュも藤丸も死ぬのなら、司令官代理として叱咤激励を送りもするが……今は、そうではない。逃げても良く、そもそも所長一人で皆殺しに出来る。
強き人なら、あるいは強く在ろうと出来る人ならば、絶望に立ち向かえるだろう。
しかし、こればかりは違う。人間が同じ人間に向ける邪悪を自分の意志で殺せる者とは、社会正義を超えた個人の意志を持つ英雄に他ならない。正しくそれは、血の意志と呼べる人間性なのだろう。
勝つ為、生きる為―――英雄に成り果てろ。
そんな狂った言葉だけは決してロマニは口に出せない。況してや、マシュに向けるなど有り得なかった。
「……いいえ、駄目です。それでも選んだのは私だから。
生きる為に仕方ないのだとしても―――私は、私の戦いを最後まで続けます!」
『そうか』
目を瞑れば、今まで見通した“死”をロマニは直ぐに思い起こせる。ありとあらゆる死を観察し、人間が迎える最期を垣間見て来た。
はっきり言って、ただの―――日常。
人は死ぬ。惨たらしく死ぬ。ロマニ・アーキマンからすれば、この惨劇も毎日のように夢見る世界に過ぎなかった。蟲のような無感情な心がなければ気が狂う光景であり、あるいは救世主のような強靭なる意志がなければ全人類を焼き殺したくなるような世界こそ、過去のロマニにとって別に何とも思わない人間の姿であった。
―――だが、それは一側面に過ぎない。
こうしてロマニは自分の脳と繋がっているその瞳で、マシュと言う一人の人間を見ることが出来たのだから。
「むふぅー……へへ、これがオレらの本当の敵か。良き哉、善き哉、シリとパイが実にマーベラス」
そして、一番先頭にいる竜血騎士もまた、そのマシュを兜の中からジットリネットリと絡み付くように見詰めていた。小さな呟きは空気に霧散して誰にも聞こえなかったが、あらん限りの悪意と欲情が籠もった言葉であった。
「初めまして、こんにちは!
つまらないものだが、オレらからの贈り物を受け取っっちまいなぁ!!」
副団長と呼ばれた竜血騎士が、狂った笑い声と共に槍を投げた。当然のことだが、その槍は人の死体が串刺しにされており、屍が投槍と共に投げ放たれた。
標的は―――大盾を持つ少女。理由は実に単純明快、見た目が一番可愛らしかったから。
理由にもならない理由で人を殺すのが騎士団心得。吸血鬼の膂力で投擲された投槍の破壊力はサーヴァントの筋力と同等であり、マシュは後ろにマスターや他の仲間もいる現状、それを避けると言う選択肢を脳裏に浮かべる事さえせずに十字盾で見事に防いだ。
「―――っ……!!」
べっとりと盾に生き物の肉と贓物がヘバリ付く感覚が手から伝わった。目を背けることも出来ず、マシュは自分の周囲にばら撒かれた残骸を見てしまった。
それは―――妊婦さんだったあの家の女性。
盾に当たった衝撃で顔半分が陥没した生首が足元に―――落ちていた。
守った筈。守れた筈。けれども、体を自分の盾で砕かれたこの人は守れなかった。そう高速で思考が暴走するマシュは、しかし訓練によって脳と体に覚えさせた戦術を冷徹に実行。
大盾で自分の姿を隠し、その上で周囲を警戒。視界は盾の裏側で塞がるが、魔術師として持つ魔力探知と、憑依した英霊の騎士から学んだ気配探りによって、相手の位置と操作を第六感で感覚。激昂して相手に突撃をする蛮行など有り得ず、茫然と無防備を晒す軽挙を行うなど更に有り得ない。
「ようこそ、我らの故郷フランスに。オレらからの歓迎の意を込めた騎士団パレードは気に入って頂けたかなぁ?
