どちらも正解は分かりませんけど、普通のアニメと違って、読み手の解釈が挟める間があるのが良いですよね。
全てを、彼女は闇から視ていた。
透明化した上で気配を遮断し、綺麗なフォームで死に満ちた戦場を走り抜け、友人となったジル・ド・レェから念話で情報も聞いていた。
「………………」
最初の火―――太陽を欲したのは、人間ならば十分に可能だと理解した為。
灰が辿り着いた世界の人間は神秘を用いずとも、文明技術として太陽を生み出していた。彼女がそれまで生活していた場所に、空から太陽の輝きが降って来た。人間が、人間を皆殺しにしていた。その後年、幾度も繰り返された実験も観察していた。そして数年もすれば、もはや誰もが太陽が宙で燃える現象を利用し、その恩恵に預かって生活基盤を築いていた。
単純明快―――太陽の理を得るのに、文明社会には神も魂も不必要だった。
この世に特別なことなどない。灰の魂は闇から生まれた人間であるが、焼かれたこの世の人間でも、神秘より不死となる人間がいた。太陽に至った彼らであればその程度の奇跡など、太陽が原子力と言う文明になったように、人理焼却がない平行世界では不死もまた常識となり、死なずの怪物も人外から人間と成り果てる。
〝人は太陽をも作り出し、だが人殺しの道具でした。大地ごと、人が人を一瞬で焼いていました。文明に見出された火の道具は、人の世界を運営する理の一つとなりました。
進化とは、より下に零落する深化でもありましょう。
腐っているか如何か、と言う問題ですらないと言うことです。この人理と言う人間が不必要な世界を焼く取捨選択の機構において、数十年前の何処かで見たような光景に過ぎず、カルデアで詳しいこの世の絡繰を知らされても既視感でしかない訳です。故にこの人理焼却も、所詮は遥か未来にて人間が人間に行う未来の可能性が、こうやって早目に訪れただけの選択肢であることが確かでした”
それが、人の世の太陽だった。嘗て灰の魂が貪った誰かの魂が、この理に辿り着いた人理の人々を心底から失望し尽くしていた。何を見出だそうとも、人は魂にあるモノしか生み出せない。
太陽が墜ち、文明に堕ち、そして人間はどうなったか。灰はその国を良く見ていた。同時に、世界全てを物語として観測していた。人理焼却が始まるまで、腐れを焼くとあの使い魔が決めるまで、人に由来する日の光に満ち溢れる新たな文明社会を見ていた。
〝けれども、全て私には無関係な地獄。人が人を殺す光景は変わりなく、だが殺し方は正に魂が腐る程。この世の皆様の御好きな様に、世界を自分達の血液で描いて頂ければ、傍観者は満足の限り絵画鑑賞を愉しめます。故に私は、魂の儘に人間として人々を学びました。文明と理想から溢れ出る世界の危機を幾度も救い、阿頼耶識の寿命を長引かせてはいましたが、その役目も私がしなければ他の誰がしたことに過ぎません。
魂に縛られず、闇なき一枚の絵画。
不死ならざる人が世を制御する業の理想郷。
あぁ……やはり、政治や文明に関わり合いにならなくて良かったです。この世界の人々は辿り着きました。残り火の最期を無限に繰り返し、太陽となる火を手に入れましたが、この世界の人間は自分達の叡智で機構を解き明かしました。そして、太陽もまた文明の道具になる証を見せて頂けました。手段は悩みましたが、決心は直ぐにも出来ました。
―――有難う御座います、人理の皆様。
本当に、本当に、魂より御冥福をお祈りさせて頂きます”
何も――
人間と言う生命を勉強し続ける灰は、業を倣う学徒として
数千万と言う大勢を助ける為に、数万人に死んで貰うと
まるで国家と言う自分達の社会を守る、正義の味方のようではないか。
大勢と少数を比較し、徹底して人命を数の天秤に掛ける。灰も知っていたあの男が英霊としてカルデアの戦力となり、太陽を得たことで大いなる神の力を甦らせ、様々な正義と殺戮を選択し、なのに人間はずっと人間でしかない。
特異点も所詮は灰からすれば―――いや、人間からしても歴史ですらない。
何処まで行っても、何もかも昨日のことなのだ。そこから続く世界で、繋がりは何も断たれていない。生き残った者は、被害者も加害者も、人間性を持つ人間であり、人間と言う社会で生きるしかない。罪悪感は真っ当な感性であり、それなく社会は健全に回らず、灰は太陽が人の世に堕落する様を無感情に観測し続けている。とは言え、それは太陽に限った話ではなく、あらゆる人の業を対象にした我流学問の一分野に過ぎないが。
