血液由来の所長   作:サイトー

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 戦神「叫ぶと強くなるのは基本知識」
 漫画とかで熱血主人公は叫んで攻撃しますが、パワー系の不死や灰も同類なんですよね。咆哮で気合い的に周囲を吹き飛ばしたりも出来ます。プレイヤーが縛りロールプレイしていない限り、ガオーと叫ばないクールな灰や不死とかって存在しないんですよね。好奇心旺盛で拾ったアイテムを使うと思うので、最大火力を求める場合、攻撃前に叫ぶのは基本中の基本。
 つまり、全裸で雄叫びを上げる不死こそ最高火力!
 ついでに生身の戦神がカンスト周回ボスだとしますと、今の戦神(霊体)の強さは一週目の六~七割程度にしています。




 



啓蒙31:竜血咆哮

 常時宝具展開した清姫は限界を超え、霊基が罅割れた状態。竜化したとはいえ、邪竜と正面から殺し合う一番危険で厄介な役目を負い、それを全うした為に何時消滅しても可笑しくなかった。何よりも暴走した宝具が既に霊体へと侵食し、瞳が血に飢えた蛇のような爬虫類と似た眼光となっており、手足も鱗に覆われてしまい、爪が獣のように強靭さを得て伸びていた。

 

〝…………ぁ”-、凄く死にそうです。

 むしろ、何故生きているのかが不思議。私がここまで戦える類の女だったと言うことが、そもそも新鮮な発見です”

 

 敵と向かい合う決戦場ではあるが、ある意味エミヤの固有結界(無限の剣製)内は暗殺を警戒する必要もなく安全だ。清姫が血反吐を吐き終わり、無警戒に一息する程度に落ち付ける時間はある。仮契約を結んだマスターの護衛と言う役目を負ってはいるも、実質は傷が癒えるまでの戦力外通知でもあった。

 

「大丈夫じゃ、ないよね?」

 

 徐々に肉体が人間のものに戻りつつある彼女に、藤丸は声を掛けた。喋らずにはいられなかったとも言えた。

 

「それは……はい。正直、生きているのもやっとですから」

 

「ごめん。でも、ありがとう清姫。君の御蔭、ここまで来れた」

 

「……でしたら、体を張った甲斐もありました。

 わたしの竜体は醜く、おぞましく、嫌悪にも程がある化け物の姿でありましたが、誰かの為になるのでしたら……そうですね。やっぱり、それが一番の報酬です」

 

「そんなことはない。凄く格好良かったよ!」

 

「ふふ。そうですか」

 

〝とは言え、嘘は分かってしまうんですが……”

 

 言葉とは裏腹に、彼女は誰かの為の誤魔化しとは言え、嘘を吐かれるのは嫌だった。嘘になるならば、気遣いなど要らなかった。人喰いの蛇竜を格好良い等と言う想いは有り得なく、清姫は嘘を吐いた藤丸は嫌いにはならないも、その言葉は訂正して貰おうと思った。

 思ったが―――何か、そうじゃなかった。

 そんな感想を自分に漏らした清姫、全身の痛みを本気で忘れてしまった。つまるところ、醜い竜となった自分を許してくれる殿方が、凄まじく急に彼女の眼前に現れた事を意味していた。

 

「―――好き」

 

「―――え?」

 

 藤丸、告白を受ける。意味が分からないが、それが事実と言う事は察した。察しただけで、対応出来る訳ではないが。

 

「これが―――愛。即ち、恋」

 

「へ……!?」

 

 衝動。即ち、起源。誰も(ソウル)から生み出た渇望には逆らえない。もはや自然と抱き付き、むしろ抱き付かない方が可笑しいのでは、と混沌としたヤバ目な恋愛感情が湧いてくる始末。

 

「ちょっと―――いや、ちょちょっと清姫さぁん!?」

 

「分かっていま好き。勿論、大いに分かっています凄く好き。恋に生きるこの清姫、TPOを弁えた淑女でありますれば、戦場であろうとも万全に好きです!

 貴方の事は我が命に代えても守り好きましょう――旦那様(ますたぁ)。ここは危険です、急いで戦線から離れて愛し合いましょうネットリと!」

 

「そうだけど―――……いや、そりゃ理に叶ってるし、そう指示されたけどぉ!?」

 

 愛の力か、恋で盲目になった為か、何故か瞬間回復した清姫は旦那様(ますたぁ)を御姫様抱っこをすると、広がる戦火から一気に離脱した。戦神と戦うエミヤから念話があったので魔力のラインが届き易いギリギリのラインまで後退し、まずは藤丸の安全をより確保し、そこから一気に攻勢に出る作戦であった。

 清姫が動けるようになり、立っているだけで精一杯だった藤丸(マスター)を全員で守る必要もない。そして、彼をある程度の距離まで離脱させられたならば、時間経過で彼も回復すればシャドウをカルデアから呼ぶ事も何時かは可能となるだろう。

 

「――――」

 