だから歓迎しよう……盛大になぁ!!」
ワイバーンが地に降り、騎士達が上空から下がって来た。そんな最初の一声が、ふざけた男の惚けた言葉だった。相手を煽ることに快感を覚える下衆の笑い声だった。
「―――そして、ジャンヌ・ダルク様。
我ら竜血騎士団、貴女様をお迎えに参上致しました。これは平穏な牢獄から逃げた聖処女だった聖女様への、些細な我らなりの贈り物です。
お気に召して……頂けましたでしょうか?」
なのに、そのおぞましく狂った騎士は、その雅な意匠で飾られた黒騎士甲冑に相応しい仕草でジャンヌに一礼。マシュに妊婦だった死体を串刺しにして飾り付けた槍を投げたことなど一切気にせず、それはもう神殿で神に祈りを捧げるような神聖さに溢れた動作だった。
気が、狂っている。そう相手に思わせる異常性を、相手に無理にでも覚えさせた。
「貴方たちは……ッ―――それが、それがあの私が選んだ復讐だとでも、言うつもりですか!?」
「さて、そればかりは何とも。あの魔女様は我らにとって神に等しき悪魔と言うだけでありまして、ただただこの人生を与えてくれた存在と言うだけです。
騎士の心に有るのは―――崇拝だけでしょう。
ですので、ええ……魔女様の復讐など如何でも良いのですよ。如何でも。
為すべき事を、我ら竜血騎士団は為すのです。血に酔ったまま、血に塗れた戦場を作るのです。よって我らは好きな様に戦争を行い、そして魔女様の復讐に我らの遊興が繋がっているのですからねぇ……」
「そんな……そんな事の、ために―――」
ギリ、と歯で歯を削り取る音がした。ジャンヌは怒りを噛み縛る余り、自分の歯が砕けそうになった。
「―――そう。そんな事の為に、私達は吸血鬼となり、竜の血を吸い、哀れなる人外の竜血騎士と成り果てました。何故ならば、全ては戦争の為。復讐を希う魔女様の手足となり、人喰いの狗となりました。故に、狗に人間の意志など不要。ですからね、こう言う御遊戯も大好きなんですよ。
……
「へい、副団長様」
その命令に酷く嬉し気な返事を返した騎士は、地面にトンと杖を刺し―――直後、死霊が現れた。未だに上空を飛ぶワイバーンの背中に括り付けられていた“ナニカ”が動き出し、そのまま死霊術師の眼前に落下した。
そのナニカは人間らしい何かだった。
人間の形をしていたが、人間だと思えない何かだった。
頭部も、胴体も、両手も、両足も、しっかりと揃っている。健康な成人男性の肉体だろう。生まれた時の形のまま、串刺しにされた屍のような形にはなっていなかった。
「―――トマス、さん……?」
藤丸の消えるような声だけが、マシュとジャンヌの耳に入る。それを聞いた事で、眼前の現実を事実として認識し、正気が闇に堕ちるように削られるのを心で実感した。
―――車輪だった。
自分達を親切にも助けてくれた善良な人が、車輪に組立られているのを見た。
人の形をしているのに、その車輪に括り付けられていて、彼はもう人の姿ではなくなっていた。手足を骨がないゴムのように捩り曲げられ、車輪の骨組に巻き付けられていた。
見る影もなく、人が破壊された姿。
死体となってもまだ生かされ、その魂が屍を動かす動力源にされる所業。
「あ”ぁ”ぁ”あ”あ”あ”ぁあぁああ”ああ―――――ッ!!」
憎悪が声となった。何が憎いのかも忘却し、憎しみだけの残留思念が其処に居た。
「ぢぐじぉ……ゆるざない……殺じでやる―――八つ裂きに”じてやるぅ……!」
死霊術師によって狂わされ、このトマスはもう人間ではなくなっていた。本当ならば憎しみの対象である竜血騎士に殺意を向けることさえも許されず、眼前のカルデアを憎むように精神を支配されていた。
―――魂を冒涜してこその死霊使い。
魔術師として生まれたならば、この所業こそ王道。死霊を武器とするならば、こうしなくては神秘に価値が生じない。
「では、紹介を。こちらは我ら竜血騎士団の使い魔となります。先程の村で平穏に暮らしていただけの誰かの、その成れの果てです―――プ、ククク。
アーヒャヒャッハハハははははハハハハハ!!!