〝不死が今よりも強くなるのに、これほど具合の良い理はないでしょう。ソウルの業に拘る愚かな灰は、あの繰り返される残り火の時代を愛し続ければ良いだけでした。我ら灰は人の業を愉しめませんが、業を愛する魂を貪り続ける亡者でありましょう。
ならば、何一つ問題は無い訳です。
人の業を求道することもまた、こんな世界に漂着した私の営みでした”
だから知識を求める灰は、全く躊躇わずに、何時も通りにその時代における学問を勉学するのみ。日々毎日が勉強であり、人の文明が進む度に彼女は新たな技術を自分に取り込み、その時代に生きた人間のソウルから記憶や技術も習得していた。
世界が違おうとも、性質として人間性とは余り差異はない。
ヨーロッパの東から渡って来た移民の作った街、アメリカ合衆国ニューヤーナムのビルゲンワース大学にて学生となり、人類の最新技術を脳に修めた。そもそも灰は現世において、死んだ人間のソウルから知識も手当たり次第奪い取り、科学者や技術者としてのソウルも十分以上に得ている。錬成炉で必要な物質を生み出し、錬金術で科学と工学を真似て、核弾頭程度なら自分一人で生み出せよう。何よりカルデアもまた最新技術で溢れた文明の最先端が集まる組織であり、カルデアの技術は今となっては灰が持つ技術でもあった。
それでも尚、火を求めたのは不死故に。
思えば灰が特異点で残り火を甦らせたのは、あの光景に対して喰らった誰かのソウルが、その神秘を力として欲したからなのだろう。彼らが作った人工の太陽は人殺しの道具であり、生活を支える動力源であり、大量虐殺が起こる戦争の抑止ともなった。しかし、それは不死にとって無意味だった。無価値でもあった。魂に力を持たないただの人間として、輝く太陽の力をスイッチ一つで使える世界になっていた。何かに選ばれる必要もなく、極小の下らないソウルが、人々を想いのまま神のように人生を左右する。だから何もかもに貪欲であっても、灰の魂は火を唯一無二として欲する。灰は不死だからこそ、この人理が現段階で辿り着いた資本主義と民主主義によって生み出た文明の太陽が、大量虐殺兵器としての強さ以外で必要になれそうもなかった。そんな灰からしても、この人理と言う仕組みを作る人類種は余りに度し難い。
あらゆる自然現象を解明し、文明と言う概念にする生態系。
そんな彼らが克服すべき対象とは、戦争、飢餓、疫病の三種だろう。灰は長い間、寿命を持つこの人間の世界で生きていたが、大量絶滅と言うのは何ら珍しくもない。人間と言う動物にとって、当たり前にも程がある生物としての危機である。戦争は人間共による人間同士の文化形態だが、飢餓と疫病は自然現象で、人は別に誰かの悪意がなくともあっさりと死滅する。
しかし、世界規模の飢餓は消えた。最先端の人理において、政治家が誰かを苦しめようと悪意をばら撒いて一部地域の人々を飢え死にさせてはいるが、それは食糧が不足しているのではなく、意図的に不足させているのが主な原因。飢餓によって国の人口が何十%も死ぬような事態は起きなくなった。戦争も新たに文明によって作られた核と言う太陽の技術により、経済の方がメリットがあり、そして取り返しのつかないデメリットによって地球に住まう人々が、大国と大国の殲滅を互いに抑止し、核戦争回避に努力するようになってしまった。疫病も発生はしても、嘗てのように人口の四割、五割が死ぬこともない。国家が滅亡することもないだろう。
〝この人理からは、新しい人間性をとても学ばせて頂きました。知識を得て、それを新しい力にすることも出来ました”
特異点で死んだ人間は、特異点が解決しても―――甦らない。
灰はそれを知っているが、自分達が特異点で起こした戦争による死者など、飢餓や疫病で死んだ人間の数と比較すれば微々たる数だとも分かっていた。数千殺し、数万殺し、だがそんな程度では、特異点が発生した先の歴史からすれば誤差のような人数でしかない。死者数の帳尻合わせは人理にとって容易いこと。自分達が起こした悲劇など、人類史からすれば水を流すと直ぐ洗い落ちる唯の染み。
重要な死者とは、文明と歴史に与える影響力。
戦争は悲惨だが、規模としてはそんなモノだ。
この灰が定命の人間として歴史を見た場合、戦争ではなく、政治活動としての民族浄化こそ唾棄すべき殺戮。たが不死の人間としてならば、ソウルを貪ることに違いは全くない。