 雷雲が、轟いた。振うべきは槍一つ。言葉はもう不要。語るべき一時の相棒も死に、後は敵となって頂けた“人間”共を殺すだけ。しかし、戦神にとってこの戦いは契約者に召喚された白霊としての契約内容に過ぎず、勝ち負けは如何でも良いのだろう。数多の不死、あるいは灰にとって、自分を使役する相手など所詮は闘争を愉しむ為の要石に過ぎない。むしろ殺すべき敵に厚意を向け、丁寧に親切にその命を尊び、心の底から人殺しを喜び、そして殺害した命から好き嫌いなくソウルを頂く事が大切だ。

 暗い魂由来の人間性(ヒューマニティ)は、人間はそう在れかしと神を(ノロ)った。

 彼の父親の部下だった騎士アルトリウスを狂わせた深淵よりも遥かに暗いソウルであったが、干乾びた戦神は神性もまた枯れ失い、故に生温かい闇泥に狂うこと無く飲み干せたのだろう。エスト瓶に溜まった篝火の熱にまで適応し、生命を甦らすのに奇跡要らずの身となった彼は既に堕落した。

 同時に、人間は神に追放された戦神を信仰していた。

 不死と灰の中にあった契約。時空が歪んだ並列する多くの世界において、戦神を超える灰など珍しくもない。むしろ、戦いの神を真正面から一対一で下す程度の偉業、ソウルと殺戮で鍛え上げられた灰にとって出来て当然。古い時代において最強の神だった者を殺せない程度の灰など、其処らで転がる心折れた人間未満の獣でしかないだろう。

 彼と契約したあの(おんな)も、あの世界における一般的な普通の人間であり、珍しくはあっても無数にいる誰かに過ぎず、何ら特別な存在でもなし。中には自分が殺した戦神の魂で武器を作り、奇跡を作り、その格好を物真似し、自分自身が戦神となって信仰する灰もいることだ。

 召喚された今の戦神を汚染する闇とは、そう言う灰の情報(ソウル)が使われていた。彼を竜狩りの戦神として信奉する灰の想い(ソウル)が、既に枯れた筈の血液には混ぜられている。

 故に――暗い太陽の戦神。名を捨てた王の一人。

 今や竜の同盟者よりも罪深く、亡者の王を主とする使い魔(サーヴァント)もどきに成り果てているのだから。

 

「……ぐ、ぅううう―――!」

 

「―――――」

 

 スキルを全力で活用し、大盾を両手で支え、マシュは迅速な戦神の一撃を受けた。しかし、止める事は出来ず、雷雲を纏う暗い嵐が防御体勢を容易に崩す。

 ――死。晒される命の隙間。

 嵐の王でもある戦神の攻撃を正面から受ければ、それを弾き逸らすことは酷く難しい。

 

「はぁぁあああああ!!」

 

 ならば、雄叫びを上げるしかない。マシュが死ぬ一瞬の間、敵の注意を引きながらジークフリートは戦神の背後から斬り掛る。

 対応されるのは、ジークフリートはわかっていた。その為に烈火の気合いを込め、全身全霊の一斬を放った。バルムンクは真名解放をされてはいなかったとは言え、Aランク宝具に相応しい神秘が渦巻いている。

 しかし、それを素手で弾き逸らす(パリィする)のは、如何ほどな絶技か?

 そして、彼女の代わりに隙だらけとなったジークフリート。

 

投影(トレース)開始(オン)―――!」

 

 剣槍が臓腑に向かい――串刺しの窮地をエミヤの弾幕が間に合った。

 固有結界の内側であるため、魔術回路の制限がない大包囲な刀剣の群れ。だがそれでも尚、戦神は自分が攻撃を受けるのも構わずジークフリートを狙うも、マシュの盾に仕込まれた貫通銃(ピアシングライフル)が火を噴いた。

 流石の戦神も投影宝具と灰入り水銀弾を受け、敵の攻撃をものともしない強靭な体幹もバランスが崩れた。だが、攻撃を中断する訳がない。噴出する雷撃が体内に入った投影と水銀弾を排出。そのまま構わずに耐え、神が振う竜狩りの剣槍は竜殺しの血鎧を貫き、勇者の内臓を抉り刺す。

 

「グゥ……っ!」

 

 呻き声が漏れるのも無理はない。心臓を狙った剣槍の一撃は致命であり―――しかし、狙いはエミヤとマシュによって逸れていた。ジークフリートは腹部に刺さる剣槍の柄を左手で握り、右手で首を狙ってバルムンクを一閃。

 

「……がぁぁあああああ!!」

 

 そんな足掻きの逆襲を、戦神は雷撃を刃から放つことで容易く阻止してしまった。呻き声は絶叫に代わり、血鎧の加護の内側から勇者は電撃で内臓から焼かれていた。

 

「ジークフリートさん……!」

 

「―――セイバー……ッ!」

 

 雷を後数秒間だけ流せば殺せたが、今のマシュとエミヤを無視するのは危険。干将と莫耶を構えたエミヤは鋏で枝を剪定するように双剣を首目掛けて奔らせ、マシュは一撃必殺を具現した仕込武器――パイルハンマーをもって一線愚直に突撃。斬首された上、心臓に風穴を開けられれば戦神も致命を避けられない。