ヤツザキニシテヤルーとか、本気かよ。本当に悪霊ってバケモンは面白いよな、ゲェヒャッハハハハハハハハハハハハハはぁ―――……おい、殺せ」
「へい」
直後、疾走。車輪は副団長の命令を受けた死霊術師がトマスだった車輪亡者を操り、そのまま所長達に突撃させた。絶対にそんな攻撃が通じる訳がないと分かっているのに、迎撃されて車輪のトマスが殺されるだけだと分かり切っているのに、それを望むかのように無謀な突進を実行させた。
回転しながら突き進む車輪の男―――トマスは、憎悪を纏って回り狂った。
「死ね”ぇえ”え”え”――――!!」
パン、と銃声が響く。怨念の絶叫を発していた
何ら突拍子もなく、自然体のまま所長は恩人だった悪霊を撃ち殺した。
「―――…………まぁ、私の責任かしらね」
あの村に自分達が寄らなければ、こうはならなかったかもしれない。所長はそんな思考をするも、何一つ罪悪感を感じずに責任を認めた。
罪は、殺して遊んだ竜血騎士にのみ生じるもの。
だが、殺し合いに巻き込んだ責任は所長のもの。
故に、トマスの殺害は彼女にのみ許されたもの。
「はぁナニソレ、つっかえな。家族を見殺しにした男に過ぎねぇか……っち、塵め。エンジョイ&エキサイティングじゃなさ過ぎるじゃん」
副団長はヤレヤレと人を酷く苛立たせるポーズで呆れの感情を示す仕草を行い、そのまま思念によって部下達に伝達を行っていた。
周囲を囲むだけではない。ワイバーンとそれに乗る騎士も使い、上空までカルデアの徒党を覆い尽くしていた。
「ジャンヌ様。降参して頂ければ、こんな悲劇はもう生まれません。さぁ、我らと共にオルレアンに戻りましょう」
「嘘ですね……あの私がいる限り、フランスを焼くのを止めないでしょう」
「かもしれません。しかし、我らの元帥様は大変聖女様を御心配していた御様子。ならば、その心配を取り除くのもまた騎士の役目。
聖女が現世に対する執着心を無くせる様にと……えぇえぇ―――ドン・レミ村は我々が丁寧に、念入りに、隅から隅まで焼き払いました」
「―――は?」
「生まれ故郷に帰っていると思ったのですが、それは実に浅はかな考えでしたのでしょう。特に意味もなければ、別段命令も無かったので理由もなかったのですが、目に付いた男は適当な数を殺しておきました。勿論、女は犯して遊びました。
この村がそうなったように―――あの村も、そうなりました。
後は何時も通りに宴をしただけですね。手足を切って樽に詰めて、人間ワイン蔵など作っても見ましたが、吸血鬼にとって中々に快適な村落にはなれたと思いますぅ!」
焼かれて視界を失った右目から―――血涙が流れた。噛み締めた奥歯が削れる音と共に、歯茎から流れ出た血液が口の中に溜まり 、口の端から零れ落ちた。ジャンヌは狂う程の怒りを上げるのを我慢し、しかし抑えきれない感情が血となって流れ出る。
「……ッ――――――」
ジャンヌ・ダルクは憎悪を知らぬが、喜怒哀楽が欠落した人間性無き亡者ではない。限り無い程の憤怒は人間である事の証であり、その所業を知って怒りを覚えない者こそ非人間なる獣性の証である。
だからこそ、血の様に真っ赤な―――怒り。
骨が軋む程の感情が筋肉に宿り、握り締める手は僅かに振え、思考回路が感情で潰れていく。戦いへの恐怖、悲哀、躊躇、苦痛、それら全てが赤く塗り潰されていく。
「しかし、それもカルデアの皆様方が滅ぼしました……―――クソがよぉ、邪魔しやがって。折角、そこの聖女様が生まれ故郷に帰って来た時の為に、騎士を派遣したっつーのに台無しにしやがって!
こっちはカルデアの事を聞いてんだぜ。人理を救済、世界を救う……?