〝道具さえ揃えば、特別な力は必要は全くありません。魂を持つ人間ならば、私が行った所業など何ら特別でもない訳です。むしろ、出来て当然なのでしょう。必要なのは引き金に力を込める意志一つ。何せそもそも、ただの人間として私が生きて人理から学んだ事でありますから。
私は不死ですが、それでも生きている。
死がなければ生もないなど、それは心折れた魂の戯言でした。
諦めてはなりません。止まってもいけません。私は器でありますが、こうやって自分に対して自分の思考を巡らせる活力を持っています。
私でない私のソウルとなった誰かの思い出が、目的の為の手段を無限に発想させて頂けるのですから”
「アッシュ……」
「あら、ジャンヌさん。御無事ではないようですが、生きていられて何よりです。ジルさんが殿となり、貴女だけでもと逃がしたようですね」
太陽を人間が作れるように、人間は人間も作れるようになっていた。人理焼却によって文明は停止したが、もし何事もなく歴史が進んだとすれば、人は太陽の次に何を生み出していのか。灰はまだ見ぬ未来を疑問に思い、だが燃えて消えてしまって構わない答えでもあった。その気になれば、焼却されていない平行世界に渡れば良いだけのこと。そして必要ならば、文明技術を魂から生み出た人の業として学習するだけだ。
だから灰は、魂から人を学習した。
文明と言う発想力を模し、技術を倣った。
そんな彼女にとって竜の魔女とは、人理で得たソウルより学んだ悪魔的発想から思い付いた創作人間。同時に、灰が元凶であるヤーナムの悪夢から啓蒙された暗い魂の赤子であった。空の器である故に自分から業を生み出す事は出来ないが、業を為す魂は無数に内側で存在し、もはや灰の魂が地獄や煉獄と言った火と闇の異界と成り果てている。
「けれど、まずはおめでとうございます。真実を得られた様で」
だからこそ、彼女は何時も通り魂から心を込めて、嘘偽りなく祝福していた。あの使い魔に焼かれた全ての魂に、貴方たちが歴史を紡いだお陰で聖なる赤子が生まれましたと祷りを捧げた。
そんな彼女自身は何もない空白だが、感謝と祈りをする灰の感情は本物だ。なにせ、それは貪った誰かの魂から生まれた想いであり、偽ることが出来ないソウルからの言霊であることに間違いはない。
「全て、知っていたのね……」
「無論ですとも。彼の悩みを解決する手段を問われた時、提案したのは私でしたから」
「………―――あっそ。別に、良いわ。
どうせジルから、黙ってるように言われたんでしょうし」
「はい」
「貴女と、私の生まれについて、より詳しいことは城で聞きます。で、アンタ以外に生き残りはいるの?」
「佐々木さんが一人。彼は後から追い付きましょう。ですが、他は死にました。協力する契約相手を残してとっとと死ぬとは、全く以って無様でしょう。これだから思考の次元が低い輩の、外れ籤な霊体の皆様は人殺し程度の雑務にも全然使えませんでして……あ、いえ。そうでした。まだジルさんが生きてはいますね。
……どうです?
貴女が命じるのであれば、私が彼を助けに行きますけど?」
「不必要よ」
手遅れなのことを、ジャンヌは十分理解していた。ジルの魂は変態し、あの姿に変異してしまった。既にキャスターの霊基ではなく、ジャンヌとの契約も無くなっている。そもそも霊核がないと言うことは、現界する為の楔がないのだ。
急所が消えた故に彼は不死となり、だがこの世に存在する事も出来なくなった。
「了解しました、ジャンヌ・ダルク。では帰還しましょう、私達の家に」
「ふん……そうね、帰るわよ」
「ええ…………――で、あれ。帰らないので?」
だが、ジャンヌは問わずにはいられなかった。
「いや、ちょっと。アンタそう思えば、それ何持ってるの? トマト? ダブルトマト?」
これ見よがしに両手で持つ双槍。その二つを掲げ、特に意味もなく灰は凄まじいドヤ顔を晒した。兜を被っているので表情は分からないが、それも気配だけでドヤァと苛立たせた。ついでに、妙なジェスチャーもしていた。ジャンヌは拳に黒炎を纏わせ、思わず殴りそうになったが我慢。
「史上最強のドラゴンウェポン―――火吹き槍です。しかも、二刀流」
しゅこー、と
ぼふぅん、と先端から炎弾が出た。
矛先は上空に向けられ、別れの祝砲として双弾が放たれる。まるで花火のように宙で弾け、魂みたいな淡い赤光が輝いた。
「友人の手向けに丁度良いと思いましてね。私の腐れたこの魂が燃えぬ限り、暗い竜の赤子をお護り致しましょう。
……ジルさんに、この火が届いていれば良いのですが」
「…………―――」