 守れば――死。受けるも死。

 死地に行かねば生きる事も叶わない怪人。

 エミヤもマシュも守りを戦術を基礎とする堅牢なサーヴァントだが、闇を得た重い嵐と雷が相手では分が悪いにも程があった。だが剣槍で貫かれた勇者も気合いだけで、電気を流されながらも再稼働。

 となれば、手段は数あれど実行すべきは反撃一つ。刃に刺さった投擲武器(ジークフリート)を振り放ち、マシュに衝突。

 彼女が仲間を見捨てる訳もなく受け止め―――つまり、エミヤと戦神の一対一。

 剣槍の突きは、重厚でいて迅速。彼に受け継がれた竜の嵐をまるで魔力放出の如き神秘として応用し、更に混ざった邪竜の闇が雷撃を重く暗い奇跡に変え、ジークフリートのような防御能力がなければ即死は間逃れない。

 それを足技で踏み躙る――エミヤ。

 彼が模倣する技術は、もはや英霊の技巧を超えていた。

 

「―――ヌゥ」

 

「ハッ―――」

 

 しかし、忍び程に完璧な足捌きは不可能。神域の一突きを生身の足を使って地面へと踏み逸らすとなれば、その技が宝具化しても良い領域。恐らくは因果律にでも干渉しない限り、極まった忍びに対人刺突は通じない。

 つまるところ、エミヤの憑依は模倣に過ぎず、戦神からすれば即興の物真似。

 即座に剣槍を引き戻し、足元を狙った薙ぎ払い。忍びを模倣した状態で双剣を構えるエミヤは、見え見えな大振りを後ろに跳んで回避。空中を自在とする体術を持つ忍びであれば、相手が戦神だろうと敵の間合いへと跳び掛るのだろうが、空中戦用の体術に忍び程に極まっていないエミヤでは、身動きがし難い空中で戦神と対峙すれば対空迎撃の餌食になろう。

 心眼が導く戦術としては、後退の一手だった。

 究極の一に至った守りの型である忍びの剣術があれば話は違うが、エミヤが模倣可能な領域では攻め続ける事は不可能。

 ―――面妖。

 だが、便利な業。

 ソウルの業より作った錬成の武器より、その元になった魂の使い手の技を真似する人間(フシ)に近いと戦神は考える。剣槍の贋作を錬成炉で作り、その技を巧みに使う()共と同じだと残心にて考察。

 如何やら、彼が相手する敵対者三名は防御に特出した相手。掠っただけで生命を一撃で奪い取る戦神と戦い、まだ誰も死んでいない事実。

 優れた守りの技巧を持つエミヤ。

 城壁に匹敵する十字盾を振うマシュ。

 強靭にして堅牢な肉体を誇るジークフリート。

 ソウルを目視する彼は敵対者の名前を一目で見抜き、そして肉体を動かす生命力も感じ取る事が出来る。致命傷を受けた筈のジークフリートであったが数瞬の後、ある程度の生命力を取り戻しているのを確認した。力の流れを見た限り、マスターであるあの少年から流れ込んだ魔力が彼の肉体を修復した原因だと戦神は即座に察する。

 葦名の土地で生きる生身から召喚された霊体である故の制限。

 サーヴァントと呼ばれる使い魔である事が、彼をより闘争へと駆り立てた。

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)―――!」

 

 竜殺の黄昏に対峙するは―――太陽の光の槍(サンライト・スピア)。灰由来の叡智が戦神に物語を与え、炉から見出された火の雷が彼のソウルには宿っていた。そんな宝具ではない雷の奇跡は、しかし暗く重い闇を纏い、幻想大剣を超える神秘となって光の剣気を貫いて命中。だがバルムンクによって威力が弱まり、更に大剣によって防御がなされ、その上で血鎧による防御能力を有する。

 その三重防壁によって彼は人を得た神の奇跡から生き延び、それでも衝撃を殺し切る事は出来ない。皮膚と筋肉を電撃で焼かれながら、彼は地面に二本の長い足跡を作りながら何とか転ばず、真っ向から防ぐ事に成功した。

 

「―――偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

 その隙を狙わないエミヤに非ず、瞬間的に装備変換した弓より螺旋の剣矢が放たれた。音速の十倍に達するドリル状の回転投影剣は空間を抉り穿ちながらも突き進み、戦神の周囲に吹き荒れる風の抵抗も無視して直撃。

 ―――剣槍の真っ先が、螺旋剣の真っ先を捕えていた。

 どれ程の精度を誇れば、超音速で回転する飛来物の点を“点”で迎撃出来るのか。

 しかし、不死なる岩の古竜の鱗を突き貫く為の膂力と技巧を、神と竜の戦いの中で鍛え続けた古き神ならば可能。

 嵐の螺旋を雷の剣槍が迎え突き―――

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)―――!」

 

 ―――突き壊される直前、エミヤの呪文が間に合った。

 螺旋剣が太源に還るよりも早く投影宝具は弾け、戦神は爆炎に巻き込まれた。エミヤの固有結界内ではあるが、その自分の心象風景が砕けても構わない威力で地面が抉れ、土煙りが舞い上がる。