馬鹿か。これが人間だよ……オレたち竜血こそ、人間と言う名前の獣に他ならネェって話さ。このフランスはオレらの世界だ。オレらが人を殺して奪い取った楽園だ。誰にも渡さネェ!!
神だろうと、英雄だろうと、救世主だろうと関係なく―――魔女様の為に、このフランスは地獄で在り続けるんだよぉ!!!」
死霊を操る魔術師の竜血騎士が、一斉に溜め込んだ神秘を解放した。他の騎士らも戦闘準備を終え、直ぐ様にでもカルデアを皆殺しに出来る戦意と殺意を整えた。
「あぁぁあああああああああああ……ッッ―――!!」
もはや耐えられないとジャンヌは駆けた。車輪亡者が大量にワイバーンが舞う空から投下され、亡霊が一気に出現し、屍を矛先とする串刺し槍を騎士らが一斉に投擲したが、それでも構わなかった。同時に降り注ぐ屍槍へ対し、マシュは盾を構えた。魔力防御と盾の概念を魔術的に利用し、空中にエーテルシールドを展開することで、自分と周り全てに守りの加護を与える。よって人間だった屍は聖なる十字盾の守りと衝突し、そのまま肉塊と肉片となって地面に砕け落ちた。
覚悟を、決めたのだろう。躊躇わないと、決めたのだろう。
展開した盾越しに人肉の触感を味わいながら、マシュはシールダーとして人間の肉体を盾で叩き潰す所業を始めて行った。
「ジネェェエエエエ!」
「ゴロ”ジデヤ”ルゥ!」
「ごの恨み”晴ら”ず!」
「死ネシネシシシシ!」
「ハラワダ摺リ出ズ!」
「殺じてゴロジデェ!」
そして、車輪亡者の第一陣が迫った。
しかし、マシュにとって何一つ問題はない。
生身の人間を容易く肉片に変えて轢殺する脅威であろうが、聖騎士の十字盾に防げぬ悪意と憎悪はなし。人間だった頃は間違いなく善良な人々であったが、今はもう他人を憎しみ殺す悪霊へと堕落した。本当ならマシュの盾が守るべき無辜の民だったが、既に手遅れ。世界の為に盾が払うべき邪悪となった車輪の亡者は、悪として盾と真正面から衝突し、自殺するように自分自身を粉砕させていった。
盾を構えて守るだけで、マシュは回転する悪霊を殺し尽くした。
頭が憎しみの余り馬鹿となった亡者は、彼女の聖なる守りに突撃すれば死ぬのだと分かっているのに、それでも憎しみを抑えきれず――――自害する為に、マシュに殺されたいと襲いかかった。
「先輩、先輩……私は―――どうして、助けたいのにぃ……!」
既に、他の者は騎士団と亡者を抹殺するべく行動に移った。マシュが守っているのは、自分のマスターと所長だけ。けれど、車輪の亡者は憎悪のまま、自分を殺してくれる最期の希望としてマシュだけを狙って疾走していた。他の標的には目もくれず、マシュに救いを求めるように回転していった。
「マシュ……―――行け、行くんだ。
ジャンヌを守りに行くんだ。人を笑ったあの男を君が倒しに行くんだ!」
「でも、でも……それじゃあ!」
「俺には小次郎がいる。少しなら、何も問題ない!」
「私もいるからね。藤丸の心配は要らないわよ」
「……了解、しました。
マシュ・キリエライト、突貫します―――!!」
所長と藤丸の言葉を信じ、マシュは盾を構えたまま全力で突き進んで行った。今の彼女を亡者も、亡霊も、騎士も止める事は出来ず、破壊鎚となって敵陣を盾が突き崩した。そして亡者と騎士を旗で叩き潰し、吹き飛ばすジャンヌに追い付き、強引に味方と合流することに成功した。
―――そこもまた、同じく地獄だと分かっていながらも。
「ジャンヌさん……!」
「どうして、マシュ?」
「行きます、私も倒しに行きます!」
「ええ、行きましょう!」