そんな灰の優しい言葉は猛毒となって魔女の人間性を刺激し、だからこそ暗く湿った想いを振り払うため駆け出した。
「―――さようなら」
ジャンヌは背後から、火を見た魔物の声が聞こえてくる。遠い何処かの神性は暗い人間性の中に溶け、元帥は誰かの為に己の死を受け入れ、だが魔女と灰の二人は彼を置き去りにして行った。
◇◇◇◇◇
呼び声は、何もかもが亡くなった戦場で轟いた。声として認識出来ず、しかし生き物の唸り声だとは分かる音だった。
所長はジャンヌの手を引き、蛸の巨人から離れた。膨れ上がるばかりで暴れる気配はないが、死の危険は多大。まずは戦意が消え掛かったジャンヌの安全を確保し、ロマニから聞いた情報を一旦整理する必要もあった。
「主殿、聖女殿……御無事で」
「えぇ、えぇ。無事よ、無事」
「……………」
忍びは巨大な蛸の者と対峙する主に、短めの言葉を掛けた。無事か否かなど見れば分かる事であり、聞く必要もない確認。そもそも互いに不死。命を気遣う事こそ愚かしい。
つまりは忍びなりに気を使った、眼前の所長に対する気付けの挨拶でしかない。
「――所長、勝ちました!」
「所長、只今戻りました!」
「御苦労様。良く頑張ったわね」
数秒後、藤丸はマシュに抱えられたまま到着。サーヴァント三騎も無事であり、ジークフリート、清姫、エミヤもこの現状を一目で把握した。その三人も所長は視界に収め、一回大きく頷いた。念話とロマニからの報告で状況は理解しており、竜狩りの戦神の撃破と言う難業の達成を喜んだ。
無論、狼もまた無愛想ではあるが、今来た五人に頷いた。声を出さず、静かに迎え入れていた。だが、ジャンヌだけが凍り付いたまま。
「……ジャンヌさん?」
「あぁ、マシュ……ですか。貴女達も無事で良かった」
「はい。ですが……その、大丈夫なのですか?」
「―――ぁ……大丈夫です。怪我もないですから」
『みんな、聞いてくれ』
その不穏な空気をロマニの通信が断ち切る。しかし、これより彼はより非情な言葉を告げないといけなかった。
『宝具によってジル・ド・レェの霊基変化を観測した。いや、ボクたちカルデアが観測してしまったが為に、不定な存在が固定されたと言うべきかもしれないけど……まぁ、そのへんは良いかな。詳細はまだ調べ切れない。
結論から言おう―――アレは、巨神だ』
「ま、待って下さい……あの、神ですか。あの大きな蛸が?」
『そうだ』
「どういうことだ。確かに邪竜の存在感とも異なるが、それでも巨神と呼べる程、アレから逸脱した気配はそこまで感じられないが?」
ジークフリートは死ぬ間際であるが、活力のある声でロマニに問う。
『隠れているのさ。神性が混ざった英霊の霊基と偽っている。あの灰から検出される聖杯の泥と少しだけ類似した不明反応、
―――ヤツには、霊核がないんだ。
細胞一つ一つが生きている。生物であると同時に、あの蛸は生命力でしかない存在とも言える』
「成る程。討ち取るには、肉体全てを消滅させる必要がある訳か……」
何かを覚悟した表情で彼は
「あのー……すみません。他の方はどうされました?」
「――――――」
藤丸は既に分かっていた。この場にいないとそう言う訳であり、仮契約を結んだマスターの知覚として、もうサーヴァントの反応がないのも理解してした。
けれど、マシュは唯単に疑問に思っただけ。あの邪神とも言える巨人の蛸は協力して戦った方が良いと第六感が囁き、何よりまだ他の味方の戦いが長引いているならば助けにも行きたい。
「死にました」
「―――え?」
「マシュ。生き残ってるのは、此処に居る者だけよ」
「そんな。じゃあゲオルギウスさんも、エリザベートさんも……アマデウスさんも?」
「すまぬ。
忍びは自分と共に戦って死んだ三人を思い出し、だが普段と変わらない貌でマシュに真実を告げた。しかし僅かばかり眉間の皺が深まり、それを見た故にマシュは仲間の死が本当なのだと理解出来てしまった。
「狼、さん……ぁ―――ク、いえ。いえ、すみません。でも、でも、私はただ……」
こんな風に感傷を吐露する場合ではないのは分かっている。しかし、極限状態を維持し続ける人間が、冷徹な精神性を保つのにも限界はあり、マシュはそのような人間でもなかった。
「……お別れだけは、言いたかった」
この特異点で得られた感情を込めて、その願いを声に紡いだ。泣き叫びたい、膝を折って蹲りたい、誰かに抱きついて眠りたい。そんな思いを抱いたまま、マシュは弱音を全て自分の心に封じ込める。