 だが、無傷。

 彼は仕草一つせずに思念だけで突風を起こし、自分の視界を取り戻す。嵐の王である為か、周囲の空気の流れを感じ取れる戦神は、既に自分に向かってくる敵を把握済み。

 

「―――――」

 

 気配を殺すマシュ。機械義手を変形展開したマシュは、摂氏数千度となる魔力光剣(ゲッコウ)を拡げた。横に薙ぎ払う超高密度マナブレードの手刀は戦神を間合いに収め、だが剣槍の柄が間に挟まれた。戦神の防御は容易く間に合っていた。

 義手光剣(ゲッコウ)は戦神の槍で受け止められ――否、そのまま素通りして敵を斬る。

 ゲッコウとは魔力の光剣ではあるが、本質は別。義手に仕込まれた魔力炉より発するマナが混ざったレーザーを剣型に圧縮・放出した光学的エネルギーであり、剣と言うよりかは射程の短い斬撃光波。そのレーザー発射装置に魔術理論が組み込まれた科学的な“物理”現象。発生装置の義手は魔術と科学を合わせたカルデア式錬金術の産物ではあるが、厳密には神秘なる工学兵器に他ならない。

 マナが混ざったレーザーは物体ではなく光。

 遮られなかった光刃部分が、マシュに振われたまま直進するのが道理。

 エネルギーはエネルギーで相殺するか、盾や鎧で完全に身を守って刃の全面を防ぐか、あるいは至った境地の技巧で以って実体のモノを切り裂く業でもない限り、カルデア超技術による光学兵器(レーザーブレード)を守るのは難しい。

 

「―――な……!?」

 

 しかし、物事に例外は付き物。戦神ならば尚の事。素通りされたとはいえ、剣槍を通過した事で威力は減り、纏う嵐は戦神の防御力を上げ、古びた鎧もまた彼の肉体を守る堅牢な防具。

 血が僅かに吹き出るも――それだけ。

 螺旋剣の爆撃を防ぐ強靭と技巧を持つ戦神は、高ランク宝具の直撃にもそのまま素で耐久してしまう。

 

「……ヌ」

 

 だが唸り声が出るのも仕方ないだろう。戦神はマシュの攻撃を光が付与された拳による一閃だと考察したが、実際の力の流れは形無き雷のような攻撃であった。あのような人間の文明に疎い自覚があり、義手の殴打だからと槍で弾いて隙を作ろうとしたのが悪い戦術だったと容認する。

 だが何故だろうか、灰より与えられた人間性(ロマン)がマシュの義手を喜んでいた。

 そんな感動のまま、戦神は彼女へ向かって一歩だけ踏み込む。踏み躙るは大地であり、蹂躙するは空より降る雷撃。

 

「……ッ――はぁぁあ!!」

 

 爆心地が凹み、マシュは十字盾で衝撃を受ける。気合いの声も雷鳴で塗り潰される。

 

「―――ッ……!」

 

 空中に墓標のように刺さっていた剣軍が浮かび、だがそれらに落雷して地面に戻る。

 

「――……クッ!」

 

 光纏う幻想大剣の剣気は暗い電撃で掻き消され、勇者は相手の堅い守りを破れない。

 

「―――――」

 

 雷撃も、雷鳴も、戦神は奇跡を思念だけで為す。暗雷を世界に現すのに物語(ジュモン)は不要。

 同じサーヴァントで在り、霊基も三人と同じ英霊の領域で在りながら、戦神は名の通り全てが神域の業と化している。

 迅さ。膂力。槍捌き。嵐の加護。雷の奇跡。

 槍術と雷撃が合わさった業こそ――戦神流。

 言わば竜狩りの武術と呼ぶに相応しく、神を開祖とする戦の武芸。

 振われる幻想大剣と光る剣気。交差する双剣と飛来する魔剣、聖剣、名剣の軍勢。鉄壁となる十字大盾と複雑怪奇な仕掛け仕込み機械兵装。

 一分にも満たないたった十数秒の間にて、剣戟と爆裂の連鎖が幾度となく鳴り響く。

 

「戦神……――武神、竜狩りの王か!」

 

 故に、エミヤは叫ばずにはいられなかった。問わずにはいられなかった。解析した相手の得物を知り、神秘と経験を理解した為に彼我の差を誰よりも正しく彼は理解した。

 あれは、巨人が鍛えた神の武具。

 だから、特別―――等ではない。

 あの男が使って数多の竜を殺し続けた故に――竜狩りの剣槍(ドラゴンスレイヤー・ソードスピア)

 

「―――然り」

 

 雷鳴と共に、武具を振いながら彼は呟いた。雷と槍で敵を殺めるのに不要だと分かっているが、そんな道理を語る事こそ下らない。合理的、効率的、戦術的、などと外見と外装を気にする者ほど無様を晒す際に醜態を濃くする。

 不要な言葉で顕れた想いこそ、人の魂(ソウル)であった。

 想う儘に在れ。

 生きる儘に殺せ。

 死に様の儘に叫べ。

 奇跡とは――物語である。

 惨たらしく殺された際に上げる断末魔と言葉に違いなく、想いとは誰かに投げぶつけるものである。これより殺す敵の想い(ソウル)に、自らの言葉(ソウル)で応えてこその“人間”である。