ジャンヌは彼女を頼もしく思う。マシュが傍に居るだけで、心強くなれる気がした。強固な盾と同じく、彼女は儚いようで在り方が硬かった。
ならば、敵を倒すのみ。熱狂する吸血鬼を旗で突き刺し、そのまま振り回して鈍器の様に扱い、違う吸血鬼ごとジャンヌは殴り砕く。しかし、そこにはゴーストも車輪の亡者と同じく、救いを求めてジャンヌとマシュに襲い掛かっている。だが、ジャンヌの旗は聖なる祈りを宿し、マシュの盾も同じく清らかな祈りが込められている。残留思念である亡者の霊体を魔術的に干渉し、吸血鬼を殺すように亡霊もまた殴り倒せた。
炎に巻かれ、焼死体の姿になった亡霊を、盾の乙女と旗の聖女が清め払っていた。
「えーん……えーん……お姉さん、かーちゃんは……とーちゃんは、何処?」
けれども、その怒りの行き先には―――幼子が一人。
「あ………そ、そんなぁ……そんなことって―――!?」
絶望するなと言うのが無理なのだ。どう足掻いても訪れる絶望がマシュを襲った。
悪霊は恨み辛みを持って死んだ者。勿論、亡者や亡霊に子供がいない等と言う事は有り得ず、その子供がいるのも自然な悲劇だった。ジャンヌはもう迷わないと決めた筈なのに、問答無用で精神が凍り付いてしまった。
「お姉さん、お姉さん……私、熱いの。ねぇ、此処は何処なの?」
動きを止めたジャンヌに、トマスの娘が抱き付いた。救いを求める子供のように、親と逸れた幼子のように、ジャンヌの腰にしがみ付いた。離したらもう両親と二度と会えないと恐怖するように、絶対に手を離さないとジャンヌに助けを求めていた。
―――……燃える。
火を纏う亡霊に抱き付かれ、ジャンヌは火刑に処された罪人のように体が炎で呪われていった。
「―――…………すみません」
「え……?」
血を吐くような謝罪の後、幼い女の子を―――殺した。生きたまま解剖され、騎士に殺されて、炎に炙られ、火の亡霊にさせられて、挙げ句の果てに聖女の手でまた殺された。
死に逝く亡霊。ジャンヌの旗が霊核を突き殺し、その霊体を躊躇うことなく浄化した。そうするしかないと分かってしながらも、ジャンヌは拷問によって焼かれた瞳から血の涙を流すのを止められなかった。
「ぁ……あ…‥り、が……おね……ん……―――」
自分の為に血涙を流す聖女を見て、少女は穏やかな微笑みを浮かべながら消え去って逝った。無念と、怨念と、憎悪は晴れずとも、まるで何かが救われたように、炎に焼かれた幼い悪霊は聖女に感謝をしながら死んでしまった。
―――殺した。
彼女は車輪にされた男の娘を殺し、その悪霊は何の救いもなく、旗の聖女によって無に還された。ジャンヌは赤い涙で瞳を汚す血の意志で、その祈りで魂を絶望に焚べていた。
「どうして、こんなにも……わた、しはぁ……私は―――なんで、誰も助けられないの!!」
心が、折れそうだ。
魂が、砕けそうだ。
人間性を幾度捧げれば、心ない聖者となれるのか?
必要だからと焦げた幼い亡霊を殺して、それが一体何に繋がるのか?
そんな疑問が戦う意志を殺す。だからジャンヌ・ダルクは迷わない。彼女には戦争の才能があり、聖人の素質がある。しかし、そんなものに今は何ら価値は無い。苦しみ、痛み、悶え、足掻き、壊れないように耐える事しか許されないのだ。
自分はあの私に救われたのに―――誰も、此処では救えない。
その絶望が疑念となり、聖女の心を食い殺す。疑問を叫び上げて、何も変わらず潰れそうになる。しかし、そんな思いは関係なく、騎士と亡者は襲い掛かるのみ。
「ごろ"じだぁ……ごども"を、ごろした。ごろジダぁ―――殺した。ゆるじな"いィィイイイイ"イ"イ"イ"イ"!!