マスターを守る為に自分だけは仲間の誰が死のうとも、目の前で人々が無差別に虐殺されていようとも……自分が死ぬのだとしても、立ち向かわないといけないのだと覚悟を決めてしまっていた。そして、その覚悟は等価交換によって得た決意でもある。冬木の洞窟で悪魔の騎士によって腕を斬られた時に、マシュ・キリエライトは魂から何かが零れ落ちたのを実感していた。だがこの特異点で戦い始めてから、漸く自分から失ったモノを理解した。
―――危機感だった。
死の恐怖を人並み以上に感じるのに、第六感も危機を察するのに、恐れの対象を脅威だと思えない。味方の死が悲しくて、仲間を殺した敵が怖く、されど危機感を抱けない。人間性が、腕と共に欠けてしまっていた。
〝私は―――……あぁ、そうでした。忘れてしまえば……私たちが負けて死んでしまえば、ここの記憶が全部消えてしまう。痛みも、悲しみさえも、失われてしまう。
せめて皆と話をした私が、意志を継がないといけません。守るとは何か、私は自分の答えを見付けてみたい。火の海から人理を守りたいと思えた、私だけの小さな理由を……”
大切なモノなど何も無かった少女にとって、悲劇に溢れたこの特異点の思い出だろうとも、仲間となった皆との関わり合いは大切な記憶となった。
「マシュ……人間はさ、悲しいことに耐える必要はないんだ。俺みたいに独りで生きられない人って、だから他人が必要になるんだよ。
誰かに、人の死が痛いって言うべき時もある。今はまず生きる為に戦わないといけないから辛いけど、カルデアの職員として我慢しなきゃいけない。でもね、それでも痛いことを我慢しているのだと、情けなくたって声に出しても良い。そうしないと周りは分からないままだ」
「………すみません、
それでも私は、まだこの痛みを我慢出来るんです」
そして巨蛸の後方から、マシュとカルデアの皆は火の玉が飛ぶのを見た。まるで花火の玉みたいに宙へ打ち上げられ、火薬が破裂するように爆発音が鳴り響く。
「――――――――――――」
声のない音が蛸から鳴った。火玉から友人の思いが届き、蛸の神は柔らかい脳を頭蓋骨ごと震わせていた。蛸のと成り果てた彼は暗い宙より何かを啓蒙され、火吹き槍の
使い手の想いを感じ、赤子の聖女を灰に任せる決意を蛸は抱いたのだろう。思う儘、一歩だけ前に進む。巨大軟体海洋生物としか例えられない神は、まるで人間のように陸上を問題なく歩き出した。
――
空想より、何者かの、深海から、呼び声が、聞こえた。
『グゥゥ……ぉ―――駄目だ、駄目だ。これは駄目だ。
音声情報、ボクの所以外はカットしろ! 今直ぐにだ!!』
発狂の声。
「ロマニ、貴方は大丈夫なの?」
『所長……っ―――心配、なく。この程度の精神攻撃でしたら、気合いで何とか』
「じゃあ、観測はそのままにね。意味消失に藤丸は耐えれないから」
『その為の臨時代理、ですから……ねっ!!』
とは言え、ロマニの真名を啓蒙より知る所長は、彼の精神強度に一切の疑問もない。疑念を向けることもない。精神の強さを人の価値とするならば、カルデアで最も価値ある人間の一人に選ばれる男であり、宙や悪夢の狂気さえも理解して知識としようとも不可思議ではなかった。
「先輩は、大丈夫ですか……!?」
「え、うん。不思議だけど、何でか平気。でも、急にクトゥルフ神話かぁ……どういうこと?」
現代娯楽において、神話や伝承は物語設定として楽しまれる。藤丸も例に漏れず、それなりに小説、映画、アニメ、漫画などで理解はある。
クトゥルフ神話もまた、彼からすれば娯楽の題材となる神話設定の一つ。だからか、あの蛸の神が唱える言葉にも聞き覚えがあった。
「私もカルデアにありましたので、知ってはいましたが―――でも、何でか、意味が分かりません!
英霊が宝具で模倣する理由もなく、ジル・ド・レェは救国の英雄となった元帥で、あの物語は小説家が娯楽で生み出しただけの、神代とも関わり合いのない架空神話でしかない筈です!!」
「マシュも平気そうだよね。俺が平気なのはおまけで……―――盾の加護、なのかな?」
「私の方も、それは本当にさっぱりです」
仮想空間でカルデア製の悪夢をVR訓練した所為か、藤丸は思考回路を止めずに行動する事が可能となった。頭蓋骨をカチ割って脳味噌に爪を突き刺して掻き毟りたい狂気を確かに感じるも、彼は脳が痒くて叫びたい程度に発狂を抑える事が出来ていた。マシュも同じく蛸の呼び声を聞きながらも、正気を人間として藤丸と同じく保っていた。