 

「オォォォオオオオオオオオ―――!!」

 

 ドラゴンの如き咆哮。古竜を友とする戦神だからこそ、咆哮は嵐の雄叫びとなり、声は物語を紡ぐ奇跡となるのだろう。

 枯れていた筈の彼の暗い血液は――竜の魂も熔けているのだから。

 だが戦神は攻めても、更に深く攻め込もうとも、強靭な守護を誇る敵陣を崩せない状態が続いた。

 戦神の隙があれば剣が雨となって降り、隙がなければ剣雨が隙を作り出し、攻撃の機会を上手く作り出す戦術家の魔術師が、神殺しを為す彼らの主柱となっている。そして、攻防共に特出した破壊鎚となる竜殺しの一閃が首に当たれば確実に死に、十字盾を構える少女を殺すには周囲の補助によってほぼ不可能。また少女が振う盾に仕込まれた射出杭を盗み見て、どのような神秘かも理解している。

 あれは霊核(ソウル)を一撃で砕くもの。

 灰の積もる炉。闇の篝火。戦神から視たあの灰の人(アッシェン・ワン)が語る“人間”共が、人間を燃料にして灯した“人の火”から人理を守る組織。

 その理念の為に人間が作った兵器であれば―――神を殺すのも、容易く行って当然だ。

 

「―――ォ」

 

 だから、どうしてだろうと思い悩んでしまう。神だった頃なら、こんな事を考えずにただ殺して、竜を狩り殺して、神に逆らう闇の生物(ニンゲン)共を殺していただけだった。竜殺し、神殺し、人殺し。全ての魂で手を血で汚し、何もかも雷で焦がし殺し―――けれども、やはりまた何も無い灰の世界に戻るだけだと言うのに。

 使命感―――何を、大事にしたのだろうか?

 雷の王―――結局、太陽を燃やす贄にされただけだった。

 残留物―――戦友、その誓いだけが枯れて亡者となった自分に残された。

 自分の世界ではカルデアの彼らみたいな者は、人にも神にもいなかった筈―――いや、一人だけそんな者が自分の近くに居たかもしれない、と戦神は人間性によって思念を闇色に染められていた。

 四騎士の長―――竜狩り、オーンスタイン。

 だが亡者となった自分は、あの山の頂きで鐘を鳴らされる前は、一体何をして―――

 

「ォォオ」

 

 ―――魂が、酷く軋む。

 

「オオオ……」

 

 暗い雷を宿すのも当たり前だった。しかし、既に亡者となった身。内側にある思い出(ソウル)が闇に溶け、虫喰いのようになって、思い返すのは憎悪と殺意と奇跡。

 後悔も未練も、枯れてしまった。

 安堵と幸福は、燃えてしまった。

 彼らを見ていると、この世界で戦う者達を見ていると、時代を守る為に(ヒト)となった父を何故か思い出してしまう。

 自分達、神と同じで――限られた命しかない。

 しかし彼らは、闇の印を持たない人間と同じで無力。

 神ならば、命を賭して世界や時代の為に戦うのもまだ分かる。永遠を生きる意志に至った灰のような不死ならば、こんな世界など遊戯盤にも等しいだろう。生きる喜びは寿命に縛られた者が抱く幻想に過ぎず、穢れと貴さは魂にとって等価値である。

 けれども人と神の思い出(ソウル)に、もし違いがないのなら、戦う為に魂を動かす意志は誰もが同じであった。

 今の人を、この時代を進む世界を守りたいと“人間”が願うならば―――

 

「……オオォォ」

 

 ―――魂が、酷く捻れた。

 竜のソウルが熔けた暗い血が、火と雷を宿す神のソウルで煮え滾り、生身を得た戦神が細胞を焦がしながら雷を発する。青白く、暗く、人の想いが煮詰まった混血の雷撃は、混沌とする戦神の意志として発露する。

 竜の咆哮と共に掲げた竜狩りの剣槍が雷鳴した。

 黒雲が皆を覆い包み、固有結界に嵐が渦巻き、地面に刺さっていた剣軍が暴風に取り込まれた。無限とも言える剣の墓標が風に波乗り、主であるエミヤと、その味方にも牙を向く。

 

「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 極限まで雷雲に電気が帯電―――渦巻くは魔力であり、奇跡であり、それを望むソウルの具現。雄叫びを上げる程に戦神の存在感は爆発的に増大し、竜の叫びが雷の火力を比例して上昇させ続けていた。竜のソウルが血に溶けた戦神にとって、意志の儘に声上げる咆哮こそが、彼が持つ奇跡と膂力を強くする。

 感電死―――否、細胞一つ残さず蒸発させる熱的電力。正しく、炉の雷。

 無限の剣製(アンリミデッド・ブレイドワークス)が心象風景を維持可能な限界を超え、世界が雲と霧に包まれている。その雲は雷に満ち溢れ、嵐の内側と言う一種の異空間に侵食された。

 

「神の天罰……?