殺す殺す殺ずぅ殺じてぇやぁるぅぁあギャ!!」
ジャンヌは知らないことだが、叫ぶこの亡霊はトマスの友人だった何かである。友が愛した子供の成の果てを眼前で惨たらしく殺され、死霊術師に狂わされた精神を更に発狂させ、焼死体は焼かれながら飛び上がった。
カァオ、と独特な魔力の発射音。
絶望の死を迎えた更なる先の無念に至り、燃える亡霊は撃ち殺された。顔を酷く歪ませながら、マシュがライフルに変形させた義手でエーテルを撃ち、ジャンヌを危機から助けていた。
「ジャンヌさん―――私が、います。
頼りない女ですけど、私が貴女を必ず守ります。だから、迷っても良いから、最後まで一緒に戦いましょう!」
「―――ぁ……そうですね。マシュ、ありがとう」
「はい!」
彼女に会えて心の底から良かったと涙が出そうになった。救われたと思った。こんな世界で一人でも、自分をそう思ってくれる仲間に出会えて、本当に良かったと胸が苦しくなった。そう思ったジャンヌはマシュの方を振り向き―――あの騎士が、既に彼女の頭部に剣を振り下していた。
血が―――噴き出ていた。
ジャンヌの眼前で友人になれた筈のマシュの頭部に、副団長と呼ばれ来た騎士の剣が当たっていた。
「え……―――あ?」
ビチャリ、と何かが飛び散った。
「―――マシュ………?」
血塗れになったマシュの頭部を見て、ジャンヌは表情を失った。
「アッヒャッハッハハハハハハハハハハ!!
カワイコちゃん、折角のカワイコちゃーんだもんなぁ……ひゃは。死体でも十分お釣りがくるってもんだぜぇ」
「―――で?」
「……ウキ?」
ポキリ、と剣の刀身が砕け散った。
「不意打ちで、剣で私の頭を叩き割って、勝利を確認して……―――それが、どうしましたか?」
振り向き様に義手からマナブレードを展開。何ら躊躇わず振われたゲッコウの刃は騎士を切り裂き、その両足を熱断。青い光の刃は一瞬だけ何もかもを斬る剣となり、抵抗などなく吸血鬼を甲冑ごと斬り捨てた。
殺した筈の女が、生きている不可思議。サーヴァントだろうと死ぬ筈の攻撃を無防備に受けて生きている女を見て、副団長は畏怖と激痛のまま叫び声を上げるしかなかった。
「ギャ……ギ、ギ、ギャァアアアアアアアア!!!」
「うるさい、です……うるさいうるさい―――うるさいです!!」
頭から血を流し、血濡れた髪が邪魔となり、マシュは前髪を義手で掻き揚げた。その直後、ライフルに変えた義手で瞬間二発。副団長の両腕を吹き飛ばし、身動きが一切出来ない状態を作り上げた。
「絶対に、貴方の命から目を逸らしません。確実に、頭部と心臓を潰して、霊核を砕きます。しぶとい魔獣を殺すように、吸血鬼は殺します。
所長から教わった通り―――私は、敵の命から逃げません!」
けれども、そう口に出して自分に言い聞かせないと、マシュは動けなかった。自分で自分に暗示を仕掛け、魔術回路から漏れた魔力が思考回路を汚染した。自己暗示よりも深く、奥に、戻れない程に、マシュは高潔なる聖騎士の在り方を自覚した。
「―――グゾォ、畜生。バケモンめ、何故生きてやがるぅ!?」
聖なる守護は強く、堅く、盾が無かろうとマシュを守り抜く。魔力防御のスキルは彼女の思念と同じ速度で機能し、どんな状態だろうと第六感のままマシュ・キリエライトを完璧に護る神秘であった。まるで防護膜のように彼女に覆い被さり、例え宝具による攻撃からだろうと彼女を死から防ぐ聖騎士の力となった。
それを態々こんな相手に言う必要はなく、マシュは必要な宣告を行うのみ。
「――――――死んで、下さい」
「やだ、やだ嫌だ。ヤダヤダヤダヤダァ殺し足りない、生き足りない、女を犯し足りないぃ!!」