忍びもまた慣れているのか、感じる怖気に耐えている。薬も飲み、完全に耐性が出来ているのだろう。エミヤとジークフリートもロマニと同じく気合いで淵に堕ちる事なく精神を保ち、逆に清姫はこれ以上に狂うことなど魂が許されていない。
「「………」」
「いえね、二人共。黙ってみられても、私にだって解らないことはあるのよ?」
『ですが、予想はついているのでしょう?』
「ま、少しは。でも考察は後にね。今は、あの蛸野郎を狩るのが先決よ。とは言え、すべき事は単純な火力による殲滅しかないんだけど」
微かに笑った所長は、左腕に巨大な砲門を夢から顕した。本来ならば対軍用砲台として使う物を、片腕に嵌め込ませることで射撃体勢を固定させ、個人兵装として扱う狂気の産物。そして、ヤーナムの悪夢では鐘持ちの大男が使っていた怪物専用の銃火器。
その儘過ぎる名はずばり―――
片腕で大砲を使う馬鹿げた筋力を持つ狩人にのみ許された、人外理論を発想の根底に持つ啓蒙狂いの極みであった。
〝さてはて、
瞬間を狙い合う狩人同士だと零距離射撃が基本だけど―――”
魔力充填、開始。
発射角度、計算。
弾道軌道、決定。
死灰装填、終了。
殺傷能力、演算。
発射工程、完成。
〝―――先制曲射撃ち、させて貰いましょう”
既にあの蛸は自分達を狙いを定めている。それを直感した所長は魔力を好きなだけ込めた炸裂砲弾を上空に向けて発射し、円弧を描く軌道で蛸の額に向かって落ちて行く。
火薬が轟く音と血肉の湿った音。
着弾。直後、炸裂―――抉れ取れる肉塊。
耳に気持ちが良い金属音が鳴り、教会砲の砲身が絡繰機構によって発射後の変形から戻る。
「――――ん……ぁ、ふっふふ」
無表情を所長は保つが、これこそ狩猟の歓喜。狩りの醍醐味にして、狩人の業。仕掛け武器による殺戮も、素手による内臓解体も、素晴しく血が蠢いて脳が晴れ渡るが、狩りの浪漫に満ち溢れた火力銃器を直撃させるのも愉しくて堪らない。
だが―――頭蓋骨が膨れ上がった。
萎んだ風船へと、空気が入るみたいに血肉が復元。蛸の巨神は砲撃した所長と、その周囲の者たちを睨んだ。つまるところ、巨大な蛸の瞳は砲門となり、暗い神性の眼光が輝いた。
「―――ッ……」
閃光の一瞥。
一秒の瞬き。
対応出来たのは瞬間的宝具展開に常時意識を向け、更に盾を力ませていたマシュだけ。だが真名解放が許される速攻ではなかった。
エミヤは最前に立つマシュの周囲に無数の盾を咄嗟に投影するのが限界であり、ジークフリートはいざと言う場合に備えてマスターの前に立つだけ。竜化による霊基破損で死に体の清姫は、ふらつくマスターを支えていた。所長も同じく、確信した瞳でマシュの背中を見詰めていた。
「……はぁ――――ッ!!」
ならばそもそも
もはや人間の業を超えた技巧。竜狩りの戦神との戦いが、神にとって戦神と呼べる技巧の化身と過ごした臨死の経験が、マシュ・キリエライトを神殺しを為した英雄に近付けていた。
〝―――強くなる。
戦えば戦う程、死の恐怖を貪る度に、人間であるマシュは強くなれる”
故に、オルガマリーは確信と共に瞳を蕩けさせている。
〝マシュ……君は、そうまでして戦うって、この特異点で決めたんだね”
だが、藤丸立香は諦観と一緒に少女の雄姿を見詰めている。
〝私は―――護る。守らないと、いけないから!”
所詮、マシュは人間だ。出来る事に限りがあり、そして出来る事は絶対に貫き通すと決めている。彼女の背後には所長、先輩、エミヤさん、清姫さん、ジークフリートさん。そして、ジャンヌさんが生きていた。カルデアの仲間達と、この特異点で出会った戦友達。
マスターを守る盾であり、マシュは人理を護る最後の戦う人間だ。
〝なにを……私は、なにをしているのですか。
戦わないと―――……ジルを、殺さないと。このフランスを一番守らなければならないのは、この特異点で生き延びた、この時代を生き抜いた人間である私です!!”
ジャンヌは咄嗟に動けなかった。意志は戦うと決めていたのに、肉体が一瞬の動作に対応出来る程に、この現実をまだ受け入れきれていなかった。手に持つ宝具は守りの旗であり、敵を殺害する概念を持ち得ぬ真名解放ではあるが、彼女の宝具はそれだけではなかった。
聖女の左手に、神聖さに満ちる聖人の剣が現れる。鞘に収まった聖剣は、紅蓮の祈りを刀身に潜めている。
〝―――主よ。人間として生きる私はまだ、この身を捧げてはいませんが……”
〝ジャンヌ・ダルク。祈りの終わりを、此処で迎えると?”