 そんな、こんな力にどうやって―――!」

 

 マシュは旧約聖書における天罰の逸話を思い出す。それ程の脅威であり、たかが数十年で寿命を迎える人間では到底敵う筈もない神の奇跡。

 エミヤは剣を嵐に奪われた。

 マシュは大盾を構えて立つだけで精一杯。

 ジークフリートは二人を守る為に剣を構えて直立不動。

 神住まう幻想の仙郷で、神なる竜の落雷すら世界の主である神竜に斬り返した忍びならばあるいは、戦神が放つ嵐の落雷の全力全開にも対応したかもしれない。

 だが―――今はいない。

 忍びは死の神を見出した灰と殺し合っている。 

 

「盾を構えるんだ、マシュ。決して君だけは、その膝を折ってはならない。そうなれば、きっと心まで折れてしまうだろう」

 

「ジークフリートさん……」

 

「マシュ、ジークフリート。奴を超えねば、この地での―――今までを裏切ることになる」

 

「そうですね、エミヤさん……――はい!

 マシュ・キリエライト、了解しました。宝具展開、開始します!!」

 

 雷雲の嵐は臨界を超え―――轟音が、強く鳴った。

 

幻想大剣(バル)……―――天魔失墜(ムンク)ッ!!」

 

 対するは、光り昇る黄昏の剣。天より落ちる巨雷と衝突し、空間に亀裂が入った。エミヤの世界が崩れ初めた。

 そして、雷は尚も突き進む。

 幻想大剣の刀身が皹割れる程の過剰凝縮された真エーテルが立ち上るのに、魂を破壊する神の奇跡は止まらない。

 

「くっ……ここまでか――っ!?」

 

「オオオオオオオオオオオオ――!!」

 

 轟く竜血の咆哮が雷を更に強め、バルムンクを打ち砕いた。

 

「―――疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)……!!」

 

熾天覆う(ロー)―――七つの円環(アイアス)……!!」

 

 しかし、準備は万全を越え最善。瞬間的な宝具解放が可能なジークフリートが稼いだ時間により、マシュとエミヤは最硬なる守護を唱え終わった。大いなる暗き神雷が、英霊の守りとぶつかり合う。

 力と力が互いを潰す衝突音。直後――パリン、と硝子が割れるような幻聴が聞こえた。

 七重ねの盾も、円形の魔法陣も、一方的に粉砕された。落雷のエネルギーは減退されたが、下にいる狙われた三人の肉体を蒸発させるには十分過ぎる熱量が残っている

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)―――」

 

 故に、魔剣解放が再度間に合うのは必然だろう。

 

「―――――ぉぉ……」

 

 砕かれる落雷と、晴らされる上空の嵐。ついに黄昏は雷雲を斬り払う。そして、世界さえも遂に切り裂かれ、空の上から現実の曇り空が覗いていた。戦神の世界の、その真の姿は闇でしかない。だが、この世界は惑星を育む宇宙(ヤミ)の中に数多の世界があり、彼の目の前に宇宙(ヤミ)の中で燃える太陽が光り差す。

 そんな無意味な想いを抱いたのは、胸の痛みからか。

 だが、そんな人間性(感傷)も血と共に消えた。臓腑から血が逆流し、口元から少しだけ血が垂れた。

 

妄想心音(ザバーニーヤ)

 

 肉体を雷撃の余波で焼け焦がされながらも気配遮断を一切解かず、背後より奇襲を完了。藤丸が隠れて使役していた影なるアサシンが宝具を解放させていた。戦神は高い魔力と人間性由来の幸運を持つも、三重四重の高ランク宝具に対応すればどのような魔人だろうと心身に隙が生まれ、完全に呪詛を防ぐ事はサーヴァントの身では不可能。

 同時、戦神は動いた。影に向け、翻した剣槍で一閃。

 ハサン・サッバーハ(アサシン)は雷撃付与された刃で斬られた後に感電し、真っ二つになった霊体が一秒後に蒸発する。だが、藤丸に命じられた(カレ)は完璧な仕事を為していた。召喚後に消える消耗品のシャドウに意志はなく、しかしながら何処か満足そうな気配を戦神に向けて死んで逝く。

 ……それでも死なぬ戦神に、ジークフリートとエミヤは疾走した。

 既に心境風景が晴れ、火の障気によって何もなくなった戦場跡地に戻り、しかしまだその末路を悟れたのは戦神だけ。彼は不死の古竜を死なせ尽くした墓王の気配を懐かしむも、だが今は眼前の敵に集中する。

 

「―――…………ッッ!!」

 

 無言の気合いが雷鳴となり、動かない心臓に電気を送り込んで無理矢理に動かし、むしろ普段よりも遥かに熱い血液が肉体を循環する。だが臓器として崩れた心臓を強引に鼓動させれば、そこに空いた穴から血が吹き出てしまう。霊核の有無など不死の闇に関係ないとは言え、サーヴァントと言う霊体の使い魔で在る為に潰された心臓は彼の霊体を鈍くする。

 視界が霞み、他の感覚も重くなるのは避けられない。しかし、血が流れる生身であるなら仕方ない。

 

天の(エルキ)(ドゥ)……――!」

 