等と無様に命乞いをしながらも、副団長は内心でほくそ笑んでいた。吸血鬼の再生能力ならば、まだ逆転可能。僅かでも時間を稼げれば肉体を甦らせ、カウンターでこの糞女の首から血を吸ってやると企んでいた。
尤も―――今のマシュは、オルガマリーの弟子でもある。
そんな薄汚い手段を見抜けない間抜けではなく、油断も無ければ隙もない。
義手からロケットパンチように飛び出た手は爪を砥ぎらせ、騎士の甲冑を刺し貫き、その内臓の奥深くまで指先が到達。そのまま内臓を攻撃しながら、指先から魔力防御を応用した魔術を起動。それは拘束術式であり、内臓攻撃をすることで生物の内部に魔力防御を展開し、筋肉と骨格を動けなくさせるマシュだけが可能な狩人の殺戮技巧である。
「ギヒィ……イ、グギャ……ッガ。テメェ、ジグヂョ―――!」
「……‥…魔術礼装、展開―――」
騎士団が村人へとそうした様に、副団長は四肢を千切り落とされた。内臓も抉り取られ、吸血鬼を拘束する為に体内から全身を固定されていた。仕留める為に、マシュがそうした。芋虫のように地面に転がりながらも副団長は、逃れられぬ死を見上げた。
元から、勝てる相手じゃなかったと男は認めた。
今まで殺してきたサーヴァントとは違うと理解した。
この特異点に召喚されたサーヴァントを、副団長は部下を贄にしながらも殺し続けた。目の前で女子供を人質にとって殺したり、村を盾にして殺したり、眼前で虐殺をする事で囮にして殺したり、様々な手段で殺した。
今回もそうして、それで背後からこの女を殺せた筈だったのに―――副団長は、自分の詰めの甘さを嘲笑った。
「―――
十字盾に仕込まれた射出剣が魔力を噴射し、地面に転がる副団長に衝突。その破壊力は礼装ではなくサーヴァントの宝具に等しく、神秘からは程遠い暴力に他ならない。
……クレーターだった。何も残っていなかった。
副団長の騎士は全て消え去り、所長が改造したパイルハンマーは敵に慈悲を一切与えなかった。巨大な穴がマシュを中心に一瞬で生み出され、まるで火薬庫を爆破したような破壊痕だけが残された。
「はぁ……はぁ、はぁ……」
爆風さえもマシュは無傷で受け流し、乱れた呼吸のまま穴から歩き登る。周囲の敵影を排除したジャンヌは彼女を待ち、出て来た血塗れなマシュを抱き止めた。自分の血で顔を赤く染め、それでもマシュは一切抵抗しないでジャンヌを受け入れた。
「……ジャンヌさん、倒しましたよ。もう大丈夫です。
所長から教えて貰った通り、ちゃんと吸血鬼を殺しましたから。だから、私はやりましたから、後はお願いしますね―――エミヤ先輩」
「マシュ……」
そう呟いた後―――世界が裏返った。敵の数を程良く消し、リーダーであった副団長を失って統率を失い、もはや烏合の衆と呼んで良いだろう。エミヤは完璧なタイミングで宝具を使い、その固有結界の中へと戦場に存在する者全てが取り込まれた。
守護者エミヤの心象風景。
赤い大地、曇天の空、浮かぶ歯車―――剣の墓標。
騎士団に逃げ場などなく、世界が許さない。命令を出す者も、もういない。
「―――……
貴様らは私の心から一人も逃さない。見知らぬ誰かをそうしたように、貴様らの事など何一つ知らない私の手で―――殺されてしまえば良い」
結末は定まった。死した副団長が率いた部隊に望みはなく、この鋼の大地にて殺し潰されるしか未来はない。空から剣が舞い降り、所長らも剣雨の加護を受けながら敵を狩り、竜血騎士は淡々と死んでいった。その使い魔である火炎の亡霊と車輪の亡者も、次々に仕留められていった。
こうしてまたカルデアは戦場を一つ超え、その足を確実に一歩づつ進ませた。
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