〝……はい。私は私の為に、為すべき事を為すだけです。
英霊としての信仰を、フランスを救いたい私の祈りとして焼かせて貰います”
〝そうですか……それが、貴女の祈りなら。私の全てを何時通り、貴女の意志に預けます”
自分の魂に溶けた自分に、ジャンヌは決意を告げた。同時に柄を右手で握り締め、火刑の炎を熱帯びる刃が引き抜かれ―――
「止めておけ、ジャンヌ・ダルク。その役目は、今はまだ早い」
―――ジークフリートが、聖女の献身を止めていた。
「―――……何故、ですか?」
「魔女の最期は、貴女が見届けないとならない」
「ですが!?」
「あの男は、俺が倒そう。何より、もう俺には時間が残されていないのでな」
霊核が罅割れており、人間で例えるなら心臓に穴が空き、脳内出血が同時に起きている状態に等しい。彼は生きているが、本来ならば意識不明の重体。
気合、執念、根性。その集合。
謂わば死を拒み、生きようと足掻く―――意志の力。
ジークフリートは死体となった霊体を強引に動かし、精神力で生命力を誤魔化しているだけ。だがそれは生きているとは言えず、戦えばもう死ぬしかなく、彼は死に場所を選ぶ死兵としてジャンヌ・ダルクを止めていた。
「それと、自分勝手だが遺言を一つ。どうか、魂を囚われた佐々木小次郎を救って欲しい。彼は俺とゲオルギウスを敵から助ける為に囚われ、未だに魔女の騎士として隷属されている。
無力な俺では……戦友を、奴らから救えなかった。正義の味方に、届くことは出来なかった」
「貴方は、そんなことは……ッ!」
「第二射が来る……―――すまない。俺は行こう」
それはどちらの意味か、あるいは両方の意味なのか、ジャンヌは良く分かってしまった。自分もまた、誰かの為に自己の死を選んでしま得る破綻者だと言う自覚が彼女にはあった。
「……お願いします。勇者の献身に、感謝を」
なら、送るべき言葉は祈りが良い。その直後、蛸の瞳が輝いた。
戦神との殺し合いを見たマシュは感覚を完璧に掴み、魔術や熱線だろうと弾き守る技巧を理解し……―――だが、その熱量は先程の倍以上。
なのに、真名解放を許さない即攻なる眼光。
機械義手を犠牲にすれば何とか
「おぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
真エーテルの宝玉を解放せず、剣技のみの一命一斬。刀身で斬り弾けなかった熱波はサーヴァントの霊体を蒸発させるのに十分なエネルギーを持っていてが、血鎧を持つ彼ならば何一つ問題はない。
「ジークフリート……!!」
「ジークフリートさん、何故!?」
「マスター、俺に力を―――!!」
彼は走った。マスターである藤丸はマシュの背後から過ぎ去る勇者の背中を見て、その行動全てを把握してしまう。
―――葛藤など、余りに心が遅過ぎる。
問いに答える理由などジークフリートを知る者ならば、見るだけで分かるのだ。
「神を倒せ、ジークフリートォォォォオオ―――!!」
「――――ッ!!」
力が溢れる。
体が壊れる。
霊体に走る罅から魔力が流れ出そうになるが、それを強引に体内に留める。底の抜けた杯に満ちた水を手で押さえるような所業であり、グシャグシャになった内臓に手を突っ込んで、臓器と臓器を無理に繋げる所業に等しい。
蛸より熱線が、そんな勇者を狙って飛来する。それに目掛けて幻想大剣を振り払い、振り落し、振り上げ、連撃される瞳の光帯で身を焦がしながらも突き進む。
許される真名解放は―――一撃のみ。
魔力を大量使用した瞬間、勇者は発火した爆弾のように弾け死ぬ。
「―――――」
蛸の巨神は挑む男を見て嗤い、何故か同時に歓喜の笑みも浮かべた。そして、邪竜の如き一対の翼を背中から生やし、まるで飛竜の様に跳び上がった。
ならば、ジークフリートも同じこと。
血鎧とは竜鱗であり、彼の霊体は邪竜の霊的遺伝子が組み込まれている。
その因子に対して有り得ない事に、彼はバルムンクの宝玉から真エーテルを霊基に逆流させた。もはや数秒後に魂が壊れても良いと躊躇い無く、神人を超越する邪竜として完全無欠の神代復帰を完成させた。
「オォォオォォォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――!!!」
宇宙塵。ジン。第五真説要素。神々の世界に溢れていた真エーテルは、それだけで有り得ない力となり、神に権能を万全に使わせる動力源でもある。
ドラゴンとは何か、ジークフリートは魂で悟れた。戦神と邪竜の最期と、清姫の極まった想念を見た勇者は、この業を得る為に必要不可欠な何かを臨死の果てに見出した。そして最期に殺す事が継承であれば、戦神の力は誰に流れ込んだのか。