 固有結界はもう消えた。もう一度展開することも可能だが、より効果的な武具の投影を選択。ならばと真名解放した神縛りの鎖は戦神の周りを走り、空間ごと拘束しようと神秘が起きる。

 無論、意味はない。神性が残ろうとも、人間性が熔けた竜血こそ戦神の力。

 平和への歩みを拒絶するように、彼の膂力と奇跡は複製された鎖を毀した。

 宝具もまた魔術法則に適応され、より強い神秘が比較された神秘を塗り潰すように――鎖は雷に支配され、雷の鎖として戦神に逆利用される。

 忍びを業を学習した彼は雷化天鎖を左腕に巻き付け、それを鉤縄(忍具)のように扱った。

 幻想大剣に絡まり付く雷鎖(ソレ)がジークフリートの行動を止める。守り持つ彼でないサーヴァントならば消炭になる電気。ジワジワと刀身越しに電撃が流れて生命力を削るのだが、しかし悪竜の血鎧によって防御された。

 

「――――ッ!?」

 

 だが、膂力は戦神が上。左手一本で竜殺しを抑え込めたが、即ちジークフリートは戦神の片腕を封じ込めたとも言える。

 

投影(トレース)完了(オフ)―――!」

 

 愛用の双剣(干将と莫耶)を投擲しつつ、更に周囲を投影宝具で覆い囲む。直後、エミヤは左手が使えない戦神に一斉掃射を開始。回転する双剣はエミヤが持つ双剣に引き寄せられて背後から首へ狙い、命中した投影宝具は突き刺さった状態で全てが爆散する。

 そうなれば、首を取られた上で肉片となる。戦神だろうと生き延びる未来はない。

 

「―――オォオオオオオオオオオオオ!!」

 

 ―――竜血咆哮。血反吐と共に竜が轟く。

 空間を振わせる雄叫びは神々の断末魔よりも惨たらしく、双剣も投影も全て吹き飛ばした。そして、叫びに応じて筋肉が膨れ上がり、膂力が急上昇。ジークフリートは引き寄せられた鎖に対抗出来ず、大剣の構えを維持出来ない。

 体幹の平衡感覚を崩され、空中へと鎖鎌のように振り回され――暗い雷が奔った。

 咆哮は奇跡の電力をも一気に強め、血鎧の防御力を容易く突破。それでも尚、彼は幻想大剣を決して手放さず、溜めた魔力によって柄に秘めた宝玉を解放。その刀身から真エーテルの奔流が発露した。

 

「……ぬぅ―――」

 

 しかし、心臓は呪腕の宝具によって破れたまま。狂える竜の声が漏れ、修復中の心臓は無理をすれば傷が広がり、同時に雷鎖の拘束が刀身から外れてしまった。

 

「―――ぅぅうん!!」

 

 つまるところ、鎖を巻いた左腕も解放されたと言うこと。戦神が掲げた左腕に落雷し、そこから電撃が拡散。地面が雷電網に蹂躙され、土を焼き焦がしながらサーヴァントを感電死させる地獄が広がる。

 刹那、エミヤは跳んだ。

 ジークフリートは着地の瞬間を狙われ、だが電撃に耐えながらも疾走。

 

「無様を晒せ、戦神」

 

「邪竜――死すべし」

 

 極限まで凝縮された殺意が言霊に乗り、宝具の真名解放以上の威圧感を戦神に向ける。第六感に鋭い者ならば全身を蝗の群れに覆われた違和感で喪失状態となり、普通の人間ならば失神した上で失禁する恐怖。とは言え、戦神からすればそよ風にすらならない。だが無視するには余りに濃密で、宝具を向けられた以上の脅威と精神で感じ取れる。

 二体同時に迎撃手段。戦神にとって、最も使い慣れた雷電の奇跡こそ有能だ。

 ソウル化した天の鎖を触媒とし、断固として撃ち放たれるは――雷の杭(ライトニング・ステイク)

 

「ッ―――――!!」

 

 戦神は敢えて夫婦剣と幻想大剣を肉体で受け止め、相討ちの形で雷杭を撃ち放った。竜鱗を容易く砕く雷撃であり、竜にとって致死の一撃であり、竜血の加護を持つジークフリートにとって戦神の雷は概念的激毒だ。しかし、だからこそ赤原礼装による守り以外を持たないエミヤからすれば、そもそも概念的相性も関係なく即死の一打である。

 大剣で受け止めるのは―――邪竜殺しの勇者(ジークフリート)

 エミヤを死なせる訳にはいかないと彼は身を呈し、しかしその一撃は剣槍の落雷に匹敵する程。

 

「あ………ぁぁ――ぉぉ、ぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 心の底から、そう在れと正義の味方に憧れた男(ジークフリート)は立ち塞がる。

 だからこそ、勇者の雄叫びは魂魄(ソウル)から震えてしまうのだろう。

 

「――――――」

 

 英雄の誇りなど下らないと棄てた。だがそんな自分をまるで正義の味方のように、自己を顧みない咄嗟の行動で仲間を守る英雄の中の英雄―――勇者の姿。

 誰かを守る事が自然だった。戦神の一撃を見て死を悟り、けれど守られてしまった。

 