霊核に止めを刺したマシュにも、近くに居たエミヤにも、魔力でもない未知の何かが流れ込んだが、邪竜が最も渇望を求める相手は一人だけ。人間性は闇ではあるが、それでも願いによってカタチを変える。竜を求める男は、それをまるで願望器のように応用し、その霊基を変貌させることも命と引き換えに可能となった。
「―――邪神、黄昏へ堕ちるべし!!」
ジークフリートは飛んだ。空中にて宙を自在とする翼が背から生え、暴発寸前の魔力が込められた角が生え出す。
其処は既に人間の領域ではない虚空。竜化した竜殺しは、更に宙高く飛翔した邪神を追った。だが、そもそも邪神は星を奉る司祭であり、魔術師でもある外なる宙より来た生物。同時に、その神性によって変異した英霊である。
「
叩き付ける魔力のような、あるいは未知のエネルギーによって世界が歪められた。真エーテルによって自己変態したジークフリートは空を飛ぶも、重力が鉛となって彼の全身を襲い、地面へと抑え掴まれる。だが、もはや物理法則を超越する第五真説要素は、神秘法則さえも濡れた和紙を破るように打ち砕き、彼は真エーテルの斬撃によって邪神に近付いた。
対する邪神は“人間”らしく瞳を蕩けさせて嗤い、更なる眼光で以って視線を輝かせる。脳髄より抽出された邪悪なる思念の波長は双眼を門とし、悪しき瞳は脳内と現実を繋げる出入り口とした。
「……ぐぅ、ぉぉおぉぉおおおおおお!!」
肉のないサーヴァントにとって邪神の視線は、物理干渉を伴った発狂攻撃。
だが、もはや今のジークフリートに発狂など意味はない。気が狂わなければ、自身の神代回帰による真エーテルの竜化など選ばない。既に数秒後の死を認めて飛ぶ勇者は、狂気を飲み乾す狂気染みた決意と殺意で幻想大剣を最期まで振うのだろう。
「――――――――」
それでも尚、邪神の呼び声はおぞましかった。脳より溢れた神秘なる閃光は、確かにその呼び声によって召喚されたのだ。
声は大気を振わせ、空間を揺るがし、宇宙を海のように波立たせる。惑星の上に展開される特異点と言う世界だろうと関係なく、邪悪なる脳髄から生まれた言霊は光り、大地を砕く波動となって自分に迫るジークフリートを狙い撃つ。
「……………」
魔力放出など生温い。太陽の如き出力となり、体内で核反応を起こした様な爆発力を真エーテルは発露させ、勇者の翼は力場を噴射させて羽ばたくのみ。超音速を超過し、その先の速度領域に達し、錬鉄の英霊が放つ偽・螺旋剣の速さも過ぎ去った。
瞬間―――霊核が、砕け散る。
耐えられる筈のない過負荷。ジークフリートはそれでも霊体を形だけでも維持し、自分自身を加速砲台として大剣を振った。
「
超加速した体感時間は時間停止に等しく、彼はそんな世界で当然のように真名を解放。正真正銘、最速の極閃斬撃。もはや刀身から放たれる光の刃は音速の二十倍を超え、三十倍を超え、更に超え、重さを得た昇る落雷と良く似ていた。竜殺しの魔剣は、雷迅の魔剣と成り果てる。
戦神の祈りは、竜殺しに継承されていたのだ。魂を殺してくれた相手の一人ならば尚更で、幾度も竜狩りの雷を受け、彼の肉体は戦神の雷をソウルごと宿している。そして幻想大剣は太陽の光の槍を纏い、生涯唯一度だけ許される境地に彼は辿り着く。
「Ia Ia―――――」
バルムンクは神を黄昏の剣戟で斬り開く。それでも尚、邪神は死なず。即座に肉体蘇生を始める邪神に、ジークフリートはそのまま突き進む。自分が斬り開けた胸部から巨体内部に入り込み、肉体が消失する前に心臓の前に到達。
彼が今居る場所は血塗れの内臓の中。
周囲全てが肉であり、心臓が鼓動する度に空間そのものが揺れ動く地獄。邪悪な神性に溢れ満ち、神の加護など何の役にも立たない悪夢である。しかし、そんな場所であろうとも自分が死なない限り、大いなる血鎧は万全だ。
〝―――さらばだ。
悪夢に堕ちた救国の英雄よ、俺と共に眠るが良い……”
だが―――内部からならば、十分に可能。
それも斬撃ではなく、真エーテルによる超火力爆撃ならば塵一つ残りはしない。しかし、尚も邪神は生き延びる可能性を持つ。
大剣だけでは足りないなら、今こそ使うべきだった。
ジークフリートは魔剣と共に、竜化した血鎧にも真エーテルを壊れる程に注ぎ込む。
「
その宣告により、彼が持つ宝具が二つ同時に壊れ弾けた。手に持つ大剣は宝玉を爆薬として世界に穴を開ける程に轟き、宝具化していたジークフリートの肉体自体が加護を反転させ、あらゆる概念を捩り壊す破壊の波となった。
宙がまるで、流れ星が弾けたように―――光に満ち溢れた。
破壊力は凄まじく、戦場の空を覆っていた雲は晴れ渡る。目映い閃光が地上を照らし、その光も数秒もせず消え、邪神の巨体は空の何処にも浮いていなかった。
「…………」
守られた皆は、その最期を見上げる事しか出来なかった。竜となった竜殺しの死を、夕暮れの空から吹く風だけが教えてくれていた。