刺し穿つ(ゲイ)―――」

 

 ならば、確実に戦神を仕留めないといけない。

 エミヤは魔槍を投影し、御子の技巧をも模倣する。

 山の翁の魔技であるザバーニーヤによって傷付いた心臓であれば、魔槍による呪詛の重ね掛けが可能だろう。

 

「―――死棘の槍(ボルク)!」

 

 勇者の背後より、死棘が奔った。魔槍の刃は妄想心音(ザバーニーヤ)の呪いで僅かに狂い、しかし生きた肉片となった心臓を更に穿ち刺し――それでも尚、呪刃が刺さったまま、鼓動を止めず。

 だが―――死棘が、戦神を内側から拘束する。

 死なずとも体内を巡る呪詛の刃に狂いはない。

 

「―――――――」

 

 凡そ一秒。それだけあれば体内の死棘の呪詛を焼き、戦神は再起動可能。

 

「―――魔力装填」

 

 けれども、もう絶対に不可能だった。後一秒もせず、戦神は心臓を根こそぎ吹き飛ばされるだろう。暴走を超えて暴発寸前の過剰装填(オーバーロード)によって、十字盾に仕込まれた仕掛け武器(パイルハンマー)のからくり機構が発熱炎上。盾が熱せられ、真っ赤に染まり、超高温に達している。

 マシュ・キリエライトが、戦神の前にいた。

 周囲に轟く雷電を浴びながらも、その身を加護で守り抜き―――今、此処で、炸裂せよ。

 

人理の矛先(パイル・カルデアス)―――ッッ!!!」

 

 ―――三度目の霊核粉砕。

 もはや心臓を破壊すると言う次元を超え、肋骨が丸ごと消滅し、肺と心臓が消え去った。既に上半身がほぼ消滅してしまい、霊体を維持する事も不可能だろう。

 何より、胃より上の臓器が消えている。

 肺も消えてしまえば、断末魔を上げることも出来ず、その様な事をする心情もなかった。

 

――――――――――――――――――――(貴公こそ、闇深き者。神殺しの戦士となろう)

 

 言葉を声にせず、戦神は霊体が崩れた。ずるり、と胴体の臓物を溢しながら首が落下。そんな死に様を眼前で見ているマシュの視界には、そんな風に唇を動かす戦神の最期の貌が映っていた。

 地面に当たり、その頭部も崩壊。

 同時に霊体も全て太源に還った。

 マシュは自分が殺したと言うのに何処か茫然と、死に逝く戦神の姿を残心のまま見守っている。甦るかもしれないと疑い、しかし確かな手応えが相手の魂に届いた確信を与えていた。

 

「はぁ……はぁ、はぁ―――」

 

 この一撃の為の、布石の積み重ねだった。

 

「良くやったな、マシュ」

 

「君の御蔭だ。助かった」

 

「ありが、とう……ございます、エミヤさん。ジークフリートさん」

 

 倒れかかったジークフリートにマシュは肩を貸し、地面に伏せるのを防いだ。エミヤは何とか自分で動けるも満身創痍であり、心臓が動いているのも奇跡な状態だ。

 しかし、マスターである藤丸からは問題なく魔力が回されている。

 時間が経過すれば霊体に魔力が染み渡り、数分もすれば戦闘で動くこと自体に問題はないだろう。

 

「―――……勝ったね」

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

 魔術回路を酷使している所為か、青白い顔色をしているが、まだ藤丸は言葉を喋れる状態だった。しかし、所長製のカルデア式礼装による効果によって時間経過による自動回復(リジェネレイト)があり、仕込まれた血晶石が霊体や魔術回路の損傷も完全に破壊されなければ修復可能。そんな藤丸を背負う清姫も、人間の姿をほぼ取り戻してはいる。

 一人も死なず勝てたのは奇跡だったと、五人が思考を一致させた。だが誰もそれを口にせず、ただただ一回だけ頷くのみ。

 

「行こう、みんな」

 

「はい、先輩」

 

「行きましょう、旦那様(ますたぁ)

 

「あぁ……」

 

「勝つぞ、マスター」

 

 何もかもが“死”の気配で無くなっている事に皆が気が付き、だからこそ急がねばならない。マスターとサーヴァント達はこの戦線から走り去って行った。





















 実は、クロスはヤーナム飯も悩んでいた一つでした。とは言え狩人様もプレイヤーの数だけ悪夢が存在してそこで彷徨っている設定にしてますので、聖杯ダンジョン飯に嵌まっている少し頭上位者な狩人様も、所長の頭で蛞蝓している狩人様の狩り友に居ても良いかなぁと思ってます。多分、鐘で呼ぶと来てくれるかと。
 人喰い豚のもつ煮とか、黒獣の骨で出汁を取った痺れるダークビーストラーメンとか、啓蒙高い瞳の目玉焼きとか、漁村の新鮮な海鮮ドンブリとか食べたい。ヤマムラムラが実はグルメ日本人で中華と和食の文化をヤーナムに持ち込んだ設定も有り寄りの有り。

 読んで頂き、ありがとうございます!

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